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43.

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 王太后様。
 言わずと知れた、国王陛下と王弟殿下の母君です。私にとっては姑にあたる方……なのですが、私がこの国に来た頃には既に表舞台から退かれていました。

「力を借りると言っても、どうやって? 王太后様が公の場に姿を現さなくなってもうかなり経っていたと思うのだけれど……」
「王太后様は、工芸品がお好きだと聞くわ」
 ……なるほど。そういうことですか。確かに有用かもしれませんが、人形が工芸品にあたるのかは不安です。自分の実力も充分かどうかわからないというのに。

「不安そうな顔ね。実は公爵家と王太后様は半年に一度、顔を合わせることになっているのよ。王太后様はうちの家門の出だから。近いうちにあるから、その時に一緒に来たらいいわ」
 公爵家の集まりに部外者の私が参加してよいものでしょうか……。あと、イザベラさんから頼めばよいのでは。
 微妙に不貞腐れていると、イザベラさんが励ますように言いました。

「頼もうとしているのは貴女じゃない。だいいち、私では言葉の持つ力が弱いわよ」
 一介の公爵令嬢に過ぎないイザベラさんより、王弟妃である私の方が言葉の効力が強いことはわかります。

「それじゃあ、次には私も参加させてもらおうかな」
「承ったわ」
 そうは言ってもやはり、本当にこれでよいのかという懸念はあります。

 日程はエリーザベト嬢の晩餐会の少し後、ですか。それまでに人形製作の腕を磨いておかなければ。工房の作業着手は間に合うか間に合わないか……まだ作り置きがあった筈ですから、練習も兼ねていくつか作っておきますか。

「テオドラの作品は凄いと思っているのよ。気付いていないようだけれど、作者不明の逸品として出回っているわ」
 ええ。私の作品にそんな価値がつけられているのですか。オーダーメイドなので量は出回らないと思うのですけど……。

「だからきっと、王太后様の耳にも入っているはず。安心して。自分をもっと、評価しなさいな」
「そこまで褒められると、こそばゆい気も……」
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