脱走聖女は異世界で羽をのばす

ふわふわリュック

秘密基地のリビングは、暖かく穏やかな空気に包まれていた。ふかふかのクッションが散らばる空間で、リディアはほっそりとした姿になったメリーちゃんの隣に腰を下ろしていた。

「メリーちゃん、なんだか軽くなったね。」
リディアは微笑みながら、メリーちゃんの頭をそっと撫でた。いつものふわふわ毛が刈られている分、少しひんやりした感触が指先に伝わる。

「メェ……」
メリーちゃんは気持ちよさそうに目を細め、頭をリディアの手に軽く押し付けてきた。その仕草があまりに愛らしく、リディアはつい笑みを深める。

「ふわふわじゃなくなったけど、すべすべしてて気持ちいいね！」
メリーちゃんの首元から背中にかけて、リディアは優しく撫でていく。そのたびに、メリーちゃんはくつろいだ声で「メェ……」と低く鳴き、尻尾をゆっくりと揺らしている。

少し離れたところではタフィーちゃんが「ぷるぷるん！」と跳ねながら、それを興味深そうに見ていた。タフィーちゃんも撫でてもらいたいのか、リディアの足元に寄ってきて甘い香りを漂わせる。

「タフィーちゃんも撫でてほしいの？ じゃあ、一緒にどうぞ！」
リディアは片手でメリーちゃんを、もう片手でタフィーちゃんを撫で始めた。タフィーちゃんの柔らかいチョコレートのような体がぷにぷにと揺れ、彼も満足げに「ぷるん！」と嬉しそうに反応している。

「ふふ、二人とも気持ちよさそうだね。こうしてのんびりするのもいいなあ。」
リディアはそんな二人（？）を愛おしく見つめながら、撫でる手を止めることなく、秘密基地の穏やかなひとときを楽しんでいた。

メリーちゃんは最後に「メェ！」と大きめの声を上げ、満足そうにその場に寝そべる。そんな姿を見たリディアも、自然と布団に横になり、秘密基地に流れる静かな時間を堪能するのだった。




青空の広がる街への道を、リディアたちはゆったりと歩いていた。ピンクのふわふわリュックの完成を想像して胸を躍らせるリディアの隣では、ほっそりとしたメリーちゃんが軽やかに歩き、タフィーちゃんは「ぷるぷるん！」と弾むような動きで地面を跳ねていた。

「楽しみだね、どんなリュックになってるかな？」
リディアはメリーちゃんを見下ろして微笑む。メリーちゃんは「メェ！」と元気よく鳴いて頷いた。

街への道を半分ほど進んだところで、ふいに前方から二つの大きな影が現れた。
「おや、リディアじゃないか。」
豪快な声とともに現れたのは熊騎士ハーゲン。その隣には、いつものようにきっちりとした姿勢を保つセリルの姿もあった。

「わあ！ ハーゲンさん、セリル！ お二人ともお休みですか？」
リディアが声をかけると、ハーゲンが大きく頷いた。

「そうだ。たまにはこうしてのんびりするのも悪くないからな。それより……おいリディア、メリーちゃんが随分とスリムになってないか？」
ハーゲンは目を丸くし、メリーちゃんをじっくり見つめている。

「ふふ、実はね、毛を刈ったんだよ。放牧地でね！」
リディアが嬉しそうに説明すると、セリルも興味深げにメリーちゃんを見下ろした。

「なるほど……確かに随分と印象が違いますね。なんだか涼しげで、身軽そうです。」
セリルが真面目に言葉を紡ぐ一方で、ハーゲンは大きな手で顎を撫でながらにやりと笑った。

「こりゃあ刈った毛で何か作ったのか？ リディアのことだから、どうせ可愛らしいもんでも作ってるんだろう。」
「さすがハーゲンさん、鋭い！ 今からそのリュックを受け取りに行くんです！」
リディアが得意げに答えると、ハーゲンは笑い声を上げ、セリルは小さく微笑んで頷いた。

「それは楽しみですね。完成したらぜひ見せてください。」
セリルのその言葉に、リディアは元気よく頷き、二人に別れを告げて雑貨屋へ向かった。

雑貨屋では、店主のおばあさんが笑顔でリディアを迎えた。
「おやおや、待ってたよ。リュックはもうばっちり仕上がってるからね、ほら。」
店主が取り出したのは、ピンクのふわふわしたリュック。肩紐には柔らかいパッドが付いており、丈夫そうな裏地が見える工夫がされている。大小のポケットもいくつか付いていて、可愛さと機能性を兼ね備えた見事な仕上がりだった。

「わあ、すごく可愛い！ 思ってた以上に素敵です！」
リディアは喜びに目を輝かせ、リュックを背負ってみた。その軽さと心地よさに感激し、メリーちゃんに向けて微笑む。

「メリーちゃんのおかげで、こんなに可愛いリュックができたよ！ ありがとうね！」
メリーちゃんは「メェ！」と満足げに鳴き、尻尾を揺らした。

リュックを手にしたリディアたちは、その足でアラニスの露店へ向かった。街の広場にあるカラフルな露店は、今日もたくさんの人で賑わっている。

「アラニス！ 見て見て、新しいリュックだよ！」
リディアが笑顔で声をかけると、アラニスはキャンディーを並べていた手を止めて振り向いた。

「まあ、なんて可愛いの！ ピンクのふわふわ……それって、まさかメリーちゃんの毛？」
アラニスは目を丸くしてリュックとメリーちゃんを交互に見た。その後、ほっそりしたメリーちゃんの姿にさらに驚き、声を漏らした。

「メリーちゃん、ずいぶんスリムになったのね！ 前とは別人みたい！」
「そうなの、毛を刈ったばかりだから！ でも、またすぐふわふわになるよね？」
リディアがメリーちゃんを見つめると、彼女は「メェ」と小さく頷いた。

「ふふ、リディアらしい素敵なアイデアね。これなら荷物もたくさん入るし、冒険にもぴったりね！」
アラニスが笑顔でリュックを褒めると、リディアは嬉しそうにポケットを開けたり閉めたりして、その便利さをアピールした。

こうして、リディアはピンクのふわふわリュックを手に、これからの冒険に向けた準備を整えた。スリムなメリーちゃんも満足そうで、リディアたちはまた新しい一歩を踏み出す準備を進めるのだった。