【R18】新米女王と性奴隷騎士〜お見合いしたら相手が女王志望でした。頑張って夫婦になります〜

dpen

文字の大きさ
11 / 22

#アイリーンの境遇

しおりを挟む



 アイリーンが子宮を摘出したのは七歳の時だ。学校の健診で魔力量が多すぎると引っかかって、魔力過多症と診断された。
 多すぎる魔力のせいで心身に不調が出るので普通はもっと早く親が気づくらしいが、母親はいつも「仮病でしょう。そうやって気を引きたがって」とアイリーンを突き放していたので学校の健診まで原因が判明しなかった。
 医師に説明されても「この子のはただの仮病!」と言い張っていた母の姿を覚えている。

 子宮を摘出して薬を飲むようになったら、体の苦しさはだいぶ楽になった。それまでは「気持ち悪い」と訴えると母親に仮病と言われ、兄に殴る蹴るをされて「仮病って言え!!」と謝罪させられたから、病気とわかったのは嬉しかった。でも病気とわかっても母と兄の態度は変わらなかった。
 「仮病ばかり使う子」が「出来損ないの欠陥品」になっただけだ。

 4つ上の兄に犯されたのは11歳のとき。「どうせ妊娠しないんだろ」と縛られて暴行された。泣いて母親に訴えたが、「お兄様がそんなことするはずないでしょう。またウソばかりついて本当に嫌な子!」と言われた。
 兄も母も、アイリーンがいかに嘘つきでどうしようもない子か、周囲に吹聴した。そうするほうが兄には好都合だったのだ。家を出るまで性的虐待は続いた。

 助けてくれる人は誰もいなかった。母と兄のせいでアイリーンは「嘘つきの子」と遠巻きにされて、親しい友人もできなかった。何を言っても信じてもらえない。
 早く家を出たくて勉強を頑張れば、兄に「カンニングをしている」とウソの告発をされた。アイリーンが良い成績を取ると兄はひどく怒って「調子に乗りやがって」とひどく犯した。
 それでもアイリーンには、勉強を頑張って奨学金をもらい、家を出ることしか希望がなかった。

 推薦の理由になるからと、特級危険種対応支援プロジェクトに参加した。特級指定の大型魔獣討伐のため、「広域支援型魔導環式結界」の魔力供給者が募集されたのだ。
 アイリーンは魔力量の多さと制御精度が評価され、結界陣の“北端支柱”=要の一点に配置された。持続魔力供給者として、魔導陣の安定稼働を数日間にわたって支えるのが役目だ。
 気圧変化・魔力逆流の影響で複数の供給者が脱落する中、唯一脱落せず任務を全うした。その功績を称えられて勲章が与えられた。生まれて初めて、ウソつき呼ばわりされずに得た功績だった。「こんなもので調子に乗りやがって」と兄に捨てられそうになったが、銀行の貸金庫に預けて死守した。自分の命より大切なものだったから。

 推薦を得られても「お前に学なんか必要ない!」と兄と母には最後まで邪魔をされた。兄より立派な大学に進学するのが二人とも許せなかったのだろう。だが特待生として学費免除で進学できるのに、なぜ行かせないのかと周囲から言われるようになると、あっさりと手のひらを返した。
 寮に入って、やっとアイリーンは自分の人生を手に入れた。

 周りは恋愛を楽しむ中、アイリーンにはそんな余裕もなかった。生きていくことだけで必死だったのだ。
 絶対に家に戻りたくなかった。自分でお金を稼ぐために、とにかく勉強して論文を書きまくり、運良く二つが特許認定された。毎月定額のライセンス料が入るようになったため、仕送りがないゆえの食事抜きもなくなり、やっと「生きていける」と思えるようになった。

 余裕ができても、周囲との間には溝があった。
 兄にされていたことを思い出すと吐き気がして、とても誰かと恋愛する気にはなれない。男性からの好意が怖かった。拒絶すると急に態度を変えたり、悪評をまかれたり、兄のように外面はよくても平気で暴力を振るう人間もいるから信じられない。

 誰とも一生愛し合うことなく、孤独に生きていくしかないと思った。尊厳を傷つけられながら生きるより、孤独のほうがずっとマシだ。でも時々、叫びだしたくなる。
 どんなに頑張っても普通の人生すら手に入らない。
 周りは当たり前に与えられてきたものなのに。

 功績を褒められたり、ライセンス料を羨ましがられるたび腹が立った。アイリーンにはそれらが必要だったから死に物狂いで努力したのだ。
 どうして努力する必要がなかった恵まれた人たちに、そんな風に言われなきゃいけないんだろう。
 彼らはアイリーンに「奢ってよ」とか「今月厳しくて。ちょっと貸してくれない?」と軽々しく求めた。強く拒絶すると「高飛車」「偉そうに」「調子に乗ってる」と陰口をたたかれた。

 怒りと憎悪のぶつけ先が欲しかった。たまたまネットで見かけたSM写真に強く惹かれた。男性を屈服させる強い女王様になりたい。
 そう思ってSMバーに行き、働かせてほしいと頼んだ。大学にバレたら退学になるかもしれない。お店の人にも「せっかくいい大学に在籍してるのに」と止められたが、何もかもがもう限界だった。

 でも奴隷志望のお客さんを初めて鞭で叩いたとき、涙が止まらなくなった。
 お客さんは良い人で、何かを察したのか「気が済むまで叩いていいよ」と言ってくれたが、八つ当たりで何も悪くない人を殴っているようにしか感じられなくて、それ以上は出来なかった。
 女王様になりたかったのに、兄と同じ最低人間になった気がした。

 先輩スタッフにも「奴隷が女王と認めてくれないと私達は女王でいられないの。今のあなたは女王じゃない。可哀想な女の子」と言われてしまった。
 耐えられずに兄にされたことを全部話すと、誰もアイリーンを嘘つきとは言わなかった。多かれ少なかれ、みんな似たような経験をしていた。初めてアイリーンは素の自分を認められて、受け入れられる場所を手に入れた。
 大学は努力して得た居場所だから失いたくないが、努力を続けるために店が必要だった。ありのままの自分を受け入れてもらえる場所がないと、辛くてもう何も頑張れない。

 でもずっと罪悪感があった。自分が退学になるだけならいいが、店でバイトしていることが母や兄にバレたらどんな嫌がらせをするかわからない。
 お店の人たちに迷惑をかけたくないのに、辞めたくない。本当の自分になって呼吸ができると思えるのは店だけだった。

 店のスタッフや常連客はアイリーンを心配してくれた。自分たちでは貴族の家のことはわからないし、何もできない。力になってあげられなくてごめんねと言われて、いたたまれなかった。どんなにこの店が力になってくれているか、言い表せないくらいなのに。

「もう……結婚しかないんじゃない? 信頼できる人に頼んで、お見合いするの」

 結婚に期待や憧れはなかったが、恋愛よりは出来る気がした。何よりアイリーンは論文を発表するとき、家の名字を使わなければならないのが嫌だった。
 自分があの家の一員だと突きつけられるたび吐き気がして、名字を変えたかったのだ。

「でも……私みたいな子供の産めない欠陥品と結婚してくれるような人がいるのかな」

「子供が産めないことは欠陥じゃないでしょ! 病気で仕方なかったんだし、国家に貢献して勲章までもらった人を欠陥品なんて言う人は相手にしなければいいのよ!」

 常連客にも、案外世の中にはいろんな人がいるから、どんな人にも需要があるんだよと言われた。
 少なくともアイリーンには勲章と、ライセンス料があった。離婚歴ありの男性とか、お金に困っている人なら、自分と結婚してくれるかもしれない。

 一番アイリーンに親身になってくれていたニコロ教授に、お見合いの斡旋を頼んだ。「家を縁を切りたいから――」と。
 子供が作れないことは打ち明けたが、実の兄にずっと暴行されて汚れていることは言えなかった。
 結婚相手にはいつか言わないといけないんだろうか――そう考えたら急に怖くなった。「騙しやがって、嘘つき女が!」と言われてしまうんだろうか。

 話が進んでしまって今更やめたいなんて言えないのに、お見合いの日は近づいて来てしまった。
 お見合い相手は騎士だった。きちんとした貴族の家の男性。離婚歴もなく、年は10歳上だが、出世頭で穏やかな性格だと聞かされた。想像以上に条件が良くて、自分では到底釣り合わないと感じた。

(ど、どうやって断ろう……)

 自分から望んだのに、アイリーンの頭は断ることでいっぱいだった。
 騎士だけあって、カリオン・エスカーリドは非情に体格が良かった。この人に兄のように殴られたら死ぬかもしれない。そう考えると、怖くてたまらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...