君のために僕ができること

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2.誕生日パーティー

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 今日は私の16才の誕生日パーティー。
 朝から屋敷中が準備で大わらわだ。

 今日のパーティーの最後に私と婚約者のブランドンとの正式な結婚式の日取りを発表するからお父様も気合が入っている。
 今も陣頭指揮を取って使用人たちに檄を飛ばしている。
 
 私も朝早く起こされてメイド達にお風呂に放り込まれてピカピカに磨きあげられた。 
 その後はお母様までやって来ていつもより念入りにメイクと着付けをされた。
 
 今は準備を終えて部屋で1人パーティーの開始を待っている。 
 
 幸せの絶頂のはずなのに私の心は晴れない。
 今日結婚式の日取りが発表されたら数ヶ月後にはブランドンの妻になる。
 でもブランドンとうまくやっていける気がしない。

 ブランドンはうちと同じ侯爵家の令息で、私の2才上のお兄様ルイの幼馴染だった。
 うちにもよく遊びに来ていてその頃から良く言えばリーダーシップがある子、悪く言えばガキ大将だった。
 大人たちからは、
 「ブランドンはしっかりしていて生まれながらのリーダーだな。これでコーエン侯爵家も安泰だな。」
 なんて評判が良かったけど、私は強引で自己中なブランドンが苦手だった。

 でもお父様は明るく行動的なブランドンが大のお気に入りだったからかなり早い段階から私の結婚相手に考えていたようだ。
 私が10才になった時にブランドンとの婚約を決めてしまった。
 私は本当は嫌だったけど貴族の令嬢なんて本人の意志とは関係なく家のために結婚するのが当たり前だから言われた通りブランドンと婚約した。
 婚約してからブランドンは月に何度か私と交流するために我が家にやってきたけど、いつも長々と自慢話を聞かされるだけなので本当に苦痛だった。

 ブランドンが王立高等学園に入学して寮に入ってからは学校がよほど楽しいらしくて滅多に会いに来なくなった。

 お母様は、 
 「ブラントンが忙しくなっちゃって寂しいわね。
 お手紙でも書いてみたら?」
 なんて言ったけど、私は来なくなって清々していた。
 
 私が学校に通う年になるとブランドンと同じ学校に行くのは気が進まなかったので私立の女子校に行くことに決めた。
 ブランドンは親たちの前では、
 「テレーゼが入学するのを楽しみにしていたのに残念だよ。」
 なんて言っていたけど顔は嬉しそうだった。噂によると学園で色んな女の子と仲良くしていたらしいから婚約者の私が来なくてラッキーと思っていたんだろう。
 
 その後もブランドンは色んな理由を付けて滅多にうちに寄り付かなかったけど、たまに来た時はやたらと私と2人きりになりたがり過剰なボディタッチが多くなった。
 やんわりと距離をとって絶対にメイドやお母様がいるところでしか会わないようにしていたが、ある日メイドが一瞬席を外した隙に強引に抱きしめられてキスされそうになった。

 「イヤ!」

 思わず突き飛ばすと途端に不機嫌になった。
 
 「あ~ぁ、テレーゼはお固くてつまんないな。
 婚約者なのにキスもさせてくれないなんて来た意味ないじゃん。」
 
 私を睨みつけながら言った。

 あまりにひどい言いように言い返そうとした時、部屋にお母様が入ってきた。
 その途端ブラントンはいつもの明るい笑顔に戻り、お母様相手に楽しげに話しだした。
 その変わり身の早さに幻滅してますます嫌いになった。
 
 こんなふうに私とブランドンの関係はお世辞にも良好とは言えないものだったからこのまま結婚して大丈夫なのかと不安になるのだ。

 

 物思いにふけっていると両親と兄のルイがやって来た。
 兄は隣国に留学中だけど今日のために帰国してくれていた。

 「さぁ、テレーゼ、お客様の前に登場だ。」

 私はお父様にエスコートされてパーティー会場に向かった。

 
 パーティー会場にはたくさんの方が来てくれていた。
 親戚やお友達はもちろんのこと、お父様のお仕事関係の方もたくさん来ていた。
 皆様にご挨拶をしながら会場を回る。
 
 お友達からお祝いの言葉を受けて楽しくおしゃべりしているとパーティー会場に息せき切って入って来た人がいた。
 セドリックだった。
 セドリックはブランドンと一緒でお兄様の幼馴染だ。
 ブランドンとは同じ寮で親友だけど性格は真逆の思慮深く優しい人だ。
 学園内では成績優秀で有名で、もうすでに王立大学の研究室に研究員として出入りしている。
 ルメール侯爵家の次男で優秀なお兄様がいるから侯爵家を継ぐことはないけど、将来は文官としてこの国を支える逸材になるだろうと言われている。
 
 「テレーゼ、お誕生日おめでとう。」
 
 いつもと同じセドリックの優しい笑顔にホッとした。

 「ありがとう。セドリック。」

 「お誕生日プレゼントだよ。」

 セドリックが贈ってくれたのは異国の歌集だった。

 「まぁ!これずっと探していたのに全然見つからなかったのよ!うれしい!」

 「喜んでくれてよかったよ。たまたま研究室にこの国の研究者がいたから国に帰った時に探してもらったんだ。」

 「セドリック、ありがとう!」

 私は歌集を胸に抱きしめてお礼を言った。

 セドリックはいつも私の気持ちに寄り添ってくれる。
 私が喜ぶものを一生懸命考えて贈ってくれるのだ。
 ブランドンは逆だ。いつも自分の自己満足なプレゼントを贈ってくる。

 私は小さな頃からずっとセドリックが好きで将来はセドリックと結婚したいと思っていた。
 セドリックとなら穏やかで愛情に満ちた家庭が作れると思っていた。
 でもその夢は叶わなかった。諦めたつもりだけどセドリックの優しい笑顔を見ると今でも心が疼く。

 一瞬私とセドリックの視線が絡み合う。
 セドリックの目も悲しげに潤んだように見えた。


 
 「セドリックも来てくれたのか。
 研究で忙しいだろうにありがとう。」

 お父様がやってきた。

 「アルノー侯爵、今日はテレーゼとブランドンと結婚式の発表があるそうですね。おめでとうございます。」

 「そうなんだ。そのために準備してきたんだがブランドンの姿が見えないんだよ。2人ともブランドンの姿を見なかったか?」

 「そういえば見ていませんわ。」

 「遅れるとか何か聞いてないか?」

 「最近は学校が忙しいみたいで会っていませんでしたからわかりませんわ。」

 「見かけたらすぐに知らせてくれ。」
 
 お父様は足早に去っていった。

 「ブランドンはなんで来ていないのかしら?」
 
 「派手な演出の好きなブランドンの事だから来ないと見せかけてサプライズで登場するんじゃないか?
 例えばあの大きなケーキから飛び出してくるとか。」

 ケーキの中で窮屈そうに隠れているブランドンを想像して吹き出してしまった。
 
 「それは面白いわね。」
 
 「あいつのためにも楽しみに待っていようよ。」

 

 それからかなり時間がたったがブランドンはいっこうに姿を見せなかった。

 「ブランドンはどうしたんだ!」

 お父様は目に見えてイライラしていた。

 「アルノー侯爵、申し訳ない。絶対に来るからもう少し待ってくれ。」

 ブランドンのお父様のコーエン侯爵は冷や汗をかきながら平謝りしていた。

 「寮のブランドンの部屋を見てきます。」

 「そうだな。セドリック、頼む。」

 セドリックは足早にパーティー会場を出ていった。
 

 ブランドンが来ないというハプニングはあるけどパーティーは予定通りすすんで行く。
 楽団がバースデーソングを奏でて、16本のロウソクを灯した特注のケーキが運ばれてきた。
 お客様達がバースデーソングを歌ってくれる中、私は一息にロウソクの火を吹き消した。
 皆が盛大な拍手で祝福してくれた。
 さっきセドリックがこの中にブランドンが隠れているかもなんて冗談を言ったから身構えてしまったけどブランドンが飛び出してくることはなかった。

 皆でケーキを食べているとセドリックが戻ってきた。

 「アルノー侯爵、ブランドンの部屋を何度もノックしたのですが返事がないのです。
 寮にいた学生に聞いてみてもブランドンを見かけた人はいませんでした。」
 
 「なんだと!ブランドンはどこにいるのだ?
 コーエン侯爵!いったいどういうことだ!」

 お父様がついにコーエン侯爵に詰め寄った。

 「申し訳ない!もう少し、もう少しだけ待ってくれ。」

 コーエン侯爵は気の毒なほど謝っていた。

 「街中の酒場や宿を探してこい!
 草の根を分けてでも探し出して首に縄をつけてでも連れてこい!」

 コーエン侯爵が従者達に怒鳴った。
 皆が慌てて出ていった。

 パーティーの終わりが近づいてきた。
 最後にお父様が来てくださった方にお礼の挨拶をして終わる段取りだ。
 予定ではその時にサプライズで結婚式のことを発表するはずだった。
 しかし新郎になるブランドンがいないまま発表するわけにはいかないとお父様はお礼の挨拶だけしてパーティーを終わらせた。

 「アルノー侯爵、本当に愚息が申し訳ない。あいつが出てきたら必ずや厳しく叱りつけてお詫びに参ります。」

 コーエン侯爵は謝りながら帰っていった。

 

 しかしそれから何日たってもブランドンの行方はわからなかった。
 寮のブランドンの部屋を寮監の合鍵で開けたけど部屋の中にはいなかった。
 寮のすべての部屋を探してもいなかった。

 名門侯爵家令息の行方不明事件は大騒ぎになった。
 学校はもちろん行きつけのカフェや酒場、娼館まで捜索された。

 私は酒場くらいは出入りしているんだろうなと思っていたけど娼館まで行きつけだったなんて本当に呆れた。

 街中が捜索されて、関係者は一人一人事情聴取された。
 その中で分かったことはブランドンが時々夜中に寮を抜け出して遊びに行っていたこと。
 時には朝帰りすることもあったそうだ。
 私の誕生日の前夜も寮を抜け出すブランドンの姿を複数の寮生が目撃していた。

 
 ブランドンがいなくなってから私を心配してセドリックが頻繁に訪ねてきてくれるようになった。
 いつも美味しいお菓子や面白い本を持ってきてくれた。
 
 セドリックはブランドンの親友だったからもちろん何度も事情を聞かれていた。
 ブランドンの行方に心当たりはないそうだが、1つ気になることがあったそうだ。

 「少し前になるんだけど、ブランドンがふと言ったことがあるんだ。『自由になりたい。』って。
 その時は『そんなの無理だろ。お前は侯爵家の跡取り息子だし婚約者のテレーゼもいるんだから。』って言ったら『そうだよな。』って笑ってたから冗談だと思っていたんだ。
 でももしかしたら本気だったのかもしれないな。
 あいつなりに色々悩んでいたのかな。
 あの時僕がもっとちゃんと話を聞いていたらこんなことにはならなかったかもしれない。
 ブランドンにも君にも本当に申し訳ないよ。」

 私はセドリックのせいではないから気にしないでと何度も言った。
 もしセドリックが親身に相談に乗っていたとしても結局ブランドンは自分の思った通りに行動するだろうと思った。
 
 

 ブランドンがいなくなって3ヶ月が過ぎた。
 捜査ではブランドンの行方は手がかり1つ見つからず、セドリックの証言もあって『侯爵家のお坊ちゃまが自由を求めて自分の意志で出奔した』という結論に落ち着いて捜査打ち切りとなった。

 捜査打ち切りになってしばらくしてコーエン侯爵が我が家にやってきた。

 まずはブランドンの出奔について何度も謝った。

 「セドリックからブランドンが自由になりたいと漏らしていたと聞いたよ。
 本当にバカなやつだ。そんな事を思っていたのなら言ってくれればよかったのに。
 私が知らず知らずのうちにプレッシャーをかけすぎていたのかもしれないな。」
 
 コーエン侯爵は力なく言った。
 
 「気を落とすなよ。ブランドンのことだからひょっこり帰ってくるかもしれないぞ。」

 お父様が元気づけるように言った。

 「そうだな。その時は一番厳しい騎士団に放り込んで性根を叩き直してやるよ。」

 コーエン侯爵はそんなふうに言って笑ったが、目尻に涙が見えた。
 
 「ブランドンがいなくなった以上テレーゼを我が家に縛り付けておくわけにもいかない。
 申し訳ないが婚約解消にさせてくれ。」

 コーエン侯爵が言った。

 「はい。6年間大変お世話になりました。
 娘のように優しくしてくださってありがとうございました。
 ご縁はなくなってしまいますが、これからもどうぞ親しくさせてください。」

 私はコーエン侯爵にお礼を言った。

 「やっぱりブランドンには君と結婚してほしかったよ。」
 
 コーエン侯爵は寂しそうにそう言った。
 
 
 
 帰っていくコーエン侯爵の背中は一回り小さくなったようだった。
 自慢の息子の突然の出奔はこたえただろう。
 でも私は『婚約解消できてよかった!』としか思えなくて少し申し訳なく思った。

 

 ブランドンとの婚約解消が決まるとお父様は早速次の婚約者探しを始めた。
 もうすでにいくつかお見合いの話が持ち込まれているようだった。
 私は6年も婚約していたブランドンと土壇場で婚約解消できたのは神のお恵みだと思った。
 だからせっかくのチャンスを逃すわけにはいかないと心に決めた。

 私はお父様の執務室に行くとノックもせずに開けた。

 「お父様!私、自分の結婚相手は自分で選びたいです。
 ブランドンは自分の人生を後悔したくないから出奔して自由に生きることを選んだのだと思います。
 私も自分の人生を後悔したくないです。
 だから好きな人と結婚させてください。
 セドリックと結婚させてください!」

 私が一息に言うとお父様は目を丸くした。

 「お前たちは同じ事を言うんだな。」

 よく見ると執務室のソファにセドリックが顔を赤くして座っていた。
 無我夢中で入ってきたので気が付かなかった。

 「セドリックもお前と結婚させてくれと言いに来たんだよ。」

 セドリックは真っ赤な顔で立ち上がると私の前でひざまずいた。

 「テレーゼありがとう。君も同じ気持ちだったなんて本当にうれしいよ。
 どうか僕の妻になってください。」

 「はい!もちろん!」

 「おいおい、2人で勝手に決めるのか?」

 「いけませんか?お父様。」

 お父様はにやりと笑った。

 「実は私もセドリックが次の婚約者の第1候補だったんだよ。2人が想い合ってるなら文句はないな。
 おめでとう、テレーゼ。」

 お父様の言葉に私とセドリックは抱き合って喜んだ。
 
 本当に好きな人と結婚できる日が来るなんて自分は世界一の幸せ者だと思った。
 そして心の中でブランドンの幸福を祈った。
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