12 / 84
12
しおりを挟む
夜の静寂が部屋を包んでいた。
俺たちは床に寝袋を広げ、それぞれ横になったが、誰も完全には眠れていなかった。
「……こんな状況で寝られる気がしねえ」
安田がぼそりと呟く。
「寝られるうちに寝とけ。明日からどうなるか分からんぞ」
斉藤が目を閉じたまま返した。
高橋は無言で横になっているが、寝息は聞こえない。多分、目をつぶって休んでいるのだろう。
俺はベッドに腰掛け、スマホを手に取った。通知が一件。藤木からだった。
「ショッピングモールに着いた。結構人が集まってる」
「会社の同僚から連絡だ。ショッピングモール、思ったより人が多いらしい」
「そりゃそうだろうな。物資確保のためにみんな考えることは同じだ」
斉藤が腕を組む。
「混乱はしてないのか?」
「今のところは秩序が保たれてるみたいだ。でも、混雑してるってさ」
俺は続くメッセージを読み上げた。
「でかい施設だから安心だと思ってるやつが多いみたいだな。運営側が物資の配給ルールを決めたらしい」
「へえ、ちゃんと組織化されてるのか?」
安田が興味を示した。
「会社の先輩が仕切ってるらしい。藤木曰く、手際がいいってよ」
「先輩? どんなやつだ?」
「橘。仕事はできるけど、独善的なところがある」
「そういうタイプ、こういう場面じゃ頼りにされるよな」
安田が苦笑する。
「何も決まってないときに率先して動けるやつがいると、みんな従うもんだ」
「だろうな。でも、どうなるかは分からん」
橘がリーダーシップを発揮しているのは想像できる。ただ、あの性格がこの状況でどう転ぶのかは読めなかった。
俺は「無理はするなよ」とメッセージを送り、返ってきた「お前もな」という短い返答を見て、スマホを置いた。
そのとき、窓の外で遠く、何かが爆ぜるような音がした。
翌朝、目を覚ますと、部屋の空気がどこか重かった。
「おはよう」
寝袋の中から上半身を起こすと、ソファに座ってスマホをいじっていた斉藤が軽く手を挙げた。
「みんな、まだ寝てるのか?」
「安田はさっきまで掲示板をチェックしてたけど、今は寝てる。高橋は起きたけど、まだ横になってるな」
俺はベッドから降り、キッチンに向かい、ペットボトルの水を口に含んだ。冷たい水が喉を通る感覚がやけに鮮明だった。
「何か動きがあったか?」
「ニュースはほとんど変わらないが、SNSはかなり荒れてる。警察も消防も対応が追いつかなくなってるみたいだ」
斉藤がスマホを差し出してくる。画面には「都内各地で暴動発生」「一部地域で停電」「避難所で感染者発生」などの投稿が並んでいた。
「避難所、やっぱりやばいか……」
「予想通りだな。人が集まれば感染も広がる。管理できなくなったら崩壊するしかない」
「そうなると、ここに籠るのが正解か……?」
「今のところはな。でも、長期的にはどうだろうな」
斉藤の言葉に、俺は返事をしないままスマホを取り出した。藤木からのメッセージが来ていた。
「ショッピングモール、昨日より人が増えてる」
俺はすぐに返信を送る。
「そっちは大丈夫か?」
数分後、返事が来た。
「今のところ問題ない。橘が仕切ってて、まだ秩序は保たれてる」
「ただ、人が多すぎる。物資も限界があるし、いつまで持つか分からん」
「藤木のとこ、思ったより人が増えてるらしい」
俺がそう言うと、寝袋から顔を出した安田が反応した。
「もう収容オーバーってこと?」
「まだ統制は取れてるみたいだが、時間の問題だろうな」
「リーダーの橘ってやつ、今はうまくまとめてるんだろ?」
「そうらしい。でも、人数が増えれば話は別だ。物資が尽きてくれば、不満も出る」
「どうする気なんだ? このまま籠城するのか?」
「……それは分からん。でも、藤木は冷静なやつだ。おかしなことになれば、何かしら判断するだろう」
そのとき、新たなメッセージが届いた。
「とりあえず、今は持ちこたえてる。でも、明日以降どうなるかは分からん」
藤木も同じ不安を抱いているようだった。
俺はスマホを握りしめながら、橘がこの状況をどこまでコントロールできるのか、ふと考えた。
もし、ショッピングモールが崩壊すれば……藤木はどうする? 俺たちは?
部屋の窓の外には、静まり返った街が広がっていた。
その静けさが、嵐の前のように感じられた。
俺たちは床に寝袋を広げ、それぞれ横になったが、誰も完全には眠れていなかった。
「……こんな状況で寝られる気がしねえ」
安田がぼそりと呟く。
「寝られるうちに寝とけ。明日からどうなるか分からんぞ」
斉藤が目を閉じたまま返した。
高橋は無言で横になっているが、寝息は聞こえない。多分、目をつぶって休んでいるのだろう。
俺はベッドに腰掛け、スマホを手に取った。通知が一件。藤木からだった。
「ショッピングモールに着いた。結構人が集まってる」
「会社の同僚から連絡だ。ショッピングモール、思ったより人が多いらしい」
「そりゃそうだろうな。物資確保のためにみんな考えることは同じだ」
斉藤が腕を組む。
「混乱はしてないのか?」
「今のところは秩序が保たれてるみたいだ。でも、混雑してるってさ」
俺は続くメッセージを読み上げた。
「でかい施設だから安心だと思ってるやつが多いみたいだな。運営側が物資の配給ルールを決めたらしい」
「へえ、ちゃんと組織化されてるのか?」
安田が興味を示した。
「会社の先輩が仕切ってるらしい。藤木曰く、手際がいいってよ」
「先輩? どんなやつだ?」
「橘。仕事はできるけど、独善的なところがある」
「そういうタイプ、こういう場面じゃ頼りにされるよな」
安田が苦笑する。
「何も決まってないときに率先して動けるやつがいると、みんな従うもんだ」
「だろうな。でも、どうなるかは分からん」
橘がリーダーシップを発揮しているのは想像できる。ただ、あの性格がこの状況でどう転ぶのかは読めなかった。
俺は「無理はするなよ」とメッセージを送り、返ってきた「お前もな」という短い返答を見て、スマホを置いた。
そのとき、窓の外で遠く、何かが爆ぜるような音がした。
翌朝、目を覚ますと、部屋の空気がどこか重かった。
「おはよう」
寝袋の中から上半身を起こすと、ソファに座ってスマホをいじっていた斉藤が軽く手を挙げた。
「みんな、まだ寝てるのか?」
「安田はさっきまで掲示板をチェックしてたけど、今は寝てる。高橋は起きたけど、まだ横になってるな」
俺はベッドから降り、キッチンに向かい、ペットボトルの水を口に含んだ。冷たい水が喉を通る感覚がやけに鮮明だった。
「何か動きがあったか?」
「ニュースはほとんど変わらないが、SNSはかなり荒れてる。警察も消防も対応が追いつかなくなってるみたいだ」
斉藤がスマホを差し出してくる。画面には「都内各地で暴動発生」「一部地域で停電」「避難所で感染者発生」などの投稿が並んでいた。
「避難所、やっぱりやばいか……」
「予想通りだな。人が集まれば感染も広がる。管理できなくなったら崩壊するしかない」
「そうなると、ここに籠るのが正解か……?」
「今のところはな。でも、長期的にはどうだろうな」
斉藤の言葉に、俺は返事をしないままスマホを取り出した。藤木からのメッセージが来ていた。
「ショッピングモール、昨日より人が増えてる」
俺はすぐに返信を送る。
「そっちは大丈夫か?」
数分後、返事が来た。
「今のところ問題ない。橘が仕切ってて、まだ秩序は保たれてる」
「ただ、人が多すぎる。物資も限界があるし、いつまで持つか分からん」
「藤木のとこ、思ったより人が増えてるらしい」
俺がそう言うと、寝袋から顔を出した安田が反応した。
「もう収容オーバーってこと?」
「まだ統制は取れてるみたいだが、時間の問題だろうな」
「リーダーの橘ってやつ、今はうまくまとめてるんだろ?」
「そうらしい。でも、人数が増えれば話は別だ。物資が尽きてくれば、不満も出る」
「どうする気なんだ? このまま籠城するのか?」
「……それは分からん。でも、藤木は冷静なやつだ。おかしなことになれば、何かしら判断するだろう」
そのとき、新たなメッセージが届いた。
「とりあえず、今は持ちこたえてる。でも、明日以降どうなるかは分からん」
藤木も同じ不安を抱いているようだった。
俺はスマホを握りしめながら、橘がこの状況をどこまでコントロールできるのか、ふと考えた。
もし、ショッピングモールが崩壊すれば……藤木はどうする? 俺たちは?
部屋の窓の外には、静まり返った街が広がっていた。
その静けさが、嵐の前のように感じられた。
10
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる