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00.傲慢な者達と愚か者達の宴、ちょびっとあの人
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ドワーフを独占したい、囲い込みたい帝国が結界の魔導具を手に入れた時がはじまりだった。
『これを使ってドワーフの村を囲い込んでやろうではないか。戦さを起こせば逃げ出すやもしれぬが、ある日突然ダンゼリアムが帝国の属国になったなら、呆然としておるうちに一網打尽にできよう⋯⋯さすれば、ドワーフの技術は全て余のものになる』
帝国に鳴物入りで迎えられる事を狙っていたガーラント司教達を買収し、ダンジョンに魔導具を仕掛けたのがはじまり。
大型の魔物が蔓延る魔の森を放置したままの、無責任なダンゼリアム王家に向けてスタンピードを起こし、聖王国から魔法士を送らせた。
司教達は王国と秘密裏に交渉し依頼料の減額を持ちかけ、差額分は王家と官僚に着服させて私腹を肥やさせた。
『聖王国には私が上手く話しておきます。なに、枢機卿などと偉そうにしておりますが、叩けば埃の出る奴ですから⋯⋯文句など言えるはずがないのです。
スタンピードの原因は放置しておきましょう。さすれば、何度でも白金貨を手に入れられますからなあ。
但し、公国側との交易はお控えなされ。怪しまれては損をしますからな。海の向こうには大陸がありますでな、そちらとの取引を増やせば⋯⋯』
溢れ出した魔物だけ討伐すれば良いと魔法士達に指示を出せば、全て帝国の思う通りに進んでいく。
帝国はドワーフの村の北側の国をこれみよがしに占領しつつ⋯⋯村の南側にある王国にはひっそりと根を張り巡らしていった。
毎年多額の白金貨が手に入る上に、魔物の素材も自分達の物になる王家と官僚は、罪の意識を忘れたのか元々なかったのか⋯⋯年を追うごとに貪欲になり、北の森にある鉱山からの収入も一部着服しはじめた。
『ダンジョン産の魔物の素材は高く売れますからなあ。公にできぬものを高く買い取る伝手もありますし、鉱山のソレも⋯⋯』
リューズベイの海獣⋯⋯シーサーペントはそれを模倣しただけ。毎年6月に海獣が港を襲っていた理由は別だが、ここでも依頼料を搾取できるチャンスだと画策した。
船を壊す案などは領主とギルド長から出た。
『魔物の素材はなくとも大陸から観光客を呼べば、かなりの集客が見込めるでしょう』
『数年おきに船をひとつかふたつ、壊させてやれば盛り上がりますし』
自分達の思い通りにならない漁師や船主を粛清できると張り切った。
どれほど使っても資産は減るどころか増えるばかり。甘い汁の魅力に王家と官僚が取り憑かれた頃を見計らい、スタンピードが人工的な物だと知らせた。
『そのように驚く事ではありますまい。定期的に何度でもスタンピードを起こせるのは、実に便利ではありませんか。
その度に懐は温まる。お望みなら、大型の魔物を増やすこともできますぞ。そうすれば利益は今まで以上』
魔物への恐怖などすっかり消え失せて酒池肉林に耽り、美術品や宝石を買い漁る王家と官僚達。
『他国に暴かれる前に、帝国へお逃げなさい。知恵ある者は引き際が肝心ですぞ。爵位も領地も望みのままと申されておるうちに、準備をはじめねば⋯⋯帝王は気が短くておられるでな。
魔の森に三方を囲まれたこの国の玉座にしがみつくのと、列強を従える帝国の宮廷で力を振るうのと⋯⋯どちらがよろしいかな?』
目に浮かぶのは貯めに貯めまくった資産を懐に、帝王の横に立つ煌びやかな衣装の自分の姿。新しい政策を打ち出した自分の前で、将校達が平伏し拍手喝采を浴びる。
『王国を帝国の属国に落とし、帝国に参ろうではないか。余の叡智を知らしめてしんぜよう』
国王達と共に私腹を肥やしていた官僚達も『わたくし達も陛下と共に』と言い準備をはじめた。
帝国による情報操作で他国からの評判を知らないまま、簡単に踊らされていくダンザリアム王国の者達。
『取引は大陸となされば良いでしょう。さすれば、大量の魔物の素材も宝石も、誰にも知らせず売り捌けます。大陸の方が王家の方々に相応しい品を扱っておりますしな』
帝国と司教の思惑が見事に花開いた⋯⋯はずだったが。
帝国とガーラント司教達が予測できなかったのは、国王達の貪欲さと思慮のなさ。
『帝国に乗り込む時、聖女のひとりでも連れておれば箔がつきそうじゃ。若くて見目の良いのを寄越すように聖王国に指示書を送るのじゃ。王子妃にしてやるとでも言えば、すぐに食いついてくるであろう。
王子達が気に入れば良し、気に入らねば適当に使い潰す』
『実力と美貌が揃っていれば結婚してやってもいいですけど、愛人にする方が遠慮なく使えそうですね』
『聖女など飾りにもなりませんけれど、見せ物程度の役には立つかも知れませんわねえ』
『グレイソンも承知しておる。気の強いイライザよりも言うことを聞きそうじゃと、連絡が来たわい』
自分達が聖王国を騙していることなどすっかり忘れている王家の面々は、ガーラント司教達に連絡する事など思い付きもせず、聖王国に直接連絡を入れた。
王国からの指示書は枢機卿イーサン・テムスから司祭ルイス・ジルベルトに届けられた。
『小さいとは言っても国が相手。治療魔法に特化しただけの普通の聖女では話にならんし、魔法士の中にも適任者が見当たらん』
『そうですね。嫌がりそうですけど、依頼してみます。かなり嫌がりそうですが』
『依頼料は通常の倍。魔物狩り放題ではどうだろう? 新しい情報が追加された場合は追加報酬を出す』
『あ、それなら受けてくれるかも。あの国の森は大型の魔物が大量にいるらしいので』
『⋯⋯ってことで仕事、お願い!!』
『ええ~、国一個丸ごとかあ⋯⋯う~ん、やるなら徹底的に潰すよ!? 老害⋯⋯ゴホン⋯⋯ガーラント司教とかアリエス様達とかの事は契約外だし、邪魔はさせない?』
『調べ終わるまで適当に泳がせとくし、見張りもつけておく。邪魔しそうならすぐに捕獲する!』
『じゃあ、私の最後の仕事って事で、受けるとするかな~。期間限定銭ゲバ聖女のフィナーレ! 契約金ガッポリなだけじゃなくて、追加報酬の匂いもぷんぷんしてるし~。
あとさあ、ホントのホントに思う存分、好きなだけ魔物を殺ってきていいんだね?』
『もちろん(やっぱり魔物狩りがメインっぽいな⋯⋯)』
『まさか、ウルサの奴にしてやられるとは⋯⋯あんな魔導具をどこで手に入れたのか、ギルド長をしておったくせに知らんのか!?』
『奴の隠し子が現れた直後に船を手に入れましたからねえ、どっかの金持ちの女でも誑し込んだんですかね?』
『バカ言え! あの唐変木のウルサにできるわけがなかろうが。⋯⋯じゃが、シーミアの顔ならできる。あの顔で迫られたら、ワシの物もいきり立ちそうじゃ。うん、いける。(以前、領主権限で召し上げようとして殴り飛ばされて、失敗したからな⋯⋯くそぉ!)』
飛んだとばっちりを受けているとは思いもしないシーミアが、突然の悪寒で震え上がったのは言うまでもない。
『(ゾワゾワゾワ)な、なになに! やだぁ⋯⋯ブルブル⋯⋯なんかキモいのが飛んできた気がするわ⋯⋯さっ、さっぶい⋯⋯ウルサ、アンタまたなんかしでかしたんじゃないでしょうね! ロクサーナちゃんに言いつけてやるんだから!』
『これを使ってドワーフの村を囲い込んでやろうではないか。戦さを起こせば逃げ出すやもしれぬが、ある日突然ダンゼリアムが帝国の属国になったなら、呆然としておるうちに一網打尽にできよう⋯⋯さすれば、ドワーフの技術は全て余のものになる』
帝国に鳴物入りで迎えられる事を狙っていたガーラント司教達を買収し、ダンジョンに魔導具を仕掛けたのがはじまり。
大型の魔物が蔓延る魔の森を放置したままの、無責任なダンゼリアム王家に向けてスタンピードを起こし、聖王国から魔法士を送らせた。
司教達は王国と秘密裏に交渉し依頼料の減額を持ちかけ、差額分は王家と官僚に着服させて私腹を肥やさせた。
『聖王国には私が上手く話しておきます。なに、枢機卿などと偉そうにしておりますが、叩けば埃の出る奴ですから⋯⋯文句など言えるはずがないのです。
スタンピードの原因は放置しておきましょう。さすれば、何度でも白金貨を手に入れられますからなあ。
但し、公国側との交易はお控えなされ。怪しまれては損をしますからな。海の向こうには大陸がありますでな、そちらとの取引を増やせば⋯⋯』
溢れ出した魔物だけ討伐すれば良いと魔法士達に指示を出せば、全て帝国の思う通りに進んでいく。
帝国はドワーフの村の北側の国をこれみよがしに占領しつつ⋯⋯村の南側にある王国にはひっそりと根を張り巡らしていった。
毎年多額の白金貨が手に入る上に、魔物の素材も自分達の物になる王家と官僚は、罪の意識を忘れたのか元々なかったのか⋯⋯年を追うごとに貪欲になり、北の森にある鉱山からの収入も一部着服しはじめた。
『ダンジョン産の魔物の素材は高く売れますからなあ。公にできぬものを高く買い取る伝手もありますし、鉱山のソレも⋯⋯』
リューズベイの海獣⋯⋯シーサーペントはそれを模倣しただけ。毎年6月に海獣が港を襲っていた理由は別だが、ここでも依頼料を搾取できるチャンスだと画策した。
船を壊す案などは領主とギルド長から出た。
『魔物の素材はなくとも大陸から観光客を呼べば、かなりの集客が見込めるでしょう』
『数年おきに船をひとつかふたつ、壊させてやれば盛り上がりますし』
自分達の思い通りにならない漁師や船主を粛清できると張り切った。
どれほど使っても資産は減るどころか増えるばかり。甘い汁の魅力に王家と官僚が取り憑かれた頃を見計らい、スタンピードが人工的な物だと知らせた。
『そのように驚く事ではありますまい。定期的に何度でもスタンピードを起こせるのは、実に便利ではありませんか。
その度に懐は温まる。お望みなら、大型の魔物を増やすこともできますぞ。そうすれば利益は今まで以上』
魔物への恐怖などすっかり消え失せて酒池肉林に耽り、美術品や宝石を買い漁る王家と官僚達。
『他国に暴かれる前に、帝国へお逃げなさい。知恵ある者は引き際が肝心ですぞ。爵位も領地も望みのままと申されておるうちに、準備をはじめねば⋯⋯帝王は気が短くておられるでな。
魔の森に三方を囲まれたこの国の玉座にしがみつくのと、列強を従える帝国の宮廷で力を振るうのと⋯⋯どちらがよろしいかな?』
目に浮かぶのは貯めに貯めまくった資産を懐に、帝王の横に立つ煌びやかな衣装の自分の姿。新しい政策を打ち出した自分の前で、将校達が平伏し拍手喝采を浴びる。
『王国を帝国の属国に落とし、帝国に参ろうではないか。余の叡智を知らしめてしんぜよう』
国王達と共に私腹を肥やしていた官僚達も『わたくし達も陛下と共に』と言い準備をはじめた。
帝国による情報操作で他国からの評判を知らないまま、簡単に踊らされていくダンザリアム王国の者達。
『取引は大陸となされば良いでしょう。さすれば、大量の魔物の素材も宝石も、誰にも知らせず売り捌けます。大陸の方が王家の方々に相応しい品を扱っておりますしな』
帝国と司教の思惑が見事に花開いた⋯⋯はずだったが。
帝国とガーラント司教達が予測できなかったのは、国王達の貪欲さと思慮のなさ。
『帝国に乗り込む時、聖女のひとりでも連れておれば箔がつきそうじゃ。若くて見目の良いのを寄越すように聖王国に指示書を送るのじゃ。王子妃にしてやるとでも言えば、すぐに食いついてくるであろう。
王子達が気に入れば良し、気に入らねば適当に使い潰す』
『実力と美貌が揃っていれば結婚してやってもいいですけど、愛人にする方が遠慮なく使えそうですね』
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『グレイソンも承知しておる。気の強いイライザよりも言うことを聞きそうじゃと、連絡が来たわい』
自分達が聖王国を騙していることなどすっかり忘れている王家の面々は、ガーラント司教達に連絡する事など思い付きもせず、聖王国に直接連絡を入れた。
王国からの指示書は枢機卿イーサン・テムスから司祭ルイス・ジルベルトに届けられた。
『小さいとは言っても国が相手。治療魔法に特化しただけの普通の聖女では話にならんし、魔法士の中にも適任者が見当たらん』
『そうですね。嫌がりそうですけど、依頼してみます。かなり嫌がりそうですが』
『依頼料は通常の倍。魔物狩り放題ではどうだろう? 新しい情報が追加された場合は追加報酬を出す』
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『⋯⋯ってことで仕事、お願い!!』
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あとさあ、ホントのホントに思う存分、好きなだけ魔物を殺ってきていいんだね?』
『もちろん(やっぱり魔物狩りがメインっぽいな⋯⋯)』
『まさか、ウルサの奴にしてやられるとは⋯⋯あんな魔導具をどこで手に入れたのか、ギルド長をしておったくせに知らんのか!?』
『奴の隠し子が現れた直後に船を手に入れましたからねえ、どっかの金持ちの女でも誑し込んだんですかね?』
『バカ言え! あの唐変木のウルサにできるわけがなかろうが。⋯⋯じゃが、シーミアの顔ならできる。あの顔で迫られたら、ワシの物もいきり立ちそうじゃ。うん、いける。(以前、領主権限で召し上げようとして殴り飛ばされて、失敗したからな⋯⋯くそぉ!)』
飛んだとばっちりを受けているとは思いもしないシーミアが、突然の悪寒で震え上がったのは言うまでもない。
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