人形師の第三夫人は傍観者

久守 龍司

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 私は今までそれほど大きな声を出したことがありません。必要に迫られなかったというならそれまでですが、元々の性格上目立ちなくないというのがありました。
 そんな私が突然声を張り上げたのですから、辺りはしんと静まり返ります。私は声量を下げてもう一度口を開きました。

「ですから、公爵家に対する数々の無体についてのお話を聞かせていただきたいのです」
 静かになったと思えば、今度はざわめきが広がっていきます。

「数年前に根絶された筈の再生教に、公爵家が最近集中的に被害を受けていることは周知のとおりだが」
 私ばかりに喋らせていてはいけないと殿下も冷静さを取り戻して答えました。

「私も存じておりますとも。再生教の奴らの行いには心を痛めて──」
「トラレス侯爵、君も相当に関与しているだろう?」
 トラレス侯爵は同調しますが、遮るように殿下は厳しく追及を続けました。
 あまりにも直球な言い方に、私すらたじろぎます。伯爵といい、この国の王侯貴族は随分と直接的な言い方をなさるようで……。いえ、幻滅したという訳ではないのですが。

「公爵邸を襲撃した者は『トラレス侯爵の手の者だ』と白状した。その他諸々の証拠もあり…………実のところ、既にお前達の拘束許可は出ている。無駄な足掻きだったな」
 殿下はトラレス侯爵に話しかけているというより、周囲の貴族達に状況を説明しているかのように話します。貴族達のどよめきは更に広がりました。

 道化を演じさせられていたと知ったトラレス侯爵とアイリーンさんは、顔を真っ赤にしながら殿下の沙汰を聞いています。トラレス侯爵は助けを求めるかのように国王陛下の方を振り返って何か言おうとしましたが、その前に衛兵が来て取り押さえられ、どこかへ連れて行かれました。アイリーンさんも同じように連れて行かれました。

「これはお見苦しいところを。舞踏会の興を削いでしまったようで」
 殿下は国王陛下に白々しくあるほどの謝罪を述べて、宴の再開を促すように会場の貴族達に笑みを浮かべました。貴族達は取り繕った笑顔で返し、何でもないかのように振る舞い始めます。
 

 トラレス侯爵に喋るだけ喋らせて、結局退出させた後も挨拶は続いていました。冷や汗をかいていたり、やや顔色が悪いのではないかと感じたりする貴族も多く、それはそうだろうと同情してしまいます。私の声で顔色を悪くしている人も中にはいるのでしょうけど…………。
 私達四人の夫人を罪人扱いした伯爵とも、お互いなるべく目を合わせないようにして挨拶をしました。

 今度こそ、これにて一件落着といったところでしょうか。
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