小石井あきらの第二の人生

櫟 真威

文字の大きさ
11 / 23
小石井家

あきら 《二日目》

しおりを挟む
決まった時間に自然に目が覚める。
もしかしたら、寝過ごしてしまうかも知れないと思ったが、杞憂だった。

初めての時って、異物感で上手に歩けないとか、気だるくて動けないとか、そんな風に聞いたんだけど。
普通に行動できる自分を、もしかしたらいやらしい体質なのかも、といぶかしむ。
タオルにも血がついてなかったし……。

あきらは、蔦からの指導通りに支度をして行く。
お蔦ノートのお陰で、朝食は好評価。
昌武のネクタイ選びだけが難関だ。
だが、昌武の視線を辿ると、どのネクタイを欲しているかわかったので、なんとかなった。
芸能人の妻は、チーフまで選ぶと云うから頭が下がる。
麟太郎の弁当には卵焼きは必須。

あ、明日から二人を起こさねばならなくなったのだった。

あきらは、ノートを広げた。
ルーティンワークを書き連ねている。
その中に、「二人を起こす」も書き加えた。
起こす、どんな風にすればいいのだろうか。
寝坊したら、トーストを咥えたまま走るのかしら。

他人と暮らすことを改めて感じた。

階段を降りてくる音がした。
この足音は麟太郎だ。
軽く、ぱたぱたとリズミカルだ。

「行ってらっしゃい」

あきらは玄関まで行き声をかけた。
麟太郎は両手を広げてあきらを見た。

「え?」

「行ってらっしゃいのハグだよ」

え。
そういうのが、普通の家庭ではあるのだろうか。
麟太郎は催促するように、ほら、と云った。
あきらは、ままよ、と抱きついた。
麟太郎があきらを抱き締めた。
あきらの髪に麟太郎は鼻を埋めた。
親子だなぁ、とあきらは思った。

麟太郎は満足したように出掛けた。
あきらは門扉まで出て見送る。

「あんまり甘やかしちゃいけないな」

背後に昌武がいた。
靴べらで肩をとんとんと叩いている。
あきらはその靴べらを受け取った。

「気をつけます」

どの辺が甘やかしになるのか、あきらにはまだわからない。
にへら、と笑ったあきらを昌武は見つめた。
がば、と抱き締め、深いキスをする。
あきらは慌てる。
門扉、ということは外だ。
恥ずかしい。
じたばた抵抗するが、昌武はびくともしない。

「じゃ、行ってくるよ」

「はひ……」

昌武がものすごくご機嫌に見えた。
はす向かいの家から、ごみを持って出てきた白髪の男性が、あきらと目が合い野卑た笑いを浮かべた。

「小石井さんとこの嫁さんか」

「あ、はい。
あきらです」

「班長の川端です。
わかんないことがあったら教えるよ」

「ありがとうございます」

「小石井さんも、ようやくめんこい嫁さんもらって落ち着くのかな?
いやね、あすこは女出入りが派手だったからね」

「はあ」

あきらは苦笑いをする。
評判になるほどなのか。

「夕べは寝かせてもらえなかったんじゃないのかい?
腰がくがくじゃないの」

川端はにやにやしながらあきらの身体を舐めるように見た。

「いえ、お陰様でぐっすりと。
では、失礼します」

あきらはにこやかに一礼して家に入った。
老人の話は長い。
あきらにはそれに付き合う義理も時間もないのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...