FREEDOM〜自由の世界へ〜

第十六章 暗殺計画

１

透き通るように蒼い海の前。
 海岸の岩に腰を掛け、ミクはすっと目を瞑り、笛に口を付けます。

その音は、まるで遥か彼方、水平線の奥の鮮やかなオレンジ色に吸い込まれるように、響きます。
 綺麗に、純粋に…この世の汚れなど、何一つ知らないかのように……

「チッ！」

ミクは、笛から口を離しました。

 「こんなに汚れてしまった私からも…笛の音だけは……
忌々しいくらいに透き通って出てくるのね」

ミクは両手を交差させ、腕を掴みます。
 体は小刻みに震えていました。

あの記憶……
悪魔のような笑みを浮かべたルゼルが、実体の何倍もの恐怖に増幅し、ミクを蝕み続けます。

それは、カイルと再会したことでまたミクの脳内に鮮やかに浮かび上がっていたのでした。

ミク以外の被害を受けた女子生徒は、恐怖のあまり誰にも相談することはできませんでした。
しかし、ミクは……幸か不幸か、ミュリスとの関係によって、『大人から悪戯をされる』ことに抵抗のあったミクだけは、カイルに打ち明けることができたのでした。



 「あれー、ミク。寒いの？ それとも、始める前からビビってる？」

カイルが冷めきった目で尋ねると、ミクはすっと目を瞑り、首を横に振りました。

 「いいえ。ちょっと……素敵な思い出を思い出しただけよ」

そして、ミクは……すがるようにカイルを見上げました。

 「カイル……私…本当に、あなただけが頼りなの。お願い。お願いだから…上手くやって」

 「何だよ、ミク。不安がるなんて、らしくないな」

カイルがニヤッと笑うと、ミクはまた、すっと目を瞑りました。


 「そうね。らしくなかったわね、カイル」


そして、目を開け、いつも通りの自信に満ち溢れた美しい瞳で見つめました。

 「今は……ハーレンストの家には、領主のミルトン・ハーレンストはいない。
その間に、家に侵入して、リク……リク・ハーレンストを束縛して。
それが無理なら…リクを殺して！」

 「おぅ、任せとけ！」

カイルは血の通わない冷酷な瞳で、自信満々に答えたのでした。