【完結】育成準備完了しました。お父様を立派な領主にしてみせます。

との

文字の大きさ
30 / 34

30.危ないから飛び込まないでね

しおりを挟む
 マシューが仕事の合間に観察してみると、ルーナは毎朝使用人が起き出す頃に出かけ帰宅は深夜に近いこともある。それとなくメイドに聞いてみると朝食は馬車に持ち込んだパンを齧り、夕食は帰って来てから本を読みながら簡単に済ませているらしい。

「お嬢より早起きして朝食にって準備したら断られたんでな、昼用にサンドイッチや果物なんかを後からお届けすることにしたんだ」

 でないと忙しすぎてお昼もパンを齧って終わりにしちまうって聞いたからと言いながら料理人はせっせと鶏肉に下味をつけていた。

(10歳の子供が学園にも行かずそんな長時間何やってるんだ?)

 マシューの疑問は深まるばかりだった。



 ガストンは口より先に手が出るタイプのようで『執事の仕事は見て習え』と言いつつ失敗すると速攻で拳骨が飛んできた。

(何でコイツが執事なんてやってるんだ? 他に適任者はいなかったのかよ)

 ガストンを含め使用人達はみな護衛としてはかなり優秀で、先日屋敷に忍び込めたのは奇跡だったのではないかと疑うほどだった。各自の仕事の合間に午前2時間と午後3時間の訓練がある。午前中は走り込み・腕立てなどの筋トレを行い午後は得意な武器を使って打ち合いをする。
 自国で鍛えているからと自信があったマシューは4日目で筋肉痛で動けなくなってしまった。

「はっはっは、軟弱な奴め。侯爵家の訓練場に行ってみるか? 貴様なら瞬殺だな」

 ガストンの煽りに何も言えなかったマシューは夜中の筋トレを追加するようになった。

(くっそー、化け物集団め。庭師の爺さんやメイドにも勝てないとか嘘だろ)




 マシューが侯爵家で仕事をはじめて3ヶ月経った頃、漸くガストンが雑談に付き合ってくれるようになった。

「ルーナ様はなんで学園に通われないんですか?」
「もうご卒業された」

「ルーナ様は毎日何処へ出かけられてるんですか?」
「王宮で王子妃教育」

「朝早くから夜中まで?」
「王家の奴らの代わりに政務をなさってる」

「化け物かよ?」
「ウォルデン侯爵家だからな」

「なんでガストンが執事?」
「てめえ、喧嘩売ってんのか? よし、かかってこいや」


「ガストンが執事を兼任することになった理由って知ってます?」
「侯爵家の七不思議の一つだな。そう言うおかしな事をやるのはお嬢の専売特許ってやつだからあんま気にすんな」



 ふとルーナに聞いてみると、

「ガストンって面白いんだもの」



 1年後にはマシューはルーナの専属執事としてジョージのお墨付きをもらうことができた。

『ルーナ様にはマシューのような型破りな執事がちょうど良いかもしれませんね。敵だらけの中で一人で戦わざるを得ないルーナ様にとって、ガストンのアレは心の癒しになっていたのだと思います。
マシュー、ルーナ様を頼みましたよ』

(俺もガストンも何気にディスられてる気もするが)


 マシューが侯爵家に来てから7年、ルーナが王子から婚約破棄され事態が大きく動きはじめることになる。


   








  

 セドリックとの対面を果たした翌日ルーナは乗馬服とブーツを着込んで崖の下を覗き込んでいた。海風で煽られるドレスの裾を押さえたアリシアは半分泣きそうになっている。

「お嬢様、本当に行かれるんですか? マシューが来るまでお待ち下さい」

「何度も言うけどマシューは別のところで仕事中だから来ないの」

「お嬢様は泳げません。もし海に落ちたら死んでしまいます!」

「大丈夫。この島を離れる前には絶対洞窟を見に行くって決めてたの。真っ直ぐ降りて船に乗ってちょっぴり洞窟を見たら上がってくるから、アリシアはカフェでのんびり休憩していて」

「あー、もう。絶対ご無事で帰ってきくださいませ。ここに一人で取り残されたら生きていけません! ほんとのほんとに帰ってきてくださいませ! ルーナ様が海に落ちたら私はここから飛び降りますからね」

「えっ? アリシアは泳げるの? って言うか、ここから飛び込んだら死んじゃうし、ここから飛び込む勇気があるなら階段降りれるんじゃない?」

 アリシアが鬼の形相でルーナを睨んだ。

「はい、ごめんなさい」


 にっこりと笑ったルーナは白い石灰岩の壁に手をつき一段ずつゆっくりと降りはじめた。海の上をゆっくりと旋回する海鳥の鳴き声が聞こえ崖の上にいた時よりも強い風に足元を煽られる。岩壁に作られた急角度の階段は想像以上にでこぼこしておりややもすると足を滑らせてしまいそうになり何度も冷や汗をかいた。

(海賊から逃れる時に使う・・うーん、昔の人の運動神経ってすごい)

 階段の下まで行けば狭い船着場になっており洞窟を見学するための船が既に待機しているがルーナはまだ半分も降りていない。ルーナは全く気づいていなかったがこの階段に女性が一人でチャレンジするのは珍しいようで、崖の上から大勢の観客が覗き込み船の船頭はルーナが海に落ちたらすかさず飛び込めるように船のヘリに足をかけて準備していた。

 長い時間がかかったがルーナが無事に船着場に到着すると崖の上から『おー!』と言う歓声や指笛がかすかに聞こえてきた。

「凄いですね。女性がお一人で降りて来られるのは初めて見ました」

 船頭の賞賛に顔を赤らめたルーナは船頭の手を借りて船に乗り込み崖の上に向けて大きく手を振った。

 手を振る見知らぬ人達の間に埋もれるようにしてアリシアのモスグリーンのドレスが見えた。

(アリシアのことだから私が戻るまでずっとあそこで待ってそうだわ。ごめんね、アリシア)


 エンジンのかかる低い音が聞こえ船がブルブルと重たい振動を伝えてきた。少しの罪悪感と沢山の期待を込めて船が走り出した。島に沿うように走り出した船が緩やかなカーブを描いて断崖絶壁にわずかに開いた入り口からゆっくりと洞窟の中に進んでいった。

 暗くゴツゴツした岩肌と深い青色に輝き揺れる海。仄暗い洞窟の中は予想以上にひんやりとしている。

「入り口から入る太陽光が白い海底に反射して海がこんな風に青く輝いてるんだそうです」

「だから晴れた日じゃないとつまらないですよって言ってたのね。あの奥に見えるのがトリトンの彫像かしら? 思ったよりも大きいのね」

 トリトンは海神ポセイドンの息子で、上半身は人間だが下半身は魚や蛇の姿をしている。

「もう少し進んだら一度エンジンを切ります」

 丁度中程あたりまで進んだ所で船頭が船のエンジンを切った。静まりかえった洞窟の中はそれまで以上に神秘的で幻想的な雰囲気に包まれた。

「あまり熱心ではないんだけど、ここにいると神の存在を信じたくなるわ」

「ここで愛を誓う為に訪れる方もおられますから」

「海の女神なら海神ネーレウスとドーリスの娘テティスかしら? それとも女性はやきもち焼きだからここには相応しくないとかかしら」


 洞窟を後にしたルーナは再び時間をかけて階段を登って行き、泣き過ぎて目を腫らしたアリシアが落ち着くまで抱きしめ続けた。


「思っていた以上に綺麗だったの。神秘的で幻想的、お喋りするのもやめたくなるほど神聖な感じで・・アリシアにも是非見せたかったわ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、あの階段は私には無理です」

「あら、船着場から乗っちゃえばいいの」

「えっ?」

「ほら、私が乗った船・・拙い、あー何でもないわ」

「はっ!! お嬢様! 階段使わなくったって洞窟行けるじゃないですか!!」

 ルーナは一晩中アリシアからお説教を食らった。

(バレないと良いなって思ってたのに。はぁ)

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

わざわざ証拠まで用意してくれたみたいなのですが、それ、私じゃないですよね?

ここあ
恋愛
「ヴァレリアン!この場をもって、宣言しようではないか!俺はお前と婚約破棄をさせていただく!」 ダンスパーティの途中、伯爵令嬢の私・ヴァレリアンは、侯爵家のオランジェレス様に婚約破棄を言い渡されてしまった。 一体どういう理由でなのかしらね? あるいは、きちんと証拠もお揃いなのかしら。 そう思っていたヴァレリアンだが…。 ※誤字脱字等あるかもしれません! ※設定はゆるふわです。 ※題名やサブタイトルの言葉がそのまま出てくるとは限りません。 ※現代の文明のようなものが混じっていますが、ファンタジーの物語なのでご了承ください。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...