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❋竜王国編❋
39 麻薬
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遥か昔、“イーリャ”と言う竜人の薬師が居た。
イーリャは平民ではあるが薬師としては優秀で、学園を首席で卒業した後、薬師をしながら薬草の研究にも力を入れていた。
そして、そのイーリャは同じ職場で働く男と恋をした。相手は伯爵家嫡男ではあったが、基本、竜族は実力主義な為、貴族と平民との結婚も無い事もなかった。それに、男の家は薬草を扱う商家でもあった為、イーリャとの結婚も特に問題がないように思われていた。それが──
「同じ伯爵家から、息子との結婚の打診を受けてね。申し訳無いが、息子の事は諦めてくれ」
ある日、男の親から呼び出され伯爵に会いに行くと、息子との縁切りと手切れ金を渡された。
相手は薬草を広く取り扱っている商家の主。我儘を言えば、薬師としての路も閉ざされる可能性があった為、イーリャはそのまま身を引いた。
それから1年。
イーリャは、とある山奥で今迄見た事のない実を見付け、その実を調べる事にした。
そして、調べ始めてから1年。
その実を乾燥させて擦り潰し、少量の水と混ぜて飲むと痛みが緩和する─鎮痛剤としての効能があると言う事が分かった。治癒魔法が殆ど効かない竜族にとっては、とても素晴らしい発見となった。
それからも、イーリャはその実を更に研究していった。
すると──
その実の大きさの平均は大豆程なのだが、稀にそら豆程の大きさのものがある。その大きいサイズの実には、平均的な大きさの実とは、全く違う効能がある事が分かった。
同じように、乾燥させて擦り潰して水に溶かしても何の効能もなかった。
その溶かした水を更に煮詰めてみると──
無味無臭だった筈が、何も加えていないのに甘い香りがするようになったのだ。そして更に煮詰めると、無色透明だった水が琥珀色に変化した。サラサラとした水ではなく、少しトロミのある琥珀色の液体。そこから漂う甘い香りは、体温を少し上昇させ気持ちの良い感覚に陥らせた。とても良い意味で──
そんな気分のままイーリャが研究室の椅子に座っていると、かつての恋人だった伯爵家の彼が研究室にやって来た。その時、その部屋は、甘い香りで充満していた。
ー私(俺)の……番だ!ー
再会した2人は、お互いを番だと認め、その場で事に及んだ。
勿論、男の方には婚約者は居たが、番が現れたのなら話は変わってくる。番と出会ってしまえば、お互い番しか愛せなくなるし、子孫も残しやすくなるからだ。
この事は、男の親の伯爵も素直に喜んだ。婚約者だった令嬢もまた、辛そうではあったが綺麗に身を引いた。
これでハッピーエンド
かと思われたが──────
2人は番である筈なのに、何故か満たされる事は無かった。「愛してる」と囁きながらも、どこかいつも渇きがあった。
竜人は番と結ばれると竜力が安定し長寿になるが、番と出会えなかった場合は短命となる。と言っても、人間や獣人よりも長寿ではあるが…。
番で結ばれた筈の2人なのに、お互い心は渇き続け──数年後、ついには男の気が狂ってしまい竜力が暴走し、自分自身を傷付け……そのまま…狂ったまま死んでしまったのだ。
番の伴侶が死ぬと、もう片方も数年足らずに死んでしまう─のが殆どだが、イーリャは生き続けた。寧ろ、男が死んでからの方が渇きがなくなり元気になったぐらいだった。
ー何故?ー
確かに、おかしい事はたくさんあった。
何故、付き合っている時に、お互いが番だと気付かなかったのか─
何故、番の伴侶を得たのに子ができなかったのか─
何故、番の伴侶得をながら渇きがあったのか─
何故、番だと認識しても、アレが変化しなかったのか─
そして、イーリャはその原因を突き詰めた。
******
「まさか………」
「多分、その“まさか”だと思う。その甘い香りを嗅ぐと……相手を“番だ”と認識してしまうように…なるんだ」
正直、番がどう言うものなのかは知っていても、そこにどれ程の感情が動くのか、どれ程の存在となるのかは人間の私にはよく分からない。
ただ、番だと思って結ばれた2人でも、それが偽物だったが故に狂ってしまった─と言う事は、竜人や獣人にとっての番とは、本当に大きな…大切な存在なんだろう。少し…怖い気もするけど……。
ー裏切られるよりは…良いのかなぁ?ー
「一種の…麻薬の様なものだな…。色んな感覚を麻痺させるんだ。」
ーあぁ……だから、少量で用法さえ守れば鎮痛剤としての効能があったのかー
イーリャは、研究結果を国に提出した。
国は、この結果を重くみて、その実の使用を禁止し、既に鎮痛剤として出回っていた物も全て回収し、更にその実は全て─収穫された物も、まだ木に生っている物はその木ごと纏めて燃やされた。
勿論、イーリャが行った、その実に関する研究内容も全て国が管理する事となった。
混乱を招かない為に、その事実は隠されたままに──
「その実─“イーリャの実”の存在は、番主義者である竜族や獣人族にとっては危険なものだから、事実は伏せられ、知っているのも竜族のほんの一握りの者しかいない………筈だった。イーリャの実も、自然界で生っている事は無い筈だった。それが何故………トワイアルの王女が……」
その話を聞いて、真っ先に思い浮かんだのが──
竜さんだった
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
ε٩(๑˃ ᗜ ˂)۶з
イーリャは平民ではあるが薬師としては優秀で、学園を首席で卒業した後、薬師をしながら薬草の研究にも力を入れていた。
そして、そのイーリャは同じ職場で働く男と恋をした。相手は伯爵家嫡男ではあったが、基本、竜族は実力主義な為、貴族と平民との結婚も無い事もなかった。それに、男の家は薬草を扱う商家でもあった為、イーリャとの結婚も特に問題がないように思われていた。それが──
「同じ伯爵家から、息子との結婚の打診を受けてね。申し訳無いが、息子の事は諦めてくれ」
ある日、男の親から呼び出され伯爵に会いに行くと、息子との縁切りと手切れ金を渡された。
相手は薬草を広く取り扱っている商家の主。我儘を言えば、薬師としての路も閉ざされる可能性があった為、イーリャはそのまま身を引いた。
それから1年。
イーリャは、とある山奥で今迄見た事のない実を見付け、その実を調べる事にした。
そして、調べ始めてから1年。
その実を乾燥させて擦り潰し、少量の水と混ぜて飲むと痛みが緩和する─鎮痛剤としての効能があると言う事が分かった。治癒魔法が殆ど効かない竜族にとっては、とても素晴らしい発見となった。
それからも、イーリャはその実を更に研究していった。
すると──
その実の大きさの平均は大豆程なのだが、稀にそら豆程の大きさのものがある。その大きいサイズの実には、平均的な大きさの実とは、全く違う効能がある事が分かった。
同じように、乾燥させて擦り潰して水に溶かしても何の効能もなかった。
その溶かした水を更に煮詰めてみると──
無味無臭だった筈が、何も加えていないのに甘い香りがするようになったのだ。そして更に煮詰めると、無色透明だった水が琥珀色に変化した。サラサラとした水ではなく、少しトロミのある琥珀色の液体。そこから漂う甘い香りは、体温を少し上昇させ気持ちの良い感覚に陥らせた。とても良い意味で──
そんな気分のままイーリャが研究室の椅子に座っていると、かつての恋人だった伯爵家の彼が研究室にやって来た。その時、その部屋は、甘い香りで充満していた。
ー私(俺)の……番だ!ー
再会した2人は、お互いを番だと認め、その場で事に及んだ。
勿論、男の方には婚約者は居たが、番が現れたのなら話は変わってくる。番と出会ってしまえば、お互い番しか愛せなくなるし、子孫も残しやすくなるからだ。
この事は、男の親の伯爵も素直に喜んだ。婚約者だった令嬢もまた、辛そうではあったが綺麗に身を引いた。
これでハッピーエンド
かと思われたが──────
2人は番である筈なのに、何故か満たされる事は無かった。「愛してる」と囁きながらも、どこかいつも渇きがあった。
竜人は番と結ばれると竜力が安定し長寿になるが、番と出会えなかった場合は短命となる。と言っても、人間や獣人よりも長寿ではあるが…。
番で結ばれた筈の2人なのに、お互い心は渇き続け──数年後、ついには男の気が狂ってしまい竜力が暴走し、自分自身を傷付け……そのまま…狂ったまま死んでしまったのだ。
番の伴侶が死ぬと、もう片方も数年足らずに死んでしまう─のが殆どだが、イーリャは生き続けた。寧ろ、男が死んでからの方が渇きがなくなり元気になったぐらいだった。
ー何故?ー
確かに、おかしい事はたくさんあった。
何故、付き合っている時に、お互いが番だと気付かなかったのか─
何故、番の伴侶を得たのに子ができなかったのか─
何故、番の伴侶得をながら渇きがあったのか─
何故、番だと認識しても、アレが変化しなかったのか─
そして、イーリャはその原因を突き詰めた。
******
「まさか………」
「多分、その“まさか”だと思う。その甘い香りを嗅ぐと……相手を“番だ”と認識してしまうように…なるんだ」
正直、番がどう言うものなのかは知っていても、そこにどれ程の感情が動くのか、どれ程の存在となるのかは人間の私にはよく分からない。
ただ、番だと思って結ばれた2人でも、それが偽物だったが故に狂ってしまった─と言う事は、竜人や獣人にとっての番とは、本当に大きな…大切な存在なんだろう。少し…怖い気もするけど……。
ー裏切られるよりは…良いのかなぁ?ー
「一種の…麻薬の様なものだな…。色んな感覚を麻痺させるんだ。」
ーあぁ……だから、少量で用法さえ守れば鎮痛剤としての効能があったのかー
イーリャは、研究結果を国に提出した。
国は、この結果を重くみて、その実の使用を禁止し、既に鎮痛剤として出回っていた物も全て回収し、更にその実は全て─収穫された物も、まだ木に生っている物はその木ごと纏めて燃やされた。
勿論、イーリャが行った、その実に関する研究内容も全て国が管理する事となった。
混乱を招かない為に、その事実は隠されたままに──
「その実─“イーリャの実”の存在は、番主義者である竜族や獣人族にとっては危険なものだから、事実は伏せられ、知っているのも竜族のほんの一握りの者しかいない………筈だった。イーリャの実も、自然界で生っている事は無い筈だった。それが何故………トワイアルの王女が……」
その話を聞いて、真っ先に思い浮かんだのが──
竜さんだった
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
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