転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
31 / 229
第一章 神聖イルティア王国編

リベンジマッチ

しおりを挟む
 ハーティがユナに『女神の絆イルティア・レ・ファティマ』を授けてからも、二人はしばらく『ブースト』状態での動きに慣れるための秘密特訓を行っていた。

 そして、それからしばらくの時が経ったころ・・・。

 ハーティとユナによる『ブースト』の制御訓練が功を奏して、ユナはかなり状況に応じた『ブースト』効果の調整ができるようになった。

 そして、二人は適切な処置を行えば魔導の素質が見込めない人間にも身体強化魔導を使えるようにできることを確証できた為、かねてより考えていたデビッドへの処置を提案しようと思い、彼の下へと向かった。

 ハーティが王宮内でデビッドを探していると、すぐに自室から出てきたと思われるデビッドを見つけることができた。

「デビッド!」

 ハーティは手をぶんぶんと振りながら元気よくデビッドに声をかけた。

「あ、義姉ねえさん。どうしたんですか?」

「デビッド、探していたのよ!前の話をぶり返すようで申し訳ないけど、闘技場の件で・・・」

 そう途中まで言いかけたハーティの言葉を切ってデビッドは語り始めた。

「ああ、そのことはいいんですよ。もう全く気にしていませんので・・」

「え?」

 ハーティはデビッドの突然の言葉に驚いた。

(あれほど悩んでいた様子だったのに、どういうことなんだろう・・・?)

「そんなことより、僕も義姉ねえさんたちを探そうと思っていたんですよ」

「え、そうなの?」

「正確にはユナさんに用事があったんです」

 そういいながらデビッドは僅かに微笑んだ。

「私?ですか?」

 いきなりのデビッドによる指名に、ユナは首を傾げた。

「ええ、この前の模擬戦は不意を突かれて負けましたからね・・・『リベンジマッチ』をしたいのです」

「リベンジマッチ?」

「ええ、あれから僕なりにいろいろ特訓しましてね、今ならきっとユナさんに勝てると思うのです。だから手始めにユナさんにお手合わせを願いたくて・・」

(やっぱりデビッドも前の事を気にして特訓していたのね・・)

(たしかに前だったら僅差だったから短期間の特訓で勝利も見込めるけど・・今は・・)

 結局ユナも『ブースト』を使いこなせるようになったので、下手をすればデビッドが前よりもひどい負け方をしかねないことをハーティは心配していた。

 だからこそ、ハーティはデビッドにマナの流れを変える処置について説明しようとした。

「デビッド、その前に聞いてほしいことがあるの。デビッドの『魔導について』なんだけど・・」

「ああ、それもいいんです・・・僕はようやくがわかったんですよ」

「だから、と戦って欲しいのですよ」

「でも・・・」

「・・・いいでしょう」

「え、ユナ!?」

 ハーティはどう良いように解釈しても、デビッドがユナに惨敗する姿が目に見えたので、何とかデビットを説得してリベンジマッチをやめさせようとした。

 しかし、その言葉を途中でユナが断ち切ってデビッドとのリベンジマッチを受け入れることに驚いた。

(デビッド殿下も折角立ち直ったのです。ここは『ブースト』を使わずに正々堂々と戦えばいいではありませんか)

 そう小声で言うユナの言葉を聞いて、ハーティは納得した。

「ちょうど今日、騎士団の訓練に参加する日ですし、いかがでしょうか」

「なるほど、僕はいつでも構いませんからね、今日にしましょうか」

「もちろん、義姉ねえさんも観に来ていただけますよね」

「え・・・ええ、もちろんよ!」

「よかった・・僕がユナさんに勝つ姿・・きっと義姉ねえさんに観てもらいますね!」

「私はユナも好きだからどっちも応援したいけど!デビッドの雄姿を楽しみにしているわ!」

「うん、待っててね・・義姉ねえさん」

そう言いながら不敵な笑みを浮かべるデビッドに、ハーティは不思議な違和感を覚えたのであった。





・・・・・・・。
・・・・・・・・・。





 それからしばらくして、デビッドとハーティは再び闘技場で相対していた。

 ハーティはその様子を前回と同様に観覧席から眺めていた。

「双方準備はよろしいでしょうか?」

 ラナウェイがいつも通り二人に声をかけると、どちらも静かに頷いた。

「それでは、これよりデビッド殿下とユナ嬢の模擬試合を始めます。・・始め!!」

 ラナウェイの試合開始の合図と共に、ユナがデビッド殿下の方へ飛び出した。

 ユナはハーティへの宣言通り、『ブースト』の魔導は一切発動していなかった。

 そして、ユナがデビッドに迫って木剣を振りかぶった瞬間、デビッドの姿がように見えた。

「・・・・・!」

 そして、姿が消えたと思ったデビッドはいつの間にかユナの背後に回り込んで双剣を振るっていた。

「な・・・・に!?」

 ユナにデビッドの姿は見えなかったが、卓越した反射神経により背後の剣戟を受け止めた。

 しかし、その双剣から繰り出したと思えないような重い衝撃に、ユナは体諸共吹き飛ばされた。

 ユナは空いた方の手と両足を使って着地し、後方に滑っている速度を殺して何とか持ちこたえようとした。



 ズザザザザァ・・・・・・。



 そのままの姿勢で数十メートル程滑った後に、ようやくユナは静止することができた。

 一撃で今までのデビットと段違いの戦闘能力であることを悟ったユナは、地面を滑りながら『ブースト』の詠唱術式キャスト・スペルを口ずさみ始めていた。

 しかし、ユナが静止する頃にはデビッドが眼前に迫ってきていた。

(この動き・・・どう考えても普通の人間ができる動きじゃない!)

 デビッドの動きを唯一目視で確認できたハーティは、それが瞬時に何らかの『外的要因』によって強化されたものであると判断した。

 そして、棒立ち状態であったユナにデビッドの攻撃が迫ろうとした瞬間、ユナの詠唱キャストが完了して『ブースト』の魔導が発動した。

 それと同時に動体視力や思考能力も強化されたユナは、今まで視認できずにいたデビッドの攻撃をぎりぎりで捉えた。

  ガキィィィン!

 そして、およそ木剣同士が交わるものとは思えない音を鳴らして、その攻撃を受け止めたのであった。

 2度目の防御は、ぎりぎり発動が間に合ったユナの『ブースト』によって強化された膂力りょりょくで防ぎきることができた。

 そして、デビッドが自信を持って放った攻撃を防がれたことで、目を見開いた。

 その予想外の出来事で驚いた様子のデビッドは、ユナに対して一旦距離を取り合った。

「へえ・・『ブースト』ですか。使えるんですね」

「・・ユナさんということは、殿下『ブースト』を発動しているんですね」

「・・・どういう技を使ったのかは知りませんが・・あなたは僕には勝てませんよ」

そういいながらデビッドは不敵な笑みを浮かべた。

「・・それは、こっちのセリフです!!」

 その時、二人は同時に踏み出した。

 ドゥン!

 二人のあまりに強力な膂力りょりょくによる踏み込みによって、大きなクレーターが2つ生まれたと同時に、闘技場には嵐のような風が吹き荒れた。

「な・・なんだ!?全然見えないぞ!!」

「いったいなにが起こっているんだ!」

 『ブースト』で強化された二人の動きは常人には視認できないほどで、ギャラリーとなった騎士団員たちは何が起こっているのか理解できていない様子であった。

 視認できないほどの激しい戦いが繰り広げられていることにより、闘技場の彼方此方あちこちにクレーターが発生していた。

(いったいどういうこと!?『ブースト』によるマナ消費よりも高いマナ出力を持つユナはまだしも、どうしてデビッドがこれだけ長時間『ブースト』を発動し続けることができるの!?)

 あのマクスウェルですら、『ブースト』の魔導を長時間発動することはできない。

 それほど『ブースト』のマナ消費は激しいものである。

(デビッドは自分で『マナ出力の秘密』にたどり着いた??)

(いえ、だけどマナ出力の流れを変えるには私のようなな存在がいないと不可能なはず・・・)

 しかし、ハーティがどれほど考えを巡らせても答えは見つからなかった。

 ハーティが考えを巡らせている間も激しい戦いは続いていた・・。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...