脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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タフィーちゃん

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チョコレートスライムが床に転がったチョコエッグの殻をペロリと舐めはじめる姿を見て、リディアは思わず笑みを浮かべた。
「食べちゃってるんだ…そりゃ、チョコっぽい味がするもんね」

スライムはぷるんぷるんと弾力のある体を揺らしながら、まるでチョコフォンデュでも楽しむかのように割れた殻を次々と吸い込んでいく。
メリーちゃんは少し不思議そうに近づいてみたが、スライムは警戒する様子もなく、無邪気に食べ続けている。

「可愛いなぁ。でも、名前をどうしよう?」
リディアはテーブルの椅子に腰掛け、あごに手を添えて考え込んだ。いつもなら、「メリーちゃん」みたいに素直に浮かんだ名前をそのまま付けていたが、チョコ色スライムにはどんな名が似合うか迷う。

「チョコみたいだし…‘ショコラ’とか‘カカオ’とか? うーん、でももっと可愛い感じにしたいな。‘トリュフ’もいいし、‘ココア’もアリかも?」

メリーちゃんはそんなリディアの悩みをよそに、こっそりとスライムに近づいてみる。スライムはチョコレートの殻を食べて満足したのか、メリーちゃんのふわふわの毛に軽くくっついて、ぷにゅっと揺れた。

「わわ、メリーちゃん、ちょっと待って!」リディアは慌てて様子を見に行くが、スライムはメリーちゃんに絡みつくでもなく、ただ寄り添うようにくっついているだけだ。甘い香りがほんのり漂って、どことなくメリーちゃんも心地よさそう。

「仲良くなりそうだね、二人とも」リディアは安心したように、再び椅子に座り直す。そして改めて考える。「よし、たくさん候補あるし、ゆっくり決めよう。何せ、生まれたばかりだもんね!」

スライムは細い触手のような部分を伸ばして、くるりとメリーちゃんのふわ毛を調べるように触れている。「メェ!」と気持ちよさそうに鳴くメリーちゃんを見ながら、リディアはほんわかとした空気を感じた。

「きっと、この子にぴったりな甘くてステキな名前が見つかるよね。ふふ、お楽しみはこれからだね!」

こうしてチョコレートスライムは、メリーちゃんにくっつきながら秘密基地の一員としての一歩を踏み出し、リディアはどんな名をつけようかとしばらく考え続けるのであった。

「やっぱり可愛い名前を付けたいよね…」
チョコレートスライムがメリーちゃんのふわふわな毛にくっついたまま、ぷるぷると揺れるのを眺めながら、リディアは思案顔で腕を組んでいた。エッグの殻をぱくぱく食べる姿は愛らしいのに、そのとろけるような茶色いボディは、どこか神秘的でもある。

「最初はショコラとかココアとか考えてたけど、何かしっくりこなくて…」
リディアがこぼすと、メリーちゃんは「メェ?」と小首をかしげ、まるで「ほかには候補が?」と問いかけているようだ。

「うーん、‘タフィー’ってどうかな? なんか、やわらかくて甘くて、でも弾力があるお菓子をイメージできるし、呼びやすい感じがするの」
リディアがひとりごとのように呟くと、チョコレートスライムはぴょこっと弾み、メリーちゃんの毛からひととき剥がれた。ぷるんと柔らかい身体を波打たせるようにして、リディアに近づいていく。

「もしかして、気に入ってくれたのかな? タフィーちゃん、呼んでみるね」
そう言ってリディアが「タフィーちゃん!」と優しく呼びかけると、スライムの表面が小さく震えたように見えた。まるで嬉しそうにお返事をしているかのようだ。

「わあ、通じてるっぽいね! やったー!」
リディアはにこっと笑い、スライムのてっぺんをそっと撫でるように触れようとする。とろけそうな感触に少し戸惑いながらも、スライムは嫌がる様子もなく、むしろ嬉しそうにくねくねと動いた。

メリーちゃんは横で「メェ!」と元気に鳴き、二匹の様子を見守っている。ふわふわピンクととろとろチョコの組み合わせが何とも不思議な光景だが、リディアにとっては最高に幸せな瞬間だった。

「それじゃ、今日からあなたはタフィーちゃんだよ! よろしくね!」
リディアが宣言すると、スライムもふにゃりと波打ち、まるで返事するように小さくぷるんと跳ねた。そんな微かな仕草さえも、リディアは「可愛い…!」と目を輝かせて受け取る。

こうして、新たに名を授かったチョコレートスライム、タフィーちゃん。メリーちゃんと一緒に、リディアの秘密基地での冒険の日常に新しい風をもたらすことになりそうだ。
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