転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第二章 魔導帝国オルテアガ編

シエラの危機

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 ハーティ達がバザールで獣人についての噂を聞いた日の早朝。

「あいよ、これで商品は全部積み終わったよ。いつも一人でよくがんばるねえ」

 バザールで野菜売りをしている中年女性の店主はシエラが引く荷車に野菜を積み込み終わると、額の汗を拭いながらシエラに微笑みかけた。

「いえ、これも日課なんで慣れっこですよ!」

 シエラは満面の笑みで答えると、腰袋から銅貨を数枚取り出して店主に手渡した。

 シエラはいつも通り『暁の奇跡亭』で宿泊者達に朝食を振る舞った後に早朝のバザールへと日課である買い出しに来ていた。

 代金を支払ったシエラは荷車を引いている為に、いつも通っている比較的人通りが少ない街道を進んでいた。

「今日はいいお肉をおまけしてもらったからビーフシチューにしようっと!ハーティさん達も気に入ってくれてるし、喜んでくれるよね!」

 シエラはそう言いながら鼻歌を奏でて荷車を引いていた。

『・・・なるほど、マナの滾りを辿ってみたが・・これはなかなか、いい動力源マナ・キャパシタになりそうだ』

「え?」

 シエラは聴き慣れない声に思わず立ち止まった。

 すると、シエラの目の前の空間が歪み出して黒い霧が発生し、その中から長身の男が現れた。

「だっ誰!?」

 得体の知れない男に思わずシエラは後ずさった。

「ふん・・『誰』か。まあこれから動力源マナ・キャパシタになるものに名乗る名前などないな」

 ビュッ!

 そう言うとナラトスは常人が視認できないほどの速さでシエラへと肉迫した。

「!!」

 その動きを見切れずに棒立ちしていたシエラは、鼻先まで迫ってきたナラトスの顔を目の当たりにして息を呑んだ。

 ガシッ!

「うっく!はなし・・て!」

 ナラトスはシエラの首を掴むと彼女の体ごと高く持ち上げた。

 シエラは掴まれた腕を引き剥がそうとするが、少女の力ではどうすることも出来なかった。

「その獣人の女の子はハーティ様が滞在している宿の嬢ちゃんじゃねえか!!」

「・・おい!お前!何している!」

「ん?」
  
 ナラトスは突如話しかけてきた声の主に顔を向ける。

 そこには、たまたま冒険者ギルドへ向かうところに居合わせた『ブラックスミス』の三人がいた。

「その女の子をどうするつもりなんだな!」

「その手を放しなさい!」

 そして三人はそれぞれ武器を手に取ったり魔導の発動の準備をしていた。

「ふん・・・が三体か」

「・・なんだと!?」

 ナラトスの言葉に三人が激昂する。

 バシュウ!!

 しかしナラトスは興味ないといった素振りでシエラを掴んだ方と反対の手を三人に向けると火炎魔導を発射した。

 ドォォォン!

 詠唱キャストなしで放たれた火球は、三人に回避の時間すら与えずに命中した。

 そして、三人はまるで木端のように散り散りに吹き飛ばされた。

「う・・ぐ・・強い!」

「ひゅう・・はぁはぁ!」

「ぐ・・・!」

 火球をまともに食らった三人は、吹き飛ばされた衝撃と火傷で立ち上がるのがやっとという状態であった。

 それほどの魔導の直撃を食らって死なずに済んだのは、三人の『二級冒険者』としての実力によるものがあった。

 そして、そんな騒ぎを聞きつけて何人かの人々が集まってきた。

「ひ・・ひぃ!」

「化け物!」

「・・衛兵に知らせるぞ!」

 しかし、三人の惨状を見ると一人残らず現場から逃げ出してしまった。

「・・この姿を見られたか・・まあいい。どの道は終わったしな。滅びゆく国に住むなどどうでもいい」

 ズズズ・・・。

「ぐっくっ・・やめ・・!」

 そしてナラトスの腕から放出された黒い霧状のものがシエラの体を包み込んでいく。

 シエラは苦しみながらそれに抗うも、すぐに動かなくなった。

「貴様!その子に何をした!・・・待て!」

「・・・・」

 そしてナラトスはマックスの声を無視してシエラを担いで浮かび上がると、その場から飛び去っていった。



 ・・・・・。

 ・・・・・・・・。




 カランカラン。

「あ・・ハーティさん、ユナさん・・戻られましたか」

 ハーティとユナが『暁の奇跡亭』に到着すると、食堂のカウンターで酷く疲れた表情をしたジェームズが佇んでいた。

「ジェームズさん!シエラちゃんは!シエラちゃんは今どこに!?」

「っつ!!ハーティさん!シエラについて何か知っているのですか!?実は・・シエラがまだうちに帰ってきていないんです!」

「今までこんなに遅くなることなんてなかったんです!きっとシエラに何かあったに違いありません!」

「・・っく!一足遅かったわね・・」

「とにかく、シエラさんがいつも通る道を辿りましょう!」

「わ、私も行きます!」

 そして、三人が慌てて『暁の奇跡亭』から飛び出そうとしたその時・・。

 カランカラン・・・。

「!!」

 酷く怪我と火傷をして、お互いを支え合いながら歩いている『ブラックスミス』の三人が食堂に雪崩れ込んできた。

「『ブラックスミス』のみなさん!?その怪我・・それに火傷も・・一体何があったんですか!!」

 いたたまれなくなったハーティはすかさず三人に向かって上級治癒魔導を発動する。

 すると、三人の傷はまるで時間を巻き戻したかのようにみるみるうちに回復した。

「ハーティ様の魔導は本当に桁違いですな・・お心遣い感謝します」

「いえ・・それより何があったんですか?三人がこんな状態になるなんて、ただ事じゃないはずですよ?」

 ハーティの言葉によって、悔しさに表情を歪めたマックスは憎しげに言葉を発し始めた。

「この宿の黒髪をした獣人の嬢ちゃんが何者かに拐われたんだ」

 ガタッ!

「それは本当なんですか!?一体どこに!シエラは無事なんですか!?」

 マックスの話を聞いたジェームズは酷く狼狽ていた。

「ああ、俺たちがその場に居合わせたんだ。長身で金色の長い髪をした、いけ好かない男だった」

「まるでハーティ様みたいに無詠唱ノンキャストで魔導を放つ奴だったんだな・・」

「われわれが三人で束になっても全く歯が立ちませんでした」

「結局、そいつは女の子を抱えたまま俺たちの前から飛び去ってしまった・・」

「・・むざむざ目の前で連れ去られて、頼りなくてすみません」

 そう言いながらマックスは深々と頭を下げた。

「・・・やはり『邪神』でしょうか」

「けど、私の記憶が正しければ人型をした『邪神族』は皆をしていたような気がするわ」

「そうなのですか?」

「・・ええ。時代が変わってそれも変化したのかもしれないけど」

「ハーティさんのこともありますし、髪色など魔導でいくらでも変えれるのでは?」

「確かにその男が無詠唱ノンキャストで魔導を放ったり、『飛翔フライ』の魔導を行使していたというのなら、男が『邪神』が何らかの方法で人間型で現れた存在という可能性は高いわね」

「・・いずれにしても事態は一刻を争いますね」

「・・ええ」

「その男がどちらに向かって飛んでいったかわかりますか?」

「・・詳しくは確認できなかったんですが・・方角で言えば帝都の中心部に向かって飛んで行きました」

「・・・では私たちはそちらに向かいます!いくわよ!ユナ!」

「はい!」

「申し訳ありませんが『ブラックスミス』の皆さんはシエラちゃんが通った道中で他の手がかりを探ってもらえませんか?」

「「了解!」」
「了解なんだな!」

「ハーティさん・・私はどうすれば・・」

 焦燥した表情で語りかけてきたジェームズの両肩にハーティは静かに手を添えた。

「ジェームズさん。シエラちゃんは私たちが必ず連れ戻します。ですから私たちを信じて『暁の奇跡亭』で待っていてください」

「そして、戻ってきたらいつも通り温かく迎えてくださいね」

「ハーティさん・・わかりました。ハーティさんには一度命を助けられました。ですから私はあなた達を信じます。・・シエラのことを頼みます」

「任せてください!」

「事態は深刻です。念のためクラリスにも連絡を取って協力してもらいましょう!」

「わかったわ!」

 ユナに促されてハーティはクラリスに彼女からもらったピアスを通じて語りかける。

「クラリス、聞こえる?おーい!クラリス!」

『・・・・』

「駄目だわ。応答がない・・」

「会話可能な範囲外にいるかもしれませんね」
  
「うーん・・帝都内ならだいたいいけるって言ってたのになあ。仕方ない、ひとまず私たちだけで行きましょう!」

「はい!」

 そしてハーティとユナ、『ブラックスミス』の三人は『暁の奇跡亭』を飛び出した。




 ・・・・。

 ・・・・・・。






 一方その頃、ニアールとナラトスは『メルティーナ』に繋がれたコンソールを眺めていた。

「素晴らしい!素晴らしいわ!これほどの出力があれば!あの憎きクラリスを打ち倒せるわ!!」

 狂気の表情で顔を歪めるニアールからは、かつての少女らしさが完全に失われていた。

「よくやった。二アールよ。さすがは私が見込んだだけはある」

 そう言いながらナラトスはニアールの頭を優しく撫でた。

「ナラトス様・・・」

 ニアールはそれを恥ずかしそうな表情で受け止めていた。

「これで・・私の悲願達成の第一段階を始めることができるぞ」

「さあニアールよ。我々の宴を始めようじゃないか!」

「今こそ帝国に、この世界の全てに私たちの名を刻もう!」

「いくぞ!人造ゴーレム達よ!の礎となるがいい!」
 その言葉と共に無数の人造ゴーレムの頭部に埋め込まれた魔導結晶と瞳が光り出した。

 そしてそれらが次々と動き出す光景を見て、ナラトスは静かにわらった。
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