転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
30 / 229
第一章 神聖イルティア王国編

デビッドの思い ~デビッド殿下視点~3

しおりを挟む
 デビッドは『黒の魔導結晶』を受け取ると、早速それを身に着けてみた。

 すると、特にマナを引き出した様子もないのに、まるで自分がその魔導結晶から力強いマナを貰っているような錯覚を覚えた。

「す・・・すごい!!」

 その不思議な感覚に心躍ったデビッドは、早速その効果を確かめるべく行動することにした。

 しかし『黒の魔導結晶』の効果を公にできないデビッドはそれを表立って使うことはできなかった。

 しかし、王族であるデビッドは騎士団の訓練に参加する以外で、一人勝手に戦闘訓練をすることはできない。

 そこで、デビッドは母であるミリフュージアに「秘密の特訓をして義姉ねえさんと兄上を見返したいから、誰にも見られず一人で訓練できる時間と場所がほしい」と言った。

 もともとデビッドの悩みを理解していたミリフュージアは、デビッドの訴えを聞いて王宮内の中庭で人払いをし、離れたところに侍従を待機させることを条件にそれを承認した。

 そして、数日後・・待ちに待った秘密の訓練の為、デビッドが王宮の中庭へ向かおうとした時に王宮内でハーティとばったり会うこととなった。

「あ、デビッド・・」

 ハーティは突然の遭遇に気まずそうな顔をしていた。

 おそらく前回闘技場で敗北した後に、碌に挨拶もないまま立ち去ったことを心配しているんだろうとデビッドは思った。

(本当に義姉ねえさんは優しい方だ・・・)

(ただ、その優しさが今まで辛かったこともあるんだけどね・・)

 だが、既に自身の不遇を打破する手段を見つけたデビッドは、ハーティに明るく振る舞うことにした。

「あ、こんにちは。義姉ねえさん。今日も王宮に来てたんですねっ!お妃教育ご苦労様です!」

 その言葉を聞いたハーティは驚いているようであった。

(きっと、急に元気になっているから不思議におもったんだな・・)

「ええ、お気遣いありがとう。デビッド」

(でも、この『新しい力』を手に入れた僕を見れば、きっと義姉ねえさんが僕を見る目も変わってくれるはず!)

 そう思って、居ても立っても居られないデビッドは中庭へ急ぐことにした。

「では、僕は少し用事がありますので失礼しますね!」

「ええ、またね」

 そんなデビッドを見たハーティは終始不思議そうな様子であった。

 そして、中庭に到着したデビッドは侍従から木剣を受け取ると、彼にも席を外すように指示した。

 そして、周囲に誰もいなくなったことを確認すると、徐に胸元の魔導結晶を取り出した。

「・・・・頼むよ」

 デビッドは魔導結晶を握って願掛けをすると、再びそれを胸元に仕舞い込んで『ブースト』の詠唱キャストを開始した。

 そして、詠唱キャストが完了した瞬間・・・。

 デビッドは、自分の体から何か不思議なものが吸い出されたような錯覚を受けた直後に、自身の体に爆発的な力が漲ってくるのを感じた。
「すごい・・・力が漲ってくる!!」

 デビッドは試しに手に持っていた木剣を軽く振るってみた。

 ・・ビシュン!

 すると、木剣は残像を残しながら小さな風を巻き起こしていた。

 続いてデビッドは脚に軽く力を入れて駆け出した。

 ・・ドォン!

 次は、爆発的なスピードで一気に中庭の端まで駆け抜けることができた。

「・・・最後は、魔導・・か」

 そう言うと、デビッドは緊張しながら腕を前に伸ばして掌を上に広げた。

 そして、炎属性の初級魔導を発動する為に詠唱キャストし始めた。

 ・・・・・。

「ファイア!」

 ボゥゥゥ!

 するとデビッドの掌から小さな炎が上がった。

 『ファイア』の魔導は意識した場所に小規模の火を出現させる生活魔導である。

 小規模ではあるが自分が始めて目に見える魔導を発動できたことにより、デビッドは興奮した。

「すごい!すごいぞ!この魔導結晶は!!」

 魔導結晶のマナを使用して発動する魔導は、特に持続型の場合において魔導結晶内の残存マナに比例して魔導の発動力が低下してくる。

 特にマナの消費が激しい『ブースト』の魔導であれば、かなり高価で大型な魔導結晶を使って発動しても、長時間の発動はできずに発動力が目に見えて低下してくるものである。

 だが、今現在までデビッドは『ブースト』を発動したままであったにも関わらず、その発動力には何ら変化を感じなかった。

 つまりは、この魔導結晶はそれほどのマナを内包しているということであった。

「これさえあれば・・・・兄上も・・・・みんなも・・そして義姉ねえさんも・・見返すことができる!!」

「あのユナさんだって・・・打ち負かすことができる!!」

「そうすれば、きっとみんなもっと僕を頼ってくれる!」

デビッドがそう思うと、彼の中に不思議な昂揚感が湧きあがってきた。

義姉ねえさんも、兄上なんかより僕のことを見てくれるようになる!!」

「そうだ、魔導さえ使えれば、僕は兄上より優れているはずなんだ!」

「いままで我慢してきたものも、なにもかも手に入れることができるんだ!」

「ははははははは!」

 デビッドは湧き上がる昂揚感に合わせて高笑いを上げた。

 そして、昂揚感と共にデビッドの心からはどす黒い欲望も湧き上がり始めていたのであった。





・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。





(イラ様・・・無事デビッド殿下に『例のもの』を渡せましたね)

((うむ、どうやら早速『黒の魔導結晶』を使い始めたようだ。我の見込み通り、彼奴と『黒の魔導結晶』は非常に相性が良いようだ))

(それで、『黒の魔導結晶』をデビッド殿下が使うと、どのようなことが起こるのでしょうか)

((ふん、まあそう焦るな。このまま彼奴が『あれ』を使い続けて彼奴自身とより同調するようになってきた時こそ、へ最初の一歩を踏み出すときとなる))

(それは楽しみですな)

((ああ、だ・・・・!))

邪悪に微笑むアレクスの体からは、うっすらと黒い霧が湧きだしているようであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...