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しらないところで
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体育祭や日下部様とのお出かけを経て、私は何かが少しずつ変わっていくのを感じていました。その日の放課後、紫藤様に誘われてお気に入りのカフェでお茶をすることに。彼女とはよく一緒にお話ししますが、今日は少し違う話題になりそうな予感がしていました。
「夢見様、最近なんだか楽しそうですわね。」
紅茶のカップを軽やかに持ち上げながら、紫藤様がにっこりと笑います。
「そ、そうですか?」
私は少し動揺しながら返事をしましたが、紫藤様の鋭い視線からは逃れられません。
「ええ、とてもわかりやすいですわ。……たとえば、日下部様とのお出かけの件とか?」
その言葉に、私は思わず紅茶を吹き出しそうになりました。
「ど、どうしてそれを……!」
「ふふ、そんな驚いた顔をしなくてもいいのよ。あなたが日下部様と水族館に行かれたこと、少し耳にしましたの。」
紫藤様は目を細めて楽しげに言いました。私の顔は一気に熱くなり、隠すように紅茶カップを持ち上げましたが、それすら彼女の目からは逃れられないようです。
「まさか、夢見様が日下部様とデートだなんて。いつからそんな仲になったのですか?」
「で、デートじゃありません!ただ、お誘いいただいただけで……。」
そう必死に否定すると、紫藤様は「まあ、そういうことにしておきますわ」と軽く肩をすくめましたが、その目は完全に私をからかっています。
「でも、夢見様。日下部様のような方が特別にお誘いするというのは、やはり何かお気持ちがあるのではなくて?」
「そ、そんな……ありえません……!」
私が小さく首を振ると、紫藤様は小さく笑いました。
「まあ、それが本当でも、あなたにぴったりの素敵な王子様であることには変わりませんわね。お二人が一緒にいるところ、きっととても絵になると思いますわ。」
「も、もう、紫藤様ったら……。」
照れくささでうつむく私を見て、紫藤様は楽しげに笑い続けます。その笑顔があまりにも眩しくて、つい一緒になって笑ってしまいました。
カフェを出た後、私は紫藤様と別れ、一人で考え込みました。彼女が言っていたように、日下部様が私を誘ってくださったことには、何か特別な意味があったのでしょうか――。
考えれば考えるほど、胸が温かくなる一方で、彼の真意を知るのが怖いような気もします。でも、紫藤様との楽しい会話が私の背中をそっと押してくれた気がしました。
「またお会いできたら、そのときは……。」
そう小さく呟きながら、私は少しだけ早足で帰路につきました。
勇気を出そう――そう決めた私は、まずは花束を用意しました。
花屋さんで選んだのは、日下部様の爽やかさを思わせる白や青を基調としたブーケ。リンドウや白いバラに、清々しい香りを添えるユーカリを少し混ぜてもらい、上品で落ち着いた雰囲気に仕上げてもらいました。
けれど――。
「これだけでは、なんだか物足りない気がする……。」
手にした花束を眺めながら、私はそう呟きました。日下部様に思いを告げるには、この花束だけでは足りない。彼のような特別な方には、もっと何か――私の気持ちを込められるものが必要だと思えて仕方なかったのです。
何か、自分らしく、心を伝えられるもの。
考え込んだ私は、ふと自分の部屋の棚に目を留めました。そこには、これまでこっそり収集してきた日下部様の写真や思い出の品々――そして、自分が日下部様を想って書き溜めてきた小さなメモ帳がありました。
「そうだ……手紙を書こう。」
花束とともに、手書きの手紙を添える。それなら、きっと私の気持ちがもっと伝わるはず――そう思い立つと、すぐに机に向かい、ペンを握りました。
何度も書いては消し、書いてはやり直しを繰り返しました。どんな言葉が適切なのか、どのように気持ちを伝えるべきなのか。悩みながらも、日下部様への思いが少しずつ形になっていきます。
「日下部様、いつもご活躍されるお姿に元気をいただいています。」
「こんな私でも、少しでもお力になれているのなら幸せです。」
「これからも、どうかそばにいさせてください――。」
書き終えた手紙を、上品な封筒に入れて花束にそっと添えました。大切な思いがぎゅっと詰まった手紙と花束を前に、私は深呼吸を繰り返します。
「これで大丈夫。きっと、伝わるはず……。」
震える心を抑えながら、私は思い切って花束と手紙を携え、日下部様のもとへ向かうことを決めました。これは、私にとって最初の大きな一歩です――。
「夢見様、最近なんだか楽しそうですわね。」
紅茶のカップを軽やかに持ち上げながら、紫藤様がにっこりと笑います。
「そ、そうですか?」
私は少し動揺しながら返事をしましたが、紫藤様の鋭い視線からは逃れられません。
「ええ、とてもわかりやすいですわ。……たとえば、日下部様とのお出かけの件とか?」
その言葉に、私は思わず紅茶を吹き出しそうになりました。
「ど、どうしてそれを……!」
「ふふ、そんな驚いた顔をしなくてもいいのよ。あなたが日下部様と水族館に行かれたこと、少し耳にしましたの。」
紫藤様は目を細めて楽しげに言いました。私の顔は一気に熱くなり、隠すように紅茶カップを持ち上げましたが、それすら彼女の目からは逃れられないようです。
「まさか、夢見様が日下部様とデートだなんて。いつからそんな仲になったのですか?」
「で、デートじゃありません!ただ、お誘いいただいただけで……。」
そう必死に否定すると、紫藤様は「まあ、そういうことにしておきますわ」と軽く肩をすくめましたが、その目は完全に私をからかっています。
「でも、夢見様。日下部様のような方が特別にお誘いするというのは、やはり何かお気持ちがあるのではなくて?」
「そ、そんな……ありえません……!」
私が小さく首を振ると、紫藤様は小さく笑いました。
「まあ、それが本当でも、あなたにぴったりの素敵な王子様であることには変わりませんわね。お二人が一緒にいるところ、きっととても絵になると思いますわ。」
「も、もう、紫藤様ったら……。」
照れくささでうつむく私を見て、紫藤様は楽しげに笑い続けます。その笑顔があまりにも眩しくて、つい一緒になって笑ってしまいました。
カフェを出た後、私は紫藤様と別れ、一人で考え込みました。彼女が言っていたように、日下部様が私を誘ってくださったことには、何か特別な意味があったのでしょうか――。
考えれば考えるほど、胸が温かくなる一方で、彼の真意を知るのが怖いような気もします。でも、紫藤様との楽しい会話が私の背中をそっと押してくれた気がしました。
「またお会いできたら、そのときは……。」
そう小さく呟きながら、私は少しだけ早足で帰路につきました。
勇気を出そう――そう決めた私は、まずは花束を用意しました。
花屋さんで選んだのは、日下部様の爽やかさを思わせる白や青を基調としたブーケ。リンドウや白いバラに、清々しい香りを添えるユーカリを少し混ぜてもらい、上品で落ち着いた雰囲気に仕上げてもらいました。
けれど――。
「これだけでは、なんだか物足りない気がする……。」
手にした花束を眺めながら、私はそう呟きました。日下部様に思いを告げるには、この花束だけでは足りない。彼のような特別な方には、もっと何か――私の気持ちを込められるものが必要だと思えて仕方なかったのです。
何か、自分らしく、心を伝えられるもの。
考え込んだ私は、ふと自分の部屋の棚に目を留めました。そこには、これまでこっそり収集してきた日下部様の写真や思い出の品々――そして、自分が日下部様を想って書き溜めてきた小さなメモ帳がありました。
「そうだ……手紙を書こう。」
花束とともに、手書きの手紙を添える。それなら、きっと私の気持ちがもっと伝わるはず――そう思い立つと、すぐに机に向かい、ペンを握りました。
何度も書いては消し、書いてはやり直しを繰り返しました。どんな言葉が適切なのか、どのように気持ちを伝えるべきなのか。悩みながらも、日下部様への思いが少しずつ形になっていきます。
「日下部様、いつもご活躍されるお姿に元気をいただいています。」
「こんな私でも、少しでもお力になれているのなら幸せです。」
「これからも、どうかそばにいさせてください――。」
書き終えた手紙を、上品な封筒に入れて花束にそっと添えました。大切な思いがぎゅっと詰まった手紙と花束を前に、私は深呼吸を繰り返します。
「これで大丈夫。きっと、伝わるはず……。」
震える心を抑えながら、私は思い切って花束と手紙を携え、日下部様のもとへ向かうことを決めました。これは、私にとって最初の大きな一歩です――。
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