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帝国から亡命してきた皇子と皇女の一行が王都に到着したのは、真夜中のことでした。普段はとうに寝静まった時刻。息を切らせた伝令が馬とともに駆け付けた時、階下のざわめきにぱっと目が覚めました。慌ててメイドを起こして簡易的な支度をし、旦那様のもとへ向かいます。
「テオドラ……! 眠っていても構わないのに」
「もう何度頼んだのかわかりませんが、今回もお願いをしに参りました。ヨハネスとアンナがやって来たのですよね?」
「その通りだ。貴女の頼みを断る理由なんてない。馬車で宮殿へ向かおう」
日中は速馬車を走らせることは憚られるのですが、夜中であることをいいことに御者は存分に鞭を振るいます。
ヨハネスが連れてきた配下の多数は宮殿に隣接する森林で野営をしているようでした。かなり急いでいた文面から、ごく少数の側近だけでやって来ているものだとばかり思い込んでいました。実際の人数は思っていたよりもずっと多く、それも兵士がほとんどで行軍にも等しいほどでした。
この人数を王様がいらっしゃる宮殿の近くに留めておいてよいのかと不安になると、旦那様が「武装は全てこちら側が預かっているから、心配はいらない」と私を落ち着かせてくださいました。
明かりを灯した宮殿の間で、弟と妹が待っていました。王太子殿下はまだ動きがないらしく、誰よりも早く行動を起こすと仰った旦那様の言葉は間違いではなかったようです。
「……ご迷惑をお掛けました……」
久しぶりに見るヨハネスの表情は暗く、長い旅路のためでしょうか、以前より随分とやつれて見えました。
「ゆっくり休んでください……と声を掛けることはできませんが。今は体を休め、気を落ち着かせた方がよいでしょう。何事もそれからです」
「暖かいお言葉、感謝致します…………王弟妃殿下」
姉弟ではなく、同盟国の王族同士として。ヨハネスとアンナを助けたいと思っています。私にできることは少なく、賭けに乗ることしかできない立場ではありますが、それでも。
「お兄様? ここが新しいお城なのね? お父様はどこに行ってしまったのかしら」
末の妹で、まだ幼いアンナは自らが置かれた境遇を理解しておらず、無邪気に見知らぬ土地にはしゃいでいます。顔も覚えていないような姉の私にもかわいらしく礼をして、眠いだろうというに元気でした。お父様は……余力があれば助ける、といったところでしょう。皇族の命でも、国に比べれば軽いのが現実ですから。
「ヨハネス皇子。これだけの兵を連れてくるとは聞いていなかったが……いや、咎めはしない。意思の確認をするだけだ。現在の帝国の傀儡政権を打ち破り、国家の安定のために戦うというのなら、同盟関係に基づいた軍事支援を行おう。その意思がなくとも、不自由な暮らしはさせないと約束する」
「戦います。正しい支配者の下、帝国をあるべき形へと戻すために尽力します」
祖国を捨てて亡命先で一生を送るか、敗れれば死あるのみな戦争に身を投じるか選択肢を目の前に出され、ヨハネスは間髪いれずに戦いの道を選び取ります。
殿下もその返答に満足したのか笑みを浮かべます。賭けに負ければ失脚間違いなしの作戦に乗り、二人は握手を交わしました。
「テオドラ……! 眠っていても構わないのに」
「もう何度頼んだのかわかりませんが、今回もお願いをしに参りました。ヨハネスとアンナがやって来たのですよね?」
「その通りだ。貴女の頼みを断る理由なんてない。馬車で宮殿へ向かおう」
日中は速馬車を走らせることは憚られるのですが、夜中であることをいいことに御者は存分に鞭を振るいます。
ヨハネスが連れてきた配下の多数は宮殿に隣接する森林で野営をしているようでした。かなり急いでいた文面から、ごく少数の側近だけでやって来ているものだとばかり思い込んでいました。実際の人数は思っていたよりもずっと多く、それも兵士がほとんどで行軍にも等しいほどでした。
この人数を王様がいらっしゃる宮殿の近くに留めておいてよいのかと不安になると、旦那様が「武装は全てこちら側が預かっているから、心配はいらない」と私を落ち着かせてくださいました。
明かりを灯した宮殿の間で、弟と妹が待っていました。王太子殿下はまだ動きがないらしく、誰よりも早く行動を起こすと仰った旦那様の言葉は間違いではなかったようです。
「……ご迷惑をお掛けました……」
久しぶりに見るヨハネスの表情は暗く、長い旅路のためでしょうか、以前より随分とやつれて見えました。
「ゆっくり休んでください……と声を掛けることはできませんが。今は体を休め、気を落ち着かせた方がよいでしょう。何事もそれからです」
「暖かいお言葉、感謝致します…………王弟妃殿下」
姉弟ではなく、同盟国の王族同士として。ヨハネスとアンナを助けたいと思っています。私にできることは少なく、賭けに乗ることしかできない立場ではありますが、それでも。
「お兄様? ここが新しいお城なのね? お父様はどこに行ってしまったのかしら」
末の妹で、まだ幼いアンナは自らが置かれた境遇を理解しておらず、無邪気に見知らぬ土地にはしゃいでいます。顔も覚えていないような姉の私にもかわいらしく礼をして、眠いだろうというに元気でした。お父様は……余力があれば助ける、といったところでしょう。皇族の命でも、国に比べれば軽いのが現実ですから。
「ヨハネス皇子。これだけの兵を連れてくるとは聞いていなかったが……いや、咎めはしない。意思の確認をするだけだ。現在の帝国の傀儡政権を打ち破り、国家の安定のために戦うというのなら、同盟関係に基づいた軍事支援を行おう。その意思がなくとも、不自由な暮らしはさせないと約束する」
「戦います。正しい支配者の下、帝国をあるべき形へと戻すために尽力します」
祖国を捨てて亡命先で一生を送るか、敗れれば死あるのみな戦争に身を投じるか選択肢を目の前に出され、ヨハネスは間髪いれずに戦いの道を選び取ります。
殿下もその返答に満足したのか笑みを浮かべます。賭けに負ければ失脚間違いなしの作戦に乗り、二人は握手を交わしました。
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