巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

文字の大きさ
57 / 203
第三章ーパルヴァン辺境地ー

エディオル=カルザイン③

しおりを挟む
*本日、2話目です*








フェンリル出現以降、聖女様達の浄化の勢いが更に増した。もう、聖女の域を越えてないか?と思う位に。

そして、聖女様達は…たった1ヶ月でパルヴァンの森を完璧に浄化仕切ったのだ。
魔導師のクレイルの顔が引き攣っているのを初めて見た。余程、凄い事なんだろう。



そして、パルヴァン辺境地を出立し、王都への帰路に就いた。帰りは一週間掛けて帰る。所謂聖女様達との交流をはかる為の旅だ。同行した騎士達は、ようやくと言った感じで毎日聖女様達を取り囲んでいた。

彼女は…基本、同じ薬師のミリリーナ殿と一緒に居るようだった。でも、ある日から、ある1人の騎士と一緒に居る事が多くなった。

あれは確か…第一騎士団所属のステファン=オーブリーだったか。『癒しを見付けた』 と言っていた騎士達の1人だった。

『そんなに気になるなら、エディオルもハル殿に話し掛ければ?』

と、クレイルが言って来るが無視をする。
彼女は、帰城すれば後は還るだけ。フェンリルの一件で、彼女には思わずも近付いてしまったが、これ以上近付けば…彼女を離したくなくなってしまう。距離を…置かなければ…と、自分に言い聞かせた。






王城に着き、馬車から王城入り口まで、聖女様達をエスコートする。いつもはそのまま王城に入るのだが、聖女様達が彼女を待ちたいと言い、その場で待つ事になった。

すると、ステファン=オーブリーが、彼女をエスコートするのが見えた。


『本当に、ハルちゃんの笑顔って可愛いよね。』

『だね。最初の頃は心配だったけど…これなら、大丈夫なんじゃないかな?』

ハッとした。彼女は還ったら、誰かと…恋をするのかと…。それが俺ではないのだと…。







彼女は、やはり最後の夜会にも参加しないらしい。ならば、もう還る日迄会う事はないだろう。

『私とエディオルの2人からって事で、ハル殿に何かお礼のアクセサリーでもプレゼントしないか?』

とクレイルに言われて、日にちもあまりなかったので、2人で急いで王都にある店に行った。
俺の色の青とクレイルの色の赤の石を選び、彼女が好きなかすみ草の形に加工してもらい、それをクレイルに託した。



彼女達が還る数日前、王城内を歩いていると、サエラ殿が1人立って居るのを見掛け、思わず声を掛けてしまった。

『サエラ殿、こんな所で何を─…』

サエラ殿の視線の先を見遣ると、ステファン=オーブリーが、彼女に何かを渡しているのが見えた。そして、何か言葉を交わした後、彼女はフワリと花が綻ぶ様に笑った。そして…ステファン=オーブリーは、そんな彼女の手をとりキスをするとそのまま踵を返して走り去った。

『カルザイン様は…このままで良いのですか?』

と、サエラ殿に言われたが、何も答えられなかった。







彼女達が還る日は雨だった。

イリスに『最後なんだから、ハル殿をエスコートしたら?』

と言われたが、俺はそれを固辞してフジ様をエスコートして、彼女はクレイルがエスコートをした。

召喚の間に着くと、彼女達は俺達には分からない言葉─彼女達の世界の言葉で話し出した為に、誰1人その中に入る事ができなかった。

ーあぁ…本当に、これで彼女とは縁が切れてしまうのかー

『準備が整いました。』

魔導師の1人がそう声をあげると、彼女達4人はお互いに手を繋ぎ合った。そして、魔法陣が展開、発動して、辺り一面が光り輝き出す。あまりにも眩しい光で、もう既に彼女の姿は見えなくなっていた。
暫く光輝いた後、その光が一気に上昇して弾けて光が収まっていく。そして、光が収まった後…もう、そこには誰も居なかった。そこには、六つの加工された魔石が散らばっていただけだった。












王城に帰ると、サエラ殿が俺の帰りを待っていた。

『このショール、カルザイン様の物ですね?』

そう言って渡されたのは、いつだったか、彼女が図書館で寝てしまっているのを見付け、彼女に掛けた俺のショールだった。

『ハル様は、お礼を言いたいと、この持ち主を探していましたが…カルザイン様は知られたくないだろうと思いまして…。昨日、持ち主が分かったら、その人に渡して欲しいと、預かっておりました。』

そのショールを受けとる。

『そして、こちらがお礼として預かった物です。食べ物だと日持ちがしないからと言う事で、これにしたと言っておりました。』

そのお礼も受け取ると、サエラ殿は失礼しますと言って去って行った。




王城にある自室に戻り、“お礼”の入った袋を開ける。

そこには、ショールと同じ青色のハンカチと

ーありがとうございましたー

と書かれたカードが入っていた。




彼女に近付く事もできなかった。名前さえ…呼べなかった。名前を呼べば更に愛おしさが増してしまいそうだったから。
でも、彼女は、無事に還った。今頃は、きっと、4人で喜んでいるだろう。

ーこれで、良かったんだー





そう思っていた。

そう信じていたのにー。





パルヴァン辺境地の視察が終わり、いざ王都へと騎乗し歩みを進めた時、何故かザワリと胸がざわついた。

ー何だ?ー

と思い、視線を動かし周辺を確認する。


そして、と目が合った。



ドクンッと心臓が反応する。



ー何故…何故…がここに居る!?ー



しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

処理中です...