脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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ピヨピヨ!

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卵の揺れが大きくなり、リディアは両手で慎重にそれを支えながら、みんなと一緒に固唾を飲んで見守った。そして、ついに卵の殻に小さな亀裂が入り、ぴちぴちと音を立てながら割れ始めた。

「……出てくる!」
リディアは興奮を抑えきれず、メリーちゃんも「メェ!」と鳴き声を上げる。タフィーちゃんは跳ねながら「ぷるぷるん!」と応援し、靴下ネコも目を細めて見守る。

やがて、卵の中から小さな黄色い羽が覗き、続けて丸っこい体が現れた。そして、次々と――

「……ひよこ!? しかもたくさん!?」
卵から出てきたのは、なんとカラフルなひよこたちだった。黄色、ピンク、水色、オレンジ――鮮やかな色合いのひよこたちが、「ぴよぴよ!」と元気な声を上げながら足元で動き回る。

「可愛い……! こんなにたくさん出てくるなんて!」
リディアは驚きと嬉しさで目を丸くし、両手を合わせて小さなひよこたちを見つめた。メリーちゃんもひよこたちを不思議そうに眺め、タフィーちゃんはその周りを跳ねながら「ぷるん!」と鳴いている。

ところが――ひよこたちは一斉にエリュディオンの方に向きを変え、ちょこちょこと小さな足音を立てて彼の足元に集まった。まるで彼が親であるかのように、エリュディオンの長いコートの裾をくぐりながら、「ぴよぴよ!」と声を上げて懐いている。

「……なんだこれは。」
エリュディオンは片眉を上げ、足元で動き回るひよこたちを見下ろした。その鋭い瞳には一瞬困惑の色が浮かんだが、ひよこたちが甘えるように足に擦り寄ると、諦めたようにため息をついた。

「どうやら、私は親代わりにされているらしいな。」
そう言いながらも、エリュディオンは杖を軽くつき、足元に寄り添うひよこたちを邪険にする様子はない。逆に、彼らをじっと見つめる目にはどこか面白がっているような雰囲気があった。

「エリュディオン、ペットができたね!」
リディアは笑いを堪えながらひよこたちを撫でる。メリーちゃんも「メェ!」と応援するように声を上げ、タフィーちゃんはひよこの頭を軽くつついてじゃれ始めた。

「ペットとは、言い得て妙だな。……ま、いいだろう。これも退屈しのぎにはなる。」
エリュディオンは腰を下ろし、ひよこたちを撫でるように指先を動かした。その仕草はまるで高貴な王が臣下を慈しむかのような優雅さで、ひよこたちも彼の手に触れると嬉しそうに「ぴよぴよ!」と鳴いた。

こうしてカラフルなひよこたちはエリュディオンのペットとして迎え入れられた。靴下ネコがそれをじっと見つめながら「ニャオ」と短く鳴き、まるで「まあ、彼になら任せてもいいか」とでも言いたげな様子だった。

こたつの周りは、ひよこたちの声とリディアたちの笑いで賑やかになり、天蓋の浮島に新たな仲間が加わった瞬間を祝福するかのように穏やかな風が吹いていた。




それ以来、エリュディオンの足元には常にカラフルなひよこたちが集うようになった。彼がゆったりと歩けば、小さな足音を立てて列をなし、彼が立ち止まれば、その周りにちょこんと座り込む。ひよこたちの「ぴよぴよ」という元気な声は、もはや彼の日常の一部となっていた。

リディアはその様子を横目に見ながら、思わず吹き出す。
「エリュディオン、ひよこたちに好かれすぎじゃない? すっかり親代わりだね!」
彼女がそう言うと、エリュディオンは気だるげな表情を浮かべつつも、ひよこたちを一瞥して肩をすくめた。

「ふん、小さきものたちよ……まったく、私をどこまで慕うつもりだ?」
そう言いながら、彼は杖を軽く床に立て、ひよこたちを見下ろす。その声には呆れよりもどこか柔らかい響きが含まれており、足元でひよこたちが「ぴよぴよ!」と鳴きながら彼に寄り添う姿に、まんざらでもなさそうな様子が伺えた。

「なんだかんだ言って嬉しそうだよね。」
リディアは微笑みながらメリーちゃんを撫で、タフィーちゃんも「ぷるぷるん!」と跳ねながらひよこたちに興味津々の様子を見せる。

エリュディオンはひよこたちの一羽を指先で軽く撫でながら、優雅に口元を歪めた。
「こんな小さきものたちにも、偉大なるこの私が手を差し伸べるのだからな。感謝して慕うのも当然だろう。」
その声には堂々とした響きがありながらも、ひよこたちへの愛着が隠しきれていなかった。

「小さきものたちよ、お前たちには私の足元を飾るという重大な役割があるのだ。……存分に務めを果たすがいい。」
彼がそう言うと、ひよこたちは「ぴよぴよ!」と鳴き声を上げて彼の足元に集まり、さらに愛らしい仕草を見せる。リディアたちはその光景を見て笑いを堪えきれず、天蓋の浮島はひよこたちの賑やかな声と笑顔で満たされた。

エリュディオンは、どこか誇らしげな表情を浮かべながらひよこたちを愛で続け、その姿にはいつも以上に柔らかさが感じられる。彼の足元で戯れる小さな命たちは、冷たく見えた彼の雰囲気に不思議な温もりをもたらしていた。
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