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久し振りの
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*エディオル視点*
「ハルは…この6年の間の記憶の殆どを──失っています。」
その事実を知らされても、俺はあまりショックは受けなかった。何よりも、コトネが目を覚ました事が嬉しかった。今すぐにでも会いに行って、俺の腕の中に閉じ込めてしまいたかったが──それは我慢した。
今のコトネにとって、俺は…認知もされていない存在なのだ。
それでも、記憶を失っていたとしても、コトネがコトネである事には変わりはない。ならば、もう一度コトネを俺に落とすまでだ。どんな事があっても、俺は二度とコトネを手放すつもりも逃がすつもりも無い。
ーそう、もう一度…俺に落とすだけだー
*****
「エディオル様、少し…良いかしら?」
今日の勤めが終わり、ランバルトの執務室を出てノアの元へと向かっていると、ベラトリス殿下に呼び止められた。
「ベラトリス殿下。何でしょうか?」
頭を下げた後用件を訊くと、後ろに控えていたサエラ殿が前に出て来た。
「カルザイン様。良ければ、この花を貰っていただけますか?」
と、サエラ殿が俺に差し出したのは──
「水色のかすみ草……」
「2日程前に綺麗に咲いたのですが、この色が…ハル様の瞳の色とよく似ているなと思いまして。」
ハルの記憶が失くなった事は、ベラトリス殿下とサエラ殿にも伝えられた。「何故、ハル様ばかりが?」と、悲しんでいるベラが可愛くて─と言っていたのはイリスだったな。
サエラ殿が俺に気を使ってくれているんだろう。
「サエラ殿、有難く…頂戴する。」
かすみ草を受け取った後、ベラトリス殿下に礼をしてから再びノアの元へと向かった。
『主、ネロが…ネロが私を呼んでいるようなので、主を邸に送った後、パルヴァンへ向かっても良いでしょうか?明日の登城時間迄には戻って来ますので。』
と、珍しく少し焦ったノアが居た。
「それは勿論良いが…何かあったのか?」
『それが、よく分からないのです。“ぱぱ、きてなの!”と呼び掛けて来てからは…何の音沙汰も無いのです。』
「それは…気になるな。俺もミヤ様に話があったから、今から一緒に行こう。パルヴァン邸の魔法陣を借りに行こう。」
先触れ無く王都のパルヴァン邸に出向いたが、ロンは嫌な顔をする事も無く迎え入れてくれ、魔法陣を使わせてくれた。
そして、辺境地のパルヴァン邸では
「ハルは寝ているからな。いや、そもそも…まだ出会ってないから、会えないのか?」
と、相変わらずなゼン殿の口撃を受けたが、以前とは違い、目は少しだけ優しかった。
ノアは先にネロの居るであろう森の大樹へと行き、俺はまだ起きていると言うミヤ様と少し話をしてから、グレン様に許可をもらって俺も森へと向かった。
「ネージュ殿と…………コトネ?」
大樹の中で眠りに就いていた筈のネージュが、元の大きさで横たわっていて、そのお腹?横腹?にしがみつくようにしてコトネとネロが寝ていた。ノアは、嬉しそうにネージュ殿に寄り添っている。
『騎士か…今回はまた、主を助けてくれてありがとう。それと…また大変な事になったな?』
どうやら、ネージュ殿は全ての事を把握しているようだ。
「ネージュ殿も大変だったんだろう?目覚めて良かったが…身体は大丈夫なのか?」
『あぁ…我は大丈夫だ。ネロには…寂しい思いをさせたようだが…』
そう言うネージュ殿の目はとても優しくて、ネロの頭を鼻先で優しく撫でている。
「ノア、俺の事は気にしなくて良いから、お前も暫くはネージュ殿とネロの側に居てやれ。ネロを…たっぷりと甘やかしてやれ。」
『え?でも……いえ、ありがとうございます。でも、私が必要になったら、いつでもお呼び下さいね。』
「暖かい気候とは言え、コトネをこのまま置いて行くのもなぁ…」
と、未だすやすやと寝ているコトネに視線を向ける。
以前と何も変わらないコトネ。いつでもどこでも一緒に居る事が…コトネに触れる事が当たり前だったのに。
『騎士よ、主を部屋ヘ運んではくれぬか?おそらく…主は朝まで起きないと思う。少し…疲れていたようだった故な。』
ーそれなら…大丈夫か?ー
寝ているコトネの側でしゃがみ、コトネの様子を見る。
安心したような顔ですやすやと眠っている。それから、コトネを起こさないように気を付けながら抱き上げる。
「少し…痩せたな…軽いな……。」
以前も軽かったが、更に軽くなっている。でも、この温もりは変わっていない。
「コトネ……」
今は閉じられているその瞳に、今度俺が映る時は…一体どんな瞳をするのだろうか?
「──ん…」
と、腕の中のコトネが少し身じろぎをした後、俺の胸にスリッと顔を寄せて、寝たままだったが少し笑ったような気がした。
ー相変わらず、くっそ可愛いな!ー
グウ──ッと、思わずキスをしてしまいそうになるのを我慢する。寝ていても、コトネは俺を煽る天才らしい。
「本当に、そろそろコトネとの出会いの場を作ってもらおう。」
そう思いながら、俺はコトネの部屋へと急いだ。
「ハルは…この6年の間の記憶の殆どを──失っています。」
その事実を知らされても、俺はあまりショックは受けなかった。何よりも、コトネが目を覚ました事が嬉しかった。今すぐにでも会いに行って、俺の腕の中に閉じ込めてしまいたかったが──それは我慢した。
今のコトネにとって、俺は…認知もされていない存在なのだ。
それでも、記憶を失っていたとしても、コトネがコトネである事には変わりはない。ならば、もう一度コトネを俺に落とすまでだ。どんな事があっても、俺は二度とコトネを手放すつもりも逃がすつもりも無い。
ーそう、もう一度…俺に落とすだけだー
*****
「エディオル様、少し…良いかしら?」
今日の勤めが終わり、ランバルトの執務室を出てノアの元へと向かっていると、ベラトリス殿下に呼び止められた。
「ベラトリス殿下。何でしょうか?」
頭を下げた後用件を訊くと、後ろに控えていたサエラ殿が前に出て来た。
「カルザイン様。良ければ、この花を貰っていただけますか?」
と、サエラ殿が俺に差し出したのは──
「水色のかすみ草……」
「2日程前に綺麗に咲いたのですが、この色が…ハル様の瞳の色とよく似ているなと思いまして。」
ハルの記憶が失くなった事は、ベラトリス殿下とサエラ殿にも伝えられた。「何故、ハル様ばかりが?」と、悲しんでいるベラが可愛くて─と言っていたのはイリスだったな。
サエラ殿が俺に気を使ってくれているんだろう。
「サエラ殿、有難く…頂戴する。」
かすみ草を受け取った後、ベラトリス殿下に礼をしてから再びノアの元へと向かった。
『主、ネロが…ネロが私を呼んでいるようなので、主を邸に送った後、パルヴァンへ向かっても良いでしょうか?明日の登城時間迄には戻って来ますので。』
と、珍しく少し焦ったノアが居た。
「それは勿論良いが…何かあったのか?」
『それが、よく分からないのです。“ぱぱ、きてなの!”と呼び掛けて来てからは…何の音沙汰も無いのです。』
「それは…気になるな。俺もミヤ様に話があったから、今から一緒に行こう。パルヴァン邸の魔法陣を借りに行こう。」
先触れ無く王都のパルヴァン邸に出向いたが、ロンは嫌な顔をする事も無く迎え入れてくれ、魔法陣を使わせてくれた。
そして、辺境地のパルヴァン邸では
「ハルは寝ているからな。いや、そもそも…まだ出会ってないから、会えないのか?」
と、相変わらずなゼン殿の口撃を受けたが、以前とは違い、目は少しだけ優しかった。
ノアは先にネロの居るであろう森の大樹へと行き、俺はまだ起きていると言うミヤ様と少し話をしてから、グレン様に許可をもらって俺も森へと向かった。
「ネージュ殿と…………コトネ?」
大樹の中で眠りに就いていた筈のネージュが、元の大きさで横たわっていて、そのお腹?横腹?にしがみつくようにしてコトネとネロが寝ていた。ノアは、嬉しそうにネージュ殿に寄り添っている。
『騎士か…今回はまた、主を助けてくれてありがとう。それと…また大変な事になったな?』
どうやら、ネージュ殿は全ての事を把握しているようだ。
「ネージュ殿も大変だったんだろう?目覚めて良かったが…身体は大丈夫なのか?」
『あぁ…我は大丈夫だ。ネロには…寂しい思いをさせたようだが…』
そう言うネージュ殿の目はとても優しくて、ネロの頭を鼻先で優しく撫でている。
「ノア、俺の事は気にしなくて良いから、お前も暫くはネージュ殿とネロの側に居てやれ。ネロを…たっぷりと甘やかしてやれ。」
『え?でも……いえ、ありがとうございます。でも、私が必要になったら、いつでもお呼び下さいね。』
「暖かい気候とは言え、コトネをこのまま置いて行くのもなぁ…」
と、未だすやすやと寝ているコトネに視線を向ける。
以前と何も変わらないコトネ。いつでもどこでも一緒に居る事が…コトネに触れる事が当たり前だったのに。
『騎士よ、主を部屋ヘ運んではくれぬか?おそらく…主は朝まで起きないと思う。少し…疲れていたようだった故な。』
ーそれなら…大丈夫か?ー
寝ているコトネの側でしゃがみ、コトネの様子を見る。
安心したような顔ですやすやと眠っている。それから、コトネを起こさないように気を付けながら抱き上げる。
「少し…痩せたな…軽いな……。」
以前も軽かったが、更に軽くなっている。でも、この温もりは変わっていない。
「コトネ……」
今は閉じられているその瞳に、今度俺が映る時は…一体どんな瞳をするのだろうか?
「──ん…」
と、腕の中のコトネが少し身じろぎをした後、俺の胸にスリッと顔を寄せて、寝たままだったが少し笑ったような気がした。
ー相変わらず、くっそ可愛いな!ー
グウ──ッと、思わずキスをしてしまいそうになるのを我慢する。寝ていても、コトネは俺を煽る天才らしい。
「本当に、そろそろコトネとの出会いの場を作ってもらおう。」
そう思いながら、俺はコトネの部屋へと急いだ。
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