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雪千咲&後藤真理恵の場合
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アイドル【idol】
1 偶像。
2 崇拝される人や物。
3 あこがれの的。熱狂的なファンをもつ人。「―歌手」
「あ、あの……初めまして、私……後藤真理恵っていい……ます」
「こんにちは、初めまして。私の名前は、園田百合。よろしく、えーっと真理恵ちゃんでいいのかな?」
「あ、はい!私、CDとか買うの初めてで、それで……」
「そうなんだ。私が初めて買ったCDは、アニソン主題歌だったな~~」
「え?」
「私、アニメとかすごく好きで。あはは、ほらほらよくいるニワカじゃなくてガチだから、私!今期なんて、7.8本継続視聴しているんだから」
「そ、そうなんですか?私もアニメ……好きで」
「本当に!?真理恵ちゃん、私はね……」
「すいません、時間です」
「あ、もー……ホント、折角話ができるのに、時間制限なんてなきゃいいのに」
「しょうがないですよ。ほかの人も、待ってますし」
「そうだよね、はー……私が二人いれば、もっといろいろ話せるのにな」
「……百合さん?」
「なに?」
「……今日は、話せてうれしかったです」
「私もだよ、真理恵ちゃん。またね!」
「はい!また……必ず」
「私」は『私』と恋をする。
episode 12 雪千咲&後藤真理恵
「おはようございます!!」
挨拶
「今日もよろしくお願いします」
ダンス
「さしすせしそさそ」
演技
「ありがとうございました!」
アイドルに求められるのは、多岐にわたるものばかり。
私達の仕事は夢を与える仕事。
周りが求めるのは、私達の成長。
成長途中の少女たちの姿。
私達と私達を求める周りの気持ちが一致した時、人気が上昇していく。
特に人気アイドルグループの中では、そんなものたちが、日々、一番を狙おうと必死になっている。
どんなきっかけでも
どんな些細なことでも
どんなことをしても
私が、私がトップにならないと……私が一番になるんだ。
そんなことばかり、いつも考えている。
更衣室……。
周りにいる子たちが、レッスンを終えて着替えている。
私、後藤真理恵は、ダンス練習のために縛っていた長い髪の毛を解きながら、自分のロッカーの前にと立つ。
「「千咲さん、お疲れ様です」」
「お疲れ」
私のロッカーの近くで後輩と話をしている茶髪で短髪……汗を拭いながら立っているのは私達のアイドルグループのトップ、雪千咲。
彼女は、後輩達を前にしながら、笑顔を振りまいている。
後輩たちは、彼女にと話しをしているとき、それはファンのように目を輝かせている。
千咲のルックスは確かにいい。胸も大きく、小顔で、目もパッチリしていて……運動神経もよければ、頭もよかったりする。
彼女と一緒にいたいという気持ちで、私達のアイドルグループになろうだなんていう子もいるくらいだ。
そう、彼女は男女ともに好かれているのだ。
彼女には華があるのだろう。
大衆が求めているものを彼女は持っている。
だから、彼女は人気者になり、露出が増え、彼女を知る人が多くなる。
その繰り返し。
「今日はこの後どうするんですか?」
「ラジオ1本に、テレビの収録1本かな」
「うわー大変ですね。あの、よかったら私、お弁当作ってきたんで食べてください」
「ありがとう。嬉しい」
「はい!そ、それじゃあ……また、よろしくお願いします。さようなら」
「うん、バイバイ」
顔を赤らめながら、お弁当を渡せた後輩は、他の後輩と一緒にその場を立ち去っていく。
彼女は、幸せそうだ。
「……バイバイね」
そういって千咲は、イスに座り、渡された弁当をロッカーの中にと置く。
「いやんなるよ。人の心配をしているより、自分の心配をしろっていうの。あんなんじゃ、あの子、今度の人気投票、ランク外決定ね」
「……」
「私なんかに媚売ってないで、プロデューサーとかに股開けって。ま、あんなウブそうな子じゃ、無理かな」
「……」
「ねえ、聞いてるの?真理恵」
ロッカーで着替えていた私の扉を開けて、千咲が告げる。
私は、千咲の言葉を聞きながら、眼鏡をかけ、ワイシャツに手を通す。
それは、学校の制服だ。
「あらあら、今から学校なの?そっかーあんた、この後、仕事ないもんね。私と同期だっていうのに。いまだに、毎日ある枠がないなんて、なんで、いまだにアイドル続けているのかさっぱり理解できない。ホント、私なんて、仕事仕事で、ホント大変だっていうのに、少しは分けてあげたいわ。まあ、あんたが私のような人気者の仕事が務まるかわからないけれどね。あーホント忙しい、忙しい。私が二人いれば少しは、楽になるのかしら」
私は、千咲の言葉を聞きながら、ロッカーの扉を閉める。
私の姿は、アイドルからただの高校の生徒になっていた。
千咲は私を見る。
「あ、そうそう。さっきの子のお弁当だけどいる?私、この後プロデューサーとご飯だから、いらないんだよね」
「……」
私は千咲の持つお弁当を手に取り、その場から歩いていく。
千咲の性格が別に問題なんかじゃない。
この世界は結果だ。
如何に努力しようとも、いかにまじめに取り組んだとしても、売れなければ意味がない。
どんなに素晴らしい演技を、素晴らしいダンスを踊っても、それは何の意味もない。
この世界は、そんな世界だ。
「千咲、この後プロデューサーと食事になってしまったから、貴女が作ってくれたもの、食べれないそう。食べれなくなっちゃうから、貴女に返すって。ごめんなさいって言ってたわ」
「そうですか、残念……、でも、気持ちは届いてよかったです!ありがとうございます。真理恵先輩」
彼女の笑顔を曇らせる訳にはいかない。
きっと、こんなことをしても、私にとってはプラスでもなんでもないのだろう。
後輩からの信用をもらったところで、私が売れる訳じゃない。
私の人気投票は、圏外ギリギリでなんとかランクインをしている。
固定層のファンがいることらしい。
私は、彼らに感謝をしている。
こんな私を応援してくれている人がいる、そう思えると頑張ろうという気持ちが湧く。
私は、揺られる電車の中で、手すりを掴んでいた。
周りのスマホを見ている人。
話している女子高生。
みんな、人気アイドル、そしてその中での千咲のことばかり話をしている。
私は、売れないアイドル。
名前さえ、彼らの中には出てこない。
こうして、周りに溶け込んでしまえば、わかりもしない、気づかれもしない。
「……はあ」
学校の授業を終えて、ベッドの上にと倒れる。
学校の授業も単位ギリギリ、こんな私が、なぜ、いつまでアイドルなんかをやっているのだろう。
アイドルなんかやっていても、何もいいことなんかないのに。
確かに、応援してくれる人はいる。
でも、それだって、私がいなくなっても、別のアイドルにシフトするだけで、私のことなんか、3ヶ月もすれば忘れてしまうだろう。
私の存在なんて、そんなものなのだ。
「私……」
疲れていたのか。
私は、そのまま目を閉じて、眠ってしまった。
目を開けたとき、私の視界に入ったのは、おぼろげな中で、誰かが私の前にいること。
私は、ベッドの上にある眼鏡をとろうとする。
すると、私の手に触れる、別の生温かいぬくもりと柔らかい感触。
私達は、顔を近づけあい、お互いを見る。
そこにいたのは、いつも見る私の姿。
「「な、なんだ……私か、びっくりした」」
私は胸をなで下ろしながら、息を着く。
そこで、私達は、再度お互いを見る。
「「え?」」
もう一度お互いを見る私達。
「あ、あのー……」
「えーっと……その」
「「貴女は……どちら様?」」
「わ、私は」
「私、私は」
「「後藤……真理恵」」
重なる声。
寄り添う声。
私達は、二人になった。
理由はわからない。
でも、その容姿、記憶、性格、思考……どれをとっても、私以外の誰でもなかった。
分裂したといったほうがいいのか。
私は、二人になってしまったわけだ。
「アハハハ……なによこれ」
「ぜ、全然……よくわからない」
突然、起こった現象に、私達は戸惑いながらも、一晩寝て、目を覚ませば消えているだろう……なんて、そんなことを考えていた。
あまりにも突然すぎて、そして、ありえなさすぎて、理解できなかったんだ。
でも、それは朝、起きてみても変わらなかった。
私の前には、私がいて、同じ寝ぼけた顔をして、お互いを見た。
「「……おはよう」」
私達は、お互いを見てため息交じりに、挨拶をする。
私は一人暮らしをしている。
だから、親に心配をかけることも今回はなかったことが、不幸中の幸いだろう。
私達は、洗面台で二人並んで、歯を磨き、鏡に同じ顔を映しながら、顔を洗う。
「ふぅ……どうする?」
「どうするって言われても……どうしよう」
「学校はある訳だし、練習もある」
「そうなると、役割を分担してやっていくしかないね」
「そう考えると、単位不足な私には都合がよかったかな」
「そうだね、いいのか、悪いのかはわからないけどさ」
私達は、鏡に互いを映しながら、お互いを見て小さく笑った。
一人の私は学校の制服姿。
もう一人の私は、練習に。
それぞれの役割を決めてそれぞれの場所にと向かうことになった。
玄関で靴を履く。
さすがに同じ私が一緒に出て行く訳にも行かないので、時間差で出て行くことに。
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、気を付けて」
「……なんだか変な感じ」
「そうだね、自分を見送るなんて」
「……短い間になるかもしれないけど」
「うん、よろしくね……私」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
私達は、お互いにそう言いながら、別れる。
もう一人の私が突然、現れても、私達は、普通の対応ができていた。
私はずっと独りっ子だった。だからだろうか、姉妹ができいたような感覚があったのかもしれない。
少なくとも、私には彼女が邪魔であるとかそういった敵意はなかった。
学校とアイドルの両立。
私にとってはいいこと尽くしではある。
ロッカー
「実は、私、二人になったの」
千咲が、突然、そんなことを言い出した。
私はロッカーで、Tシャツに着替えながら、千咲の言葉に、動きが止まった。
普通であれば、無視をするところだけど、昨日の今日だ。
自分が分身をしているのだから、彼女が二人になったということは大いに考えられる。
ということは、他のメンバーも、二人に増えたりしているのかもしれない。
私は頭の中でグルグルと思考をめぐらしている。
「普通の奴なら、学校とアイドルの両立なんて考えるんだろうけどさ」
「……」
「私は違う」
「……」
「私はね、仕事を二人でして、もっともっと自分の名前を売るの。二人で昨日考えたんだ。だから、これからは倍の仕事ができるんだよ、私。ヘヘ、鵜亜らやましいでしょう?あんたに任せずに、私はもっともっと仕事をして、日本一のアイドルになってやるんだから。そのためには、どんなことだってしてやる」
千咲は、強い目で、私に告げる。
彼女は、衣装に着替えると、歩いていく。
私は、千咲の言葉を思い出しながら、ため息をつく。
彼女は、性格に難がある。
でも、売れたら勝ちだっていうことを誰よりも意識をしている。
だから、彼女は走る。
自分が二人になったことを一番に生かして、走り続ける。
私は、大きくため息をついた。
勝てない。
私には、あんな千咲みたいなことできない。
自分が二人になったことに驚きもせずに、自分が売れる方法だけを、勝つ方法だけを考えるなんて、私には無理だ。
稽古の帰り道
私は、夕日に照らされる河川敷にいた。
水がオレンジ色に照らされて、反射している。
私は草むらに腰を落として、座っていた。
膝を抱えるようにして、虚ろな目で……
「なにしてるの?」
その問いかけに、私は顔を上げた。
制服姿の私だった。
私は、私を見つめながら、再び川を眺める。
私の隣に、私が座った。
「なんかあった?」
「……千咲も、二人になったって」
「嘘?じゃあ、他のみんなも?」
「ううん、千咲と私だけみたい」
あれから、みんなになんとなく、それっぽいことを聞いてみたけど、誰からも反応はなかった。
千咲が二人になったことを証明することはできないけれども、あの子が、そんなつまらない冗談を言う奴ではないことは私が良く知っている。
だから、彼女が言うことは本当なんだろう。
私達は二人並びながら、同じように川を眺めていた。
「私、アイドル……やめる」
「……どうして?」
「私にはさ、千咲のような覚悟はないよ。千咲は二人になって、仕事を二倍できるようになるって言ってた。私は、こうして学校とアイドルを二つに分けてやろうってそう思ったのに、彼女はそんなこと思いもしないでさ。元々の覚悟が違うの。だから、そんな私が、アイドルを続けていてもさ……」
「……そっか」
「止めないの?」
「止めないよ。私が決めたことなんでしょう?じゃあ、きっと、私がそっち側でも同じことを思ったはずだから」
「……ごめんね」
私は隣にいる私の肩に頭を乗せる。
「ううん、いいよ。大丈夫」
もう一人の私が、そんな私の頭の上に自分の頭を乗せる。
「……一緒に頑張ろうよ。私達は、同じ真理恵なんだからさ」
「……」
「アイドルだけが、全てなんかじゃないんだから」
「……」
「私達は、私達で……幸せになれれば、それでいいんだら」
私は私の言葉を聞きながら、小さく頷いた。
熱い滴が瞳からこぼれるのを感じながら、私はもう一人の私のぬくもりだけを感じていた。
「なんだ、あの子も二人になってたんだ」
「でしょ?そうじゃなきゃ、あんなリアクション見せないって」
私達は、高架橋の下で河川敷にいる二人の真理恵を見ながら、つぶやいた。
「どうして、二人になったんだか、聞きだす?」
「聞きたい?」
「別に」
「二人になったことで、私達は仕事が増えたことは事実なんだし、いいことでしょ?それに、私達と同じ状況だとしたら寝ていて起きたらいつの間にか二人になっていたっていうことだと思うし、その場合、何の手がかりもつかめないじゃない。それよりも、私達が二人になったっていう事実を、教える訳だから、無いとは思うけど、あの子が世の中にバラしちゃう可能性だってある訳だし」
「確かにね、あんまりかしこい方法じゃないか、これからっていう時に余計な問題を抱える訳にもいかないもんね」
「そういうこと。今は、私達のやるべきことをしっかりとやっていきましょう?」
「わかったわかった。私には言われなくても」
「なーに、その言い方?」
「自分の言い方に腹が立つ?」
「……可愛くない奴」
「お互い様でしょ」
私達はお互いを見つめて、小さく笑った。
どっちも私。
私だからこそ、わかる。
私達は、二人になったことで、仕事を二人で分け出来るようになった。
今まで一人でしかできなかったことも、二人で出来る。
それは、私達の仕事量をさらに増やし、さらなる人気の飛躍をもたらすこととなる。
これで、私達の人気は不動のものになるはずだ。
実際、私達の出番は、増えた。
「ふぅー……」
大きく息を吐きながら、私は稽古場のロッカーで服を着替えていた。
真理恵が、ロッカーの前で眼鏡を外して着替えをしている。
真理恵は、私が来たことに対して、見ることもなく、口を開けた。
「私、アイドルやめることにした」
「ふーん、なんで?」
別に興味もないけれど。
「私さ、なんのためにアイドルをやっていたのかって、ずっと考えてたんだ。小学生の時に、別のアイドルグループの人がいて、その人の握手会に友達と行った時があったんだ。私自身は、全然興味がなかったんだけれど。その人に握手をしてもらった時、私は彼女に、初めましてっていってね。握手会来る人なんて、みんなコアなファンばかりでね。初めましてなんていう人、そんなにいなかったみたいなんだけどさ。そうしたら、彼女は、笑顔で対応をしてくれて……自分の名前を言ってさ、CDの話なんかしないで、まるで友達のような感覚で、話をしてくれた。私にはそれがすごくうれしかった。同じ目線で立ってくれる人……私はアイドルとして、同じ目線で、同じ友達感覚で一緒にいてくれるような、そんなアイドルになりたかった。でも、私が目指した路線は受け入れられないみたい。だから……やめようと思う。話し合って決めたんだ」
私は、真理恵の言葉を聞きながら、自分のユニフォームを見た。
そういえば……私、なんでアイドルになろうと思ったんだっけ。
いつも前だけを見ていた。
いつも勝ちにだけこだわってきた。
勝とうと思った。
一番になりたかった。
どんな手段を使ってでも。
そんな風に走ってきて、私の先にあったのは……なんだ。
「……」
私は、ユニフォームを見ながら、今までの思い出を振り返った。
でも、そこには私のアイドルとしての起源はなかった。
もう、思い出せない。
「……あは」
私は、天井を見上げて、笑った。
「あははははははははは……ははははは」
真理恵が私を見る。
「何がおかしいの?」
「私に笑ったの」
「え?」
「……ほら、練習が始まるから行くよ」
私は、真理恵の肩を叩いて、稽古場にと足を向けた。
稽古場で、練習するメンバー全員が集まり、プロデューサーが前にと立つ。
今日の練習は今度のライブのものだ。
場所は、東京ドーム……。
私を中心とした舞台だ。
「プロデューサー、話があります」
私は、一番最初に手を上げて、前にと立った。
「私は、今日を持って、このグループを引退します」
私の言葉に、周りのメンバーから悲鳴と、驚きの声が上がる。
それはメンバーだけじゃない。
プロデューサーからもだ。
私は、そんな彼女たちの顔を見ながら、心の中で笑っていた。
「私の、代わりにリーダーを務めるのは真理恵。あなた」
「え?……千咲」
真理恵の指名に、真理恵は、呆然とした表情で私を見る。
私は、周りのメンバーを見ながら、小さくため息をついて
「私は、ただ売れるために、いろいろなことをやった。でも、アイドルは夢を売る仕事であって、売れるため、自分の保身のためにやるものじゃない。私はその道を踏み外した。その時点で、もう私はアイドル失格。だから、もうアイドルを続けることはできない。みんな、迷惑かけてごめんなさい」
私は深々と頭を下げた。
「さようなら」
私の突然の引退は芸能界に激震が走った。
引退したからじゃない。
わつぃが今までの枕営業とかの行為を暴露したからだ。
芸能界に潜む闇を胸に私は、落ちていく。
連日テレビで報道される中で、私は、身を隠すこととなった。
これは、私の罪だ。
夢を売っている仕事であったにもかかわらず、それを裏切った私の罪。
「あんたのせいで……滅茶苦茶」
ベッドの上で眠っている私のお腹に頭を乗せるもう一人の私。
私は、ベッドで寝ころびながら天井を見上げる。
「あはは……、ごめんごめん」
「ま、私が滅茶苦茶なのは今に始まったことじゃないけどね?」
そういってもう一人の私は、身体の体勢を直して、私にと顔を寄せる。
私と同じ顔を見る私。
でも、彼女の顔は、芸能界にいたころより、生き生きとしている感じがした。
私達は、お互いをの顔を見つめ合う。
ゆっくりと腕を伸ばして、お互いの頬にと触れた。
「私達……二人っきりになったね」
「いいよ、別に……。もう、二人でいられれば」
私は、もう人に、誰かにいい顔を見せるのは疲れてしまっていた。
可愛いとか、綺麗とか、そんな評価を受けるのも、もう辛い。
だから、私は私と一緒に、私だけを見ていれればそれでよかった。
私と私は、顔の距離を近づける。
「これからは、千咲だけの、千咲だから」
「……嬉しい」
ベッドで隣同士、並んだ私達が、唇を重ね合わせる。
アイドルであった私と……。
自分の唇の感触味わうなんて……こんな経験、一生ないと思っていたけど。
私達は、腕を伸ばしてお互いの肩を抱きながら、顔を重ねるように何度も、唇を重ね合わせる。
自分がそこにいるということを、独りじゃないということを、確認するように。
私は、いろいろしてしまった。
夢を食い物にした罪を、私は受けなくてはいけない。
そんな、私達の一緒に眠るベッドの上で、携帯が光った。
私達は、唇を重ね合わせながら、腕を二人で伸ばして携帯をとる。
『真理恵』
私達が、携帯を手に取り、通話モードにする。
『やっとでた。大丈夫なの?千咲』
「あらあら、まさかの心配?」
「そんな気持ちないと思ってたいたけれど」
『……勝手に人を後任にして、雲隠れするような人には、文句の一つでも言いたい』
「あはははは、確かにね」
「でも、よかったでしょ?ようやっと花が咲いたんだから」
『……リーダーは大変だよ』
「そういうこと、立場が違えば、リーダーになんかなりたいなんて思わないよ」
「あははは、言えてる言えてる」
『でも、私、わかったことがある。私はね、憧れの人がいて、その人のようにアイドルになりたいって思った。私も彼女の真似をしてみた。でも、それだと人気が出ない、それだと、トップになれない……そう思った。だけど、それでもいい。負けても、人気が出なくても構わない。私は、アイドルに……私がアイドルになりたいと思った人のようなアイドルになりたい。だから……それを通そうと思う。だって、そうじゃなきゃ……なんのために、アイドルになったのかわからないから』
「簡単に言うけど、それが一番難しいんだよ」
「あんたに、それが通せるかな?」
『通すよ……私は、独りじゃないから……絶対に裏切らない、大切な私がいるから……』
「……頑張れ」
「応援してるよ」
「「真理恵」」
電話を切る。
そう、そういうことさ……。
私達は、ベッドに倒れたまま天井を眺める。
夢を目指してみなさい。
目の前にある壁を突き抜けて、どこまでもまっすぐに。
私みたいに、ならないように……。
「……ああ、悔しい」
「そうだね……」
私達は、隣同士お互いを見ながら、笑っていった。
私達の視界に映る、もう一人の私の頬にと滴が零れ落ちる。
……私の瞳に映る私も、私と同じ顔をしていた。
そして、私達は、お互いを優しく包み込む。
こんな私を、癒せるのは、愛せるのは……私だけだから。
玄関の前で、靴にと履きかえる私達。
変装用の衣装に身を包みながら、私達は、鞄を肩にかける。
私達は靴を履き終えると、玄関の前にと置いてある等身大の鏡に身を映した。
そこにいるのは、服装は違うけれど、全く同じ顔をした二人の私の姿。
「そろそろいかないと」
「今日の予定は?」
「えーっと、午前中にラジオ1本、お昼は、後輩と一緒に赤坂でランチ。その後、雑誌インタビュー、後、TV収録1本、午後はライブ」
「こっちは、学校で追試受けた後、次の新曲の歌入れ、写真撮影だね」
「はあー……今日も過密スケジュール」
「文句言わない」
「はいはい。それじゃ……今日も一日頑張ろう」
「うん……」
そういって、私達は、お互いの顔に指をあてて、顔だけをもう一人の私にと伸ばし、唇を重ねる。
ゆっくりと顔を離した私達は、頬を赤く染めながら笑顔を見せる。
私達は、鏡に映る私達を見つめ合った。
「「いってきます……」」
駆けだす私。
アイドル。
それは、成長途中の少女たちの物語。
「私」は『私』と恋をする。
1 偶像。
2 崇拝される人や物。
3 あこがれの的。熱狂的なファンをもつ人。「―歌手」
「あ、あの……初めまして、私……後藤真理恵っていい……ます」
「こんにちは、初めまして。私の名前は、園田百合。よろしく、えーっと真理恵ちゃんでいいのかな?」
「あ、はい!私、CDとか買うの初めてで、それで……」
「そうなんだ。私が初めて買ったCDは、アニソン主題歌だったな~~」
「え?」
「私、アニメとかすごく好きで。あはは、ほらほらよくいるニワカじゃなくてガチだから、私!今期なんて、7.8本継続視聴しているんだから」
「そ、そうなんですか?私もアニメ……好きで」
「本当に!?真理恵ちゃん、私はね……」
「すいません、時間です」
「あ、もー……ホント、折角話ができるのに、時間制限なんてなきゃいいのに」
「しょうがないですよ。ほかの人も、待ってますし」
「そうだよね、はー……私が二人いれば、もっといろいろ話せるのにな」
「……百合さん?」
「なに?」
「……今日は、話せてうれしかったです」
「私もだよ、真理恵ちゃん。またね!」
「はい!また……必ず」
「私」は『私』と恋をする。
episode 12 雪千咲&後藤真理恵
「おはようございます!!」
挨拶
「今日もよろしくお願いします」
ダンス
「さしすせしそさそ」
演技
「ありがとうございました!」
アイドルに求められるのは、多岐にわたるものばかり。
私達の仕事は夢を与える仕事。
周りが求めるのは、私達の成長。
成長途中の少女たちの姿。
私達と私達を求める周りの気持ちが一致した時、人気が上昇していく。
特に人気アイドルグループの中では、そんなものたちが、日々、一番を狙おうと必死になっている。
どんなきっかけでも
どんな些細なことでも
どんなことをしても
私が、私がトップにならないと……私が一番になるんだ。
そんなことばかり、いつも考えている。
更衣室……。
周りにいる子たちが、レッスンを終えて着替えている。
私、後藤真理恵は、ダンス練習のために縛っていた長い髪の毛を解きながら、自分のロッカーの前にと立つ。
「「千咲さん、お疲れ様です」」
「お疲れ」
私のロッカーの近くで後輩と話をしている茶髪で短髪……汗を拭いながら立っているのは私達のアイドルグループのトップ、雪千咲。
彼女は、後輩達を前にしながら、笑顔を振りまいている。
後輩たちは、彼女にと話しをしているとき、それはファンのように目を輝かせている。
千咲のルックスは確かにいい。胸も大きく、小顔で、目もパッチリしていて……運動神経もよければ、頭もよかったりする。
彼女と一緒にいたいという気持ちで、私達のアイドルグループになろうだなんていう子もいるくらいだ。
そう、彼女は男女ともに好かれているのだ。
彼女には華があるのだろう。
大衆が求めているものを彼女は持っている。
だから、彼女は人気者になり、露出が増え、彼女を知る人が多くなる。
その繰り返し。
「今日はこの後どうするんですか?」
「ラジオ1本に、テレビの収録1本かな」
「うわー大変ですね。あの、よかったら私、お弁当作ってきたんで食べてください」
「ありがとう。嬉しい」
「はい!そ、それじゃあ……また、よろしくお願いします。さようなら」
「うん、バイバイ」
顔を赤らめながら、お弁当を渡せた後輩は、他の後輩と一緒にその場を立ち去っていく。
彼女は、幸せそうだ。
「……バイバイね」
そういって千咲は、イスに座り、渡された弁当をロッカーの中にと置く。
「いやんなるよ。人の心配をしているより、自分の心配をしろっていうの。あんなんじゃ、あの子、今度の人気投票、ランク外決定ね」
「……」
「私なんかに媚売ってないで、プロデューサーとかに股開けって。ま、あんなウブそうな子じゃ、無理かな」
「……」
「ねえ、聞いてるの?真理恵」
ロッカーで着替えていた私の扉を開けて、千咲が告げる。
私は、千咲の言葉を聞きながら、眼鏡をかけ、ワイシャツに手を通す。
それは、学校の制服だ。
「あらあら、今から学校なの?そっかーあんた、この後、仕事ないもんね。私と同期だっていうのに。いまだに、毎日ある枠がないなんて、なんで、いまだにアイドル続けているのかさっぱり理解できない。ホント、私なんて、仕事仕事で、ホント大変だっていうのに、少しは分けてあげたいわ。まあ、あんたが私のような人気者の仕事が務まるかわからないけれどね。あーホント忙しい、忙しい。私が二人いれば少しは、楽になるのかしら」
私は、千咲の言葉を聞きながら、ロッカーの扉を閉める。
私の姿は、アイドルからただの高校の生徒になっていた。
千咲は私を見る。
「あ、そうそう。さっきの子のお弁当だけどいる?私、この後プロデューサーとご飯だから、いらないんだよね」
「……」
私は千咲の持つお弁当を手に取り、その場から歩いていく。
千咲の性格が別に問題なんかじゃない。
この世界は結果だ。
如何に努力しようとも、いかにまじめに取り組んだとしても、売れなければ意味がない。
どんなに素晴らしい演技を、素晴らしいダンスを踊っても、それは何の意味もない。
この世界は、そんな世界だ。
「千咲、この後プロデューサーと食事になってしまったから、貴女が作ってくれたもの、食べれないそう。食べれなくなっちゃうから、貴女に返すって。ごめんなさいって言ってたわ」
「そうですか、残念……、でも、気持ちは届いてよかったです!ありがとうございます。真理恵先輩」
彼女の笑顔を曇らせる訳にはいかない。
きっと、こんなことをしても、私にとってはプラスでもなんでもないのだろう。
後輩からの信用をもらったところで、私が売れる訳じゃない。
私の人気投票は、圏外ギリギリでなんとかランクインをしている。
固定層のファンがいることらしい。
私は、彼らに感謝をしている。
こんな私を応援してくれている人がいる、そう思えると頑張ろうという気持ちが湧く。
私は、揺られる電車の中で、手すりを掴んでいた。
周りのスマホを見ている人。
話している女子高生。
みんな、人気アイドル、そしてその中での千咲のことばかり話をしている。
私は、売れないアイドル。
名前さえ、彼らの中には出てこない。
こうして、周りに溶け込んでしまえば、わかりもしない、気づかれもしない。
「……はあ」
学校の授業を終えて、ベッドの上にと倒れる。
学校の授業も単位ギリギリ、こんな私が、なぜ、いつまでアイドルなんかをやっているのだろう。
アイドルなんかやっていても、何もいいことなんかないのに。
確かに、応援してくれる人はいる。
でも、それだって、私がいなくなっても、別のアイドルにシフトするだけで、私のことなんか、3ヶ月もすれば忘れてしまうだろう。
私の存在なんて、そんなものなのだ。
「私……」
疲れていたのか。
私は、そのまま目を閉じて、眠ってしまった。
目を開けたとき、私の視界に入ったのは、おぼろげな中で、誰かが私の前にいること。
私は、ベッドの上にある眼鏡をとろうとする。
すると、私の手に触れる、別の生温かいぬくもりと柔らかい感触。
私達は、顔を近づけあい、お互いを見る。
そこにいたのは、いつも見る私の姿。
「「な、なんだ……私か、びっくりした」」
私は胸をなで下ろしながら、息を着く。
そこで、私達は、再度お互いを見る。
「「え?」」
もう一度お互いを見る私達。
「あ、あのー……」
「えーっと……その」
「「貴女は……どちら様?」」
「わ、私は」
「私、私は」
「「後藤……真理恵」」
重なる声。
寄り添う声。
私達は、二人になった。
理由はわからない。
でも、その容姿、記憶、性格、思考……どれをとっても、私以外の誰でもなかった。
分裂したといったほうがいいのか。
私は、二人になってしまったわけだ。
「アハハハ……なによこれ」
「ぜ、全然……よくわからない」
突然、起こった現象に、私達は戸惑いながらも、一晩寝て、目を覚ませば消えているだろう……なんて、そんなことを考えていた。
あまりにも突然すぎて、そして、ありえなさすぎて、理解できなかったんだ。
でも、それは朝、起きてみても変わらなかった。
私の前には、私がいて、同じ寝ぼけた顔をして、お互いを見た。
「「……おはよう」」
私達は、お互いを見てため息交じりに、挨拶をする。
私は一人暮らしをしている。
だから、親に心配をかけることも今回はなかったことが、不幸中の幸いだろう。
私達は、洗面台で二人並んで、歯を磨き、鏡に同じ顔を映しながら、顔を洗う。
「ふぅ……どうする?」
「どうするって言われても……どうしよう」
「学校はある訳だし、練習もある」
「そうなると、役割を分担してやっていくしかないね」
「そう考えると、単位不足な私には都合がよかったかな」
「そうだね、いいのか、悪いのかはわからないけどさ」
私達は、鏡に互いを映しながら、お互いを見て小さく笑った。
一人の私は学校の制服姿。
もう一人の私は、練習に。
それぞれの役割を決めてそれぞれの場所にと向かうことになった。
玄関で靴を履く。
さすがに同じ私が一緒に出て行く訳にも行かないので、時間差で出て行くことに。
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、気を付けて」
「……なんだか変な感じ」
「そうだね、自分を見送るなんて」
「……短い間になるかもしれないけど」
「うん、よろしくね……私」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
私達は、お互いにそう言いながら、別れる。
もう一人の私が突然、現れても、私達は、普通の対応ができていた。
私はずっと独りっ子だった。だからだろうか、姉妹ができいたような感覚があったのかもしれない。
少なくとも、私には彼女が邪魔であるとかそういった敵意はなかった。
学校とアイドルの両立。
私にとってはいいこと尽くしではある。
ロッカー
「実は、私、二人になったの」
千咲が、突然、そんなことを言い出した。
私はロッカーで、Tシャツに着替えながら、千咲の言葉に、動きが止まった。
普通であれば、無視をするところだけど、昨日の今日だ。
自分が分身をしているのだから、彼女が二人になったということは大いに考えられる。
ということは、他のメンバーも、二人に増えたりしているのかもしれない。
私は頭の中でグルグルと思考をめぐらしている。
「普通の奴なら、学校とアイドルの両立なんて考えるんだろうけどさ」
「……」
「私は違う」
「……」
「私はね、仕事を二人でして、もっともっと自分の名前を売るの。二人で昨日考えたんだ。だから、これからは倍の仕事ができるんだよ、私。ヘヘ、鵜亜らやましいでしょう?あんたに任せずに、私はもっともっと仕事をして、日本一のアイドルになってやるんだから。そのためには、どんなことだってしてやる」
千咲は、強い目で、私に告げる。
彼女は、衣装に着替えると、歩いていく。
私は、千咲の言葉を思い出しながら、ため息をつく。
彼女は、性格に難がある。
でも、売れたら勝ちだっていうことを誰よりも意識をしている。
だから、彼女は走る。
自分が二人になったことを一番に生かして、走り続ける。
私は、大きくため息をついた。
勝てない。
私には、あんな千咲みたいなことできない。
自分が二人になったことに驚きもせずに、自分が売れる方法だけを、勝つ方法だけを考えるなんて、私には無理だ。
稽古の帰り道
私は、夕日に照らされる河川敷にいた。
水がオレンジ色に照らされて、反射している。
私は草むらに腰を落として、座っていた。
膝を抱えるようにして、虚ろな目で……
「なにしてるの?」
その問いかけに、私は顔を上げた。
制服姿の私だった。
私は、私を見つめながら、再び川を眺める。
私の隣に、私が座った。
「なんかあった?」
「……千咲も、二人になったって」
「嘘?じゃあ、他のみんなも?」
「ううん、千咲と私だけみたい」
あれから、みんなになんとなく、それっぽいことを聞いてみたけど、誰からも反応はなかった。
千咲が二人になったことを証明することはできないけれども、あの子が、そんなつまらない冗談を言う奴ではないことは私が良く知っている。
だから、彼女が言うことは本当なんだろう。
私達は二人並びながら、同じように川を眺めていた。
「私、アイドル……やめる」
「……どうして?」
「私にはさ、千咲のような覚悟はないよ。千咲は二人になって、仕事を二倍できるようになるって言ってた。私は、こうして学校とアイドルを二つに分けてやろうってそう思ったのに、彼女はそんなこと思いもしないでさ。元々の覚悟が違うの。だから、そんな私が、アイドルを続けていてもさ……」
「……そっか」
「止めないの?」
「止めないよ。私が決めたことなんでしょう?じゃあ、きっと、私がそっち側でも同じことを思ったはずだから」
「……ごめんね」
私は隣にいる私の肩に頭を乗せる。
「ううん、いいよ。大丈夫」
もう一人の私が、そんな私の頭の上に自分の頭を乗せる。
「……一緒に頑張ろうよ。私達は、同じ真理恵なんだからさ」
「……」
「アイドルだけが、全てなんかじゃないんだから」
「……」
「私達は、私達で……幸せになれれば、それでいいんだら」
私は私の言葉を聞きながら、小さく頷いた。
熱い滴が瞳からこぼれるのを感じながら、私はもう一人の私のぬくもりだけを感じていた。
「なんだ、あの子も二人になってたんだ」
「でしょ?そうじゃなきゃ、あんなリアクション見せないって」
私達は、高架橋の下で河川敷にいる二人の真理恵を見ながら、つぶやいた。
「どうして、二人になったんだか、聞きだす?」
「聞きたい?」
「別に」
「二人になったことで、私達は仕事が増えたことは事実なんだし、いいことでしょ?それに、私達と同じ状況だとしたら寝ていて起きたらいつの間にか二人になっていたっていうことだと思うし、その場合、何の手がかりもつかめないじゃない。それよりも、私達が二人になったっていう事実を、教える訳だから、無いとは思うけど、あの子が世の中にバラしちゃう可能性だってある訳だし」
「確かにね、あんまりかしこい方法じゃないか、これからっていう時に余計な問題を抱える訳にもいかないもんね」
「そういうこと。今は、私達のやるべきことをしっかりとやっていきましょう?」
「わかったわかった。私には言われなくても」
「なーに、その言い方?」
「自分の言い方に腹が立つ?」
「……可愛くない奴」
「お互い様でしょ」
私達はお互いを見つめて、小さく笑った。
どっちも私。
私だからこそ、わかる。
私達は、二人になったことで、仕事を二人で分け出来るようになった。
今まで一人でしかできなかったことも、二人で出来る。
それは、私達の仕事量をさらに増やし、さらなる人気の飛躍をもたらすこととなる。
これで、私達の人気は不動のものになるはずだ。
実際、私達の出番は、増えた。
「ふぅー……」
大きく息を吐きながら、私は稽古場のロッカーで服を着替えていた。
真理恵が、ロッカーの前で眼鏡を外して着替えをしている。
真理恵は、私が来たことに対して、見ることもなく、口を開けた。
「私、アイドルやめることにした」
「ふーん、なんで?」
別に興味もないけれど。
「私さ、なんのためにアイドルをやっていたのかって、ずっと考えてたんだ。小学生の時に、別のアイドルグループの人がいて、その人の握手会に友達と行った時があったんだ。私自身は、全然興味がなかったんだけれど。その人に握手をしてもらった時、私は彼女に、初めましてっていってね。握手会来る人なんて、みんなコアなファンばかりでね。初めましてなんていう人、そんなにいなかったみたいなんだけどさ。そうしたら、彼女は、笑顔で対応をしてくれて……自分の名前を言ってさ、CDの話なんかしないで、まるで友達のような感覚で、話をしてくれた。私にはそれがすごくうれしかった。同じ目線で立ってくれる人……私はアイドルとして、同じ目線で、同じ友達感覚で一緒にいてくれるような、そんなアイドルになりたかった。でも、私が目指した路線は受け入れられないみたい。だから……やめようと思う。話し合って決めたんだ」
私は、真理恵の言葉を聞きながら、自分のユニフォームを見た。
そういえば……私、なんでアイドルになろうと思ったんだっけ。
いつも前だけを見ていた。
いつも勝ちにだけこだわってきた。
勝とうと思った。
一番になりたかった。
どんな手段を使ってでも。
そんな風に走ってきて、私の先にあったのは……なんだ。
「……」
私は、ユニフォームを見ながら、今までの思い出を振り返った。
でも、そこには私のアイドルとしての起源はなかった。
もう、思い出せない。
「……あは」
私は、天井を見上げて、笑った。
「あははははははははは……ははははは」
真理恵が私を見る。
「何がおかしいの?」
「私に笑ったの」
「え?」
「……ほら、練習が始まるから行くよ」
私は、真理恵の肩を叩いて、稽古場にと足を向けた。
稽古場で、練習するメンバー全員が集まり、プロデューサーが前にと立つ。
今日の練習は今度のライブのものだ。
場所は、東京ドーム……。
私を中心とした舞台だ。
「プロデューサー、話があります」
私は、一番最初に手を上げて、前にと立った。
「私は、今日を持って、このグループを引退します」
私の言葉に、周りのメンバーから悲鳴と、驚きの声が上がる。
それはメンバーだけじゃない。
プロデューサーからもだ。
私は、そんな彼女たちの顔を見ながら、心の中で笑っていた。
「私の、代わりにリーダーを務めるのは真理恵。あなた」
「え?……千咲」
真理恵の指名に、真理恵は、呆然とした表情で私を見る。
私は、周りのメンバーを見ながら、小さくため息をついて
「私は、ただ売れるために、いろいろなことをやった。でも、アイドルは夢を売る仕事であって、売れるため、自分の保身のためにやるものじゃない。私はその道を踏み外した。その時点で、もう私はアイドル失格。だから、もうアイドルを続けることはできない。みんな、迷惑かけてごめんなさい」
私は深々と頭を下げた。
「さようなら」
私の突然の引退は芸能界に激震が走った。
引退したからじゃない。
わつぃが今までの枕営業とかの行為を暴露したからだ。
芸能界に潜む闇を胸に私は、落ちていく。
連日テレビで報道される中で、私は、身を隠すこととなった。
これは、私の罪だ。
夢を売っている仕事であったにもかかわらず、それを裏切った私の罪。
「あんたのせいで……滅茶苦茶」
ベッドの上で眠っている私のお腹に頭を乗せるもう一人の私。
私は、ベッドで寝ころびながら天井を見上げる。
「あはは……、ごめんごめん」
「ま、私が滅茶苦茶なのは今に始まったことじゃないけどね?」
そういってもう一人の私は、身体の体勢を直して、私にと顔を寄せる。
私と同じ顔を見る私。
でも、彼女の顔は、芸能界にいたころより、生き生きとしている感じがした。
私達は、お互いをの顔を見つめ合う。
ゆっくりと腕を伸ばして、お互いの頬にと触れた。
「私達……二人っきりになったね」
「いいよ、別に……。もう、二人でいられれば」
私は、もう人に、誰かにいい顔を見せるのは疲れてしまっていた。
可愛いとか、綺麗とか、そんな評価を受けるのも、もう辛い。
だから、私は私と一緒に、私だけを見ていれればそれでよかった。
私と私は、顔の距離を近づける。
「これからは、千咲だけの、千咲だから」
「……嬉しい」
ベッドで隣同士、並んだ私達が、唇を重ね合わせる。
アイドルであった私と……。
自分の唇の感触味わうなんて……こんな経験、一生ないと思っていたけど。
私達は、腕を伸ばしてお互いの肩を抱きながら、顔を重ねるように何度も、唇を重ね合わせる。
自分がそこにいるということを、独りじゃないということを、確認するように。
私は、いろいろしてしまった。
夢を食い物にした罪を、私は受けなくてはいけない。
そんな、私達の一緒に眠るベッドの上で、携帯が光った。
私達は、唇を重ね合わせながら、腕を二人で伸ばして携帯をとる。
『真理恵』
私達が、携帯を手に取り、通話モードにする。
『やっとでた。大丈夫なの?千咲』
「あらあら、まさかの心配?」
「そんな気持ちないと思ってたいたけれど」
『……勝手に人を後任にして、雲隠れするような人には、文句の一つでも言いたい』
「あはははは、確かにね」
「でも、よかったでしょ?ようやっと花が咲いたんだから」
『……リーダーは大変だよ』
「そういうこと、立場が違えば、リーダーになんかなりたいなんて思わないよ」
「あははは、言えてる言えてる」
『でも、私、わかったことがある。私はね、憧れの人がいて、その人のようにアイドルになりたいって思った。私も彼女の真似をしてみた。でも、それだと人気が出ない、それだと、トップになれない……そう思った。だけど、それでもいい。負けても、人気が出なくても構わない。私は、アイドルに……私がアイドルになりたいと思った人のようなアイドルになりたい。だから……それを通そうと思う。だって、そうじゃなきゃ……なんのために、アイドルになったのかわからないから』
「簡単に言うけど、それが一番難しいんだよ」
「あんたに、それが通せるかな?」
『通すよ……私は、独りじゃないから……絶対に裏切らない、大切な私がいるから……』
「……頑張れ」
「応援してるよ」
「「真理恵」」
電話を切る。
そう、そういうことさ……。
私達は、ベッドに倒れたまま天井を眺める。
夢を目指してみなさい。
目の前にある壁を突き抜けて、どこまでもまっすぐに。
私みたいに、ならないように……。
「……ああ、悔しい」
「そうだね……」
私達は、隣同士お互いを見ながら、笑っていった。
私達の視界に映る、もう一人の私の頬にと滴が零れ落ちる。
……私の瞳に映る私も、私と同じ顔をしていた。
そして、私達は、お互いを優しく包み込む。
こんな私を、癒せるのは、愛せるのは……私だけだから。
玄関の前で、靴にと履きかえる私達。
変装用の衣装に身を包みながら、私達は、鞄を肩にかける。
私達は靴を履き終えると、玄関の前にと置いてある等身大の鏡に身を映した。
そこにいるのは、服装は違うけれど、全く同じ顔をした二人の私の姿。
「そろそろいかないと」
「今日の予定は?」
「えーっと、午前中にラジオ1本、お昼は、後輩と一緒に赤坂でランチ。その後、雑誌インタビュー、後、TV収録1本、午後はライブ」
「こっちは、学校で追試受けた後、次の新曲の歌入れ、写真撮影だね」
「はあー……今日も過密スケジュール」
「文句言わない」
「はいはい。それじゃ……今日も一日頑張ろう」
「うん……」
そういって、私達は、お互いの顔に指をあてて、顔だけをもう一人の私にと伸ばし、唇を重ねる。
ゆっくりと顔を離した私達は、頬を赤く染めながら笑顔を見せる。
私達は、鏡に映る私達を見つめ合った。
「「いってきます……」」
駆けだす私。
アイドル。
それは、成長途中の少女たちの物語。
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