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宗像詩織の場合
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周りから聞こえてくるのは、人の声。
瞼をあけると、そこで見えるのは、人々の足……歩きながら、走りながら進んでいく。
私は、何をしているのだろうか。
身体を起こそうとするが、痛みで体が言うことを効かない。
どうして、こんなことになっているのか……。
私は、ふと思い出す。
昨夜、私は元いた仲間たちの襲撃を受けたんだった。
私は……ここら辺を取り仕切るグループのトップにいた。
それが、叛逆された結果、私はケツを振って逃げながらこの駅前ロータリーで気を失ったんだっけ。
情けねぇーな……。
でも、どうしてこんなに温かいんだろう。
まだ、外で寝るには寒いんだけど、なにか……包まれているような。
それに、おかしい……こんなところで倒れているんだったら、幾ら鈍感で、無情な市民と言えど気にしてくれてもいいとは思うんだけれど。
私は、そこで自分のお腹あたりに手が回されていることに気が付いた。
私は、その腕を追いかけるようにして視線を追う。
すると、そこには誰かがいた。
濃い紫色の髪の毛をさせた、眉毛にかかるほどのストレートの前髪と、同じストレートの耳にかかるほどの髪。
その顔は、整っていて宝塚の男役なんかにいそうな顔立ちをしている。
あれ?こいつって……私、いつもみている奴なんじゃ、誰だっけ。
目の前の彼女もまた、私を細く目を開けて見つめている。
「「わ……たし?」」
「私」は『私』と恋をする。
episode 6 宗像詩織
「お大事にしてください」
病院から外にと出た私達。
私は、病院から外に出てすぐ、タバコに火をつけようとする。すると隣の私がライターを差し出した。
「はい」
「あ、悪い」
私は、それを受け取り、自分の煙草に火をつける。
私達はタバコを吸いながら、大きく息を吐いた。
満たされる感覚……そこで、私達は改めて隣を見る。
「「ふぅ~~~……」」
「「……で、なんで、私が二人いるんだ??」」
全く同じ怪我をしている場所にシップやら、絆創膏を貼っている同じ姿の私達。互いを見ると、私達は目の前に鏡があるんじゃないかと思ってしまう。絵も鏡と違うのは、左右反転ではないし、彼女には触れることもできる、そしてぬくもりもある。そんな奴が、突然、目の前にと現れたわけだ。あまりにも突然で、あまりにも普通に、あまりにも現実味がなくて……私達は、互いに言い合うこともできずにいた。Q生き別れの双子?A私は一人娘だ。Q私の偽物?A映画の見過ぎだ。Q私のクローン?A映画の(以下略)いくら考えても、こいつが、なんなのかなんてわからない。いや、そうなると答えは出てきてしまう。こいつは、私だ。それが意外にほかに答えなんか出てこなかった。私は、突然、普通に、もう1人現れてしまったわけだ。まあ、こんだけいっているけれど、私だってこいつと同じな訳だから、私達は二人になってしまったという方がしっくりくるだろう。
「はあ……ま、偽物本物議論なんて野暮なことはするつもりねーけど」
「どうせなら、もっと増えてくれればいいのにな、そのほうがいろいろと助かるんだけど」
「言うのは簡単だけどなぁ~、私が何人も目の前にいるっていうのはあんまりいい気持ちはしねーけど」
「言っていることはわかるけど、こんな傷だらけにならずにはすむんじゃね?」
「うーん、それもあるか……」
そんな話をしながら、二人はふらつきながら自分たちの家にと向かう。
ボロいアパートの一室が私の部屋。
グループ内でいるときなんてほとんど帰ってこなかったその場所を二人は少し遠くから見つめる。
壁際に隠れながら……
「……見たところ、誰かが待ち伏せしているような気配はねぇーな」
「私達が帰ってきたところを拉致って……なんて思ってたんだけど」
二人は、暫くの間監視をして、やはりは誰もいないことを確認すると、自分たちのボロアパートにと戻っていく。二人は隣同士に立ちながら、自分の部屋の前にと立つ。二人は隣にいるお互いを見つめながら、頷き合う。鍵を開けようとした二人だったが、ドアは開いている。二人は息を呑みながら、部屋の中にとはいった。薄暗いその部屋の中は、荒らされた形跡があり、部屋にあった家具は全て壊されており、壁もぼろぼろに傷つけられていた。私達は、大きく息を吐きながら、部屋の中にと入り、周りを見渡す。ワンルームのその部屋は、もうただの廃墟と言っても過言でもなかった。私達は、そんなボロボロの部屋を見つめながら、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「荷物、持ったら出て行こう」
「……いつ、奴らが戻ってくるかもわからねーからな」
荷物なんて、私達にはほとんどなかった。
金なんてほとんど持っていない私達。
なけなしの通帳にあった僅かな残金を手にしながら、私達は行く宛のない道を歩いている。帰る場所なんかどこにもない私。家族は早くに死んでしまって親せきにと育てられた。そこでもあまりいい想いはしていなかった。中学卒業後、追い出されるように、家を出て、金だけもらって寮生活を強いられることになる。地元中学は、暴力的な場所で、すぐに乱闘生活が始まった。気が付けば、街を取りしきれるほどのグループのトップにとなっていた。それでも、自分の居場所なんかわからないで、ただ流されるがままに、私は生きてきた。そして……私は裏切られた。今はもう、いや元々か、私には何もない。何にもないんだ……。だから、別に、今更どうなったって構わないのかもしれない。
「家にも帰れず、こりゃー完全にホームレスだな」
「まったくだよ……ったく、これからどうするんだよ」
「私に聞くな」
「あんたに聞かなきゃ誰に聞けっていうんだよ」
私達はお互いを見つめ合う。
「……久しぶりにどっかで遊ぼうか?」
「目立つと、バレちまうぞ」
「真昼間からしかけてこねぇーだろうよ」
「ただ遊びたいだけなんじゃねぇーのか?」
「否定はいない」
「ま、私もあんたと同じ気分だし……遊ぼう?」
「さすが、私……理解が早くて助かるよ」
私達は普通の年齢で行けば高校生。
まだまだ遊びたい盛りの子供だ。私達は、少ないお金を使いながら、一緒にアイスを買う。お金がないから一個しか変えずに、一つのアイスを、二人の私で食べ合う。舌を伸ばして、冷たいソフトクリームを舐めながら、舌を触れ合わせ、舐めあう。私達は肩同士を触れ合わせながら一緒に並んで食べて……
「ちゅぱ、れろぉ……んっ」
「れろぉ、あむぅ……んっ」
「……ん、ん」
「ふぅ……ん」
気が付けば、私達はお互いをただジーっと眺めていた。
アイスを食べ終えれば一緒になってゲームセンターで、格闘ゲームをやってみたりして……。
「おい!さっきから同じ技仕掛けてくるなよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
「さっきから技が入らねーだろうが!」
「あー!!まだドローじゃん!!」
ゲームセンターでこんなことばかりやっていて……。
一番騒いでいる私達。
ただの子供遊び。
今までだってやってこなかったわけじゃない。
なのに……どうしてだろう、こんな滅茶苦茶楽しいのは。
どうして、こんなに……楽しくて、嬉しくて……
ずっとこうしていたいなって思えるんだろう。
私達は、いつのまにか、どこかの公園にと足を踏み入れていた。近くでは、幼稚園だろうか、小さな子供が笑いながらそんでいる。そんな様子を眺めている母親の姿が、あった。私には遠い夢の中の光景のようだ。私達は、ベンチにと座る。
「疲れたな」
「ああ」
「……」
「……」
「今日、駅でぶっ倒れている時さ……すげぇ、気持ち良く寝れてたんだよ」
「寝てたっていうか意識失ってただけだろう?」
「いいから聞けって……。そんときさ、久しぶりに、気持ち良く寝れたんだ。なんか……すごく安心できた」
「……はっきり言えよ」
そういうと、隣の私が、私の身体を包み込む。力強く……でも優しく、もう一人の私が、私の身体を包み込んだ。私の身体の中が熱くなるのを感じた。私は隣を見る。そこにいたもう一人の私が顔を近づけて、私を見つめる。同じ顔の私達が、互いを見つめ合う。瞳の中にと映りこんだ私と、私を映し出す瞳を持っている私は、全く同じ顔をしている。私達はお互いを見つめいながら、その頬を染めていた。
「こうしたいって……」
「それは、あんたもでしょ?」
そういうと私も同じように彼女の身体を包み込む。
目の前の彼女の身体を自分の身体にと引き寄せた。それだけで、私達の身体重なり合い、同じ体同士だからだろうか、ただ抱きしめているだけで、とても気持ちよくて……安心できて。私達は、その場で目を閉じる。
「「……こうしていたい」」
「「ずっと」」
今まで感じたことのない安心感。
それが私達を包み込む。もうその前には何も考えられなくなっていて。
まるでクスリだ……一度味合わってしまえば二度と抜け出すことのできないもの。
「……ん、ん」
「あ……ふぅ」
目を開ける私達。
私達は、目の前の柔らかいものをしっかりと包み、包まれていた。お互いベンチの上に寝転がりながら、しっかりと互いを抱きしめ合って眠っていたようだ。私達が目を開けたときには、その場所は既に日が落ち暗闇にと包まれていた。私達は、互いを抱きしめ合っていたまま眠っていたことに気が付いて、互いを見つめる。私達は、お互いを見つめ、思わず笑ってしまう。まるで子供だ。こんなことをして……いや、子どもなんかじゃないか。まるで恋人?こんな外で?そんなことを考えてしまって思わず笑ってしまった。私は、起き上がると、服を整えながら立ち上がる。ベンチに座っているもう一人の私にと手を伸ばした。もう一人の私は、私を見上げながら、一瞬の静寂ののち……その手を掴み、立ち上がる。
「「……お腹空いた」」
「金あるの?」
「ないことはないけど」
財布を二人で覗き込みながら、その少ない硬貨を見て私達はため息をついた。
「やっぱり、私が増えるとその分食費も倍かかるな」
「それは仕方がないだろ?」
「私が食べれば、あんたもお腹いっぱいになったりしないのかよ?」
「そんな都合よくできるか!」
私達はそんなことを呟き合いながら、夜の道路の道を歩いている。
私達の隣ではライトを光らせた車が走りながら、私達の身体を照らしていく。その中で私達の視界にと入り込んだのは、複数人の影。私達は、それが、グループの奴らだとすぐに気が付いた。私達は、無意識に隣の私の手を握って走っていく。私達は、いつの間にか……あの温もりに、隣にいるもう一人の私の温もりが欲しくてたまらなくなっていたのかもしれない。だから……この手を離したくなかったのかもしれない。私達が、逃げ場所として選んだのは、すぐ近くにあった私の母校。中学時代に通っていた場所だ。私達は助走をつけて勢いよく飛び上がり、学校の門をよじ登り超えていく。校庭を走りながら、後ろを振り返れば、複数台の車が止まり、私達の後を追いかけてきていたグループの奴らが、学校の門をよじ登っていく姿がそこにはあった。その数は、数えきれないほどで、学校から外にと出ることはもうできない。
「……急ぐぞ」
もう一人の私の声に、私は答える代わりに彼女の手を強くつかんだ。
校舎への扉は施錠されていたけど、割って入った。校舎の中は薄暗く、とても静かだった。本来であれば幽霊とかそんなものを怖がらなくてはいけないのかもしれないけれど、今の私達にはそんな余裕はない。幽霊よりも生きている人間の方が怖いといったところだ。私達は、校舎の階段を上っていく。あまり足音を立てれば気が付かれてしまうから、音をなるべくたてないようにしながら……。
「「はあ……はあ……」」
漏れる同じ息を感じながら、私達はとある場所にと来ていた。
「……バカとなんとかは高い所に上るって?」
「いつの間にか、来ちゃってた」
私たちは屋上にといた。唯一ある出入り口に掃除道具を挟んで開けられないようにして……。扉を背中にして、私達は腰を落とした。顔を上げれば、星明りが私達を照らしている。校舎の外では音がなりながら、複数の影が続々と校舎の中にとはいっていく。私達は、顔を引っ込めた。
「いよいよ……終わりだな」
「……諦めが早いぞ、私の癖に」
「数が数だ。自分の終わりくらい見極めてる」
「あんたを……奴らに引き渡すつもりはない」
強い言葉で私がつぶやく。
私が私の方を見つめた。
「もし神様がいるのなら、そいつに感謝しないといけないな。私が二人になったおかげで、どっちかは助かるってことさ。私があいつらの前に出て行けば、あんたは助かる……」
私は私を見つめながら告げる。
彼女は自分が囮になると言っている。そうすれば、私は助かると……。
安堵した表情を浮かべる私に、私は、拳を握る。
「ふん、奴らもまさか、私が二人になっているとは思わないだろうからな。これで……」
「お前が助かる」
彼女の言葉を引き継いだ私の言葉に、私が顔を向けた。
「……あんたがここにいろ。私が行く」
「ふざけるな!私が考えたんだ!私が行く!」
「黙ってろ!私が行くと言ってるだろ!?」
私達はお互いを見つめ、その襟を掴む。
どちらの私もその目は真剣そのもので、一歩も譲らないといった表情だった。私達は、暫くお互いを見つめながらいたが、その手をゆっくりと離した。同じ想いに同じ想いをぶつけても相殺されるだけで、どちらが勝つこともない。それを私達は知っていた。
「本当に、あんた……私なんだな」
「……そうだね、あんたは私、私はあんた……」
「いいのか?マジで死んじゃうぞ」
「そっちこそ、今のうちだよ」
「……大丈夫」
「平気……」
私達は体操すわりをしながら、その手を触れ合わせて指同士絡ませ合う。
「「あんたを失ってしまうと、きっと……私、もう生きていられない気がする」」
私達は声をハモらせた。
私達は味わってしまった。
あの誰かに包まれるぬくもりを……それはもう、忘れられないものになっていて。
だから、それがもう感じられなくなってしまえば、既にボロボロの身体に、壊れかけた精神が、一瞬で崩壊してしまうと私達は思っていた。目の前の私は、私の癖に……私だからか。心も体も互いを引き合ってしまっている。一緒にいたいっていう、ただそれだけの声が、私達の身体も心も叫んでいるんだ。
だから、彼女を離したくない。彼女とともにいたい。
ずっと……いたい。
足音が聞こえる。
「「……ねえ、詩織?」」
私達はお互いを見つめ合う。
同じ名前を呼びあった私達は、もう一度お互いを抱きしめ合う。
温かくて、安心できて、幸せになれる魔法……。
私達は、ゆっくりと互いから身を離す。
「「行こう」」
扉をたたく音が聞こえる。
私達は立ち上がると、その両手に鉄パイプを持ち、握りしめながら、扉を封鎖していた掃除道具を取り上げた。
扉が開き、私達は、その扉に突込んで行った。
『……昨夜、●×中学で約30人前後の10代~20代の若者たちによる乱闘事件が発生しました。またこの事件で死者がでています、名前は……』
顔を上げた私……。
視界にあるのは、見慣れた駅のダブルデッキの床と私の身体を包み込む腕。私は、その腕を追うようにして視線を追いかけた。
そこにいたのは、もう一人の私の姿。
彼女もまた顔を上げて、私を見つめている。私達は、互いを見つめて今までつくったことのない笑顔を作って、互いを見た。
周りは、人々の歩く音だけが聞こえる。
「「……」」
私達は、そのまま唇を軽く重ねる。
柔らかくて、温かい感触、それは抱きしめられることよりももっともっと互いを感じられた。そして、それだけじゃ足りないことを私達は知る。クスリは中毒性があり、それ以上に、もっと強いものでないと満たされなくなる。だから、私達は……さらにもう一人の私を感じたくなってしまっていた。彼女のことだけを考えて、後はどうでもよくなってしまうくらいに……。私達は、その背中に回した手を、私の頬にと重ね、私の頬にと私の手が触れて、顔を斜めにして重ね合う。私の息を吸って……私の息を吸われて……輪郭を撫でて、髪の毛を掴んで……何度も吸って何度も吸われて……欲しくて、止まらなくて。
そんな私達の前を通り過ぎていくものたち。
私たちの姿なんてみていないし興味もないだろうけど、私だってこいつらに興味なんかない。
あるのは……目の前の私だけ。
私がいればもう私は何もいらない。
ずっと……ずっと……。
強く抱きしめられて、抱きしめた私は、目の前の彼女のことしか……もう見えなくなっていた。
真っ白なその場所で……。
私は……『私』と恋をする。
瞼をあけると、そこで見えるのは、人々の足……歩きながら、走りながら進んでいく。
私は、何をしているのだろうか。
身体を起こそうとするが、痛みで体が言うことを効かない。
どうして、こんなことになっているのか……。
私は、ふと思い出す。
昨夜、私は元いた仲間たちの襲撃を受けたんだった。
私は……ここら辺を取り仕切るグループのトップにいた。
それが、叛逆された結果、私はケツを振って逃げながらこの駅前ロータリーで気を失ったんだっけ。
情けねぇーな……。
でも、どうしてこんなに温かいんだろう。
まだ、外で寝るには寒いんだけど、なにか……包まれているような。
それに、おかしい……こんなところで倒れているんだったら、幾ら鈍感で、無情な市民と言えど気にしてくれてもいいとは思うんだけれど。
私は、そこで自分のお腹あたりに手が回されていることに気が付いた。
私は、その腕を追いかけるようにして視線を追う。
すると、そこには誰かがいた。
濃い紫色の髪の毛をさせた、眉毛にかかるほどのストレートの前髪と、同じストレートの耳にかかるほどの髪。
その顔は、整っていて宝塚の男役なんかにいそうな顔立ちをしている。
あれ?こいつって……私、いつもみている奴なんじゃ、誰だっけ。
目の前の彼女もまた、私を細く目を開けて見つめている。
「「わ……たし?」」
「私」は『私』と恋をする。
episode 6 宗像詩織
「お大事にしてください」
病院から外にと出た私達。
私は、病院から外に出てすぐ、タバコに火をつけようとする。すると隣の私がライターを差し出した。
「はい」
「あ、悪い」
私は、それを受け取り、自分の煙草に火をつける。
私達はタバコを吸いながら、大きく息を吐いた。
満たされる感覚……そこで、私達は改めて隣を見る。
「「ふぅ~~~……」」
「「……で、なんで、私が二人いるんだ??」」
全く同じ怪我をしている場所にシップやら、絆創膏を貼っている同じ姿の私達。互いを見ると、私達は目の前に鏡があるんじゃないかと思ってしまう。絵も鏡と違うのは、左右反転ではないし、彼女には触れることもできる、そしてぬくもりもある。そんな奴が、突然、目の前にと現れたわけだ。あまりにも突然で、あまりにも普通に、あまりにも現実味がなくて……私達は、互いに言い合うこともできずにいた。Q生き別れの双子?A私は一人娘だ。Q私の偽物?A映画の見過ぎだ。Q私のクローン?A映画の(以下略)いくら考えても、こいつが、なんなのかなんてわからない。いや、そうなると答えは出てきてしまう。こいつは、私だ。それが意外にほかに答えなんか出てこなかった。私は、突然、普通に、もう1人現れてしまったわけだ。まあ、こんだけいっているけれど、私だってこいつと同じな訳だから、私達は二人になってしまったという方がしっくりくるだろう。
「はあ……ま、偽物本物議論なんて野暮なことはするつもりねーけど」
「どうせなら、もっと増えてくれればいいのにな、そのほうがいろいろと助かるんだけど」
「言うのは簡単だけどなぁ~、私が何人も目の前にいるっていうのはあんまりいい気持ちはしねーけど」
「言っていることはわかるけど、こんな傷だらけにならずにはすむんじゃね?」
「うーん、それもあるか……」
そんな話をしながら、二人はふらつきながら自分たちの家にと向かう。
ボロいアパートの一室が私の部屋。
グループ内でいるときなんてほとんど帰ってこなかったその場所を二人は少し遠くから見つめる。
壁際に隠れながら……
「……見たところ、誰かが待ち伏せしているような気配はねぇーな」
「私達が帰ってきたところを拉致って……なんて思ってたんだけど」
二人は、暫くの間監視をして、やはりは誰もいないことを確認すると、自分たちのボロアパートにと戻っていく。二人は隣同士に立ちながら、自分の部屋の前にと立つ。二人は隣にいるお互いを見つめながら、頷き合う。鍵を開けようとした二人だったが、ドアは開いている。二人は息を呑みながら、部屋の中にとはいった。薄暗いその部屋の中は、荒らされた形跡があり、部屋にあった家具は全て壊されており、壁もぼろぼろに傷つけられていた。私達は、大きく息を吐きながら、部屋の中にと入り、周りを見渡す。ワンルームのその部屋は、もうただの廃墟と言っても過言でもなかった。私達は、そんなボロボロの部屋を見つめながら、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「荷物、持ったら出て行こう」
「……いつ、奴らが戻ってくるかもわからねーからな」
荷物なんて、私達にはほとんどなかった。
金なんてほとんど持っていない私達。
なけなしの通帳にあった僅かな残金を手にしながら、私達は行く宛のない道を歩いている。帰る場所なんかどこにもない私。家族は早くに死んでしまって親せきにと育てられた。そこでもあまりいい想いはしていなかった。中学卒業後、追い出されるように、家を出て、金だけもらって寮生活を強いられることになる。地元中学は、暴力的な場所で、すぐに乱闘生活が始まった。気が付けば、街を取りしきれるほどのグループのトップにとなっていた。それでも、自分の居場所なんかわからないで、ただ流されるがままに、私は生きてきた。そして……私は裏切られた。今はもう、いや元々か、私には何もない。何にもないんだ……。だから、別に、今更どうなったって構わないのかもしれない。
「家にも帰れず、こりゃー完全にホームレスだな」
「まったくだよ……ったく、これからどうするんだよ」
「私に聞くな」
「あんたに聞かなきゃ誰に聞けっていうんだよ」
私達はお互いを見つめ合う。
「……久しぶりにどっかで遊ぼうか?」
「目立つと、バレちまうぞ」
「真昼間からしかけてこねぇーだろうよ」
「ただ遊びたいだけなんじゃねぇーのか?」
「否定はいない」
「ま、私もあんたと同じ気分だし……遊ぼう?」
「さすが、私……理解が早くて助かるよ」
私達は普通の年齢で行けば高校生。
まだまだ遊びたい盛りの子供だ。私達は、少ないお金を使いながら、一緒にアイスを買う。お金がないから一個しか変えずに、一つのアイスを、二人の私で食べ合う。舌を伸ばして、冷たいソフトクリームを舐めながら、舌を触れ合わせ、舐めあう。私達は肩同士を触れ合わせながら一緒に並んで食べて……
「ちゅぱ、れろぉ……んっ」
「れろぉ、あむぅ……んっ」
「……ん、ん」
「ふぅ……ん」
気が付けば、私達はお互いをただジーっと眺めていた。
アイスを食べ終えれば一緒になってゲームセンターで、格闘ゲームをやってみたりして……。
「おい!さっきから同じ技仕掛けてくるなよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
「さっきから技が入らねーだろうが!」
「あー!!まだドローじゃん!!」
ゲームセンターでこんなことばかりやっていて……。
一番騒いでいる私達。
ただの子供遊び。
今までだってやってこなかったわけじゃない。
なのに……どうしてだろう、こんな滅茶苦茶楽しいのは。
どうして、こんなに……楽しくて、嬉しくて……
ずっとこうしていたいなって思えるんだろう。
私達は、いつのまにか、どこかの公園にと足を踏み入れていた。近くでは、幼稚園だろうか、小さな子供が笑いながらそんでいる。そんな様子を眺めている母親の姿が、あった。私には遠い夢の中の光景のようだ。私達は、ベンチにと座る。
「疲れたな」
「ああ」
「……」
「……」
「今日、駅でぶっ倒れている時さ……すげぇ、気持ち良く寝れてたんだよ」
「寝てたっていうか意識失ってただけだろう?」
「いいから聞けって……。そんときさ、久しぶりに、気持ち良く寝れたんだ。なんか……すごく安心できた」
「……はっきり言えよ」
そういうと、隣の私が、私の身体を包み込む。力強く……でも優しく、もう一人の私が、私の身体を包み込んだ。私の身体の中が熱くなるのを感じた。私は隣を見る。そこにいたもう一人の私が顔を近づけて、私を見つめる。同じ顔の私達が、互いを見つめ合う。瞳の中にと映りこんだ私と、私を映し出す瞳を持っている私は、全く同じ顔をしている。私達はお互いを見つめいながら、その頬を染めていた。
「こうしたいって……」
「それは、あんたもでしょ?」
そういうと私も同じように彼女の身体を包み込む。
目の前の彼女の身体を自分の身体にと引き寄せた。それだけで、私達の身体重なり合い、同じ体同士だからだろうか、ただ抱きしめているだけで、とても気持ちよくて……安心できて。私達は、その場で目を閉じる。
「「……こうしていたい」」
「「ずっと」」
今まで感じたことのない安心感。
それが私達を包み込む。もうその前には何も考えられなくなっていて。
まるでクスリだ……一度味合わってしまえば二度と抜け出すことのできないもの。
「……ん、ん」
「あ……ふぅ」
目を開ける私達。
私達は、目の前の柔らかいものをしっかりと包み、包まれていた。お互いベンチの上に寝転がりながら、しっかりと互いを抱きしめ合って眠っていたようだ。私達が目を開けたときには、その場所は既に日が落ち暗闇にと包まれていた。私達は、互いを抱きしめ合っていたまま眠っていたことに気が付いて、互いを見つめる。私達は、お互いを見つめ、思わず笑ってしまう。まるで子供だ。こんなことをして……いや、子どもなんかじゃないか。まるで恋人?こんな外で?そんなことを考えてしまって思わず笑ってしまった。私は、起き上がると、服を整えながら立ち上がる。ベンチに座っているもう一人の私にと手を伸ばした。もう一人の私は、私を見上げながら、一瞬の静寂ののち……その手を掴み、立ち上がる。
「「……お腹空いた」」
「金あるの?」
「ないことはないけど」
財布を二人で覗き込みながら、その少ない硬貨を見て私達はため息をついた。
「やっぱり、私が増えるとその分食費も倍かかるな」
「それは仕方がないだろ?」
「私が食べれば、あんたもお腹いっぱいになったりしないのかよ?」
「そんな都合よくできるか!」
私達はそんなことを呟き合いながら、夜の道路の道を歩いている。
私達の隣ではライトを光らせた車が走りながら、私達の身体を照らしていく。その中で私達の視界にと入り込んだのは、複数人の影。私達は、それが、グループの奴らだとすぐに気が付いた。私達は、無意識に隣の私の手を握って走っていく。私達は、いつの間にか……あの温もりに、隣にいるもう一人の私の温もりが欲しくてたまらなくなっていたのかもしれない。だから……この手を離したくなかったのかもしれない。私達が、逃げ場所として選んだのは、すぐ近くにあった私の母校。中学時代に通っていた場所だ。私達は助走をつけて勢いよく飛び上がり、学校の門をよじ登り超えていく。校庭を走りながら、後ろを振り返れば、複数台の車が止まり、私達の後を追いかけてきていたグループの奴らが、学校の門をよじ登っていく姿がそこにはあった。その数は、数えきれないほどで、学校から外にと出ることはもうできない。
「……急ぐぞ」
もう一人の私の声に、私は答える代わりに彼女の手を強くつかんだ。
校舎への扉は施錠されていたけど、割って入った。校舎の中は薄暗く、とても静かだった。本来であれば幽霊とかそんなものを怖がらなくてはいけないのかもしれないけれど、今の私達にはそんな余裕はない。幽霊よりも生きている人間の方が怖いといったところだ。私達は、校舎の階段を上っていく。あまり足音を立てれば気が付かれてしまうから、音をなるべくたてないようにしながら……。
「「はあ……はあ……」」
漏れる同じ息を感じながら、私達はとある場所にと来ていた。
「……バカとなんとかは高い所に上るって?」
「いつの間にか、来ちゃってた」
私たちは屋上にといた。唯一ある出入り口に掃除道具を挟んで開けられないようにして……。扉を背中にして、私達は腰を落とした。顔を上げれば、星明りが私達を照らしている。校舎の外では音がなりながら、複数の影が続々と校舎の中にとはいっていく。私達は、顔を引っ込めた。
「いよいよ……終わりだな」
「……諦めが早いぞ、私の癖に」
「数が数だ。自分の終わりくらい見極めてる」
「あんたを……奴らに引き渡すつもりはない」
強い言葉で私がつぶやく。
私が私の方を見つめた。
「もし神様がいるのなら、そいつに感謝しないといけないな。私が二人になったおかげで、どっちかは助かるってことさ。私があいつらの前に出て行けば、あんたは助かる……」
私は私を見つめながら告げる。
彼女は自分が囮になると言っている。そうすれば、私は助かると……。
安堵した表情を浮かべる私に、私は、拳を握る。
「ふん、奴らもまさか、私が二人になっているとは思わないだろうからな。これで……」
「お前が助かる」
彼女の言葉を引き継いだ私の言葉に、私が顔を向けた。
「……あんたがここにいろ。私が行く」
「ふざけるな!私が考えたんだ!私が行く!」
「黙ってろ!私が行くと言ってるだろ!?」
私達はお互いを見つめ、その襟を掴む。
どちらの私もその目は真剣そのもので、一歩も譲らないといった表情だった。私達は、暫くお互いを見つめながらいたが、その手をゆっくりと離した。同じ想いに同じ想いをぶつけても相殺されるだけで、どちらが勝つこともない。それを私達は知っていた。
「本当に、あんた……私なんだな」
「……そうだね、あんたは私、私はあんた……」
「いいのか?マジで死んじゃうぞ」
「そっちこそ、今のうちだよ」
「……大丈夫」
「平気……」
私達は体操すわりをしながら、その手を触れ合わせて指同士絡ませ合う。
「「あんたを失ってしまうと、きっと……私、もう生きていられない気がする」」
私達は声をハモらせた。
私達は味わってしまった。
あの誰かに包まれるぬくもりを……それはもう、忘れられないものになっていて。
だから、それがもう感じられなくなってしまえば、既にボロボロの身体に、壊れかけた精神が、一瞬で崩壊してしまうと私達は思っていた。目の前の私は、私の癖に……私だからか。心も体も互いを引き合ってしまっている。一緒にいたいっていう、ただそれだけの声が、私達の身体も心も叫んでいるんだ。
だから、彼女を離したくない。彼女とともにいたい。
ずっと……いたい。
足音が聞こえる。
「「……ねえ、詩織?」」
私達はお互いを見つめ合う。
同じ名前を呼びあった私達は、もう一度お互いを抱きしめ合う。
温かくて、安心できて、幸せになれる魔法……。
私達は、ゆっくりと互いから身を離す。
「「行こう」」
扉をたたく音が聞こえる。
私達は立ち上がると、その両手に鉄パイプを持ち、握りしめながら、扉を封鎖していた掃除道具を取り上げた。
扉が開き、私達は、その扉に突込んで行った。
『……昨夜、●×中学で約30人前後の10代~20代の若者たちによる乱闘事件が発生しました。またこの事件で死者がでています、名前は……』
顔を上げた私……。
視界にあるのは、見慣れた駅のダブルデッキの床と私の身体を包み込む腕。私は、その腕を追うようにして視線を追いかけた。
そこにいたのは、もう一人の私の姿。
彼女もまた顔を上げて、私を見つめている。私達は、互いを見つめて今までつくったことのない笑顔を作って、互いを見た。
周りは、人々の歩く音だけが聞こえる。
「「……」」
私達は、そのまま唇を軽く重ねる。
柔らかくて、温かい感触、それは抱きしめられることよりももっともっと互いを感じられた。そして、それだけじゃ足りないことを私達は知る。クスリは中毒性があり、それ以上に、もっと強いものでないと満たされなくなる。だから、私達は……さらにもう一人の私を感じたくなってしまっていた。彼女のことだけを考えて、後はどうでもよくなってしまうくらいに……。私達は、その背中に回した手を、私の頬にと重ね、私の頬にと私の手が触れて、顔を斜めにして重ね合う。私の息を吸って……私の息を吸われて……輪郭を撫でて、髪の毛を掴んで……何度も吸って何度も吸われて……欲しくて、止まらなくて。
そんな私達の前を通り過ぎていくものたち。
私たちの姿なんてみていないし興味もないだろうけど、私だってこいつらに興味なんかない。
あるのは……目の前の私だけ。
私がいればもう私は何もいらない。
ずっと……ずっと……。
強く抱きしめられて、抱きしめた私は、目の前の彼女のことしか……もう見えなくなっていた。
真っ白なその場所で……。
私は……『私』と恋をする。
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