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ゴールデンウィーク お泊まり編

7日目 今も過去も愛せるように⑥

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意識がしっかりとし始めたのは
とある人の声が頭にひびき始めてからだった。

「…!」

…嘘…だ…よね??

「…華!」

ずっとそばに居たのに
私って…
友達すら…救えなかった…の…?

「…冬華!」 

罪悪感と焦燥感が心を埋め始めるのと同時に、自己否定感が心を塗り始める。

…てか
…そもそも私は彼女を救おうとして動いてた??
ただ、そばに居るだけで
彼女のいじめを無くそうと動いたことあったっけ。
…いや…うん…
たぶん、自分がいじめられるのが怖くって、動けてなかった…

そう考えたら私って…必要なかったじゃん。

…何、してるんだろ私って…

「冬華!!!!!!!」
バチン!!!!
ものすごく大きい破裂音が空を切った。
頬がジンジンと痛みを感じる。
口から普段なら出るはずのない赤い液体が垂れた。

…誰だよ、今の私にこんなことするなんて…
…私も愛美に続けって言いたいの??
そうだよね…実質共犯と同じだし
ただただ傍にいる傍観者
近い存在だからこそ、分かることがあったのに
動くべきことがあったのに
それを全部無視して、自分の身を守るために動いた畜生
…きっと、愛美も私が助けてくれるって思ってたんじゃないかな
私、きっとそんな希望を自然と踏みにじってたんだろうな…

…失った命はもう戻らない
なら…どうやって償うか…

…分かったよ…愛美
…今から
…私も

「正気を取り戻せばか!!!!心配したんだからな!!!!」
つんざくような声が耳に響く
何十回も何百回も聞いた声が、いつもより荒々しく屋上に響いた。
ジンジンと感じる痺れるような痛みと
その声が私の意識を正気に戻す。

「…あれ??」

周りを見るとそこには
涙を瞳に貯める鳴海と数人の警察がいた。
周りには普段聞きなれないサイレンが聞こえる。
多分、警察とともに鳴海が屋上に様子を見に来てくれたのかな…

「あーもう…ほんと…ぬぁ…ううぅ……バカ…バカバカバカ…バカァ!!!」

鳴海はわんわんと泣きじゃくりながら
私のことを強く抱き締めている。
私が起きたこともあり
そばで様子を見ていた警察も安堵の顔を浮かべ、屋上の調査を始めた。

うるさいほど泣きじゃくる鳴海とは裏腹に
私は涙は一滴も出なくなっていた。

数分後
様子を伺うように
警察が私に話しかける。

「…とりあえず、今日はお家に帰って体と心を癒してください。大きく疲弊しているはずです。学校もしばらくお休みになると思うので…はい…。」
「…そうですか、分かりました。」

そりゃ…そうだよねお休みにならないわけが無い

人が死んだのだから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

それからの記憶は断片的にしか残っていない。
数日の休校期間中
私は何回か警察に呼ばれ状況を説明する
そして帰って死んだように眠る。
それが休講期間の記憶だ。
それ以外の記憶は一切ない。
その間、鳴海やその他の友達から連絡は来ていたものの、ほとんど返していなかった。
正しくいえば、返す余裕がなかった。

生きるためだけの最低限の食生活と睡眠
そして、警察の人たちとお話する。
そんな生活が続いた。

そして、学校があらためて始まる。
いつも通り私は学校を訪れ、いつとの授業を受ける。
多分、いつもと同じように人と話していたし、なんともない顔をしていたはずだ。
それでも、詳しい記憶は残っていない。

授業が終わり、放課後の時間になった。
私は今日だけは部活動をサボり、あそこに向かう。
そう、屋上だ。

屋上へ向かうドアは以前より固く閉ざされ、開きそうにはなかったため、この前と同じ場所を通る。
3年生は時期も時期だったため
自由登校期間なためもう居ない。
そのため、誰にも邪魔されずに私は屋上に向かうことが出来る。
自然と足取りは軽く、気づいた頃には屋上に来ていた。

「…愛美」

自然と彼女の名前が口からこぼれる。
しかし、悲しみや怒りなどの感情は一切ない。
逆に、私の心は安心感に満ち溢れていた。

以前とは違い心地いい風が屋上を満たしている。

「…心地いい」

その風はまるで愛美の愛情のようにも感じることが出来る。
やっぱり、愛美も待ってるのかな…

それから私は、しばらくの間屋上の景色を楽しんでいた。
グランドから聞こえる揃った部活動の声
そして、楽しそうに下向する帰宅部たち
ここからは体育館も見えたこともあり、鳴海達が活動しているのも見える。

そして、気づいた頃には、周りの空の色はオレンジ色に変わっており、ほとんどの部活動が終わりを告げる時間になっていた。

そろそろ…かな

オレンジ色のあたたかい光が強くなるこの時間
その頬を濡らすオレンジ色の灯りに
そっと流れた一筋の雫が反射した。

そして
私は彼女と同じ場所に立ち
そっと
宙に体を預けて
そのまま…

愛美と同じ道を進むことを選んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…」
幸運といえばいいのだろうか
それとも不運なのだろうか。
私は病院のベットの上で目を覚ました。
嗅ぎなれない薬品の匂い
うっすらと開く目からは、白い清潔感のある天井が見える。
少しぼやけて見えたものの、意識はあるようだ。

ピコンピコン

耳もはっきりしてきたのか、心拍数を図る機械の音が聞こえ始める。
それと同時に、手に感じる優しい温もり。
流れていく時間と同時に5感がどんどんはっきりして来たようだ。

「起きてください…お願いします…お願いします…」

聞きなれない声も聞こえる。
しかし、手の温もりを感じているのもあり、嫌な感じはほとんどない。

その声の主がわかったのは、呼び続ける声が何周もした時だった。
視覚もしっかりしてくる。
声のする方へく顔を向けようとしても、首が動かない。
動かそうとしてもとてつもなく痛みを感じる。
…折れてるのかな…?

視線だけを向けると、そこには人がいるのがわかる。
しかし、はっきり誰か判別できるほどは見えていない。
誰だ??
身長や髪型から
男の人が立っていることはわかった。
お父さん…?
いやいや…こんな雰囲気では無い…
でも…なんか見た事が…

ぼやけて見える視界に映るのは若い男
かすかに見覚えはあるが、ほぼないと言ってもいい。

すると、そばに立ち手を握りってくれていた男が私が意識を取り戻したことに気づく。
すると、明るい声とともに話し始めた。

「…はっ!起きたんですか!!!?良かったー!!!」

「え…誰…」

幸いなことに喉は潰れていなかった。
しかし、目が覚めて最初に出た言葉はこれである。

「え!?僕ですよ!僕!!クラスメイト!クラスメイト!」

山崎春樹です!

ぼやけて見えない視界の奥に見える男
山崎春樹。

この時私は初めて、春樹くんと言葉を交わした。
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