脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

文字の大きさ
199 / 209

水色のハチの活躍

しおりを挟む
フルーツの浮島に新しく作った巣が水色のハチたちに受け入れられたかどうか気になり、リディアたちは数日ぶりに様子を見に行くことにした。

甘い果物の香りが漂う浮島へと降り立つと、耳に届いてきたのは軽やかな羽音のハーモニー。リディアはその音に自然と笑みを浮かべた。

「ねえ、メリーちゃん、タフィーちゃん! 水色ハチさんたち、元気にしてるみたいだよ!」
リディアが目を輝かせながら声を上げると、メリーちゃんは「メェ!」と元気よく応え、タフィーちゃんも「ぷるぷるん!」と弾みながら駆け寄った。

巣のある木に近づくと、水色のハチたちが果物の木々を忙しそうに飛び回り、葉の裏や幹にいる害虫を器用に捕らえている姿が見えた。その動きは滑らかで、一瞬の無駄もない。リディアはその様子に感心して息を漏らした。

「すごい……ちゃんと巣に馴染んで、フルーツの木を守ってくれてるんだね!」
リディアが感動の声を上げると、メリーちゃんはふわふわの毛を揺らしながら近くの木陰に座り込み、じっとその光景を見つめた。タフィーちゃんは木の根元を「ぷるぷるん!」と跳ねながら観察し、葉に残った害虫の残骸を見つけて不思議そうに首をかしげている。

巣の近くでは、数匹の水色のハチが飛び交いながら果物の蜜を吸い、忙しそうに巣へと戻っていた。巣はリディアたちが作ったときと比べ、少しずつ自分たちの手で改良されているようだった。巣の外壁には小さな穴が増え、巣の中からはほんのりとした甘い香りが漂っている。

リディアは巣のそばにそっと立ち、「お邪魔します」と小声で言いながら観察を始めた。「わぁ……ちゃんと巣を気に入ってくれたんだ。嬉しいなぁ!」
その言葉に応えるかのように、一匹の水色のハチが巣の中から出てきて、リディアの顔の周りをくるくると飛び回った。まるで「ありがとう」と感謝を伝えているようだった。

「ふふ、どういたしまして! ここで楽しく暮らしてね!」
リディアが笑顔でそう言うと、水色のハチは羽音を響かせながら再び巣の中へと戻っていった。

ふと見回すと、果物の木々が以前よりも元気に茂っていることに気がついた。鮮やかなオレンジや赤、紫の果実がたわわに実り、そのいくつかは収穫時期を迎えていた。

「害虫が減ったおかげで、フルーツがこんなに元気になってるんだね!」
リディアは手近な木の実をひとつ摘み取り、じっくりと眺めた。みずみずしい果実から甘い香りが漂い、メリーちゃんとタフィーちゃんも「メェ!」と「ぷるぷるん!」と興奮気味に声を上げた。

「これはきっと、水色ハチさんたちのおかげだね。帰ったら、蜂蜜の浮島のくまさんにも報告しないと!」
リディアがそう言って微笑むと、タフィーちゃんがフルーツを少しだけ囓り、嬉しそうに体を弾ませた。

その頃、蜂蜜の浮島の木陰にはエリュディオンの姿があった。浮島の様子を眺めながら、くまさんと並んでのんびりと腰掛けている。くまさんは「うー……」と満足そうな声を漏らしながら蜂蜜の入った小さな壺を抱えていた。

エリュディオンは一息つきながら、目の前を飛ぶミツバチをちらりと見て小さく笑う。「ふむ、これで浮島全体がさらに活気づくというわけか。まあ、上出来だな」
そう呟き、優雅に紅茶のカップを手に取る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

私は、聖女っていう柄じゃない

波間柏
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...