夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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日常編

133 ちょこれーと

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 冬の月も後半戦。雪の降る日もだんだん少なくなっていく、少しずつ雪が溶け始める今日このごろ。
 ライくんとおつかいに出ていた私は、とあるお店で興味深いものを見つけた。

「ココアの身……」

 名前からしても、見た目からしてもおそらく間違いないと思う。これ、カカオだ。
 じっとそれを見つめていると、店の奥で休憩していた店主が様子を見に出てきた。

「おや、お嬢ちゃん。またマニアックなものに興味を持ったね」
「おじさん、こんにちは」

 ここは外国から輸入した様々なものを売っているお店。こうやって時々掘り出し物が見つかるので、時間のある時は覗くようにしているのだ。
 あまり人が興味を持たなさそうなものに興味を持つ子供として、この店の店主、目の前に立つおじさんは外国のいろんな話をしていくれる。

「これはね、南のエルドリン王国から持ってきたものなんだよ。すぐお隣にある国だというのに、あの森があるせいでこの町からは行けない。西の方をグルーっと回って苦労した末に手に入れたものさ」
「へぇー。やっぱりルテ―ルもりをつっきるのって、むずかしいんですか?」
「難しいなんてもんじゃないよ。そもそもあの森は、何故か奥に行こうとすれば森の手前まで戻ってきているからねぇ」

 そういえば、そんな話もあったような気がする。神獣の守る地に人が踏み入らないよう、結界が張ってあるんだったか。いつも普通に奥まで行っているから、うっかり忘れていた。下手なことは言わないように気をつけなければ。

「……それで、このココアの身って、なんですか?」

 話を逸らすよう、ココアの身について尋ねる。この世界では一体どんな風に使われているのか。そして、チョコレートはあるのか……。

「聞いた話によると、漢方に使われるそうだよ。まあ、使い方までは知らないんだけど。健康に良いんだって」
「かんぽうですか……」

 想定外の使用法にぽかんとする。ココアの身ってくらいだから、ココアにくらいはなるのかと思ったが。

「ただね、すごくあまったるーい飲み物になるらしいよ。というか、それほど甘くしないと飲めないくらいなんだとか。それはむしろ健康から遠ざかっちゃうんじゃないかとも思うけどねぇ」

 はははっと笑いながら冗談交じりにそういったおじさんはいたずらっぽい目をして私に訪ねた。

「それで、どうする?買ってくかい?」
「買います」

 即答した私に、おじさんは目を瞬かせる。

「いいのかい?おじさんも、調理法とかしらないよ?」
「はい。保存は効きそうだし、調べてみます」
「そうかいそうかい。勉強熱心だねぇ」

 実のところ、こっそり鑑定してみればそれは確かにカカオで、驚くことにチョコレートの作り方さえも分かってしまったのだ。力と忍耐が必要そうな作業工程だったが、魔法があればどうとにでもできる。わたしは心の中で、にんまりと笑った。


 無事ココアの身を手に入れた私は、その後のおつかいも上機嫌で済ませ、帰宅早々、キッチンを占領した。
 さて、始まりました。チナちゃんのドキドキワクワク、クッキング!今日はなんと、カカオからチョコレートを作ってみたいと思います!
 なんて茶番を挟みつつ、早速作業に取り掛かる。

 手に入れたココアの身は、すでに発酵、乾燥が済まされた、私のよく知るカカオそっくりだった。
 まずはこのココアの身を軽く洗い、フライパンで炒る。次第に香ばしいナッツのような、ほんのりフルーティーさも混じった複雑な香りが、部屋全体に広がった。
 そんないい香りにうっとりしている暇もなく、次は皮を剥き、必要な部分だけ仕分ける作業に入る。ここの仕分け作業は丁寧にやらないと、味が悪くなるため慎重に。なかなかの数があるため根気が必要だが、ここが頑張りどころだと気合を入れる。
 近くで作業を見ていたライくんが、いつの間にか手伝ってくれていたお陰で、想定より早く仕分け作業が終わった。きっとライくんは、私がおいしいものを作っていると嗅ぎつけて、味見の権利を貰いに来たに違いない。
 さて、仕分けの終わったココアの身だが、ここからは魔法の手番だ。頑丈な容器の中に仕分けた身を入れ、ウインドカッターの高速回転!一分ほどして蓋を開けてみれば、見事に粉砕されたココアの身が現れた。
 ここまで粉々になっていれば大丈夫だろう。次はそれを鍋に移し、湯煎にかける。ここで、私のよく知るチョコレートになるのだ。
 途中で砂糖を混ぜながらもじっくり溶かしていく。途中で諦めずに、サラサラに溶け切るまで頑張るほど完成したチョコレートは滑らかになるはずだ。甘く芳しい香りについつい負けそうになるが、私はじっとその時を待った。
 ……ざらつきもなくなり、誰が見ても滑らかな液体チョコレートになった。これを、薄く油を塗った型に流し込めば、あとは冷やすだけだ。

 保冷庫にチョコレートをしまった私を見て、ライくん絶望的な表情をする。気持ちは分かる。ここまで私達を誘惑する香りを垂れ流しておきながら、まだお預けするのだ。
 しかし!私達、制作者には特権というものがある!
 ニヤリと悪い顔を意識しながら、チョコレートを湯煎にかけていた器をライくんに差し出した。

 そう、ここには、すくいきれなかったチョコレートが残っているのだ!

 行儀が悪いと分かっていながらも、私はそれを指ですくいペロリと舐める。ライくんも同じように、一口舐めた。

「……!!」

 あまりの美味しさに、二人揃って固まる。まるで雷が落ちたような衝撃というのは、このことをいうのだろう。
 少し酸味は強い気がするが、フルーティーな香りと少しの苦み。程よい甘さで、複雑ながらも調和のとれた味わいだ。ザラザラ感も無く、舌触りは完璧。
 もう一口、もう一口、とそれをすくい取る指が止まらない。残り僅かなチョコレートは渡さない、ともはや競争かのように奪い合う。
 まさか、これほどまでとは……。冷やし固めたチョコレートを食べるのが俄然楽しみになってきた。

 器を直接舐め取る勢いだった私達は、その器がいつのまにかピカピカになっていたことで我に帰った。さすがにここで、まだ冷やしているものを取り出せば後悔することは目に見えている。甘い誘惑を断ち切り、大人しく後片付けを始めた。

 片付けは、ライくんも手伝ってくれたお陰ですぐに終わった。
 冷やしているチョコレートが気になって仕方が無いが、保冷庫の温度を考えるに、もう少し待ちたいところだ。
 それに、みんながいないところで出してしまえば、私達で食べきってしまいそうな予感がする。……焦れったいが、食後のデザートにでもするとしよう。

 大人しく他のことで時間を潰し、みんな揃って夕食を食べ終わったところで、いよいよチョコレートのお披露目タイムである。

 保冷庫から取り出したチョコレートを、まな板の上で逆さにし、型から取り外す。油を塗っていたお陰でするりと簡単に取り外せた。それを一口サイズにカットすれば、完成だ。
 器にもりつけてみんなのところへ持っていく。ライくんの熱い眼差しが少し痛い。

「……なんだ、それは」

 怪訝な顔をしたのはカイルさん。確かにチョコレートは、見慣れなければ少し異様なものに映るかもしれない。食べたらどんな反応をしてくれるのか、楽しみだ。

「え、それ食べ物だったの?」

 夕食作りのときに保冷庫の中を覗いているアルトさんは、冷やしている途中のこれを見たのだろう。また私がなにかやってる、くらいに思って特に気にしていなかったのか、ここまで何も聞かれることは無かった。
 しかし私が、ちゃんと食べ物に使う用の器や包丁を使っているのを見て、ようやくこれが食べ物だということに気がついたらしい。
 
 ふたりとも怪しむ素振りはあるが、わらび餅というスライムにしか見えないのに美味しいスイーツを食べた経験から、これも食べる気にはなっているようだ。
 あまり量はできなかったので、従魔たちも合わせて一人三欠片ずつ。ぜひとも味わって食べてほしい。

 一欠片を摘んでじっくり観察するカイルさんを見て、注意点を言うのを忘れていたことを思い出す。

 「これ、ずっとてにもってると、とけちゃうからきをつけてね。ふつうにかんでたべるのもいいし、くちのなかでとかしてたべるのもおすすめだよ」
 
 私の言葉を聞いて慌てたカイルさんが、手に持っていたものをそのまま口に含む。指先には溶けたチョコレートが少しついていた。言うのが遅かったみたいだ。
 思わずといった様子で食べてしまったカイルさんだが、衝撃を受けてかそのまま固まってしまった。少なくとも不味そうな反応では無いことに安堵する。

 私も溶ける前にと一つ口に含む。
 歯で噛めばパリパリと砕け、じんわりと口の中で溶けていった。まさに至福の時間。チョコレートこそがスイーツの頂点!ああ、ありがとう、お店のおじさん。ちょっと怪しい人だと思っていたことを撤回する。今、私の中であのおじさんは、神に近い存在へと昇格した。

 心のなかで感謝を述べる私を横目に、みんなもチョコレートを口へ運ぶ。その反応は様々だが、みんな黙って二枚目を食べ始めるあたり、気に入ってくれたのだろう。
 先に食べ終わってしょんぼり空のお皿を見つめるライくんに哀愁を感じた。

「すごいねチナちゃん。これ、つくったの?」
「うん。たまたま、ざいりょうをてにいれられてね」
「似たようなものは何度か食べたことあるけど、別格と言えるほど美味しかったよ。ありがとう」

 その美味しそうな顔が見られるだけで私は感無量です。
 名残惜しげにお皿をペロペロ舐めるコタロー。ホムラには少し食べづらかったのか、くちばしまわりにべっとりと溶けたチョコレートがついていた。
 普段甘いものをあまり食べないカイルさんですら、あっという間に食べきってしまう。みんなの口にあったようでホッとした。

 ただの自己満で作りたかったものだが、こうやって喜んでもらえるとなおさら、嬉しい気持ちが沸き上がってくる。
 この世界には無いイベントだが、偶然とはいえ、この時期にみんなにチョコレートをプレゼントできてよかった。

 私はひっそり、みんなへの感謝を込めて呟いた。
 
「……ハッピーバレンタイン!」
 


 後日、取っておいたチョコレートを持ってあの怪しいお店の前に立つ。

「おお、お嬢ちゃん、いらっしゃい。今日は何を見ていく?」
「ううん、きょうはべつのようじ」

 私はポシェットの中からチョコレートを取り出しておじさんに渡した。

「こんど、みなみにいくことがあったら、ここあのみ、いっぽいしいれてきて!」
「ほう、これがココアの身でできたものか?」
「とけやすいからきをつけてね。それじゃ、よろしくおねがいします!」

 要件だけ言った私は、にんまりと口角を上げながら店を離れる。きっと、あのおじさんのことだから私の想像通りに動いてくれることだろう。

 ――袋を開け、中身を手に取り、匂いを嗅ぐ。そして……

「な、なんじゃこりゃーっ!!」

 これでおじさんもチョコレートの虜。次はきっと、大量のココアの身を仕入れてきてくれることだろう……。
 
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