脱走聖女は異世界で羽をのばす

ギルドの掲示板

冒険者ギルドのダンジョン支部は、いつも活気に溢れている。リディアはその喧騒の中、掲示板の前に立って興味津々の様子で依頼書を眺めていた。どの依頼書も魅力的に見えるが、特に目を引いたのは「オバケキノコの素材収集依頼」というタイトルだった。

「オバケキノコって何だろう？」
リディアは依頼書を手に取り、小さな声で内容を読み上げた。
「近頃、この付近の山で見つかるようになった不思議なキノコ。普通のキノコ以上に旨みが豊富で、特に高級料理の食材として注目されています。ただし、このキノコは時折、自ら動くことがあり、捕まえるのが難しいとのこと……動くキノコ！？ なんだか面白そう！」

彼女の目が輝き、隣で様子を見ていたメリーちゃんが「メェ！」と賛同するように鳴いた。タフィーちゃんもぷるぷると跳ねて同意を示す。

リディアは意気揚々とカウンターへ向かい、依頼を受けることを告げた。受付の女性が微笑みながら、
「気をつけてくださいね。オバケキノコは見た目は可愛らしいですが、突然逃げ出すこともあるので」
とアドバイスをくれた。

「大丈夫！ 私に任せて！」
リディアは胸を張り、早速準備を始めた。秘密基地から採取道具や、動くものを捕まえるための網を持ち出し、メリーちゃんのふわふわ毛に収納してもらう。さらに、タフィーちゃんには甘い香りを漂わせてキノコを誘き寄せる役をお願いすることにした。

「よーし、行こう！」
彼女たちは魔法の絨毯を持ち出し、近くの山を目指して出発した。



山に到着したリディアたちは、キノコの生えていそうな場所を探し始めた。森の中は静かで心地よい風が吹き抜け、鳥のさえずりが耳に心地よかった。リディアは足元をよく見ながら歩き、
「キノコ、キノコ、オバケキノコ～♪」
と鼻歌を歌いながら探している。

メリーちゃんは森の匂いを嗅ぎ、ふわふわ毛を揺らしながらリディアの後をついていく。タフィーちゃんはぷるぷると跳ね回り、時折木の根元を覗き込んでは「ここじゃないよ」と言いたげに戻ってくる。


森の奥で、リディアはついに見つけた。地面からちょこんと生えている、傘がふわふわと光るキノコがそこにあった。
「これがオバケキノコ！？ かわいい！」

しかし、リディアが手を伸ばそうとした瞬間、キノコがぴょんと跳ねて逃げ出した。
「ちょ、ちょっと待って！」

キノコはスキップするように逃げ回り、リディアは必死に追いかける。メリーちゃんもタフィーちゃんも全力で動き回り、タフィーちゃんは甘い香りを漂わせてキノコを引き寄せようとするが、オバケキノコはその隙間を巧みに抜けていく。

リディアは色変わりポーションを取り出し、キノコの周囲にばら撒いた。すると、キノコが驚いたようにぴょんと飛び跳ね、一瞬足を止めた。その隙に、メリーちゃんがふわふわ毛でキノコを包み込み、捕獲に成功した。

リディアは捕まえたキノコをじっくり観察しながら笑顔を浮かべた。
「やっぱり可愛い……でも、これで依頼達成だね！」

その後もリディアたちは、キノコたちの行動パターンを読み取りながら工夫を凝らして捕獲を続けた。
タフィーちゃんの甘い香りで引き寄せた後、色変わりポーションで混乱させたり、くにゃくにゃポーションで足を封じたりと、チームワークは抜群だった。
時折、メリーちゃんが先回りしてふわふわ毛を広げて待ち構える場面もあり、次々とオバケキノコを確保していった。

魔法の絨毯で冒険者ギルドに戻る頃には、ふわふわ毛の中に十分な数のキノコが収められていた。

ギルドに戻り、リディアが採取したオバケキノコを手渡すと、受付の女性は感激したように微笑んだ。
「こんなにたくさん……ありがとうございます！ 料理人たちが大喜びすると思います！」

報酬を手に、リディアは満足げにメリーちゃんやタフィーちゃんにお礼を言いながら、次の冒険に思いを馳せた。