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二度目の帰還
キッカのお仕事
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❋“置き場”から移動してきた話になります❋
❋本編30話辺りの裏側のお話になります❋
200年ぶりの仕事がやって来た。
それは、向こうの世界へ渡る“愛し子”様達の守護と、事後処理だ。
『菊花、くれぐれも、愛し子達の事、頼みますよ?』
『はい、千代様、お任せ下さいませ!』
3尾の妖狐である菊花は、自身の主に元気よく返事をしてから、今回召喚され世界を渡って行った4人の跡を辿り、菊花自身も世界を渡って行った。
菊花、三度目のお遣いである──
『───本当に……気に喰わない……。』
愛し子様達が召喚され、この世界にやって来てから暫くすると、4人の扱いの差が目に見えて分かるようになった。
千代様の眷属─使い(妖)魔としての仕事は3つ─
一つ、この世界に居る間、愛し子達を護るこ事
二つ、元の世界に還る者を無事に送り届けて、魔力持ちであった場合は、その魔力の跡を消して、異世界との繋がりを完全に断ち切る事
三つ、異世界に残った者の名を、元の世界から完全に消し去り、その存在を無にして、異世界に残った者に名を返す事
“護る”事は、正しくは“物理的に護る”事である為、喩え、目の前で愛し子であるウィステリア様が、馬鹿騎士に口撃を喰らっていたとしても、助ける事ができないのだ。
3尾の妖狐の菊花がいくら優秀なモノであっても、契約に縛られている為、好き勝手、自由に行動する事はできないのである。
ー取り敢えずは、1人1人の顔を覚えるしかないわね。最終的に、アイリーン様に報告しようー
と、菊花は愛し子に口撃した者達を1人残らず、その自身の頭に刻み込んでいった。
浄化の旅が始まっても、その馬鹿騎士達の態度が改まる事はなかった。それどころか、特に、ウィステリア様に対しては酷くなっていた。
その原因は、何となく分かっている。大元は、あの女だけど、それを止める事もなく、あの女と共に笑っている愛し子のエメラルド様も、その要因の一つになっている。
ー同じ世界からやって来た“同士”ではなかったのだろうか?ー
菊花にとっては理解し難いモノだった。何故、エメラルド様はウィステリア様を見ないのか。聖女であるエメラルド様が一言、「ウィステリアも大切にして欲しい」と言えば、変わる筈なのに。
そもそも、“魔導士だから”、“聖女だから”と、区別して差別する事事態がおかしいのだ。
聖女だけでは成立しないから、そこに魔導士や剣士が居るのだ。それを理解していない者が多過ぎるのだ。
今回のお務めでは、アイリーン様への報告案件が多くなりそうだ─
と、溜め息を吐いた時の私は………ある意味他人事の様に呆れていた。
『菊花、ようも…………のうのうと、やすやすと、飄々と、私の目の前にやって来れたものよなぁ……』
と、我が主である千代様が、それはそれは誰もが振り返って見惚れてしまうような微笑みをたたえている。
『…………』
ーやばい。千代様が…本気で怒っているー
一体何歳だ?と、神相手に訊いてどうする?案件だが、我が主の千代様は歳を重ねる毎に美しさを増して──って、褒め称えている場合ではない。兎に角、美人が本気でキレると………その笑顔だけで殺されるのではないか?とさえ思ってしまう。
いや、それ位のやらかしをしてしまった自覚があるから、何の言い訳もできない。
『はぁ────…まぁ、お前に嵌められた枷には、たまたま、犬の革が使われていたようだから…仕方無かったかもしれないけれど………』
『犬の革───』
そりゃあ、相性が悪い─最悪な筈だ。
犬は、私の唯一の天敵であり……弱点なのだから──
ーあやつら……絶対に思い知らせてやるー
『だけどね?菊花、お前が油断し過ぎたからだと言う事を理解しているかしら?』
『してます!心の底から!』
本当に、アレは油断し過ぎた私が悪いのだ。
浄化が無事に終わってホッとして、気が緩んだのだ。
お務め中は、私の姿を誰にも知られる事のないように常に自身の身体に認識阻害の魔法を掛けているのだが、その魔法が解けてしまっていたのだ。その事に気付かず、居眠りをしてしまい───
「3尾の狐の獣人とは珍しいな!これは、高く売れるぞ!」
と、気が付いた時には、既に首に枷が嵌められた後だったのだ。
どんなに頑張っても魔力が流れる気配が無く、もがけばもがく程意識が遠のいて行ってしまうのだ。あの時、色んな意味で“終わった”と思った。
平和を司るアイリーン様や千代様。二人共、目にするだけで幸せな気持ちになってしまう程美しいし、普段はとても優しいが──
キレると本当に……恐ろしいのだ──
平和を司っていても、キレる時はキレるのだ。神様にだって、感情はあるのだ。特に、愛し子への愛情はとても深いのだ。
『もう、終わった事、やらかしてしまった事は仕方無いわ。兎に角、今すぐに、今日中に、こちらの世界での4人の存在を無にして来なさい。』
『きょ─今日中に!?4人!?』
居残ると決めた後、直ぐに後処理を始めても丸一日掛かるのだ。それが、今回は4年─6年もの空白ができているのだ。絶対に無理───
『無理とは言わないわよね?言わせないけれど…』
ーはい、千代様、全く目が笑っていませんー
『特に、居残った3人の家族は……心が壊れてしまっている者も居るのよ?お前の少しの油断のせいでね…。色んな制約があるから、直接手を出す事もできなかった私の気持ちが……分かるかしら?分かっても分からなくても構わないから、お前は兎に角、今日中に、必ず、仕事を仕上げて来なさい!』
千代様が手を一振りした次の瞬間、私は下界へと飛ばされていた。
そこからは、必死に働いた。6年分×3人分と、4年分×1人分だ。私の持つ魔力が底を突きかける程の魔力を使い、何とか1日で終える事ができ、フラフラになりながら千代様の元へと戻って行った。
『それで、何故志乃様の存在まで無にしたのですか?』
志乃様に限っては、またこの世界に還って来るだろうに。
『今回は特別な対応であって、念の為でもあるわ。後1年は還って来れないでしょう?それも、私達のミスのせいでね?その私達のミスのせいで、志乃や志乃の家族が負担を抱える必要は無いでしょう?“志乃の存在は、一旦私が責任をもって預かる事にした”と、志乃に伝えてちょうだい。“志乃が還ってくれば、その存在を戻す”と。』
『分かりました。必ず、伝えます。』
『それと、もう一つ。菊花、お前は続けて志乃の側で志乃を護りなさい。色んな意味で護りなさい。それが、菊花と私からの志乃への償いよ。分かったわね?』
『!分かりました!千代様、ありがとうございます!』
『ならば、今すぐあちらに渡って、最後の仕事を仕上げなさい。』
と、やっぱり千代様は笑顔で、フラフラになった私に容赦無く───休む事も許されず、そのまま強制送還されるように、私を異世界へと送り出したのだった。
もう二度と油断なんてしない。
もう二度と、千代様の怒りを喰らうのは御免だ。
この時の私はまた、ホッとして忘れていたのだ。
アイリーン様からも、怒りを喰らうであろう事を─
❋キッカ(菊花)は、主からガッツリと“ざまぁ(?)”されていました❋
(。 >艸<)
❋本編30話辺りの裏側のお話になります❋
200年ぶりの仕事がやって来た。
それは、向こうの世界へ渡る“愛し子”様達の守護と、事後処理だ。
『菊花、くれぐれも、愛し子達の事、頼みますよ?』
『はい、千代様、お任せ下さいませ!』
3尾の妖狐である菊花は、自身の主に元気よく返事をしてから、今回召喚され世界を渡って行った4人の跡を辿り、菊花自身も世界を渡って行った。
菊花、三度目のお遣いである──
『───本当に……気に喰わない……。』
愛し子様達が召喚され、この世界にやって来てから暫くすると、4人の扱いの差が目に見えて分かるようになった。
千代様の眷属─使い(妖)魔としての仕事は3つ─
一つ、この世界に居る間、愛し子達を護るこ事
二つ、元の世界に還る者を無事に送り届けて、魔力持ちであった場合は、その魔力の跡を消して、異世界との繋がりを完全に断ち切る事
三つ、異世界に残った者の名を、元の世界から完全に消し去り、その存在を無にして、異世界に残った者に名を返す事
“護る”事は、正しくは“物理的に護る”事である為、喩え、目の前で愛し子であるウィステリア様が、馬鹿騎士に口撃を喰らっていたとしても、助ける事ができないのだ。
3尾の妖狐の菊花がいくら優秀なモノであっても、契約に縛られている為、好き勝手、自由に行動する事はできないのである。
ー取り敢えずは、1人1人の顔を覚えるしかないわね。最終的に、アイリーン様に報告しようー
と、菊花は愛し子に口撃した者達を1人残らず、その自身の頭に刻み込んでいった。
浄化の旅が始まっても、その馬鹿騎士達の態度が改まる事はなかった。それどころか、特に、ウィステリア様に対しては酷くなっていた。
その原因は、何となく分かっている。大元は、あの女だけど、それを止める事もなく、あの女と共に笑っている愛し子のエメラルド様も、その要因の一つになっている。
ー同じ世界からやって来た“同士”ではなかったのだろうか?ー
菊花にとっては理解し難いモノだった。何故、エメラルド様はウィステリア様を見ないのか。聖女であるエメラルド様が一言、「ウィステリアも大切にして欲しい」と言えば、変わる筈なのに。
そもそも、“魔導士だから”、“聖女だから”と、区別して差別する事事態がおかしいのだ。
聖女だけでは成立しないから、そこに魔導士や剣士が居るのだ。それを理解していない者が多過ぎるのだ。
今回のお務めでは、アイリーン様への報告案件が多くなりそうだ─
と、溜め息を吐いた時の私は………ある意味他人事の様に呆れていた。
『菊花、ようも…………のうのうと、やすやすと、飄々と、私の目の前にやって来れたものよなぁ……』
と、我が主である千代様が、それはそれは誰もが振り返って見惚れてしまうような微笑みをたたえている。
『…………』
ーやばい。千代様が…本気で怒っているー
一体何歳だ?と、神相手に訊いてどうする?案件だが、我が主の千代様は歳を重ねる毎に美しさを増して──って、褒め称えている場合ではない。兎に角、美人が本気でキレると………その笑顔だけで殺されるのではないか?とさえ思ってしまう。
いや、それ位のやらかしをしてしまった自覚があるから、何の言い訳もできない。
『はぁ────…まぁ、お前に嵌められた枷には、たまたま、犬の革が使われていたようだから…仕方無かったかもしれないけれど………』
『犬の革───』
そりゃあ、相性が悪い─最悪な筈だ。
犬は、私の唯一の天敵であり……弱点なのだから──
ーあやつら……絶対に思い知らせてやるー
『だけどね?菊花、お前が油断し過ぎたからだと言う事を理解しているかしら?』
『してます!心の底から!』
本当に、アレは油断し過ぎた私が悪いのだ。
浄化が無事に終わってホッとして、気が緩んだのだ。
お務め中は、私の姿を誰にも知られる事のないように常に自身の身体に認識阻害の魔法を掛けているのだが、その魔法が解けてしまっていたのだ。その事に気付かず、居眠りをしてしまい───
「3尾の狐の獣人とは珍しいな!これは、高く売れるぞ!」
と、気が付いた時には、既に首に枷が嵌められた後だったのだ。
どんなに頑張っても魔力が流れる気配が無く、もがけばもがく程意識が遠のいて行ってしまうのだ。あの時、色んな意味で“終わった”と思った。
平和を司るアイリーン様や千代様。二人共、目にするだけで幸せな気持ちになってしまう程美しいし、普段はとても優しいが──
キレると本当に……恐ろしいのだ──
平和を司っていても、キレる時はキレるのだ。神様にだって、感情はあるのだ。特に、愛し子への愛情はとても深いのだ。
『もう、終わった事、やらかしてしまった事は仕方無いわ。兎に角、今すぐに、今日中に、こちらの世界での4人の存在を無にして来なさい。』
『きょ─今日中に!?4人!?』
居残ると決めた後、直ぐに後処理を始めても丸一日掛かるのだ。それが、今回は4年─6年もの空白ができているのだ。絶対に無理───
『無理とは言わないわよね?言わせないけれど…』
ーはい、千代様、全く目が笑っていませんー
『特に、居残った3人の家族は……心が壊れてしまっている者も居るのよ?お前の少しの油断のせいでね…。色んな制約があるから、直接手を出す事もできなかった私の気持ちが……分かるかしら?分かっても分からなくても構わないから、お前は兎に角、今日中に、必ず、仕事を仕上げて来なさい!』
千代様が手を一振りした次の瞬間、私は下界へと飛ばされていた。
そこからは、必死に働いた。6年分×3人分と、4年分×1人分だ。私の持つ魔力が底を突きかける程の魔力を使い、何とか1日で終える事ができ、フラフラになりながら千代様の元へと戻って行った。
『それで、何故志乃様の存在まで無にしたのですか?』
志乃様に限っては、またこの世界に還って来るだろうに。
『今回は特別な対応であって、念の為でもあるわ。後1年は還って来れないでしょう?それも、私達のミスのせいでね?その私達のミスのせいで、志乃や志乃の家族が負担を抱える必要は無いでしょう?“志乃の存在は、一旦私が責任をもって預かる事にした”と、志乃に伝えてちょうだい。“志乃が還ってくれば、その存在を戻す”と。』
『分かりました。必ず、伝えます。』
『それと、もう一つ。菊花、お前は続けて志乃の側で志乃を護りなさい。色んな意味で護りなさい。それが、菊花と私からの志乃への償いよ。分かったわね?』
『!分かりました!千代様、ありがとうございます!』
『ならば、今すぐあちらに渡って、最後の仕事を仕上げなさい。』
と、やっぱり千代様は笑顔で、フラフラになった私に容赦無く───休む事も許されず、そのまま強制送還されるように、私を異世界へと送り出したのだった。
もう二度と油断なんてしない。
もう二度と、千代様の怒りを喰らうのは御免だ。
この時の私はまた、ホッとして忘れていたのだ。
アイリーン様からも、怒りを喰らうであろう事を─
❋キッカ(菊花)は、主からガッツリと“ざまぁ(?)”されていました❋
(。 >艸<)
応援ありがとうございます!
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