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王妃の誤算
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クリフォーネは、時々ではあるが、アシェルハイドとエヴィの2人の動向を、自身の影に探りを入れさせていた。その報告から、エヴィが少しずつだが、アシェルハイドに傾いて来ていると言う事が分かった──のだが、どうしても最後の一押しでアシェルハイドが二の足を踏んでいる事と、エヴィ本人が自覚していない事に、ヤキモキ………正直、イライラしていたのだ。
そこで、今度やって来るミュズエル国からの使節メンバーに、前回と同じ名前を見付け、クリフォーネは密かに眉間に皺を寄せた。
“ベル=ジリルアン”
母国の侯爵家のご令嬢だ。ただ、このジリルアン侯爵は、上昇志向がとても強い。前回ベルと話した時も、王妃であるクリフォーネや国王には謙虚な姿勢をとってはいたが、アラバスティア国の外交官達に対しては強気な発言を繰り返していた。
それに、ベルに付けた女官達からも、ベルに関しての良い話は耳にしなかった。
そう。ベルは、典型的な貴族、魔力主義者だった。
おまけに、この娘も脳内お花畑で、頑張ればアシェルハイドの婚約者になれる─と、本気で思っていたのだ。
そこへ、そのベルに関して相談をして来たのが再従姉弟のグウェインだった。
ならば、ベルを少しだけその気にさせて、エヴィを煽り、エヴィに自覚させよう!と。勿論、その気になったベルが、必ずエヴィを攻撃するだろうと予想できたからである。そして、そこを、必ず、アシェルハイドがエヴィを助けるだろう事も予想済みだった。
そして、クリフォーネの予想通りになったが、嬉しい誤算もあった。
それは、エヴィ本人がキッチリとベルに忠告した事だ。
エヴィは育った環境が環境だった為、他人に対して強く出る事ができなかった。両親の事は棄てられてはいるが、未だに双子の妹のリンディの事は心配で気に留めている事を、クリフォーネは勘付いている。
王太子妃、王妃となるからには、優しいだけでは駄目なのだ。例え───アシェルハイドが腹黒でも。
しかし、エヴィは、ちゃんとベルに忠告した。そして、それを他国の外交官が見ていたのだ。
もとより、エヴィは外交官としは既に高い評価を得ていた。そこに、アシェルハイドによる外堀埋めだ。高位貴族な程、エヴィとアシェルハイドの仲に文句を言って来る者は殆ど居なかった。その上での、ローアン侯爵への養子縁組。もう、ドリュー宰相の動きも完璧だった。
知らぬはエヴィだけ─
エヴィが外交官のお手伝いを始めた事で、王族に囲い込まれ、あの夕食会でブラックパールのピアスを身に着けた事で、メリッサが言った通り、“チェックメイト”となったのだ。
『兎に角、私達も助かりましたよ。ベルの父親─ジリルアン侯爵も、最近では少し……目に余るものがありましたから、良い手土産を、陛下に持って帰る事ができますよ。』
『あら、そうなの?なら、お兄様には“コレは貸しよ”─と言っておいてちょうだい。』
『ははっ。流石はクリフォーネだね。ちゃっかりしてるね。ちゃんと、陛下に伝えておきますよ。』
『ふふっ。必ずよ?それと……あの娘の処遇に関してはミュズエルに任せるけど、今後この国─アシェルとエヴィの視界に入る事のないようにしてね?』
『それも、ちゃんと分かっていますよ。』
外交官の言葉は、その国の言葉として受け止められる。その事をちゃんと理解もせず他国の者─しかも、おそらく、将来の王太子妃、王妃になる者を貶めるような発言をしたベル。その上、外交官からの除籍処分は決定事項だ。もう二度と、アラバスティア王国どころか、自国から出る事は許されないだろう。それに、上昇志向の強い父親が、他国でトラブルを起こした娘を娘として置いておくか─だ。否。きっと、切り捨てる。ベルの上の兄や姉達は、既に有力な貴族や商家と縁を結んでいる。となれば、トラブルを起こし、未来の無い末娘は、切り捨てられるだけだ。
そこを、どうやって親であるジリルアン侯爵にダメージを喰らわすかは、クリフォーネ王妃の兄であるミュズエル国王の手腕次第だ。
『必要なら、アラバスティア王国からもお手紙を送ると伝えてちょうだい。』
確かに、友好国の王族から抗議文が届けば、その元凶を切り捨てたとしても、親としての責任からは逃れられなくなるだろうが──
『おそらく、そのお手紙を頂かなくても、陛下ならキッチリ落とし前をつけるでしょう。』
『それもそうね。』
お互い笑った後、もう一度若い2人へと視線を向ける。
そこには、嬉しそうに笑ってギュウギュウとエヴィを抱きしめるアシェルハイドと、その腕の中で顔を真っ赤にしながら、抵抗するようにもがき続けているエヴィが居た。
そこで、今度やって来るミュズエル国からの使節メンバーに、前回と同じ名前を見付け、クリフォーネは密かに眉間に皺を寄せた。
“ベル=ジリルアン”
母国の侯爵家のご令嬢だ。ただ、このジリルアン侯爵は、上昇志向がとても強い。前回ベルと話した時も、王妃であるクリフォーネや国王には謙虚な姿勢をとってはいたが、アラバスティア国の外交官達に対しては強気な発言を繰り返していた。
それに、ベルに付けた女官達からも、ベルに関しての良い話は耳にしなかった。
そう。ベルは、典型的な貴族、魔力主義者だった。
おまけに、この娘も脳内お花畑で、頑張ればアシェルハイドの婚約者になれる─と、本気で思っていたのだ。
そこへ、そのベルに関して相談をして来たのが再従姉弟のグウェインだった。
ならば、ベルを少しだけその気にさせて、エヴィを煽り、エヴィに自覚させよう!と。勿論、その気になったベルが、必ずエヴィを攻撃するだろうと予想できたからである。そして、そこを、必ず、アシェルハイドがエヴィを助けるだろう事も予想済みだった。
そして、クリフォーネの予想通りになったが、嬉しい誤算もあった。
それは、エヴィ本人がキッチリとベルに忠告した事だ。
エヴィは育った環境が環境だった為、他人に対して強く出る事ができなかった。両親の事は棄てられてはいるが、未だに双子の妹のリンディの事は心配で気に留めている事を、クリフォーネは勘付いている。
王太子妃、王妃となるからには、優しいだけでは駄目なのだ。例え───アシェルハイドが腹黒でも。
しかし、エヴィは、ちゃんとベルに忠告した。そして、それを他国の外交官が見ていたのだ。
もとより、エヴィは外交官としは既に高い評価を得ていた。そこに、アシェルハイドによる外堀埋めだ。高位貴族な程、エヴィとアシェルハイドの仲に文句を言って来る者は殆ど居なかった。その上での、ローアン侯爵への養子縁組。もう、ドリュー宰相の動きも完璧だった。
知らぬはエヴィだけ─
エヴィが外交官のお手伝いを始めた事で、王族に囲い込まれ、あの夕食会でブラックパールのピアスを身に着けた事で、メリッサが言った通り、“チェックメイト”となったのだ。
『兎に角、私達も助かりましたよ。ベルの父親─ジリルアン侯爵も、最近では少し……目に余るものがありましたから、良い手土産を、陛下に持って帰る事ができますよ。』
『あら、そうなの?なら、お兄様には“コレは貸しよ”─と言っておいてちょうだい。』
『ははっ。流石はクリフォーネだね。ちゃっかりしてるね。ちゃんと、陛下に伝えておきますよ。』
『ふふっ。必ずよ?それと……あの娘の処遇に関してはミュズエルに任せるけど、今後この国─アシェルとエヴィの視界に入る事のないようにしてね?』
『それも、ちゃんと分かっていますよ。』
外交官の言葉は、その国の言葉として受け止められる。その事をちゃんと理解もせず他国の者─しかも、おそらく、将来の王太子妃、王妃になる者を貶めるような発言をしたベル。その上、外交官からの除籍処分は決定事項だ。もう二度と、アラバスティア王国どころか、自国から出る事は許されないだろう。それに、上昇志向の強い父親が、他国でトラブルを起こした娘を娘として置いておくか─だ。否。きっと、切り捨てる。ベルの上の兄や姉達は、既に有力な貴族や商家と縁を結んでいる。となれば、トラブルを起こし、未来の無い末娘は、切り捨てられるだけだ。
そこを、どうやって親であるジリルアン侯爵にダメージを喰らわすかは、クリフォーネ王妃の兄であるミュズエル国王の手腕次第だ。
『必要なら、アラバスティア王国からもお手紙を送ると伝えてちょうだい。』
確かに、友好国の王族から抗議文が届けば、その元凶を切り捨てたとしても、親としての責任からは逃れられなくなるだろうが──
『おそらく、そのお手紙を頂かなくても、陛下ならキッチリ落とし前をつけるでしょう。』
『それもそうね。』
お互い笑った後、もう一度若い2人へと視線を向ける。
そこには、嬉しそうに笑ってギュウギュウとエヴィを抱きしめるアシェルハイドと、その腕の中で顔を真っ赤にしながら、抵抗するようにもがき続けているエヴィが居た。
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