脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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誘導大作戦

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フルーツの浮島に新しい巣を用意し、蜂蜜の浮島に戻ってから数日が経った頃、再び水色のハチたちが襲来した。遠くから唸るような羽音が近づき、蜂蜜の浮島の甘い空気を裂くように響き渡る。

「きた……!」
リディアは巣作りで使ったトンカチを持ち、緊張した表情で構える。メリーちゃんは「メェ!」と警戒の声を上げ、タフィーちゃんも「ぷるぷるん!」と身を震わせながら水色のハチたちに向き合った。

ミツバチたちは巣の中に隠れ、くまさんが「うー……」と心配そうに声を漏らしている。

「大丈夫、ミツバチさんたちを守るよ!」
リディアは気合いを入れ、浮島の空に現れた水色のハチたちをじっと見据えた。しかし、前回と同じように数が多く、動きも速い。ハエ叩きだけでは到底間に合わない状況だ。

「やっぱり数が多すぎるよ……!」
リディアが焦りの声を漏らすと、エリュディオンが浮島の端に立ち、腕を組んで眺めていた。

「ふむ、どうやら巣を作っただけでは、彼らがそこに気づく保証はなかったようだな」
余裕のある声でそう言いながら、彼は一歩も動かずに状況を観察している。

リディアはエリュディオンの言葉にハッとして振り返った。「そうか! フルーツの浮島に巣を作っただけじゃ、誘導する方法がなかったんだ!」

「気づくのが遅いな。だが、まだ間に合うかもしれんぞ?」
エリュディオンは薄く笑いながら片手を軽く掲げた。その瞬間、空気が少しだけ揺らぎ、彼の手元に黒いクリスタルが現れる。

「お前たちがハチを誘導したいなら、少し“助け”を貸してやる。巣の香りを模したものを作り出すのは簡単だからな」
彼はクリスタルを軽く指で弾き、そこから漂うわずかな甘い香りを浮島に充満させた。

「これをフルーツの浮島まで運べば、ハチたちはその匂いを追うだろう。だが……運ぶのはお前たちの役目だ」

「わかった!」
リディアは頷き、メリーちゃんとタフィーちゃんに声をかけた。「メリーちゃん、この香りを運ぶよ! フルーツの浮島まで頑張ろう!」

メリーちゃんは「メェ!」と力強く鳴き、ふわふわの毛でクリスタルの香りをしっかりと包み込む。タフィーちゃんはその横で「ぷるぷるん!」と勢いよく弾みながら準備を整えた。

リディアたちはクリスタルの香りを頼りに、水色のハチたちをフルーツの浮島へと誘導する作戦を開始した。クリスタルをメリーちゃんの毛に包んで空を駆け、ハチたちを追いかけるように誘導する。甘い香りに惹きつけられた水色のハチたちは、次第にその方向を変え始める。

「よし、みんな! あと少しだよ!」
リディアが叫び、メリーちゃんとタフィーちゃんが浮島の中央へとクリスタルを運び込むと、水色のハチたちはその香りに引き寄せられるように新しい巣に集まり始めた。

蜂蜜の浮島に戻ったリディアたちは、くまさんとミツバチたちが無事であることを確認し、ホッとした表情を浮かべた。エリュディオンはいつものように優雅に腕を組みながらリディアたちを眺めている。

「ふん、まあよくやった。これで少しは平穏が戻るだろう」
彼は満足そうに微笑み、くまさんのふわふわの毛を撫でながら付け加えた。
「だが、次に何か問題が起きたときも、また頼るつもりなら……それなりの代償を払ってもらうぞ?」

「代償って……またハチの巣作り?」
リディアが苦笑すると、エリュディオンは軽く肩をすくめて答えなかった。その曖昧な態度に、リディアたちは思わず笑い合った。

すると、くまさんがリディアたちの方へとゆっくり近づいてきた。小さな足音をぽてぽてと響かせながら、リディアの目の前で立ち止まると、まん丸の目をキラキラと輝かせて、短い手をぺたんと地面についた。

「うー……」
くまさんは小さく頭を下げ、深々とお辞儀をする。その仕草はなんとも可愛らしく、ふわふわの毛が揺れるたびに甘い蜂蜜の香りが漂ってくる。

「くまさん、そんなに丁寧にお礼しなくても大丈夫だよ!」
リディアは少し驚きながらも、その愛らしい姿に心が温かくなり、そっとくまさんの頭に手を伸ばして撫でた。

くまさんは「うー!」と嬉しそうに声を漏らし、柔らかな体を少しリディアに寄せて甘えてくる。そのふわふわとした感触に、リディアは思わず頬を緩めて笑顔を浮かべた。

「わたしたち、ただミツバチさんたちとくまさんを守りたかっただけだもん。お礼を言われるとちょっと照れるね!」
リディアがくまさんの耳を優しく撫でると、くまさんは短い尻尾をふりふりと振りながらさらに近づいてきた。

エリュディオンはその光景を少し離れたところから眺めていた。片手に紅茶のカップを持ちながら、ふと微笑を浮かべる。

「ふん、お前たちの手柄ということにしておいてやる。ただ、このくまの純粋さに免じてな」
そう言って、エリュディオンも優雅にくまさんに歩み寄ると、手を伸ばしてもふもふとした口元を軽く撫でた。

「よかったな。もう水色のハチに悩まされることはないだろう」
彼の言葉に、くまさんは「うー!」と力強く鳴き、小さな手でエリュディオンの長い指にそっと触れる。エリュディオンはその小さな仕草を受け入れ、淡々とした表情で再び紅茶に口をつけた。

「ねえくまさん、今度はもっと美味しい蜂蜜をたくさん作ってね!」
リディアがそう言うと、くまさんは嬉しそうに「うー!」と鳴きながら小さく頷き、その丸い手を大きく振って感謝を示した。

「わー、かわいい……! こんなに感謝されると、また何か困ったことがあったら絶対助けたくなっちゃうね!」
リディアは笑顔でメリーちゃんとタフィーちゃんに視線を向けると、二人も同じように満足げな表情で頷いていた。

こうして蜂蜜の浮島には再び平穏が訪れ、くまさんとミツバチたちは安心して暮らせるようになった。
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