脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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オバケキノコの組体操

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熊騎士は鋭い目つきでエリュディオンを睨みつけた。その視線には、これ以上好き勝手させるわけにはいかないという決意が宿っている。

「おい、お前。どれだけ暇でもな、迷惑行為が過ぎるとこうなるんだ。」
熊騎士は大剣を肩に担ぎ直し、一歩前に踏み出す。「黒いクリスタルなんざ今すぐ壊して、お前のくだらない遊びも終わらせる。」

しかしエリュディオンは、そんな脅しをまるで気にも留めない様子で髪をかき上げ、涼しげな笑みを浮かべた。
「やれやれ、君のその真っ直ぐな態度には感心するよ。けれど、私を相手にするには君たちじゃ少しばかり力不足だね。そんな怒った顔をしても、君の頭の上で遊ぶキノコたちのほうが、よほど威圧感があるくらいだ。」

熊騎士が一瞬「？」と目を丸くしたその瞬間、頭の上で何かが動いている感触に気づいた。

「……なんだ？」

そっと頭に手を伸ばしてみると、そこには数匹のオバケキノコがぴょんぴょんと跳ねて、いつの間にか組体操を始めているではないか。しかも、三段ピラミッドを作って見せつけるかのように、さらに高く積み上がろうとしている。

「おい！お前ら、今はそういう時じゃねえだろ！」
熊騎士が慌てて振り払おうとするが、キノコたちはしぶとく頭に張り付き、ぴょんぴょん跳ねるのを止めない。その光景を目にしたエリュディオンは、堪えきれずに大笑いを始めた。

「はははは！いや、これは最高だ！君たちは本当に私の暇つぶしにぴったりの存在だね！」
エリュディオンは笑いのあまり腰に手を当て、肩を震わせながら熊騎士を見ている。

「こんな時に笑ってんじゃねえ！」
熊騎士が頭を振りながらキノコを振り落とそうとするが、キノコたちは逆にくっついて勢いよく跳ねるだけだ。

セリルが呆れたようにため息をつきながら、「熊さん、少し落ち着いてください……まず状況を整理しましょう。」と声をかけるが、その冷静さもエリュディオンの笑いを一層引き立てるだけだった。

リディアは目を見開きながらも、なんとか状況を打開しようと考えていた。
「もう！本当にこのキノコたちはやりたい放題だね……なんとかしなきゃ！」

そんな中、エリュディオンは余裕たっぷりにクリスタルを指先でトントンと叩きながら言った。
「さあ、どうする？このキノコたちともっと遊ぶか、それとも本気で私に挑んでみるか。どちらにせよ、楽しませてくれると嬉しいな。」

その尊大な口調にリディアは歯を食いしばり、メリーちゃんやタフィーちゃんと目を合わせて頷いた。みんなで協力して、この状況を切り抜ける方法を探さなければならない――そう、どんなにキノコに邪魔をされても。

リディアは、目の前で繰り広げられるカオスな光景に小さくため息をつきながらも、内心ではひらめきを得ていた。熊騎士ハーゲンが頭の上のキノコに振り回されている隙にセリルが冷静に対処しようとするも、キノコたちは容赦なくセリルの鎧に飛び乗り、ピョンピョンと跳ねている。

「ハーゲンさん、セリルさん、大丈夫？」
リディアが声をかけても、二人は余裕なく応じる。

「くそっ、こんな小さいキノコに……！一歩も動けねえじゃねえか！」
「落ち着いてください、ハーゲンさん……！あなたが動くからキノコたちが面白がるんです！」

そのやり取りを聞いて、エリュディオンはまたも腹を抱えて大笑いしていた。肩を揺らしながら「いいぞ、その調子だ！」と嬉々として声を上げる様子は、まるで観客のようだ。

リディアはそんなエリュディオンを横目でじっと見つめながら思った。
（こんなに嬉しそうに笑ってるのって……もしかして、かまってほしいからなんじゃない？退屈で仕方なくて、こうして出てきたんだよね？）

リディアはさらに観察を続けた。エリュディオンの表情には確かに愉快さが満ちていたが、同時にどこか寂しさも漂っているように感じられた。黒いクリスタルを仕掛けてまで人々を困らせているのも、ひょっとしたら誰かと関わりたいという欲求の裏返しなのかもしれない。

「エリュディオンさん、もしかして……あなた、本当は私たちと遊びたいんじゃない？」
リディアが思い切って問いかけると、エリュディオンは少し目を見開いた。次の瞬間には笑顔を取り戻し、口元を緩めたままリディアを見下ろす。

「遊びたい、ねえ……そうとも言えるかもしれない。でもどうだろう、君たちが私の退屈を本当に紛らわせることができるかどうか、それはまた別の話だろう？」

リディアはその言葉を聞いて、自分の仮説が間違っていないと確信した。エリュディオンの余裕たっぷりの態度の奥にある寂しさを見抜いた彼女は、あえて彼のペースに乗ってみることに決めた。

「じゃあ、もっと面白いことをしてあげるよ！キノコに邪魔されてばっかりじゃ、私たちも全然本気を出せないしね！」
リディアがにっこりと微笑むと、メリーちゃんとタフィーちゃんも「メェ！」「ぷるぷるん！」と楽しげに鳴き、仲間たちを励ました。

エリュディオンは少し驚いたように目を細め、興味深そうにリディアを見つめると、にやりと口元を歪めた。
「ふふ、面白いね。ならば、君たちのその意気込みを見せてもらおうか？」

そう言いながら、エリュディオンは黒いクリスタルを軽く叩いた。その瞬間、キノコたちはますます活発に動き始めた。リディアたちはキノコの猛攻に耐えながら、エリュディオンの期待以上の「遊び」を見せる方法を模索することになる――。

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