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23.

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 儀礼なので仕方のないことですが、ハプニングを挟んだ長い長い挨拶の時間が終わりました。
 舞踏会というだけあって、もちろんメインはダンス。楽団が音楽の演奏を始めると、それが実質的な舞踏会の始まりの合図です……と聞いています。

 殿下には踊れないことを事前に伝えていますから心配はいりませんが、他の方と踊る予定はありません。婚約早々不義密通の噂を立てられてはたまりませんから。かといって殿下を縛るのも申し訳ないので、一度踊ったら壁の花に徹しようと考えています。

 流れる音楽に合わせて殿下のリードに必死でついていきます。先程のこともあってか、視線を強く感じて緊張しているのですが、今のところはまだ平気です。
 よし、大丈夫。練習通りに踊れているみたいです。ドレスの下は踏ん張っていてあまり優雅とは言い難いことはひとまず置いておくとして。

 一曲がやっと終わるかという頃、ふとした拍子に針金で膨らんだドレスが隣で踊る婦人のそれと当たり、体が大きく揺れました。

 そのまま転んでしまうかと思って反射的に目を瞑りましたが、想定していた衝撃はありませんでした。これはもしや。

「大丈夫か? 女人は大変だろう」
 やっぱり殿下が支えて下さっていました。なんだか既視感があると思えば、屋根から落ちかけた時です。いざという時には頼りになりますね。

「ありがとうございます。私は平気です……少しバランスを崩しただけですから」
「そうか。無理は禁物だから、貴女が辛くなったら退出することにしよう」
 あれ、もう二曲目に差しかかっているというのに殿下と踊ったままです。よろしいのですかと問うと、何のことだかわからないといった顔をされました。

「他のご婦人と踊られなくてもよろしいのですか?」
「貴女以外と? そんなことはしないとも」
 改めて訊ねましたが、私とだけ踊ってくださるようです。そう言われると嬉しいものです。
 二曲目、三曲目と踊った私は随分と疲れ、殿下も察知したようで屋敷に早めに戻ることになりました。
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