転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
140 / 229
第三章 商業国家アーティナイ連邦編

『カームクラン』防衛戦4

しおりを挟む
 ほむらは見張り櫓へ向けた拳に装着されている籠手にマナを込める。

 バッシュウ!!

 すると、籠手から先端に錘のようなものが付いたワイヤーが勢い良く発射され、見張り櫓の軒先に張り付いた。

 ウィィィィン・・。シュタッ!

 そのまま、ほむらはワイヤーの巻き取り速度を調整して落下の勢いを殺しながら地面に着地する。

 ウィィィィ!!

 そして、軒先に先端が張り付いたままの状態で真上に伸びているワイヤーを再び高速で巻き取った。

 それにより上方向に勢いよく引き上げられたほむらは、軒先の高さを越えた時点で張り付いた先端部を切り離し、見張り櫓の高さよりも更に数十メートル程高く跳ね上がった。

 続いて一番近くを飛行している『ワイバーン』に狙いを定めて拳を向けると、再び籠手からワイヤーを発射した。

 バシュウウ!!ピトッ!

 ほむらは見張り櫓の時と同じ要領で『ワイバーン』に張り付いたワイヤーを巻き取りながら上昇すると、再び『ワイバーン』の飛行している高度よりも高いところまで舞い上がった。

「クラリスさんが『プラタナ』に搭乗する時に使っていた魔導具を籠手に搭載してもらって良かったです!本当にクラリスさんの魔導具は素晴らしいですね!」

 ほむらは空中で再び小太刀に手をかけながら呟いた。

 ほむらは『白銀の剣』との合同クエスト時、クラリスが出現させた『プラタナ』に搭乗する際に使用していた魔導具を見て、自分の戦闘スタイルにも生かせると考えた。

 そこで、ほむらはクラリスにお願いして自分用の籠手として魔導具の制作をお願いしていたのであった。


 シャキン!

「はあぁぁぁ!」

 ザシュッ!

 魔道具のワイヤーを駆使して空を飛び跳ねるほむらは、その後も『ワイバーン』を蹂躙し続けた。

「・・・・・」

 一方、ハンゾウとほむらを補助していたクウゼンは瞳を閉じて風の流れを感じ取っていた。

「・・・うむ、風の流れが変わった・・か。しばらくは某の補助は必要あるまい」

 シャララン・・。

 クウゼンは独り呟くと、錫杖を『ワイバーン』の群れへと向けた。

「某の風魔導は、元より攻撃に使うものである!」

 バッバッバッ!

 クウゼンが『印』を刻んで体内からマナを練り上げる。

「中級風属性魔導!『エアカッター』!」

 シャララン!

 クウゼンが詠唱キャストを完了して錫杖を鳴らすと、その先から風による円形の刃が生まれた。

 まるでチャクラムのようになったそれは無数に生み出され、『ワイバーン』の群れへと真っ直ぐ飛び出した。

 ザシュ!ザシュッ!

「ギャアアア!!」

 そして、その風の刃は次々と『ワイバーン』を切り刻んで堕としていった。

 クウゼンは高位の魔導士であると同時に風属性魔導の素質が非常に高い。

 その為、『ワイバーン』を仕留めるに足る風属性魔導を連射することが可能であった。

 しかし、幾ら素質があるとは言え魔導発動に必要なマナが自身のマナ出力を上回る限りは、いずれ体内に蓄えられているマナも枯渇する。

 クウゼンはいよいよマナ切れにより額から汗を流していると、徐に懐に手を差し込んだ。

 バッ!

 クウゼンが懐から差し込んだ手を引き抜くと、その手はそれぞれの指の間に魔導結晶を掴んでいた。

 自分で魔導結晶にマナを込めることが出来る高位魔導士は、いざと言うときの為に自分の持つ魔導結晶にあらかじめマナを充填しておく者が多い。

「まだまだ戦いはこれからであるぞ!」

 クウゼンは手持ちの魔導結晶からマナを取り出すと、不敵に笑った。

 連邦軍と『旋風』等の冒険者達の活躍により『ワイバーン』はその数を減らしていく。

 しかし、それでも撃ち漏らした少数の『ワイバーン』達が『カームクラン』上空を飛行しながら市街地に向かって火球を放出しはじめた。

 ゴウウウ!

 ドガァァン!!


「くそっ!こっちの家屋も火の手があかったぞ!消火を急げ!」

「行きます!水属性魔導!『アクアレイン』!」

 ザアアアアア!

「よし!ここはもう大丈夫だ!次へ行くぞ!『旋風』ばかりにいいカッコはさせねぇぜ!」

「はいっ!」

『旋風』以外の冒険者達も自分達の持ち味をそれぞれ生かして、取りこぼした『ワイバーン』の討伐や火災の発生した建物の消火活動に当たっていた。

「うぁぁぁ!?熱いぃぃ!?いてぇぇよおぉぉ!」

 ワイバーンの攻撃により大火傷を負った冒険者が自分の皮鎧を脱ぎ捨てながらのたうち回る。

 そこに巫女服に身を包んだ『神社庁』の女性神官が駆け寄った。

「大丈夫ですか!今治癒しますね!・・・・・っ!『ヒール』!」

 パアァァァ!

 その巫女はポーチから魔導結晶を取り出して詠唱キャストすると、火傷を負った冒険者に治癒魔導をかけた。

 それにより火傷の傷は完全とは言わないが、かなり軽減された。

「今は物資がないので完全回復とはいきませんがこれで大丈夫でしょう!」

「いや、かまわねぇよ!ありがとよ!可愛い巫女ちゃんよお!」

「か・・かわっ!?わ、私は自分の責務を全うしているだけですので!!あなたに女神ハーティルティア様の御加護があらんことを!!」

 巫女は治癒した冒険者の言葉で頬を染めると、汗を飛ばしながら次の怪我人の元へと向かっていった。



 ・・・・・・・・。




「今の戦況はどうかえ?」

「うむ、冒険者達が協力してくれているゆえ、『ワイバーン』の数は減っていっておる。このまま行けばじきに殲滅できるであろうな」

 詰所に控えるミウとシゲノブは『ワイバーン』討伐に確かな手応えを感じていた。

「市街地の負傷者はどうかえ?」

「それも神官達の治癒魔導によってかなり数は軽減されているな。まあ、それでも数十人は死傷者が出ているがな」

「『ワイバーン』の規模を考えたら十分な戦果じゃろう。これで『白銀の剣』も『邪神』討伐に集中できるじゃろて」

 そう言いながら、ミウは安堵の息を漏らした。

 皆が力を合わせることにより、『カームクラン』市街地防衛の戦いは終結へ向かおうとしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...