神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
502 / 812

1月20日 予想外

しおりを挟む
思わず口をついて出た言葉だったのに、私はこれ以上ないくらい落ち着いていた。どくんどくんっと早鐘を打つ心臓も、周りの木々を揺らす風の音も、はっきりと聞こえてくる。手足の先が冷たくなっていく。震えて来た。返事を聞くのが怖い。でも、羅樹が安心出来る関係ではもう、いられないのだ。
羅樹は目を丸くして、ポカンとした表情を浮かべている。
「…夕音、僕のこと好きなの?」
「…」
改めて問い掛けられて、緊張が走る。これに頷けばもう戻れない。冗談だよ、なんて誤魔化せない。それでも私は、先に進みたいと思った。小さく頷くと、羅樹は体の力が抜けていくように、その場にしゃがみ込んだ。
「良かったぁ…!僕、てっきり夕音に嫌われてるんだと思ってた!」
「…へ?」
ふにゃっと柔らかな笑みでこちらを見上げてくる羅樹にドキッとしながらも、私は戸惑いを返す。
「夕音は優しいから、嫌いな僕とでも一緒に居てくれるんだと思ってた。そっかぁ、良かった…」
「ちょっと待って。私が、羅樹を、嫌い…?」
「うん。だって夕音、僕にちゃん付けで呼ばれるのも嫌がってたし、その後あんまり話してくれなくなっちゃったし。今は一緒に帰ってくれるけど、いつも気乗りしない様子だし」
思い当たる節がありすぎて、ぐうの音も出ない。周りに揶揄われるのが嫌だったことや、羅樹への思いを自覚してなかったが故の行動であった。今登下校を共にするのに気乗りしていないのは、恥ずかしくて仕方ないせいである。何が悲しくて何とも想われていない片想いの相手と四六時中、一緒に居なければならないのだ。たまには離れさせてくれ。想いを整理させてくれ。そんな願いも許されないのか。
「それは、悪かったけど…でもちゃんと理由があって…」
「理由?」
立ち上がった羅樹に真っ直ぐ見つめられて、心臓がうるさい。
「…普通は幼馴染と登下校なんてしないの!」
「そうなの?でも雪くんは霜月さんと一緒に下校してることがあるよ?」
「あの2人は幼馴染といえば幼馴染だけど…そもそも付き合ってるでしょ!?そういう関係でしか普通は一緒に帰らないの!」
私が照れ隠しを誤魔化すように叫ぶと、羅樹は目をぱちくりと瞬いた。
「そうなの?」
「そうだよ!私達はそういう関係じゃないでしょ!?」
「じゃあそういう関係なら、夕音は一緒に帰るのに抵抗なくなる?」
「へ!?えっと、まぁ、多少は…?」
「そっか」
羅樹は満面の笑みで、私の手を取った。
「じゃあ夕音、僕と付き合おう!」
「………………は?」
羅樹の言葉の意味を、今度は私が理解できなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...