魔族への生贄にされたので媚びまくって生き残ります

白峰暁

文字の大きさ
40 / 42

40_伝えなかった理由

しおりを挟む
 ストレイウス家の一室で数日過ごして、私はメイドにその後の顛末を聞かされた。
 処置としては、こうらしい。


 ホールで告発されたチェルシーの暗躍には裏付けが取れたようだ。
 それに加えて、ローヴァイン家がこれまで人間が起こした問題として取り上げてきたものを洗い出し、どこまでが正しいものだったかの調査が進んでいるらしい。いずれにせよ、ローヴァイン家の権力は非常に大きく削がれることになるようだ。


「今回の騒動について、深くお詫びをします。シルフィア様は人間界へ戻すことになります。今回あったことの補填は魔族間で改めて会議を開いて、あなたに渡されることになるでしょう」
「そうですか。受け取れるものは受け取ります。あと、このようなことはもう起きないようにしていただけると……」
「ああ。シルフィアのいる場所は、この世界で最も安全な場所にすると約束しよう。そのために、アドラー家も力を尽くすと誓う」


 私たちの会話に新たに入ってきた声に、私は思わず表情を強張らせる。


「レヴィウス様……」
「すまない。シルフィアと二人で話したいんだ。席を外して貰ってもいいか」



 ストレイウス家のメイドはレヴィウスの要望を聞き、退席した。
 私はレヴィウスと二人で残される。



(気まずいな……)


 レヴィウスと二人になったとき、私は緊張することの方が多かった。
 しかし、今回は今までとは状況が違う。私がレヴィウスに嘘をついていたというのは既にバレているらしい。



 レヴィウスは私の隣の椅子に座り、顔を覗き込んでくる。


「あれから何日か経ったが……調子はどうだ?」
「ストレイウス家は、沢山私の世話をしてくれました。お陰様で元気です。問題なく人間界へ帰ることが出来ると思います」
「人間界へ帰る、か……」
「はい。レヴィウス様、ありがとうございました。あなたには本当にお世話になりました。今回だけじゃなくて、これまでもずっと」
「――シルフィア。俺はその話をしようと思ってここに来た。お前が俺と会うときに、話していないことが色々あったということ――俺はもう気付いている」
「……」
「だが……今回ばかりは、すべて本当のことを話して欲しい」
「……、はい」



 私は、レヴィウスの言葉に静かに頷いた。
 彼には何度も助けられた。流石に、これ以上隠し事をするのは忍びない。


 レヴィウスにいつからか全部バレていたというのは、気まずい……。
 気まずいが……。
 でも。


(不思議だわ。私、ちょっとほっとしてる……)


 私は隠し事をしながら彼と会い続けることに、罪悪感を感じていたのだろう。
 この先は会うことも無くなるだろうけど……それはそれで、あるべき場所に戻ったという気がする。
 レヴィウスを騙しながら会い続けた、今までの日々の方が特殊だったんだ。


 私は深く息を吸ってから話を切り出す。


「レヴィウス様。あなたはもうわかっていると思いますが、私はあなたに嘘をついていました」
「……ああ、そうだな。俺が気付いたのは人間界に来てからのことだが……」


 レヴィウスはそう言って、気付いた経緯について話してくれた。
 ミロワールに私が嘘をついている可能性について言われた上に、ティラミスを通して私の過ごす姿を見たら、疑惑が確信に変わったとのことだ。


 話し終わったレヴィウスは、私の方の事情を話して欲しいと促した。
 私は頷いて、今までのことを打ち明ける。



「村人に魔族への生贄にされたと気付いたとき……私が第一に思ったのは、死にたくないということでした。生きて人間界へ帰りたかった。そのために出来ることは何でもしようと思いました。自分一人だけでは戻る方法がわからなかったので、とりあえず魔族に……あなたたちに頼るようにしました」
「……」
「レヴィウス様に一目惚れしたというのは、嘘です。保身のためにそう言いました。私が出会った魔族がレヴィウス様以外の誰であったとしても、私はすり寄ったでしょう。城で働きたいと言ったのも、少しでも私の生存確率を上げる為です。レヴィウス様が人間に対する見方を変えた後は、それを極力利用するようにしていました。私は人間界に帰りたいという気持ちが最優先でしたから」
「……。そうか……」
「レヴィウス様。あなたを騙しておいて、こんなことを言える義理ではないかもしれませんが……人間がみんな私と同じとは思わないで欲しいです。王都には沢山の人間がいます。私の仕事場でも尊敬出来る人はいます。レヴィウス様のことを何の裏もなく慕う人間も沢山いるはずです。あなたがくれたお金で家を持つことも出来たけど、それも返します。褒美として貰った魔石も、他の贈り物も。ケーキは……もう食べちゃったから、返すことは出来ませんが。出来る限り精算させてください」


 私は一気に言って、レヴィウスに頭を下げる。


 今住んでる家を売ったら、カフェを開くという目標も一旦潰える訳だが……
 それはそれで、受け入れようと思った。
 レヴィウスがいなければ私の今の生活は無かった。だから、彼の意向に従うのが筋だと思った。



 レヴィウスは息をついて、私に向き直った。


「シルフィア。お前が俺に隠し事をしていたのは……少し、堪えた」
「……はい。すみません」
「だが――それだけだ。俺はシルフィアを愛しく思う。今でもなお、そうだ」
「れ、レヴィウス様……? でも、私は……」
「シルフィアが俺を愛してくれたから好きになった訳ではない。俺の中に長年あった、父親と人間についての蟠りを解消してくれたこと、うちの家のために誠実に働いてくれたこと、生贄にされても腐らずに励み続けたこと……シルフィアを好ましく思うところはまだ沢山ある。それらは、消えて無くなったりしない」
「――!」


 驚いた私が顔を上げると、レヴィウスが身を寄せて、私の手を握ってくる。


「シルフィア。俺は利用され続けるだけでも良かったんだ。基本的に魔族は人間よりも強い。そして俺は魔族の中でも強い。シルフィアに寄りかかられても、凡百な人間と違って消耗したりしない。シルフィアを守れるならそれで良かった。自分の身を守ることを後ろめたいなんて思うな。シルフィアがそう動いてきたからこそ、俺は今お前とこうして過ごすことが出来ているのだから」
「レヴィウス様……」
「俺が渡したものは全て受け取って欲しい。引け目を感じる必要はない。俺の方も小狡いことをしていた。秘密を知った後も、このまま黙っていればシルフィアに会い続けられると思った。シルフィアにあの店をケーキを渡しに行ったのは、下心もあったんだ。シルフィアがあの道を通って看板を見る度に、俺を思い出して欲しいと思った。俺ともう会わないと言い出されても、俺のことを覚えて貰えるように……」


 レヴィウスは、じっと私を見つめて静かに切り出す。


「シルフィア。お前が俺との約束を避けていたのは、お前が秘密にしていることが原因だったのかもしれない。なら、今はどうだ?」
「今……」
「これからの話をさせてほしい。シルフィア、俺は今でもお前と一緒にいたい。人間界に行ったときに話をした、伴侶として迎えたい、城で一緒に暮らしたいという願いも……まだ諦めていない」
「……」
「人間は魔族の住処には住まわせないと前の会議では決まった。だが、今回のローヴァイン家の暴走の補填としてシルフィアを特例で迎えるように取り計らうことも出来るだろう。シルフィアが望むのなら、うちの領地でカフェを開いて魔族たちを客として迎えることも出来る」
「……」
「だが、これは俺の願いだ。俺の意見に無理に合わせる必要はない。シルフィア。今一度、お前の気持ちを聞かせて欲しい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...