「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん

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クラウディオは、セシルの部屋の扉を軽く叩いた。

「兄様? どうしたの?」

部屋の中から聞こえる声に、彼は短く息を吐き、扉を開いた。

「話がある」

セシルはベッドに腰掛け、読んでいた本を閉じると、兄をじっと見つめた。

「……もしかして、リリエットのこと?」

その問いに、クラウディオは静かに頷いた。

「彼女の気持ちを取り戻すために、俺は何をすべきなのかを知りたい」

セシルは一瞬、呆れたような顔をしたが、すぐに皮肉げな笑みを浮かべた。

「ふぅん……ずいぶんと真剣そうね。でも、今さらそんなことを考えるなんて、兄様って本当に不器用というか、鈍感というか……救いようがないわね」

「分かっている」

「本当に?」

セシルは腕を組み、冷ややかな目で兄を見つめる。

「リリエットはね、兄様の美貌や剣術の腕前に惹かれたのもあるけど、それだけじゃないのよ」

「……?」

「彼女は、兄様の私に対する態度を見ていたの」

クラウディオは息を詰めた。

「セシルに……?」

「そう。兄様は昔から私には優しかったでしょう? それを見て、リリエットはきっと『兄様は本当は優しい人なんじゃないか』って思っていたのよ」

「……」

「だからこそ、期待し続けてしまったのよ。『いつか、私にもそんな風に接してくれるかもしれない』って」

セシルは大きくため息をついた。

「でも、兄様はそんな彼女をずっと突き放してきた。彼女がどれほど勇気を出してお茶会に誘っても、話しかけても、期待しても……全部無駄だった」

クラウディオは拳を握りしめた。

「俺は……」

「自業自得よ」

セシルははっきり言った。

「今さら、彼女が自分に興味を持ってくれないことに焦っているんでしょう? でも、それは兄様が自分で撒いた種なのよ」

クラウディオは何も言えず、ただ沈黙した。

しばらくすると、セシルはふと思い出したように微笑んだ。

「あ、それとね」

「……?」

「リリエットって、兄様が長髪だった時期があるでしょう? あの頃、彼女のテンションがすごく高かったのよ」

クラウディオは思わず眉をひそめた。

「長髪……?」

「ええ。学園に入る前、兄様が少し髪を伸ばしていた時期があったでしょう? あの頃、彼女はよく『すごく素敵です』とか『あなたの優美な雰囲気にお似合いです』とか言ってたわよ」

クラウディオは記憶を遡る。確かに、かつて彼は一時的に髪を伸ばしていた時期があった。

だが、それがリリエットの関心を引いていたとは知らなかった。

「……そんなこと、彼女は言っていたのか」

「ええ。でも、兄様はそのときもそっけなく流してたけどね」

クラウディオは言葉を失った。


「ま、せいぜい頑張ってね」

セシルはそう言って、本を開いた。

「どうせ今さら何をしても、簡単にリリエットの気持ちは戻らないと思うけど」

クラウディオは、その言葉を噛み締めながら、静かに部屋を後にした。
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