魔族への生贄にされたので媚びまくって生き残ります

白峰暁

文字の大きさ
39 / 42

39_俺を好きだと言ってくれた人間について④(レヴィウス視点)

しおりを挟む
 現行のアドラー家の当主としての仕事に加えて、ローヴァイン家がかつて主張していた人間からの被害に怪しいものが見つかって、諸々調査しないといけなくなった。
 それに集中するため、俺は人間界のもとへ降りる時間を捻出するのが難しくなった。
 シルフィアにそう伝えると、彼女は笑顔で了承してくれた。


(それはそれとして、シルフィアが危険な目に遭っていないかは把握していたいものだ……)


 シルフィアの安全を守るため、俺は彼女のもとに使い魔を残していた。
 使い魔は「ティラミス」と名付けられ、シルフィアにいたく可愛がられているようだ。俺から言わせてもらえば、使い魔を愛でるシルフィアの方がよほど可愛いと思う。


 シルフィアに愛でられている使い魔のことも、ひっそりと羨ましいと思っていた。使い魔は俺から生まれたもので、俺の分身みたいなものだから、それを羨むというのも奇妙なことであるが。


 そう、使い魔とは俺の分身のようなものだ。


 だから、ティラミスに充分に魔力を与えれば、少しの時間だが俺の目や耳として働くことも出来る。


 シルフィアのもとへ行く度に、俺はティラミスに魔力を与えるようにしていた。
 しばらく人間界に来れなくなるとわかったとき、今まで以上に大量の魔力を与えた。

 シルフィアが言うには、普段の生活で以前客に襲われたときのような危ないことは起きていないらしい。
 だが、彼女の認識と俺の認識は違う可能性がある。シルフィアに自覚がないだけで、既に危険な目に遭っていてもおかしくはない。


 シルフィアは、家から仕事場に行く間など、一人で出歩いているときはティラミスを外に出している。
 が、仕事場ではティラミスを荷物の中にしまって待機させているようだ。


 俺はティラミスに密かに命令を与えることにした。
 ――シルフィアに気付かれることなく、彼女を監視すること。


 命令に従って、ティラミスは密かに荷物から脱出した。



 俺は自室の鏡で、シルフィアの映像を見つめていた。
 人間界でシルフィアが今何をしているか、ティラミスを通して姿と音を確認出来た。



 シルフィアは開店前のカフェで、男と話している。
 会話の流れからすると、男はシルフィアが働いているカフェのオーナーらしい。


 ――シルフィアと男は、親密そうに話している……。


 俺が人間界に行ってシルフィアと再会したとき、迷惑客に絡まれたシルフィアはもっと困った顔をしていた。
 今のシルフィアは、笑みを浮かべて楽しそうにしている。
 これは俺の使い魔に攻撃させるような場面には値しないのだろう。


 それはそれとして、俺は男が気に入らなかった。


 男の方は嬉々としてシルフィアに自分の話をしているようだが、自惚れだ。
 どう考えてもシルフィアは男の自慢話に合わせているだけだ。
 仕事上の付き合いなのに本気で気に入られていると考えるなんて――滑稽だ。


 いつもの俺ならば、男の振るまいを見て一笑に付していたかもしれない。


 だが、今の俺はそう出来なかった。
 シルフィアの様子を見ていて、あることに気付いてしまったから。


(何故だ。何故シルフィアは、俺にしていたのと同じようにその男に笑いかけているんだ……)


 シルフィアがオーナーの男に見せる笑顔も、相手を賞賛する声色も、俺には馴染みがあった。
 城にいた頃のシルフィアが、いつも俺に向けていたものと同じだ。


 動揺で魔術の維持を出来なくなったからか、いつしか鏡には映像が映らなくなった。
 気持ちを落ち着けたくて、俺は目を閉じる。
 だが、先程の映像が脳裏に浮かんで離れなかった。



 ミロワールに言われて生まれた疑念を、俺は見ないようにして心の底に沈めていた。そうすればそのうち消えてくれるものだろうと思っていた。
 でも、シルフィアと再会して、彼女と接した上で、その疑念が完全に消えることはなかった。


 再会したシルフィアは、依然としてとても愛らしくて、俺を快く迎えてくれて……
 その上で、アドラー家の城に戻りたがることは無かったし、忙しいなら来ないほうがいいと何度も言っていた。



(――シルフィアは保身のために俺の機嫌を取っているだけで、俺のことは好きでも何でも無かったのでは?)



 その疑念を消してしまいたいとずっと考えていた。シルフィアが俺にくれた言葉を疑いたくなんてなかった。
 でも、先程の様子を見て、疑惑は確信に変わった。


 シルフィアが俺を慕う態度を見せていたのは、俺がアドラー家の最高責任者だからだ。
 俺の機嫌を取れば他の使用人たちにも害されることは無いだろうと踏んだからだ。
 シルフィアがオーナーの男と話を合わせるのと、俺を家で迎えてくれるのと……そこに何の違いがあるのだろう?


 俺は目を閉じたまま、暫くソファに座り込んで動けなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...