ラブ・ジェンダー

なつのかぜ

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アオイ

二度目に君に会ったのは、その一週
間後のことだった。


あれから僕は君のことが気になって
マンションの下を何度も通った。

駅やコンビニへ行く時、僕はよく
この道を通る。

仕事の行き帰り、僕はマンション
の下を通っては、君の部屋を見上
げた。でも、君に出くわすことは
なかった。

夜遅く通っても、君の部屋に灯り
はついていなかった。

僕は君のことが心配だった。


◇◇


次の休日、あの日と同じ時間帯に
僕は君のマンションの前を通って
みた。

日付が変わった日曜日、深夜一時
過ぎ頃だった。

街道を横切って右に曲がると君の
マンションが見えて来た。


近づくと、二階の部屋に一室だけ
灯りがついている。

ベランダに人影が見えた。

君は両腕を手すりにあずけ、その
上に顔を乗せ、物憂げに通りを見
てたね。

君が生きているのを確認できただけで
僕は満足だった。

僕は何事もなかったように、そのまま
マンションの前を通り過ぎようとした。

すると君が、上から声をかけて来た
んだ。


「あのう…この間はありがとうござ
いました」

僕は驚いて顔を上げた。

君は恥ずかしそうに僕を見て、おず
おずと頭を下げている。

「僕のこと、覚えてくれてたの?」

「…あっ、はい、何となく。この人
かなあって…エヘッ」

君は照れた様に笑ったね。

「元気で良かった…君、この間は
酔っ払ってたね。もうあんなこと
したらダメだよ」

「はい…。お恥ずかしいところを
お見せして、どうもすみませんで
した…アハッ」

君は顔を赤くして恥ずかしそうに
笑った。

「大丈夫だよ…綺麗だから許す。
じゃあ、また!」

僕は手を振って、その場を立ち去
ろうとした。

でも君はこう言って、僕を呼び止
めたね。

「あっ、あの…ちょっと待って下さい。
Tシャツをお返ししないと! 私、今
そっちに行きます!」

君は慌てて部屋の中に引っ込んだ。


◇◇


しばらくすると、君は息を切らして
僕の前まで駆けて来た。

「お待たせして、ごめんなさい」

君は肩で息をしながら笑ってたね。
手には赤いチェック柄の紙袋を持っ
てた。

「これ、ありがとうございました」

僕は紙袋を受け取り、一応中身を
確認してみた。

たしかに、僕の黒いTシャツだ。
丁寧にアイロンまでかけてある。

「アイロンとか、かけなくて良かっ
たのに…」

と僕は呟いた。

「でもお…エヘヘッ」

君は肩をすくめて笑った。


君はブルーのサマーシャツに白い
デニムパンツ、スポーツサンダル
を履いていた。

ピッチリしたデニムパンツなので
ヒップラインがはっきり分かる。

僕はあの晩に見た君の美尻を思い
出した。

「あの…買い物ですか? 私もご一緒
して良いですか?」

君が聞いた。

断る理由なんてなかった。
僕は笑って頷いた。


◇◇


僕達はコンビニで缶ビールやツマミ
を買って、深夜の公園で飲みながら
話をしたね。

君の名はアオイ。今年の春二十二歳
になった。

僕の名はトオル。この夏で三十二歳
になったばかりの会社員だと、僕は
自己紹介した。

あの晩のことを聞くと、君はこう
答えたね。


「私あの日、実は死のうと思ったん
です。一人でお酒飲んでたら、何か
悲しくなって来て…私、ダンサーな
んですけど、最近は仕事も不安定に
なって来て、彼氏には振られるし。
…彼とは、三年間付き合ったんです。
でも、彼は妻帯者だった。
私は捨てられたの。だから、自分の
女みたいなこの体も何もかも全てが
嫌になってしまって…」

「でも二階から飛び降りて死ねる
と思ったの?」

「ええ、頭から上手く地面にぶつかれ
ば死ねるんじゃないかって…エヘッ」

君は話し終わると、可愛い声で
笑う癖があった。

「だけど何で裸で飛び降りたの?」

「私、この女みたいな体のせいで
子供の頃から苦労してて、イジメ
とか…色々あったんです。恋愛と
かも普通に出来ないし。だから、
どうせ死ぬなら、最後にこの体を
世間に晒したかったんです」

「…」

「でも、トオルさんが助けてくれて。
私凄く感謝してます。さっきトオル
さんが私のこと綺麗だって言って下
さって、とても嬉しかった…エヘッ」

「いやあ、僕は別に何もしてないけ
どね。君を路上から部屋まで運んだ
だけだし…まさか僕を目がけて飛び
降りたとかじゃないよね?」

「それはないですよー。私あの時、
ベランダの手すりの上に立ってた
ら怖くなって来て、目を閉じて飛
び降りたんです…キャハッ」

「それで、たまたま通りかかった
僕の上に君が落ちて来た訳か…
やっと、謎が解けた」

「…ごめんなさい。怪我とかなかっ
たですか?」

「うん、大丈夫だった。僕石頭だか
らさ。少しムチ打ちみたいにはなっ
たけど、もう治った」


僕等は明け方まで公園で話してたね。


◇◇


話していると、君は普通の女の子と
全く変わらなかった。

LGBTで言うならレズでもゲイでも
バイでもなく、トランスジェンダー
女子だと君は言ったね。

女性の性同一性を持ってるけど、
生まれた時、医者から男性に割り
当てられた人のことだと、君は教
えてくれた。

でも、性同一性障害とは少し違うし
ニューハーフでもない。

君は体は男だけど、心は女なんだね。

君は男には性的魅力を感じるけれど、
女には性的魅力を感じない。だけど、
完全な女になりたいという願望はない。

だから、ホルモン治療も受けないし
手術も望まない。ありのままの自分
でいたいと言ってたね。

僕は君を知ることで世の中の多様性
というものに改めて気づかされた。

それと同時に、君を一人の女性とし
て見てあげなければいけないと僕は
強く思った。


◇◇


その日は、朝方まで公園で話して、
僕等は君のマンションの前で別れ
たね。

君は部屋で休んでいくように勧めて
くれたけど、僕は断った。

「また今度、シラフの時に会おう」

君は少し寂しそうな顔をした。

「じゃあ…私、トオルさんに時々
ラインしても良いですか?」

「ああ、構わないよ。僕も時々君
にラインするからさ。今度また、
必ず会おう」

君は安心した様に微笑んだ。

僕等はスマホを取り出して、その場で
直ぐにアドレス交換したね。
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