脱走聖女は異世界で羽をのばす

ねむたん

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お魚咥えた猫

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ふわふわリュックを確認したリディアは、背中の感触と収納力を試しながら、すっかり冒険への気持ちを盛り上げていた。リュックのピンクの毛は陽光を受けて柔らかく光り、思わず撫でたくなる愛らしさだ。

「よし! このリュックを背負って、次の冒険に出発しよう!」
リディアが元気よく声を上げると、メリーちゃんは「メェ!」と鳴き、タフィーちゃんは「ぷるぷるん!」と飛び跳ねた。

「まずは冒険者ギルドに行って依頼書を選ぼう。きっと何か面白い依頼があるはずだよ!」
リディアたちは街の冒険者ギルドを目指して歩き出した。

冒険者ギルドの建物は、リディアが何度も訪れた馴染みの場所だ。大きな掲示板には、今日も新しい依頼書がぎっしりと張られている。
ギルド内は活気に溢れ、多くの冒険者たちが情報を交換したり、依頼を受けたりしていた。リディアはピンクのふわふわリュックを背負ったまま、掲示板の前に立ち、目を輝かせながら依頼書を眺める。

「えーっと、これは……巨大キノコの討伐依頼か。ちょっと強そうだけど面白そう!」
リディアはひとまず興味を示すが、メリーちゃんが「メェ!」と小さく首を振る。どうやらもっと気軽な依頼を求めているようだ。

「あ、これはどう? 迷子の猫探し!」
リディアが手に取った依頼書には、街の近くで行方不明になった猫を探してほしいと書かれていた。依頼主の切実な言葉と猫の可愛らしいイラストが描かれており、それを見たリディアは早速その気になった。

「猫探しなら、メリーちゃんやタフィーちゃんも力を発揮できそうだよね!」
リディアが振り返ると、メリーちゃんは「メェ!」と力強く鳴き、タフィーちゃんも「ぷるん!」と跳ねて賛成を示した。

「じゃあ、この依頼に決まりだね!」
リディアは受付で迷子の猫探しの依頼を正式に受け取った。受付の職員がリディアのリュックをちらりと見て微笑む。

「ふわふわで可愛いリュックだね。きっと迷子の猫も安心するよ。」
「えへへ、メリーちゃんの毛で作ったんです! これで猫を見つけたら、リュックに乗せてあげられるしね!」
リディアはそう言って、リュックのポケットを示しながら得意げに微笑む。

依頼書を片手にギルドを出発したリディアたちは、街の中を見回しながら猫の行方を追い始めた。風に揺れるピンクのふわふわリュックは、街を歩く人々の視線を集め、通りがかりの子どもたちが「可愛い!」と声を上げる。

「さて、猫ちゃんはどこに行っちゃったのかな……?」
リディアは目を凝らして周囲を見回しながら、迷子の猫探しに全力を注いでいた。冒険者ギルドで受け取った情報を頼りに、リディアたちの小さな冒険が幕を開ける。


街の路地を歩きながら猫の行方を探していたリディアたち。すると、突然近くの市場の方から大きな声が聞こえてきた。

「こら! 返せ! お前、それはうちの一番の大物だぞ!」
市場の魚屋から男性が怒った声で叫び、何かを追いかけている。その視線の先には、銀色のお魚を咥えて猛スピードで走り去る小さな影――迷子の猫がいた。

「あ! あの猫ちゃんだ!」
リディアは目を輝かせながら、依頼書に描かれていた猫の特徴を思い出した。灰色の毛並みにふわっとした尻尾、間違いない。

「すごい速さだな……あれを捕まえるのか?」
エリュディオンがいつの間にか背後に現れ、肩越しに猫を追いかけるリディアを見下ろしていた。黒髪を揺らしながら、余裕たっぷりの態度で腕を組んでいる。

「エリュディオン! 何でいるの!? いや、それよりも猫ちゃんを追いかけないと!」
リディアは驚きつつも猫の方を指さし、メリーちゃんとタフィーちゃんと共に走り出した。

「まったく、どこにでも顔を出すんだから……」
リディアは呟きながら魚を咥えた猫を追い、エリュディオンはその様子を楽しげに見守っている。猫は市場の屋台の間を縫うように駆け抜け、リディアたちは人混みを避けながら懸命に追いかけた。

「メリーちゃん、あっち! タフィーちゃん、こっちは任せたよ!」
リディアが指示を飛ばすと、メリーちゃんは「メェ!」と鳴いて猫の進む方向を察知し、軽快に駆け寄る。一方、タフィーちゃんは「ぷるぷるん!」と飛び跳ねながら市場の路地を通り抜け、猫が逃げる先をブロックする。

「ふむ、君たちはいつ見ても騒がしいな。」
エリュディオンはその場で悠然と立ち、リディアたちの奮闘を見物している。猫が曲がり角をすり抜けるたびに杖を軽く回しながら「次は右だぞ」と言ったり、壁を飛び越える猫に「跳躍力はなかなかだな」と余裕のあるコメントをしたりしていた。

「そんなこと言ってないで手伝ってよ!」
リディアが振り返って叫ぶが、エリュディオンは「私は観戦役だ」と涼しい顔で返すだけだった。

ようやく市場の端で猫の行く手をメリーちゃんが塞ぎ、タフィーちゃんが背後から追い詰める形になった。猫は「ニャー!」と一声鳴いて魚を咥えたまま立ち止まり、あたりをキョロキョロと見渡している。

「よし、今だ!」
リディアが勢いよく近づき、猫の前でしゃがみこんだ。手を差し出しながら優しく声をかける。

「猫ちゃん、大丈夫だよ。お魚はちゃんと返して、お家に帰ろうね?」
猫はじっとリディアを見つめ、少しずつ咥えた魚を緩めていく。その瞬間、メリーちゃんがそっと近づき、猫を驚かせないよう囲い込むような動きを見せた。

「ニャ……」
猫はようやく観念したように魚を地面に置き、リディアの方へ歩み寄ってきた。

「やったー! 猫ちゃん、確保成功!」
リディアは猫を優しく抱き上げ、笑顔を浮かべた。猫はその腕の中で安心したのか、穏やかな表情を見せている。

「これで一件落着だな。」
エリュディオンが手を軽く叩き、にやりと笑った。近づいてきた魚屋の男性に魚を返すと、彼は「ありがとう!」と礼を述べ、ニコニコしながら去っていった。

「はぁ……ちょっと大変だったけど、リュックのおかげで荷物は安全だし、猫ちゃんも無事だし……今日はいい冒険だったね!」
リディアは満足そうに、猫を連れて依頼主の元へ向かう準備を始めた。その後ろで、エリュディオンが「ふむ、これくらいなら君らしい冒険だな」と呟きながらついてくるのだった。
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