脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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靴下ネコの応援

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夕暮れの街角で、リディアたちは迷子の猫の飼い主と再会した。依頼主の女性は猫の姿を目にした瞬間、思わず目を潤ませて駆け寄ってきた。

「ミャーシャ! 無事でよかった! どこに行ってたの、もう心配でたまらなかったんだから!」
彼女は猫を抱き上げると、その柔らかな毛並みに頬を擦り寄せた。猫――ミャーシャは「ニャ……」と控えめに鳴きながら、少し迷惑そうに耳を伏せる。けれども、その仕草すら飼い主には愛おしいようで、さらにぎゅっと抱きしめられてしまう。

「ミャーシャ、もうこんなに遠くへ行かないでね! お魚を狙うのもダメだからね!」
女性は何度も猫に話しかけながら頬擦りを繰り返し、幸せそうに笑顔を浮かべていた。ミャーシャは再び「ニャー……」と鳴き、小さく尻尾を揺らしてリディアたちの方に助けを求めるような視線を送る。

「ふふ、飼い主さん、本当に安心したみたいだね。」
リディアはその様子を見て微笑みながら、手を差し出して猫の頭を軽く撫でた。

「ニャ……」
ミャーシャは撫でられると少し目を細め、飼い主の腕の中で体を丸めた。さすがに観念したのか、静かにされるがままになっている。

「本当にありがとう! この子が見つからないかもしれないと思って、不安で不安で……あなたたちがいなかったら、どうなっていたことか。」
飼い主の女性は深く頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた。その瞳には涙が浮かび、ミャーシャを再び胸に抱きしめる。

「大丈夫です! ミャーシャちゃん、ちゃんと戻ってきてくれてよかったです。」
リディアは嬉しそうに答え、メリーちゃんとタフィーちゃんに視線を送る。メリーちゃんは「メェ!」と満足げに鳴き、タフィーちゃんも「ぷるぷるん!」と得意げに跳ねた。

「これにて一件落着か。まぁ、見ていて退屈はしなかったな。」
少し離れたところで腕を組みながら観戦していたエリュディオンが、軽く肩をすくめて微笑む。その姿を見て、リディアは「次こそ手伝ってね!」と軽く睨んだが、彼は涼しい顔で視線をそらした。

猫と飼い主の再会を見届けたリディアたちは、冒険者ギルドに報告を終えると、ふわふわリュックを背負いながら再び街を歩き出した。ミャーシャの飼い主の幸せそうな笑顔と、猫の少し迷惑そうな表情が、心に温かい余韻を残していた。

天蓋の浮島に戻ると、リディアたちは真っ先にこたつのあるリラックススペースへと向かった。空が茜色に染まる中、メリーちゃんとタフィーちゃんは足元で揺れる柔らかな光を眺め、エリュディオンは遅れることなく悠然と現れた。

「ふむ、やはりこの場所は居心地がいいな。あの卵は、まだ動き出す気配はないのか?」
エリュディオンがリディアに問いかけながら、こたつの横に腰を下ろす。その動作はどこまでも優雅で、黒髪が軽く揺れる。

「今見てみる! きっとそろそろだと思うんだよね。」
リディアはこたつの中を覗き込み、大切に安置していた卵を慎重に取り出した。柔らかな布で包まれた卵はほんのりと暖かく、滑らかな表面が光を反射してわずかにきらめいている。

「お……動いた!」
卵をそっと両手に乗せると、表面が微かにぴくりと揺れるのが分かった。リディアは目を輝かせながら声を上げる。

「ついに、だな。」
エリュディオンは満足げに微笑み、杖を軽く床に立てて様子を見守る。その目には、どこか好奇心が混じっている。

そのとき、靴下ネコがこたつから顔を出し、卵をじっと見つめながら「ニャオ」と小さく鳴いた。まるで卵を応援するかのように、そばに座って前足でふみふみと軽く床を押している。

「靴下ネコも応援してるね。がんばれ、卵ちゃん!」
リディアは笑顔を浮かべながら卵を撫でた。メリーちゃんも「メェ!」と優しく鳴き、タフィーちゃんは「ぷるぷるん!」と跳ねて卵の周りを囲む。

卵は再び小さく揺れ、その振動が少しずつ大きくなっていく。リディアたちは息を飲みながらその瞬間を待ち、エリュディオンは飽きる様子もなくその場にとどまっていた。

「さあ、この中から何が出てくるか……見せてもらおうじゃないか。」
エリュディオンの声が低く響き、リディアたちはさらに期待を膨らませた。

卵はぴくぴくと動き続け、その先にどんな命が待っているのか、皆の心はわくわくで満たされていた。
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