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アメジストの章
嵐の前の静けさ
しおりを挟むアメジストが死ぬ思いで階段を上りきった先には、今一番見たくない顔があった。
「お疲れ様でした、アメジスト様。
収穫はございましたか?」
例のニコニコ笑顔のキュッシュ領主に、アメジストは息を整えながら「殴りたい、この笑顔」と強く思う。
呼吸と気持ちを落ち着かせる為、「フゥゥー」と大きく息を吐き出した。
そして、「ーこの二枚」と領主から預かっていた陳情書と同盟書を返す。
「これらに関してギルドマスターは関わってると私の祝福で裏を取りました。
領主様が先に戻られてくれたおかげです。
ありがとうございました。」
領主は僅かに目を見開き陳情書と同盟書を受け取った。
少しだけ目元を緩ませて深く一礼する。
「お礼を申し上げるのはこちらの方です。
依頼を引き受けてくださり誠にありがとうございました、アメジスト様。」
「これが私の役目なんで。
ですが、もうこんなに体力を消耗するご依頼は御免こうむりますけどねぇ。」
アメジストは苦笑いで返事をして、転移魔法陣の紙を使い皇宮へと戻っていった。
☆☆☆☆☆
キュッシュ領主からの依頼の半月後、隊長が手紙を携えてアメジストの部屋に入ってきた。
アメジストは専属侍女とティータイム中で、隊長の差し入れの焼き菓子をちょうど口に入れたところである。
彼女は飲み込んでから隊長に話しかけた。
「誰からの手紙ですかぁ?」
「キュッシュ領主様からのお手紙です。」
「…折角のお菓子が不味くなるようなこと言わないでくださいよぉ。」
「………………」
隊長はノーコメントでアメジストに検閲済みの手紙を差し出す。
アメジストは渋々受け取った。
ー内容は予想通りゴワスギルドマスターの強制送還についての礼状である。
証拠品と自供書を揃えられたのでカーサーバー小国に滞りなく引き渡せた、との事だった。
皇宮に戻ってきてからアメジストはカーサーバー小国の法律について調べていた。
彼の国の規律は世界一厳しく、有罪と裁かれれば一週間以内に死罪という法律だ。
この手紙を読んでいる現在、元ギルドマスターは生きてはいないだろう。
罪人とはいえ人が死んだという事実に暗い気持ちになったアメジストは、ポイっと手紙をソファーに投げ捨てた。
「…アメジスト様。」
領主からの手紙をポイ捨てした事を隊長は無表情で軽くたしなめる。
アメジストはチラリとだけ隊長を見やった後、無視を決めこみ焼き菓子をまた頬張った。
ー後にアメジストはこの依頼を振り返った時に思った。
10年間のアメジストの役目で最大の案件の嵐の前の静けさだった、と。
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