【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

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100.ジルベルト、予想を上回る覚醒に(笑)

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 教会を辞めたジルベルトは、ロクサーナのそばで魔力量を増やす為の特訓をはじめた。

「魔力を枯渇させるのは結構大変だな」

 ジルベルトは水・風・光の3属性。かなり多い魔力を枯渇させるには、相当な数の魔法を使い続ける必要がある。

 部屋の中で使えて誰にも迷惑をかけないは光魔法だと考え、できる限り魔力消費の多い魔法を使い続けた。

 天気のいい日には、窓を開けて海や山に向けて回復と浄化。回復魔法を風に乗せると、山の上でゴン太が驚いて火を吹いた。

 浄化した水を風で飛ばせば木の葉が艶々と輝き、海の底に埋もれていた不廃物が分解されていく。

 そのお陰で山の木は葉を生い茂らせ、普段より大きな果実が実り、花がいつまでも咲き続ける。魚達は元気に跳ねてミュウ達が大漁だと大騒ぎ。

「ジルさんの魔法で季節外れのキノコが大量に手に入ったけん、今日のスープに入れてみたよ」

「広場で父ちゃん達がキノコパーティーしよるけん、気が向いたら行ってみんちゃいね」



 ジルベルトの努力が実ったのか、ロクサーナが目覚める頃には新しい属性が増えた⋯⋯闇魔法が。

【いや~、ジルベルトらしいなあ。火と土をすっ飛ばして闇かぁ】

【いや~、闇属性は悪くねえよ。後から生えるのが珍しいってだけでな⋯⋯ただ、初っ端に覚えたのがシャドウ系なのが、ウケるっつうか。もう、欲望ダダ漏れっつうか】

 シャドウ系は影を操る魔法。相手の陰に潜んで一緒に行動したり、召喚獣や物を自分の影に潜ませることもできる。

【ジルちゃんは~、サーナについてく気、満々だも~ん】

【ジルベルト⋯⋯ヤバい】

【ジルベルト⋯⋯危険】

 クロちゃんやカイちゃんの慈悲か根負けか。いずれジルベルトは転移と異空間収納を覚えるが、それはまだまだ先のこと。



 聖王国と教会が崩壊し、職を失ったガンツが噂の奥さんを連れて島に移住してきた。

「すげえ! この薬草園、ロクサーナの魔力がみちみちじゃねえか! 寝てても薬草の世話してるってことか? ヤバすぎんだろ。あっ、精力剤の元発見!」

 特定の薬草に向けて走り出したガンツが、奥ちゃんに張り飛ばされて宙を舞った。

「ぐへぇっ!」

「エロエロしてないで、とっとと働きな。じゃないと海にぶち込んで、魚の餌にしちまうからね!」

 ロクサーナは常日頃ガンツの奥ちゃんの体力を心配していたが⋯⋯全然大丈夫そうな気配。



 聖王国所属だった聖女や魔法士達は、仲間を集めて冒険者になったり、他国からのスカウトで移住したり。最も多くの魔法使いを獲得したのはハプスシード公国だった。

 その理由は⋯⋯ ダンゼリアムの王侯貴族のほぼ全員がなんらかの犯罪に加担しており、処刑・禁錮刑・罰金刑に処せられるのが確実となった。その壊滅状態になった王国を併合したのが王国の隣にある、ハプスシード公国だったから。

 魔物の森の管理や大陸への進出で、魔法使いの大量募集を行ったせい。

 高級志向の貴族や金持ちが観光に訪れる公国は元々の治安も良く、公王以外の官僚達もかなり優秀らしい。応募してきた聖女や魔法士の面接でも魔法の技術より、協調性や仕事に対する考え方に注目した。

 そのお陰で強力な魔法が使えても、腐った聖女や魔法士はかなり省かれた。

【漁夫の利ってやつだな】

【東の国じゃあ、棚からぼたもちって言うんだぜ】

 その陰で、帝国所属の魔法士や聖女は魔法が全く使えなくなった。じわりじわりと国力が落ちた帝国が消滅するまで、後数年。




 リューズベイの山から帰った4ヶ月後、漸くロクサーナの目が覚めた。

 ロクサーナが倒れたのは初夏に近い頃だったが、今はもう少しずつ葉が紅葉しはじめている。

 いつも通り少し窓を開けて部屋の換気をしながら、ジルベルトが話しはじめた。

「今日もいい天気だね。そろそろ栗拾いが出来そうだってカジャおばさんが言ってたよ。スイートポテトってあるだろ? で、今年はスイートマロンも作るんだって。
どっちが美味しいか競争だって張り切ってた。スイートポテトは結構甘いだろ? だから、俺としてはスイートマロンの方が気になるかな~」

「く⋯⋯栗⋯⋯マロ⋯⋯イス」

「ん? マロンアイス? じゃあ、カジャおばさんに作れるかどうか聞いて⋯⋯」

(今、人の声がしたような⋯⋯まさか!)

「サ、サーナ?」

 ガバッと振り返ると顔を少し歪めたロクサーナが、手を喉に当てていた。

「ケホッケホッ⋯⋯アムひゅラム酒ひゅかった使ったらお⋯⋯おいひいって」

「サーナァァァ!!」

 大声で叫んでガバッと抱きついたジルベルトの胴締め技で、目の前が暗くなりはじめたロクサーナが必死に腕をタップした。

「死ぬ⋯⋯死んじゃ⋯⋯」

「あっ、ごめん! 目が覚めたんだね⋯⋯ウグッ⋯⋯よ、良かった」

 滂沱の涙という言葉に相応しく、滝のような涙を流すジルベルトの顔が残念な事になっているが、アラクネなら『これはこれで良し!』と言いそう。

 どんな顔でも絵になる、イケメンは超お得。爆ぜろ、イケメン!



 水を2杯飲み干して落ち着いたロクサーナは、ジルベルトがなぜ泣いているのか分からないが『多分、何かしでかしたのだろう』と、まずは謝罪からはじめた。

「あの、寝坊してごめんなさい。えーっと、ここって⋯⋯島?」

「そう、転移で連れて帰ってから、もう4ヶ月経ったんだ」

「⋯⋯そうなんですね~⋯⋯へ? 4ヶ月って、ええーっ! 寝すぎにも程が⋯⋯マジですか、季節飛んじゃってます。夏が消えた⋯⋯そりゃもう、本当にごめんなさい」

 ベッドの上に正座して頭を下げると、顔を拭いたジルベルトが頭を撫でてくれた。

 魔力枯渇と同時にユースティティの加護を受け、神聖魔法が使えるほどの魔力量と器を手に入れたロクサーナの髪は、元のシルバーブロンドにライトゴールドのメッシュが入っている。



「もしかして覚えてない?」

「えーっと、なんかやらかしたんだろうとは思うけど⋯⋯最後の記憶はですね。うーん、ん? カネーンスだ! 見つけたんです、まだ生きてて、ほんのり生きてる感じで、何とかしてあげたいんだけど、幻術が⋯⋯」

 ロクサーナの記憶では、結界の中で小さな陽炎になっていたカネーンスを見つけたのが最後。助けてあげたいのに何も出来ないと苦しくなったのは覚えている。

「カネーンスはセイレーン達のところにいるから、心配しないで。なんでも『打倒キルケー』に参加したらしい。
今は余計な事を考えないで休まないとね」

「はい、でも4ヶ月も寝っぱなしだったならやらなきゃいけないことが一杯で。もうダメになったかもだけど、薬草園に行かなくちゃ。
あ、カネーンスは陽炎なのに、元気ですね~。今にも消えそうだったんで心配でしたけど、そのパワーがあれば大丈夫なのかな? あれ? 幻術かかってても山から出れたんだ」

(幻術のせいで山を彷徨っていたって言う話が違ってたのかな?)

「幻術はロクサーナが解いたから、今は光の玉にまで回復してる。この話は時間がかかるからまた後で⋯⋯」

「いやいやいやいや、私は何もしてませんから。なーんにも出来なくて謝った覚えがありますもん。ミュウ達がいたからなんか方法を見つけたんですよ。やっぱ、精霊って凄い」

 キルケーの幻術がどのような仕組みか皆目見当がつかなかったし、近くで鑑定しても読み取れなかったのだから、自分に何かできたはずがないと頭を横に振った。



「兎に角先に何か食べよう。みんなも心配してるから、声をかけてくるよ」

「はい、なんか頭が混乱してて⋯⋯横になってても良いですか?」

「勿論だよ。すぐに戻るけど眠ければ寝て良いからね」

 目を離すとまた何かあるかもしれないと不安になるが、何か口にしないといけないはず。軽くハグをしてから立ち上がり、ジルベルトがドアの取っ手に手をかけると⋯⋯。


 バタン!

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