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第二章 魔導帝国オルテアガ編
神器創造
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相変わらずの『最敬礼』をした格好のまま、エルフの男は自己紹介を始めた。
「私はエルフのシグルドと申します。よろしくお願いします。ハーティルティア様」
「今日は何故にこのような場末の武器屋などにお越しいただいたのですか?」
シグルドと名を語ったエルフの態度に不満を持ちながらも、ハーティーはひとまず本題に移ることにした。
「私の武器を探しにきたんですよ」
「なんと!光栄にございます!ですが・・・神族が振るうような破邪の神剣など、どんな武器屋にも売っていないと思いますが・・」
「そんなものがそこら辺にホイホイ売っていないことぐらい知っています。魔導銀製の剣が欲しいんです」
「はあ、それでしたら何振か・・持ってきますね」
そう言うとシグルドは数本の剣を持ってきた。
「女神様が扱うには足らない剣ですが、一応私が作ったものの中でも高品質なものです。どうぞご覧になってください」
「うーん」
ハーティーが並べられた剣を見ていると、一つ気になったものがあった。
「これは・・『ガンブレード』?」
ハーティーが手に取ったのは、リボルバー式拳銃の銃口部分が長く伸びて、片刃ブレードになったような形をしたものであった。
そして本体のブレード部分は折り畳まれていた。
「はい、魔導帝国に来たので折角だからって試作した『魔導剣』です」
「『魔導剣』?」
「はい。リボルバーの所に『魔導莢』を装填して使うんです」
「『魔導莢』は魔導式が刻まれた本体とその発動に必要な魔導結晶が一体となったものです」
「本体には数種類の『魔導莢』が装填できて、それによって誰でも素早く魔導が発動できるので、魔導が使えない冒険者向けに開発されたのが『ガンブレード』です」
「これは本体を魔導銀で作ることで専用の『魔導莢』からマナを供給すれば切れ味や硬度の向上なども可能かなと期待して作ったんですが・・結局道楽の域を出られなかった失敗作ですね」
「そもそも『ガンブレード』自体が装填する魔導の種類によって使い捨てである『魔導莢』の値段が高くなってしまうし、剣としての取り回しや強度が普通のものに対してどうしても劣るので、あまり使われることがない武器ですから」
「わたしはこのデザインとギミックが気に入っているですけどね・・・。
そう言いながらシグルドは目を伏せた。
「僕は帝国が発明したこの『ガンブレード』に感銘を受けて、自分も優れた魔導の武器を作りたいと思いリーフィアから飛び出したんです」
「あと、リーフィアを飛び出したもう一つの理由は、リーフィアの信仰する『女神教』の教義では偶像崇拝を禁じているということに納得出来なかったというのも有りますが・・」
「美しき女神様を形にできないなどなんと嘆かわしい!しかし今こうして目の前で顕現されている女神ハーティルティア様を拝顔しますと、女神像すら霞むほどの美しさ!正に神々の頂点に立つお方!唯一無二の美貌であります!はあ・・尊い」
そう言うシグルドの瞳は完全に何かがキマっているような危ないものであった。
「そ・・・それはどうも・・・」
とにかく、どうやらシグルドにとって『ガンブレード』は非常に思い入れがある剣のようであった。
そして、『ガンブレード』を見たハーティーはあることを思いついた。
(これを元に剣を作れば、魔導の加減もやりやすいし、周りの目を気にせずに魔導を発動できるかもしれない!)
そう思ったハーティーは魔導銀の『ガンブレード』を譲ってもらうことにした。
「わたしはこの『ガンブレード』がいいのでこれを買いたいです」
「!」
ハーティーの言葉を聞いたシグルドが目を見開きながら瞳を潤ませた。
「ハーティルティア様の眼鏡に叶うならこれ以上の喜びはありません。どうぞ、差し上げますので持っていってください!」
そしてシグルドは何と『ガンブレード』をタダで譲ると言い出したのだ。
魔導銀製で細かなギミックが組まれた『ガンブレード』は間違いなくとてつもなく高価な逸品のはずである。
「い、いえ!そんな!タダではもらえませんよ!」
ハーティーがそう言うと、シグルドはキョトンとした顔をする。
「なぜです?ハーティルティア様が望む物は何であれ全身全霊をもって差し出すのが我ら人間の義務なのでは?」
「ハーティルティア様が望めばリーフィアの女王は国そのものすら喜んで差し出しますよ」
「ちょっとあなた達の女神に対する信仰がぶっ飛びすぎて理解できません・・・」
「とにかく、適正価格で買いますので値段を教えてください」
「はあ・・ですがこの剣の価格は金貨八百枚ですよ?」
「はっぴゃく!?」
ハーティーは『ガンブレード』があまりに高価で立ちくらみを起こしそうになった。
何より出会ったばかりの『女神らしき人』にそれをタダで譲ろうとしたシグルドの考えが驚きであった。
「・・・正直私は金貨二百枚弱くらいしか手持ちがありません」
「提案なんですが、ここだけの話にしてもらえるならお店の剣を一本私の『錬金魔導』で強化します」
「その代わり私の有り金全部でその『ガンブレード』を譲ってくれませんか?」
ハーティーの言葉にシグルドが喜びの表情を見せた。
「おお!女神様がうちの剣を強化してくれるのですか!それは素晴らしい!それでしたら尚のこと費用はいりません!」
「え・・わたしはそんなつもりじゃあ・・と、とにかく出来た品を見て判断してください」
「とりあえず、魔導銀製の剣を何かしら一本見繕ってください。それを強化します」
「おお!でしたら!」
そう言うとシグルドは店の奥から丁寧に布で包まれたロングソードを取り出してきた。
「これは、亡き祖父がリーフィアで鍛治職人をしていた時に打った形見の剣です」
そう言いながらシグルドは剣を撫でた。
「そ、そんな大事な剣を素材にできませんよ!」
ハーティーの言葉を無視してシグルドはその剣をハーティーに差し出した。
「いいえ、だからこそです。祖父も敬虔な『女神教』信者でした。そんな祖父の傑作を女神様に鍛えてもらえるならこれ以上の喜びはありません。さあ、どうかお願いします」
「・・・そういうことでしたら」
覚悟を決めたハーティーは収納魔導から昨日破壊した魔封じの枷を取り出した。
そして、錬金の魔導を発動する。
すると、枷の破片が輝きながらロングソードに溶け込んだ。
そして、シグルドの剣が美しい白銀色になった。
ハーティーはその剣の刃を掌でなぞる。
すると、刃の部分に『還元』の魔導式を刻み込んだ。
本当は『女神の絆』のように上級防御魔導や『ブースト』の術式も刻もうと思ったが、ユナやハーティーのような人並外れたマナ出力がなければどのみち使いこなせないのでやめておいた。
『還元』はマナ消費が少ないのである程度マナを込められる術者なら長時間発動できるので、剣としての『切れ味』は申し分ないはずである。
「はい、出来ましたよ」
「ププププ・・・・」
「ぷぷぷ?」
ハーティーが出来上がった剣を差し出すと、シグルドは震えながら意味不明な言葉を発し出した。
「神白銀ではないですか!?ああ、なんてことだ!!まさか『実在』していたとは!」
「え、気に入りませんでした?」
ハーティーは剣の出来が気に入らずに「弁償してくれ!」と言われるのじゃないかと冷や冷やしていた。
「そんなわけありません!まさか金貨八百枚ぽっちのために神白銀の剣を賜るとは!」
「逆に私は何を代償に差し出せば・・・」
「この剣は間違いなく『神剣』として未来永劫大切に保管します」
「こんな素晴らしい『神剣』を賜り感謝します!」
「ど・・・どういたしまして?」
ハーティーはシグルドが喜んでくれたようなのでひとまずほっとした。
「こんな素晴らしい物を頂いたのにわたしは差し出す物がありません。せめてうちの魔導銀の剣全てをもらってくれませんか?そうでもしないとわたしの気が収まりません!」
「わ・・わかりました」
シグルドの剣幕に怯んだハーティーは魔導銀の剣を受け取ることにした。
「では、次は私の剣と髪飾りを作りましょう」
そう言うとハーティーはもらった数本の剣と魔封じの枷の破片、そして収納魔導から先ほど購入した髪飾りも取り出して並べ、纏めて一気に『錬金』した。
パァァァァ。
並べた素材が眩く光り輝くと、それらは素体となる髪飾りと『ガンブレード』に溶け込んだ。
そして、どちらも美しい白銀色になった。
続いてハーティーが手慣れた手つきで魔導式をそれらに刻んでいった。
「よし!完成!」
「私は今・・神器創造の瞬間を目撃しているっ!」
それを見たシグルドは感動に打ち震えていた。
ハーティーはまず完成した髪飾りで美しい桃色の髪をポニーテールに纏めた。
「この髪飾りには『擬態』と『上級防御魔導』そして『魔封じ』の魔導を刻みました」
「『魔封じ』ですか?なぜ?」
シグルドは理解できないといった様子であった。
「昨日盗賊団に『魔封じの枷』を付けられたので思いついたんです」
バン!
「なんと!?とんでもない命知らずな盗賊ですな!」
シグルドはハーティーの話を聞いてカウンターを叩きながら怒りを露わにしていた。
「まあ、それはいいんですが、その術式を転用したんです」
「私はマナの蓄積量もマナ出力もあまりに高いので、かなり慎重に魔導を発動しないと大変なことになるんです。特に放出系魔導は今まで使わないようにしていました」
「確かに女神様が全力で放出系攻撃魔導を放てば地図を描き変えないといけなくなるほどの事態になりそうですね」
何せハーティーが全力で魔導を放つと周囲のエーテルすら一時的に使い切ってしまうほどのマナ出力である。
ハーティーがうっかり放出系攻撃魔導など放てば、大都市が焦土と化す程の威力になることは想像に容易い。
「そこでこの髪飾りを使ってマナ出力を抑える手助けをするんです。まあ・・感情が昂ぶれば意味はなくなりますが・・・」
「普段はマナを流すだけで勝手に刻んだ魔導が発動して、寝ている間などは嵌め込まれた魔導結晶からマナを賄うんです」
「それだけでも凄い能力ですね・・・」
「そして、この『ガンブレード』には『ブースト』と『還元』の魔導が刻まれています」
ガシャン!シュイイイイン!
そう言いながらハーティーが『ガンブレード』の柄を握ると、折り畳まれた刃先が展開して白銀色に輝き出した。
「そしてリボルバー部分には魔導結晶が付いていない、形だけ合わせて鉄で作った偽物の『魔導莢』を装填します」
「偽物の『魔導莢』を入れても意味ないのでは?」
シグルドは首を傾げながら指摘した。
「『魔導莢』には低級の魔導式を刻むんです。神白銀はマナ抵抗がゼロなので、『魔導莢』を普通鉄で作れば、魔導結晶が無くてもリボルバーに装填するだけで使いたい時にグリップからマナを込めて『魔導莢』の魔導式を発動できます」
「マナ抵抗がゼロ・・それは夢のような物質ですね・・・」
シグルドはハーティーの話を聞いて驚かされるばかりであった。
「いくら馬鹿みたいなマナ出力があってもどの道使い捨ての『魔導莢』ならマナ抵抗で焼けてしまってもいいですし、刻んだ魔導以上の威力は出ないので、人目を憚らずガンガン低級の魔導を使えるって仕組みです」
「側から見たら高純度魔導銀製の『ガンブレード』で高価な『魔導莢』をジャンジャン使う金持ち冒険者に見えますね」
実際はその『魔導莢』はただの使い捨てスクロールである。
「それに、この剣は人間離れしたマナ出力がないとほとんどの機能が使えないので、盗まれても安心です」
「逆にマナ出力さえ満たされればこれはとんでもない神器ですよ・・・この剣の素性を知れば、この剣を巡って争いが起きかねないかもしれません」
「同じようなことをもう一つの『神白銀剣』の持ち主が言っていましたね」
「その持ち主も冒険者なら、すぐに世界中に名を轟かせそうですね・・」
その後、ハーティーは平伏したシグルドに見送られながら宿へと戻った。
勿論、去り際には「私のことは冒険者『ハーティー』として扱ってね!」と念押ししたのだか、それが伝わっているのかは謎であった。
そして、宿に戻ったハーティーを出迎えたシエラはハーティーの新しい髪型を見て大絶賛したのであった。
ちなみに、ハーティーがシグルドに授けた『神白銀剣』は、後の時代にリーフィアへと渡り、『伝説の神剣』としてエルフの間で数千年に渡って受け継がれていくようになるのだが、それはまた別の話である。
「私はエルフのシグルドと申します。よろしくお願いします。ハーティルティア様」
「今日は何故にこのような場末の武器屋などにお越しいただいたのですか?」
シグルドと名を語ったエルフの態度に不満を持ちながらも、ハーティーはひとまず本題に移ることにした。
「私の武器を探しにきたんですよ」
「なんと!光栄にございます!ですが・・・神族が振るうような破邪の神剣など、どんな武器屋にも売っていないと思いますが・・」
「そんなものがそこら辺にホイホイ売っていないことぐらい知っています。魔導銀製の剣が欲しいんです」
「はあ、それでしたら何振か・・持ってきますね」
そう言うとシグルドは数本の剣を持ってきた。
「女神様が扱うには足らない剣ですが、一応私が作ったものの中でも高品質なものです。どうぞご覧になってください」
「うーん」
ハーティーが並べられた剣を見ていると、一つ気になったものがあった。
「これは・・『ガンブレード』?」
ハーティーが手に取ったのは、リボルバー式拳銃の銃口部分が長く伸びて、片刃ブレードになったような形をしたものであった。
そして本体のブレード部分は折り畳まれていた。
「はい、魔導帝国に来たので折角だからって試作した『魔導剣』です」
「『魔導剣』?」
「はい。リボルバーの所に『魔導莢』を装填して使うんです」
「『魔導莢』は魔導式が刻まれた本体とその発動に必要な魔導結晶が一体となったものです」
「本体には数種類の『魔導莢』が装填できて、それによって誰でも素早く魔導が発動できるので、魔導が使えない冒険者向けに開発されたのが『ガンブレード』です」
「これは本体を魔導銀で作ることで専用の『魔導莢』からマナを供給すれば切れ味や硬度の向上なども可能かなと期待して作ったんですが・・結局道楽の域を出られなかった失敗作ですね」
「そもそも『ガンブレード』自体が装填する魔導の種類によって使い捨てである『魔導莢』の値段が高くなってしまうし、剣としての取り回しや強度が普通のものに対してどうしても劣るので、あまり使われることがない武器ですから」
「わたしはこのデザインとギミックが気に入っているですけどね・・・。
そう言いながらシグルドは目を伏せた。
「僕は帝国が発明したこの『ガンブレード』に感銘を受けて、自分も優れた魔導の武器を作りたいと思いリーフィアから飛び出したんです」
「あと、リーフィアを飛び出したもう一つの理由は、リーフィアの信仰する『女神教』の教義では偶像崇拝を禁じているということに納得出来なかったというのも有りますが・・」
「美しき女神様を形にできないなどなんと嘆かわしい!しかし今こうして目の前で顕現されている女神ハーティルティア様を拝顔しますと、女神像すら霞むほどの美しさ!正に神々の頂点に立つお方!唯一無二の美貌であります!はあ・・尊い」
そう言うシグルドの瞳は完全に何かがキマっているような危ないものであった。
「そ・・・それはどうも・・・」
とにかく、どうやらシグルドにとって『ガンブレード』は非常に思い入れがある剣のようであった。
そして、『ガンブレード』を見たハーティーはあることを思いついた。
(これを元に剣を作れば、魔導の加減もやりやすいし、周りの目を気にせずに魔導を発動できるかもしれない!)
そう思ったハーティーは魔導銀の『ガンブレード』を譲ってもらうことにした。
「わたしはこの『ガンブレード』がいいのでこれを買いたいです」
「!」
ハーティーの言葉を聞いたシグルドが目を見開きながら瞳を潤ませた。
「ハーティルティア様の眼鏡に叶うならこれ以上の喜びはありません。どうぞ、差し上げますので持っていってください!」
そしてシグルドは何と『ガンブレード』をタダで譲ると言い出したのだ。
魔導銀製で細かなギミックが組まれた『ガンブレード』は間違いなくとてつもなく高価な逸品のはずである。
「い、いえ!そんな!タダではもらえませんよ!」
ハーティーがそう言うと、シグルドはキョトンとした顔をする。
「なぜです?ハーティルティア様が望む物は何であれ全身全霊をもって差し出すのが我ら人間の義務なのでは?」
「ハーティルティア様が望めばリーフィアの女王は国そのものすら喜んで差し出しますよ」
「ちょっとあなた達の女神に対する信仰がぶっ飛びすぎて理解できません・・・」
「とにかく、適正価格で買いますので値段を教えてください」
「はあ・・ですがこの剣の価格は金貨八百枚ですよ?」
「はっぴゃく!?」
ハーティーは『ガンブレード』があまりに高価で立ちくらみを起こしそうになった。
何より出会ったばかりの『女神らしき人』にそれをタダで譲ろうとしたシグルドの考えが驚きであった。
「・・・正直私は金貨二百枚弱くらいしか手持ちがありません」
「提案なんですが、ここだけの話にしてもらえるならお店の剣を一本私の『錬金魔導』で強化します」
「その代わり私の有り金全部でその『ガンブレード』を譲ってくれませんか?」
ハーティーの言葉にシグルドが喜びの表情を見せた。
「おお!女神様がうちの剣を強化してくれるのですか!それは素晴らしい!それでしたら尚のこと費用はいりません!」
「え・・わたしはそんなつもりじゃあ・・と、とにかく出来た品を見て判断してください」
「とりあえず、魔導銀製の剣を何かしら一本見繕ってください。それを強化します」
「おお!でしたら!」
そう言うとシグルドは店の奥から丁寧に布で包まれたロングソードを取り出してきた。
「これは、亡き祖父がリーフィアで鍛治職人をしていた時に打った形見の剣です」
そう言いながらシグルドは剣を撫でた。
「そ、そんな大事な剣を素材にできませんよ!」
ハーティーの言葉を無視してシグルドはその剣をハーティーに差し出した。
「いいえ、だからこそです。祖父も敬虔な『女神教』信者でした。そんな祖父の傑作を女神様に鍛えてもらえるならこれ以上の喜びはありません。さあ、どうかお願いします」
「・・・そういうことでしたら」
覚悟を決めたハーティーは収納魔導から昨日破壊した魔封じの枷を取り出した。
そして、錬金の魔導を発動する。
すると、枷の破片が輝きながらロングソードに溶け込んだ。
そして、シグルドの剣が美しい白銀色になった。
ハーティーはその剣の刃を掌でなぞる。
すると、刃の部分に『還元』の魔導式を刻み込んだ。
本当は『女神の絆』のように上級防御魔導や『ブースト』の術式も刻もうと思ったが、ユナやハーティーのような人並外れたマナ出力がなければどのみち使いこなせないのでやめておいた。
『還元』はマナ消費が少ないのである程度マナを込められる術者なら長時間発動できるので、剣としての『切れ味』は申し分ないはずである。
「はい、出来ましたよ」
「ププププ・・・・」
「ぷぷぷ?」
ハーティーが出来上がった剣を差し出すと、シグルドは震えながら意味不明な言葉を発し出した。
「神白銀ではないですか!?ああ、なんてことだ!!まさか『実在』していたとは!」
「え、気に入りませんでした?」
ハーティーは剣の出来が気に入らずに「弁償してくれ!」と言われるのじゃないかと冷や冷やしていた。
「そんなわけありません!まさか金貨八百枚ぽっちのために神白銀の剣を賜るとは!」
「逆に私は何を代償に差し出せば・・・」
「この剣は間違いなく『神剣』として未来永劫大切に保管します」
「こんな素晴らしい『神剣』を賜り感謝します!」
「ど・・・どういたしまして?」
ハーティーはシグルドが喜んでくれたようなのでひとまずほっとした。
「こんな素晴らしい物を頂いたのにわたしは差し出す物がありません。せめてうちの魔導銀の剣全てをもらってくれませんか?そうでもしないとわたしの気が収まりません!」
「わ・・わかりました」
シグルドの剣幕に怯んだハーティーは魔導銀の剣を受け取ることにした。
「では、次は私の剣と髪飾りを作りましょう」
そう言うとハーティーはもらった数本の剣と魔封じの枷の破片、そして収納魔導から先ほど購入した髪飾りも取り出して並べ、纏めて一気に『錬金』した。
パァァァァ。
並べた素材が眩く光り輝くと、それらは素体となる髪飾りと『ガンブレード』に溶け込んだ。
そして、どちらも美しい白銀色になった。
続いてハーティーが手慣れた手つきで魔導式をそれらに刻んでいった。
「よし!完成!」
「私は今・・神器創造の瞬間を目撃しているっ!」
それを見たシグルドは感動に打ち震えていた。
ハーティーはまず完成した髪飾りで美しい桃色の髪をポニーテールに纏めた。
「この髪飾りには『擬態』と『上級防御魔導』そして『魔封じ』の魔導を刻みました」
「『魔封じ』ですか?なぜ?」
シグルドは理解できないといった様子であった。
「昨日盗賊団に『魔封じの枷』を付けられたので思いついたんです」
バン!
「なんと!?とんでもない命知らずな盗賊ですな!」
シグルドはハーティーの話を聞いてカウンターを叩きながら怒りを露わにしていた。
「まあ、それはいいんですが、その術式を転用したんです」
「私はマナの蓄積量もマナ出力もあまりに高いので、かなり慎重に魔導を発動しないと大変なことになるんです。特に放出系魔導は今まで使わないようにしていました」
「確かに女神様が全力で放出系攻撃魔導を放てば地図を描き変えないといけなくなるほどの事態になりそうですね」
何せハーティーが全力で魔導を放つと周囲のエーテルすら一時的に使い切ってしまうほどのマナ出力である。
ハーティーがうっかり放出系攻撃魔導など放てば、大都市が焦土と化す程の威力になることは想像に容易い。
「そこでこの髪飾りを使ってマナ出力を抑える手助けをするんです。まあ・・感情が昂ぶれば意味はなくなりますが・・・」
「普段はマナを流すだけで勝手に刻んだ魔導が発動して、寝ている間などは嵌め込まれた魔導結晶からマナを賄うんです」
「それだけでも凄い能力ですね・・・」
「そして、この『ガンブレード』には『ブースト』と『還元』の魔導が刻まれています」
ガシャン!シュイイイイン!
そう言いながらハーティーが『ガンブレード』の柄を握ると、折り畳まれた刃先が展開して白銀色に輝き出した。
「そしてリボルバー部分には魔導結晶が付いていない、形だけ合わせて鉄で作った偽物の『魔導莢』を装填します」
「偽物の『魔導莢』を入れても意味ないのでは?」
シグルドは首を傾げながら指摘した。
「『魔導莢』には低級の魔導式を刻むんです。神白銀はマナ抵抗がゼロなので、『魔導莢』を普通鉄で作れば、魔導結晶が無くてもリボルバーに装填するだけで使いたい時にグリップからマナを込めて『魔導莢』の魔導式を発動できます」
「マナ抵抗がゼロ・・それは夢のような物質ですね・・・」
シグルドはハーティーの話を聞いて驚かされるばかりであった。
「いくら馬鹿みたいなマナ出力があってもどの道使い捨ての『魔導莢』ならマナ抵抗で焼けてしまってもいいですし、刻んだ魔導以上の威力は出ないので、人目を憚らずガンガン低級の魔導を使えるって仕組みです」
「側から見たら高純度魔導銀製の『ガンブレード』で高価な『魔導莢』をジャンジャン使う金持ち冒険者に見えますね」
実際はその『魔導莢』はただの使い捨てスクロールである。
「それに、この剣は人間離れしたマナ出力がないとほとんどの機能が使えないので、盗まれても安心です」
「逆にマナ出力さえ満たされればこれはとんでもない神器ですよ・・・この剣の素性を知れば、この剣を巡って争いが起きかねないかもしれません」
「同じようなことをもう一つの『神白銀剣』の持ち主が言っていましたね」
「その持ち主も冒険者なら、すぐに世界中に名を轟かせそうですね・・」
その後、ハーティーは平伏したシグルドに見送られながら宿へと戻った。
勿論、去り際には「私のことは冒険者『ハーティー』として扱ってね!」と念押ししたのだか、それが伝わっているのかは謎であった。
そして、宿に戻ったハーティーを出迎えたシエラはハーティーの新しい髪型を見て大絶賛したのであった。
ちなみに、ハーティーがシグルドに授けた『神白銀剣』は、後の時代にリーフィアへと渡り、『伝説の神剣』としてエルフの間で数千年に渡って受け継がれていくようになるのだが、それはまた別の話である。
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