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二度目の召喚
遭遇
しおりを挟むブランの住んでいた領地を調査しに行っていたニコから「ブランの身内が居るかもしれない」と報告を受けた翌日、キッカさんがブランを連れて確認しに行く事になり、その日─つまり、今日の朝早くから2人はキッカさんの転移魔法で出掛けて行った。
「ブランの親戚の人だったら良いね…」
と私が呟けば、イチコとニコがコクコクと頷いた後
「それでは、志乃様も準備をしましょうか」
「ん?準備って?」
首を傾げて2人を見る。
「今日は、ルーファス様との約束の日です。」
「………」
ー“忘れてた”なんて言わないー
「──って、ちょっと待って!」
あれ?ルーファスさんと約束したけど、キッカさんも一緒に行くって言ってなかった!?3人でって!
「さぁ、志乃様、時間もあまりないので、サクッと始めましょう!」
「え?ちょっ──」
“ちょっと待って!”と最後まで言えず、相変わらず無表情だけど尻尾がユラユラ揺れているイチコとニコに手を引かれ、お出掛けの準備をする為に私の部屋へと連れて行かれた。
それから1時間後─約束の時間の10分程前に、ルーファスさんが迎えにやって来た。
そのルーファスさんは、薄い水色のシャツに、黒色のパンツスタイルで「モデルか!」と突っ込みたくなる位に足が長い。
ーえ─やだ!こんなイケメンの横に並んで歩きたくないー
と思ってしまうのは許して欲しい。
「ウィステリア殿は、今日も可愛いな。」
「!?」
ー“今日も”って言った?いやいや、聞き間違いだよね!?ー
「あの、お迎え、ありがとうございます。」
「こちらこそ、誘いを受けてくれてありがとう。それで…キッカ殿は?」
「あーキッカさんは───」
と、ブランの事を話し、今日のお出掛けは2人だけです─と伝えると「そうか───」とだけしか言わなかったルーファスさんだけど…その時に見せた笑顔の破壊力が半端なかった……。
2人きりでどうなるやら─と言う思いは杞憂に終わった。
いざ街へ出ると、色んなお店があって見るだけでも楽しめた。見てみたいお店があると、「入ろうか」と言って、嫌な顔をする事なく付き添ってくれた。
そして、ある雑貨屋さんで目にしたのは、薄紫色のマグカップ。
『姉ちゃん、コレ、あげる。』
と、朋樹から貰ったマグカップによく似ている。皆は元気にしているだろうか?一時的に、私の存在は千代様が預かっていると聞いているから、心配を掛けている事はないと分かってはいるけど──
「このマグカップが気になるのか?」
ひょいっ─とそのマグカップを手に取るルーファスさん。
「あ、えっと、ウィステリアの色だなぁ─と思って…」
「そう…かな?ウィステリアの色は、もう少し薄くなかったか?ウィステリア殿の瞳の色は、透き通るような綺麗な色だったな……あ、今の吸い込まれそうになる黒色の瞳も好きだけどね。」
「ゔっ……」
ストレートな砂糖口撃は止めて欲しい。もっと、軽ーいジャブ辺りから始めてくれませんか?
「ルーファスさんって、女性慣れ?してますよね…」
「26歳だからね。慣れてないと言えば嘘になるけど、今のは本当に思ってる事だから。」
「ソウデスカ」
更にフワリと微笑みの攻撃迄喰らってしまえば、もうそれ以上言い返せる言葉は口から出て来なかった。
*ルーファス視点*
「お会計に行って来ます」
と、ウィステリア殿は、薄紫色のマグカップを手にお会計へと行ってしまった。その後ろ姿を、ついつい目で追ってしまう。どうやら、もともと薄藤色─ウィステリアは好きな色だったそうだ。だから、彼女の瞳の色がウィステリアだったのだろうか?
兎に角、あの色は彼女にとても似合っていたし、本当に綺麗だった。
何故か、彼女を褒めたりすると、顔は少し赤くなるけど、眉間に皺が寄るような複雑?な顔をして、嬉しそうではない。どうしたら彼女の笑顔が見られるのか─と思案していると、ここで耳にする筈の無い声が聞こえた。
「ルー様が……笑ってる?」
「………」
一瞬にしてスッ──と、気持ちが冷えていくのが分かる。そのまま静かに、その声のする方へと視線を向けるとそこにはやはり、お忍びスタイルのエメラルド殿が居た。
エメラルド殿は、よく護衛を連れて街に買い物にやって来る。翠色の瞳はそのままで、金髪のカツラを被ると、街では聖女だと気付かれる事は無い。
今のエメラルド殿も、そのお忍びスタイルだ。
「ルー様の笑っている顔、久し振りですね。何か…良い事でも?あ、これから予定はありますか?無ければ一緒に─」
「予定がありますので、一緒には行けません。」
エメラルド殿には、まだウィステリア殿がこの世界に戻って来ている─とは伝えていないし、ウィステリア殿にも会わせたくはない。
ーどうする?ー
「それは残念ですけど…また、ルー様の笑顔が見れて…嬉しいです。」
と、花が綻ぶように微笑むエメラルド殿は、誰もが見惚れるような美人なんだろうと思う──が………
「貴方に…向けた笑顔ではないから……」
「え?」
「それと、“ルー様”と呼ぶのは…止めてもらいたい。勘違い……されたくないので………」
「勘…違い?」
パチパチと瞬きを繰り返すエメラルド殿は、俺が何を言っているのか、いまいち理解していないのだろう。
ーしなくても良いがー
これ以上は─と思い、踵を返そうとした時
「エメラルド…」
と、俺の後ろから、今度はウィステリア殿の声が聞こえた。
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