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小松涼葉の場合
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「ちょっと!もう少しそっちによってよ?」
「はあ!?なんで私があんたのいうことを聞かなきゃいけないのよ!!」
「私が、涼葉だからよ!」
「涼葉は、私だっていってるでしょう!!」
「もう、またそれ!?」
「それはこっちの台詞!」
「このわからずや!」
「なんですって!意地っ張り!」
「「くううううう!!!」」
同じ声で……同じ姿で……同じ顔で。
私達は今日も口喧嘩をしている。
同じ小松涼葉(コマツ・スズハ)だっていうのに……。
自分同士で、咎めあったって、それは自分のことを言っているのと同じだって知っているのに。
でも、止められない、やめられないよ。
だって、そうしないと……私の中の気持ちが、どうにかなってしまいそうだから。
同じ自分相手に……こんな気持ち間違ってるよね、涼葉?
「私」は『私』と恋をする。
episode 5 小松涼葉
「私のほうが、パン小っちゃい」
「気のせいでしょ?だいたい、あんたいちいち細かいのよ!」
「はあ!?自分の失敗を棚に上げて、そういうことをいうわけ!?」
「失敗!?失敗なんかしてないわよ!パンくらい半分にできるわよ!」
「できてないからいってるんじゃない!この不器用女!」
「五月蠅いのよ!この理屈女!!」
朝食の時からこんな感じ。
朝一緒のベッドで一緒の毛布にくるまりながら、眠りについて……。
朝起きて喧嘩して、一緒に朝食の用意をして、こうしてまた喧嘩。
「「ふん!!」」
我ながら、よく飽きないなって思ったりなんかして……。
私が二人になったのは……この学校の寮生活が始まってすぐのこと。
高校一年生になって……クラスに馴染めない私は、友達もいなくて、こうして真っ直ぐ寮に帰ってやることもなく、ただ眠るだけの生活だった。
でも、それが、つい3か月ほど前に……私達は分裂をしたわけだ。
同じ黒髪ロング、身長もそんな高くなくて……胸も含めてなにかと地味な私。
そんな自分自身が目の前に現れて、私達は驚いて最初は声も出なかった。
でも、驚いていたのは最初だけ。
話し相手には、この私はもってこいだ。
「あー!これ私のお気に入りの下着じゃん!なんであんたが勝手にはいてるわけ!?」
「私のお気に入りだからに決まってるでしょう!!」
「違うわよ!!私のお気に入りだって!!」
「あーもう!!好みから何から何まで同じね!」
「え~そりゃーそうでしょうよ、同じ涼葉みたいですから」
「あーそうだったわね、同じ涼葉だもんね」
こうして……私達は一緒の寮の生活を過ごす。
登校の直前まで。
「ほら、さっさといきなさいよ」
「私が行っている間、大人しくしてなさいよね」
「それはこっちの台詞。しっかりと授業受けて、変なことしでかさないでよね!」
「あんたじゃあるまいし、そんなことしないわよ!」
「あんたにだけは言われたくないわ!」
「……」
「……」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
登校する私がドアノブを掴み、後髪引かれる想いを断ち切って、外にと出て行く。
残された私もまた、彼女が行ってしまう背中を眺めながら、伸びようとする腕をもう片方の腕で抑えつけながら耐える。
家に残った私と登校する私が……一つのドアを境にして断ち切られる。
「はあ……はあ……」
登校する私は、壁にもたれながら大きく息を吐く。
胸に痛みを覚えてしまって、私はその胸元を手で抑えながら……。
「ったく、私ってば……何やってるのよ」
それは今此処にいる自分自身に対する言葉。
「はあ……もう、嫌になる。自分が!」
家の玄関の壁にもたれる、残された私。
私達は弱い。
いつもはあんなに喧嘩ばかりをしている私たちなのに……お互いがいなくなると、何もできなくなる、何も言えなくなる。
学校までの登校道を歩きながら、私は一人で足を進める。
家のソファーに座りながら、膝を抱えて、瞳を閉じる。
思い出すのはいつだって……もう一人の私のこと。
それ以外のことなんて考えられなかった。
違うか……考えたくなかったんだ。
だって、こんなにも私達は、私達のこと……。
いつからかなんてわからない。
どうしてかなんてわからない。
ただ……。
一緒に、ベッドの上で目を覚まして
一緒に、ご飯を食べて
一緒に、話をして
一緒に、お風呂に入って
一緒に、眠って
そんなことをしていたら……。
私は、私のことしか考えられなくなっていた。
別に可愛くないし、魅力的なんかところ一つだってないのに。
隣にいたくて……離れたくなくて……。
はあ……。
なんでよ、どうしてなの……。
私、別にナルシストなんかじゃないんだよ。
今までだって好きな先輩とか同級生とかだっていたんだよ?
どうしてよりにもよって私なのかな……こんな何にもない私なんか、私……。
「「好きになっちゃうのかな」」
私は、教室の窓から……
私は、寮の部屋の窓から……
同じ私……を思い浮かべていた。
「ただいま」
帰ってきた声に、私は気持ちが高鳴るのを感じながら、玄関にと走っていく。
バカみたい……まるで彼氏が帰ってきたかのように浮かれちゃってさ。
本当にバカみたいだよ、私。
「おかえり!!」
「……しっかり留守番できてた?」
「誰に向かって言ってるのよ!しっかりやれるに決まってるでしょ?」
「そう、それならよかった。明日から暫く私が学校行くからさ。しっかりやってもらわないと困るのよね」
「はあ!?なにそれ!?」
「仕方がないでしょ……今日から英語のテスト範囲なんだから、ふたりで共有している暇はないってこと」
「そんなのいつもやってることじゃない。どうして、いきなり」
「今回の範囲は難しいんだって、別にあんたには迷惑かけないんだからいいでしょうが」
「……本当に?」
「は?」
「本当に……そうなんだよね?」
「……なーにいってんのさ。それ以外なにがあるっていうのよ」
「……」
「……」
「そう、ならいいけどさ」
「ったく、普段は勉強をしたくもない奴が、急にそんなことを言うもんだからびっくりした」
「その台詞、そっくりそのままお返しするって―の!」
靴をはきかえて、私の隣を通り過ぎていく私。
残された私は、私の背中を見つめる。
嘘……つくな。
同じ私なんだよ?身も心も、何もかも……同じだって、私だって知ってるじゃん。
交互に学校に行こうって……そういったじゃん私達。
それを崩すようなこと……私だったらしない。
あんたのためにも……絶対に。
だから……あんたは何かを隠している。
同じ私同士で……やめてよ。
お願いだから……涼葉。
自分同士で……嘘とかごまかしとか……やめてよ。
涼葉……。
「行ってくるね」
「……はい、お弁当」
「ありがと」
「これないと、またあんたお腹空いてぎゃーぎゃー喚きそうだからさ」
「あはは……そうかもしんないかな?」
「……」
「それじゃあ……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
扉が閉められた。
私は、うつむきながら、彼女が出て行った扉を眺めていた。
なにあれ?
なんで、言い返してこないのさ。
言い返してよ……なに、簡単に認めてるわけ。
『これないと、またあんたお腹空いてぎゃーぎゃー喚きそうだからさ』
『はあ!?それは、あんたのほうでしょうが!』
普通だったら……こうじゃん。
いつものあんただったら……そうでしょう。
「……」
翌日も……。
その翌日も……。
私は、いつもの私じゃなかった。
いつもの涼葉じゃなかった。
私の知っている、あいつじゃなかった。
私じゃなかった。
「……ねえ、涼葉?」
ベッドの上。
私は一緒に眠ろうとするあいつに声をかける。
「なに?」
「……あんたさ、私になにかあったらどうする?」
「なにか?なにかってなによ」
「何かって何かだよ……例えば、私が傷つけられるようなことがあったら」
「……」
「……あんただったらどうする?」
「……そんなのわからないよ。なってみなきゃ」
「私は……」
「……」
「私だったらさ……あんたを守るかな」
「……」
「……あんたを守る。自分がどうなっても構わないから……」
「なに……言っちゃってるのさ。いつも、あんなに言い合ってるのに。こんなところでかっこつけても……」
「嘘じゃない!」
私の強い言葉に、もう一人の私が、私を見つめる。
「嘘……じゃない」
「……」
「私……あんたがいなきゃ、もうダメだから」
「……私」
「いつもの、あんたがいなきゃさ……私、ホントダメだから……」
同じ……私だから。
同じ……小松涼葉だから。
同じ私達は、どっちが欠けても弱くなってしまって。
「……いってきます」
「いってらっしゃい……」
言えるわけがない。
言えるはずがない。
言えない。
学校の登下校の道を私は、歩きながら見えてくる学校を見つめながら、私は小さくため息をついた。
あんたに、なんて言えるわけないじゃない……。
昇降口にとやってきた私。
そこにある下駄箱をあけると、そこには、蟲の死骸が入っていた。
私は短い悲鳴の中で、後ずさり、反対側の下駄箱にともたれかかる。
そんな私の行動を見てか、周りから笑い声が聞こえてくる。
誰かなんてわからない……理由なんてわからない。
でも、それは起きてしまっている。
全員が敵で……誰も信用できなくて。
「……」
教室に入っても、私の席には、ゴミ箱が置かれていた。
私は、ゴミ箱をどかして、席にと座る。
私は……別にかまわない。どれだけイジメられても、どれだけ辛いことがあっても……私は受け止めることができる。
だって……家に帰れば、そこには彼女がいるから。
あいつがいてくれて、あいつと話すことができれば、どんなに辛いことがあっても、幸せだったから。
だから、こんな苦しい思いを、あいつになんかさせたくない。
させるものか……絶対に。
「……」
女子トイレでは、水が個室の中にとかけられた。
ずぶ濡れになった私。
タオルで体を拭きながら、身体が震えるのを感じた。
大丈夫……大丈夫だ。
これは全部、私の……あいつの……涼葉のため。
あいつがもし、こんな目に合うなんて思ったら、それこそ、私はきっと気が狂ってしまうだろう。
はあ……私、ホントにもう……涼葉のこと。
私は教室にと足を進める。
「……っざけんな!!」
私は、そこで教室から声を聞いた。
大きな声で叫ぶ声。
私は、廊下を走って、教室の扉を開ける。
「よくもよくも……私に向かって!涼葉に向かって!!許さない!許さない!!」
そこにいたのは……涼葉だった。
制服を着て、私と全く同じ姿で、あいつはイスを振り回して暴れていた。
叫びながらイスを投げつけて、クラスメイトが悲鳴を上げる中、誰彼かまわず、彼女は暴れ狂っていた。
バレちゃってたか……仕方がないか。
同じ私同士だもんね……いつもと同じようにふるまっているつもりだったけど。
気づかれちゃうか……。
「もういい涼葉!!もういいから!!」
「離せ!離せっ!!こいつら、あんたに!涼葉に酷いことして……」
私は、教室に入って暴れる涼葉を後ろから押さえつける。
涼葉の背中を抱きしめて、両手を抑えながら、私はその身を涼葉にと押し付ける。
それでも、涼葉は止まらない。
涙を流しながら、叫んで……。
「……はあ」
気が付けば、私は河川敷にいた。
私は草木の中で大の字になりながら倒れていた。
教室を見たとき、私の涼葉が苦痛に歪んでいる顔を見て、教室で机が落書きをされていて……それを見たら、もう自分を抑えることができなかった。自分のことだったらこんなに怒ったりしない。こんなに叫んだりしない。だけど、それは自分であって自分ではない、もう一人の私。だから……止められなかった。止めることができなかった。許せなかった……涼葉を苦しめる奴を、傷つける奴を許せなかった。だから、もう後のことなんか考えられなくて、もう自分のことなんか考えられなくて……。
「少しは落ち着いた?」
隣から聞こえる声に、私は視線を向ける。
そこにいたのは、私の姿。
「なにやってるのよ、あんたは……。あんたが学校で暴れたおかげで、私まで教室に出ちゃって、私2人の姿がみんなに見られてさ。もう……これで学校いけないよ。きっと寮にもいられない……、だから、私独りで、耐えてきたのにさ」
「……なんで?なんで言ってくれないの?あんたがこんなことだったら、私が……」
「そうなるから!!」
大きな声で私は私に言う。
「こんなこと話したら……あんたも、私みたいにするに決まってる。だって……同じ私なんだもん。同じ小松涼葉なんだもん。同じことをするに決まってる。だから、言えなかった。あんたに同じ苦しみを与えるなんてできないよ……そんなこと、させれるはずないじゃん」
「私だって!あんたがこんな辛い思いをしてるなんて、見ていられないよ!!苦しんで、傷ついてるのに黙ってるなんて、知らないふりなんかできるはずないじゃん!!」
「だから、私は黙って……」
「そんなのすぐに気付いた!同じ私なんだから、あんたの異変なんてすぐに気が付くに決まってる……だからさ。嘘とかつかないでよ」
「……」
「自分に嘘つかれるのって……滅茶苦茶辛いんだから」
「……あんたを同じ目に合わせたくなかった」
「あんたのためなら……どんなつらいことだって……平気」
「バカ……それじゃあ、私が辛いんだって。傷つくあんたを私は見たくないんだよ」
「なら、どうすればいいのさ……」
私は、再び草むらの中に身を沈める。
「お互いにお互いを守りたくて、自分が犠牲になればいいと思っちゃって……同じこと考えてさ」
「しょうがないでしょ……同じ私だから」
「そうだよね……同じ、涼葉だもんね」
「あーあ、学校どうするのさ」
「……ごめん」
「そこは、そうだそうだ!あんたのせいで滅茶苦茶じゃん!!って言い返すところでしょ?」
「……私、あんたが……」
「嬉しかった」
「え?」
「……まさか、助けに来てくれるなんてさ。嬉しかった」
「当たり前じゃん……あんたのためなんだから」
「……はあ。これからどうしよっか」
「そうだね……もう寮にも帰れないだろうし」
「……でも、もうこれですっきりしたかな」
「すっきり?」
「……うん。お互いさ……もう交互に学校行くのも辛いなって思ってたところでしょ?」
「同じ人間だと、思っていることも一緒ってことなの?なんだか頭の中見られてような変な気分」
「お互い様でしょ」
「そうだけど」
「……ねえ、涼葉?」
私達は、お互いの方にと顔を向けた。
「好き」
私が私の言葉を遮るように告げる。
「ちょっと!今、私が言おうと思ったのに……」
「早い者勝ち。言ったでしょ?頭の中見られているのは、お互い様だって……」
「ったく、可愛くない奴」
「同じ小松涼葉だからね」
私達はそういって口喧嘩を楽しみながら、お互い笑みを浮かべる。
「だいたい、あんだけお互いのために、お互いのためになんて言ってたらイヤでもわかるっていうの」
「……そうだよね。でもさ……私は、今回のことがなくても、あんたのこと好きだったよ」
「同じく……」
「理由なんてわからない」
「……この好きだって……家族愛なのか、姉妹愛なのか、恋愛なのか、まだよくわからない」
「そうかな……試して、みる?」
「……うん」
私達はそっとお互いと距離を近づけながら、同じ顔を見つめ合う。
そのまま、私達はそっち唇を重ね合わせた。
心臓がバクバクなって、緊張と不安が混ざり合って
それでも、目の前の彼女とずっとこうしていたいと思えて
身体が火照って……
本当は答えなんて最初から出ていたのかもしれない。
ただ確認をしたかっただけで。
もしかしたら、口づけをしたかっただけなのかも。
本当に我ながら素直になれないんだなって。
そう思えるよ。
ゆっくりと唇を離す私達。
私達はお互いを見つめ合いながら、微笑み合う。
「「わかった」」
「この気持ちは……」
「……この想いは」
「私」は『私』と恋をする。
「はあ!?なんで私があんたのいうことを聞かなきゃいけないのよ!!」
「私が、涼葉だからよ!」
「涼葉は、私だっていってるでしょう!!」
「もう、またそれ!?」
「それはこっちの台詞!」
「このわからずや!」
「なんですって!意地っ張り!」
「「くううううう!!!」」
同じ声で……同じ姿で……同じ顔で。
私達は今日も口喧嘩をしている。
同じ小松涼葉(コマツ・スズハ)だっていうのに……。
自分同士で、咎めあったって、それは自分のことを言っているのと同じだって知っているのに。
でも、止められない、やめられないよ。
だって、そうしないと……私の中の気持ちが、どうにかなってしまいそうだから。
同じ自分相手に……こんな気持ち間違ってるよね、涼葉?
「私」は『私』と恋をする。
episode 5 小松涼葉
「私のほうが、パン小っちゃい」
「気のせいでしょ?だいたい、あんたいちいち細かいのよ!」
「はあ!?自分の失敗を棚に上げて、そういうことをいうわけ!?」
「失敗!?失敗なんかしてないわよ!パンくらい半分にできるわよ!」
「できてないからいってるんじゃない!この不器用女!」
「五月蠅いのよ!この理屈女!!」
朝食の時からこんな感じ。
朝一緒のベッドで一緒の毛布にくるまりながら、眠りについて……。
朝起きて喧嘩して、一緒に朝食の用意をして、こうしてまた喧嘩。
「「ふん!!」」
我ながら、よく飽きないなって思ったりなんかして……。
私が二人になったのは……この学校の寮生活が始まってすぐのこと。
高校一年生になって……クラスに馴染めない私は、友達もいなくて、こうして真っ直ぐ寮に帰ってやることもなく、ただ眠るだけの生活だった。
でも、それが、つい3か月ほど前に……私達は分裂をしたわけだ。
同じ黒髪ロング、身長もそんな高くなくて……胸も含めてなにかと地味な私。
そんな自分自身が目の前に現れて、私達は驚いて最初は声も出なかった。
でも、驚いていたのは最初だけ。
話し相手には、この私はもってこいだ。
「あー!これ私のお気に入りの下着じゃん!なんであんたが勝手にはいてるわけ!?」
「私のお気に入りだからに決まってるでしょう!!」
「違うわよ!!私のお気に入りだって!!」
「あーもう!!好みから何から何まで同じね!」
「え~そりゃーそうでしょうよ、同じ涼葉みたいですから」
「あーそうだったわね、同じ涼葉だもんね」
こうして……私達は一緒の寮の生活を過ごす。
登校の直前まで。
「ほら、さっさといきなさいよ」
「私が行っている間、大人しくしてなさいよね」
「それはこっちの台詞。しっかりと授業受けて、変なことしでかさないでよね!」
「あんたじゃあるまいし、そんなことしないわよ!」
「あんたにだけは言われたくないわ!」
「……」
「……」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
登校する私がドアノブを掴み、後髪引かれる想いを断ち切って、外にと出て行く。
残された私もまた、彼女が行ってしまう背中を眺めながら、伸びようとする腕をもう片方の腕で抑えつけながら耐える。
家に残った私と登校する私が……一つのドアを境にして断ち切られる。
「はあ……はあ……」
登校する私は、壁にもたれながら大きく息を吐く。
胸に痛みを覚えてしまって、私はその胸元を手で抑えながら……。
「ったく、私ってば……何やってるのよ」
それは今此処にいる自分自身に対する言葉。
「はあ……もう、嫌になる。自分が!」
家の玄関の壁にもたれる、残された私。
私達は弱い。
いつもはあんなに喧嘩ばかりをしている私たちなのに……お互いがいなくなると、何もできなくなる、何も言えなくなる。
学校までの登校道を歩きながら、私は一人で足を進める。
家のソファーに座りながら、膝を抱えて、瞳を閉じる。
思い出すのはいつだって……もう一人の私のこと。
それ以外のことなんて考えられなかった。
違うか……考えたくなかったんだ。
だって、こんなにも私達は、私達のこと……。
いつからかなんてわからない。
どうしてかなんてわからない。
ただ……。
一緒に、ベッドの上で目を覚まして
一緒に、ご飯を食べて
一緒に、話をして
一緒に、お風呂に入って
一緒に、眠って
そんなことをしていたら……。
私は、私のことしか考えられなくなっていた。
別に可愛くないし、魅力的なんかところ一つだってないのに。
隣にいたくて……離れたくなくて……。
はあ……。
なんでよ、どうしてなの……。
私、別にナルシストなんかじゃないんだよ。
今までだって好きな先輩とか同級生とかだっていたんだよ?
どうしてよりにもよって私なのかな……こんな何にもない私なんか、私……。
「「好きになっちゃうのかな」」
私は、教室の窓から……
私は、寮の部屋の窓から……
同じ私……を思い浮かべていた。
「ただいま」
帰ってきた声に、私は気持ちが高鳴るのを感じながら、玄関にと走っていく。
バカみたい……まるで彼氏が帰ってきたかのように浮かれちゃってさ。
本当にバカみたいだよ、私。
「おかえり!!」
「……しっかり留守番できてた?」
「誰に向かって言ってるのよ!しっかりやれるに決まってるでしょ?」
「そう、それならよかった。明日から暫く私が学校行くからさ。しっかりやってもらわないと困るのよね」
「はあ!?なにそれ!?」
「仕方がないでしょ……今日から英語のテスト範囲なんだから、ふたりで共有している暇はないってこと」
「そんなのいつもやってることじゃない。どうして、いきなり」
「今回の範囲は難しいんだって、別にあんたには迷惑かけないんだからいいでしょうが」
「……本当に?」
「は?」
「本当に……そうなんだよね?」
「……なーにいってんのさ。それ以外なにがあるっていうのよ」
「……」
「……」
「そう、ならいいけどさ」
「ったく、普段は勉強をしたくもない奴が、急にそんなことを言うもんだからびっくりした」
「その台詞、そっくりそのままお返しするって―の!」
靴をはきかえて、私の隣を通り過ぎていく私。
残された私は、私の背中を見つめる。
嘘……つくな。
同じ私なんだよ?身も心も、何もかも……同じだって、私だって知ってるじゃん。
交互に学校に行こうって……そういったじゃん私達。
それを崩すようなこと……私だったらしない。
あんたのためにも……絶対に。
だから……あんたは何かを隠している。
同じ私同士で……やめてよ。
お願いだから……涼葉。
自分同士で……嘘とかごまかしとか……やめてよ。
涼葉……。
「行ってくるね」
「……はい、お弁当」
「ありがと」
「これないと、またあんたお腹空いてぎゃーぎゃー喚きそうだからさ」
「あはは……そうかもしんないかな?」
「……」
「それじゃあ……行ってきます」
「行ってらっしゃい」
扉が閉められた。
私は、うつむきながら、彼女が出て行った扉を眺めていた。
なにあれ?
なんで、言い返してこないのさ。
言い返してよ……なに、簡単に認めてるわけ。
『これないと、またあんたお腹空いてぎゃーぎゃー喚きそうだからさ』
『はあ!?それは、あんたのほうでしょうが!』
普通だったら……こうじゃん。
いつものあんただったら……そうでしょう。
「……」
翌日も……。
その翌日も……。
私は、いつもの私じゃなかった。
いつもの涼葉じゃなかった。
私の知っている、あいつじゃなかった。
私じゃなかった。
「……ねえ、涼葉?」
ベッドの上。
私は一緒に眠ろうとするあいつに声をかける。
「なに?」
「……あんたさ、私になにかあったらどうする?」
「なにか?なにかってなによ」
「何かって何かだよ……例えば、私が傷つけられるようなことがあったら」
「……」
「……あんただったらどうする?」
「……そんなのわからないよ。なってみなきゃ」
「私は……」
「……」
「私だったらさ……あんたを守るかな」
「……」
「……あんたを守る。自分がどうなっても構わないから……」
「なに……言っちゃってるのさ。いつも、あんなに言い合ってるのに。こんなところでかっこつけても……」
「嘘じゃない!」
私の強い言葉に、もう一人の私が、私を見つめる。
「嘘……じゃない」
「……」
「私……あんたがいなきゃ、もうダメだから」
「……私」
「いつもの、あんたがいなきゃさ……私、ホントダメだから……」
同じ……私だから。
同じ……小松涼葉だから。
同じ私達は、どっちが欠けても弱くなってしまって。
「……いってきます」
「いってらっしゃい……」
言えるわけがない。
言えるはずがない。
言えない。
学校の登下校の道を私は、歩きながら見えてくる学校を見つめながら、私は小さくため息をついた。
あんたに、なんて言えるわけないじゃない……。
昇降口にとやってきた私。
そこにある下駄箱をあけると、そこには、蟲の死骸が入っていた。
私は短い悲鳴の中で、後ずさり、反対側の下駄箱にともたれかかる。
そんな私の行動を見てか、周りから笑い声が聞こえてくる。
誰かなんてわからない……理由なんてわからない。
でも、それは起きてしまっている。
全員が敵で……誰も信用できなくて。
「……」
教室に入っても、私の席には、ゴミ箱が置かれていた。
私は、ゴミ箱をどかして、席にと座る。
私は……別にかまわない。どれだけイジメられても、どれだけ辛いことがあっても……私は受け止めることができる。
だって……家に帰れば、そこには彼女がいるから。
あいつがいてくれて、あいつと話すことができれば、どんなに辛いことがあっても、幸せだったから。
だから、こんな苦しい思いを、あいつになんかさせたくない。
させるものか……絶対に。
「……」
女子トイレでは、水が個室の中にとかけられた。
ずぶ濡れになった私。
タオルで体を拭きながら、身体が震えるのを感じた。
大丈夫……大丈夫だ。
これは全部、私の……あいつの……涼葉のため。
あいつがもし、こんな目に合うなんて思ったら、それこそ、私はきっと気が狂ってしまうだろう。
はあ……私、ホントにもう……涼葉のこと。
私は教室にと足を進める。
「……っざけんな!!」
私は、そこで教室から声を聞いた。
大きな声で叫ぶ声。
私は、廊下を走って、教室の扉を開ける。
「よくもよくも……私に向かって!涼葉に向かって!!許さない!許さない!!」
そこにいたのは……涼葉だった。
制服を着て、私と全く同じ姿で、あいつはイスを振り回して暴れていた。
叫びながらイスを投げつけて、クラスメイトが悲鳴を上げる中、誰彼かまわず、彼女は暴れ狂っていた。
バレちゃってたか……仕方がないか。
同じ私同士だもんね……いつもと同じようにふるまっているつもりだったけど。
気づかれちゃうか……。
「もういい涼葉!!もういいから!!」
「離せ!離せっ!!こいつら、あんたに!涼葉に酷いことして……」
私は、教室に入って暴れる涼葉を後ろから押さえつける。
涼葉の背中を抱きしめて、両手を抑えながら、私はその身を涼葉にと押し付ける。
それでも、涼葉は止まらない。
涙を流しながら、叫んで……。
「……はあ」
気が付けば、私は河川敷にいた。
私は草木の中で大の字になりながら倒れていた。
教室を見たとき、私の涼葉が苦痛に歪んでいる顔を見て、教室で机が落書きをされていて……それを見たら、もう自分を抑えることができなかった。自分のことだったらこんなに怒ったりしない。こんなに叫んだりしない。だけど、それは自分であって自分ではない、もう一人の私。だから……止められなかった。止めることができなかった。許せなかった……涼葉を苦しめる奴を、傷つける奴を許せなかった。だから、もう後のことなんか考えられなくて、もう自分のことなんか考えられなくて……。
「少しは落ち着いた?」
隣から聞こえる声に、私は視線を向ける。
そこにいたのは、私の姿。
「なにやってるのよ、あんたは……。あんたが学校で暴れたおかげで、私まで教室に出ちゃって、私2人の姿がみんなに見られてさ。もう……これで学校いけないよ。きっと寮にもいられない……、だから、私独りで、耐えてきたのにさ」
「……なんで?なんで言ってくれないの?あんたがこんなことだったら、私が……」
「そうなるから!!」
大きな声で私は私に言う。
「こんなこと話したら……あんたも、私みたいにするに決まってる。だって……同じ私なんだもん。同じ小松涼葉なんだもん。同じことをするに決まってる。だから、言えなかった。あんたに同じ苦しみを与えるなんてできないよ……そんなこと、させれるはずないじゃん」
「私だって!あんたがこんな辛い思いをしてるなんて、見ていられないよ!!苦しんで、傷ついてるのに黙ってるなんて、知らないふりなんかできるはずないじゃん!!」
「だから、私は黙って……」
「そんなのすぐに気付いた!同じ私なんだから、あんたの異変なんてすぐに気が付くに決まってる……だからさ。嘘とかつかないでよ」
「……」
「自分に嘘つかれるのって……滅茶苦茶辛いんだから」
「……あんたを同じ目に合わせたくなかった」
「あんたのためなら……どんなつらいことだって……平気」
「バカ……それじゃあ、私が辛いんだって。傷つくあんたを私は見たくないんだよ」
「なら、どうすればいいのさ……」
私は、再び草むらの中に身を沈める。
「お互いにお互いを守りたくて、自分が犠牲になればいいと思っちゃって……同じこと考えてさ」
「しょうがないでしょ……同じ私だから」
「そうだよね……同じ、涼葉だもんね」
「あーあ、学校どうするのさ」
「……ごめん」
「そこは、そうだそうだ!あんたのせいで滅茶苦茶じゃん!!って言い返すところでしょ?」
「……私、あんたが……」
「嬉しかった」
「え?」
「……まさか、助けに来てくれるなんてさ。嬉しかった」
「当たり前じゃん……あんたのためなんだから」
「……はあ。これからどうしよっか」
「そうだね……もう寮にも帰れないだろうし」
「……でも、もうこれですっきりしたかな」
「すっきり?」
「……うん。お互いさ……もう交互に学校行くのも辛いなって思ってたところでしょ?」
「同じ人間だと、思っていることも一緒ってことなの?なんだか頭の中見られてような変な気分」
「お互い様でしょ」
「そうだけど」
「……ねえ、涼葉?」
私達は、お互いの方にと顔を向けた。
「好き」
私が私の言葉を遮るように告げる。
「ちょっと!今、私が言おうと思ったのに……」
「早い者勝ち。言ったでしょ?頭の中見られているのは、お互い様だって……」
「ったく、可愛くない奴」
「同じ小松涼葉だからね」
私達はそういって口喧嘩を楽しみながら、お互い笑みを浮かべる。
「だいたい、あんだけお互いのために、お互いのためになんて言ってたらイヤでもわかるっていうの」
「……そうだよね。でもさ……私は、今回のことがなくても、あんたのこと好きだったよ」
「同じく……」
「理由なんてわからない」
「……この好きだって……家族愛なのか、姉妹愛なのか、恋愛なのか、まだよくわからない」
「そうかな……試して、みる?」
「……うん」
私達はそっとお互いと距離を近づけながら、同じ顔を見つめ合う。
そのまま、私達はそっち唇を重ね合わせた。
心臓がバクバクなって、緊張と不安が混ざり合って
それでも、目の前の彼女とずっとこうしていたいと思えて
身体が火照って……
本当は答えなんて最初から出ていたのかもしれない。
ただ確認をしたかっただけで。
もしかしたら、口づけをしたかっただけなのかも。
本当に我ながら素直になれないんだなって。
そう思えるよ。
ゆっくりと唇を離す私達。
私達はお互いを見つめ合いながら、微笑み合う。
「「わかった」」
「この気持ちは……」
「……この想いは」
「私」は『私』と恋をする。
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