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13.婚約話
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「ちょっと待ってよ! 兄さん! 今日伝えなくても、学園で会うんだから、その時でも……レオンだって、レッスンとか予定があるだろうし」
ダリアスは振り返り、こちらを向いたかと思うと、ズンズンと大股でこちらに歩いて来た。私の目の前で立ち止まり、視線が交わる。兄の方が少し背が低いため、上目遣いでこちらを見ている。
「お前は良いのか? 勘違いされたままで……」
眉を寄せ、少し怒っているようにも感じられる。それは、私のことを思ってくれていると、ダリアスの目を見れば分かった。
「殿下はお前の婚約が決まっていると思っているんだぞ! それをずっと、誰にも言わずに、嘘だとも知らないまま、自分の胸にしまっているんだ! お前の口から伝えられるのを待って………なぜ伝えてくれないと思っているはずだ」
ダリアスは下を向き、右手の拳で私の胸を叩く。
「それはきっと……苦しい」
さきほどの張り上げた声とは違い、ポツリとつぶやいた。
ダリアスの言う通りだ。言ってくれるはずと信じて待つのは、きっと苦しい。レオンは『私とユリウスの仲なのになぜ言わない』と、きっと、顔を合わせるたびに思っていた。
レオンが時折見せた、目の奥にはらんだ悲しみは、それだったのか?
「だから、一刻も早く、説明した方が良い」
「……そうだね」
逆の立場だったとしたら、きっと私は苦しい。レオンが結婚するという事実とは別の苦しさ。大事な話を直接聞けない悲しみ。そんな大事な話をするほどの仲ではなかったのかという、失望……。
どんな思いだったんだ、レオン。仲が良い幼なじみの大事な話が聞けないのは……。
「それに、お前も……勘違いされたままは嫌だろ」
「私は別に」
「お前、婚約者がいるって、殿下に思われているんだぞ」
ダリアスが顔を上げ、再び目が合った。
「……いずれ、そうなるだろ」
貴族は、家が結婚を決めるのが主流だ。
それは私たち、ツェプラリトの家も例外ではない。ただ、話が来てすぐに結婚ということも珍しくない世界だが、ツェプラリト家は、父と母の方針で、顔合わせをしてから婚約までの期間と、婚約から結婚までの期間が他の家よりもとても長く、本人たちの了承が絶対だ。
現に、ダリアスは15の時に初めて婚約者候補のリリカに会った。リリカとは合わず、婚約話は白紙。
ダリアスが17の時に、ダリアスと同級生のクララ・レンシンクとの婚約話が上がった。2人は、学園に入学してからずっと、クラスの委員長と副委員長という間柄で、婚約話は順調に進み、正式に婚約者となった。
婚約が決まってから、レンシンク家の事情で白紙になりかけたこともあったが、乗り越えて今に至る。その件もあって、学園を卒業して少ししたら結婚するはずだったが、約5年もの間、婚約者のまま。ちなみに結婚はおそらくもう少しだろう。
私にもいずれ、婚約者ができるだろう。家のため、領土のため、民のため。
結婚を望まなければ、一生独身のまま過ごせるのかもしれないが、そうはいかない。結婚による結びつきは、思っているよりも大きい。私は、それなりに気の合う人と結婚できればと思っている。
「分からないだろ! そんなの! 私だって、入学時に覚えたクララへの想いは胸の奥にしまっておくしか無いと思っていた。だが、今の私を見ろ! そのクララとは結婚秒読みだ。それは、私たちが諦めなかったからだ」
その言葉に、私は目を見開いた。『入学時に覚えたクララへの想い』?
「……兄さんって、婚約の話になる前から、クララさんのこと、好きだったの?」
「ああ、そうだよ」
知らなかった。てっきり私は、委員長と副委員長という間柄から、気が合うことが分かっていたから受けた話なのだと思っていた。だが、そうでは無かった。ダリアスはクララのことが好きだったんだ。
そうか……好きだから、婚約が白紙になりかけた時も、諦めずに行動していたんだ。
貴族でも、好きな人と結婚できるのだな……。
まあ、私には、『好きな人と結婚』なんて関係ないことだ……
ダリアスは振り返り、こちらを向いたかと思うと、ズンズンと大股でこちらに歩いて来た。私の目の前で立ち止まり、視線が交わる。兄の方が少し背が低いため、上目遣いでこちらを見ている。
「お前は良いのか? 勘違いされたままで……」
眉を寄せ、少し怒っているようにも感じられる。それは、私のことを思ってくれていると、ダリアスの目を見れば分かった。
「殿下はお前の婚約が決まっていると思っているんだぞ! それをずっと、誰にも言わずに、嘘だとも知らないまま、自分の胸にしまっているんだ! お前の口から伝えられるのを待って………なぜ伝えてくれないと思っているはずだ」
ダリアスは下を向き、右手の拳で私の胸を叩く。
「それはきっと……苦しい」
さきほどの張り上げた声とは違い、ポツリとつぶやいた。
ダリアスの言う通りだ。言ってくれるはずと信じて待つのは、きっと苦しい。レオンは『私とユリウスの仲なのになぜ言わない』と、きっと、顔を合わせるたびに思っていた。
レオンが時折見せた、目の奥にはらんだ悲しみは、それだったのか?
「だから、一刻も早く、説明した方が良い」
「……そうだね」
逆の立場だったとしたら、きっと私は苦しい。レオンが結婚するという事実とは別の苦しさ。大事な話を直接聞けない悲しみ。そんな大事な話をするほどの仲ではなかったのかという、失望……。
どんな思いだったんだ、レオン。仲が良い幼なじみの大事な話が聞けないのは……。
「それに、お前も……勘違いされたままは嫌だろ」
「私は別に」
「お前、婚約者がいるって、殿下に思われているんだぞ」
ダリアスが顔を上げ、再び目が合った。
「……いずれ、そうなるだろ」
貴族は、家が結婚を決めるのが主流だ。
それは私たち、ツェプラリトの家も例外ではない。ただ、話が来てすぐに結婚ということも珍しくない世界だが、ツェプラリト家は、父と母の方針で、顔合わせをしてから婚約までの期間と、婚約から結婚までの期間が他の家よりもとても長く、本人たちの了承が絶対だ。
現に、ダリアスは15の時に初めて婚約者候補のリリカに会った。リリカとは合わず、婚約話は白紙。
ダリアスが17の時に、ダリアスと同級生のクララ・レンシンクとの婚約話が上がった。2人は、学園に入学してからずっと、クラスの委員長と副委員長という間柄で、婚約話は順調に進み、正式に婚約者となった。
婚約が決まってから、レンシンク家の事情で白紙になりかけたこともあったが、乗り越えて今に至る。その件もあって、学園を卒業して少ししたら結婚するはずだったが、約5年もの間、婚約者のまま。ちなみに結婚はおそらくもう少しだろう。
私にもいずれ、婚約者ができるだろう。家のため、領土のため、民のため。
結婚を望まなければ、一生独身のまま過ごせるのかもしれないが、そうはいかない。結婚による結びつきは、思っているよりも大きい。私は、それなりに気の合う人と結婚できればと思っている。
「分からないだろ! そんなの! 私だって、入学時に覚えたクララへの想いは胸の奥にしまっておくしか無いと思っていた。だが、今の私を見ろ! そのクララとは結婚秒読みだ。それは、私たちが諦めなかったからだ」
その言葉に、私は目を見開いた。『入学時に覚えたクララへの想い』?
「……兄さんって、婚約の話になる前から、クララさんのこと、好きだったの?」
「ああ、そうだよ」
知らなかった。てっきり私は、委員長と副委員長という間柄から、気が合うことが分かっていたから受けた話なのだと思っていた。だが、そうでは無かった。ダリアスはクララのことが好きだったんだ。
そうか……好きだから、婚約が白紙になりかけた時も、諦めずに行動していたんだ。
貴族でも、好きな人と結婚できるのだな……。
まあ、私には、『好きな人と結婚』なんて関係ないことだ……
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