【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

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15.喜んで喧嘩を買うヒューゴ

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 翌朝少し遅寝したルーシーが食堂に行くと、ヒューゴがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

「おはよう、父さん」

「ああ、よく寝たか? 顔色は良さそうだな」

「今日もバリバリ仕事出来そうよ」


 椅子に座り手帳をテーブルに置いたルーシーは満面の笑顔で言い切った。
 朝食を運んできたメイドがぷっと吹き出し、ヒューゴが苦虫を噛み潰したような顔になった。

「ったく」


「メルバーン法律事務所の警備の強化とカニンガム弁護士の護衛を頼みたいんだけどフリーカンパニーから人を出せる?」

「ああ、問題ない。ここんとこ人が余ってたから倉庫の警備も増やしたが団長からもっと仕事を寄越せって言われてる。
うちは真っ当な商売をやってるってのに荒事担当の奴をどうやって増やせってのか、訳が分からん。
この後すぐに手配しとく」


「昨日頼んだ資料の整理とか清書とかを頼む人なんだけど、何時ごろ仕事を始められそう? 後数字に強い人も」

「おう、後一時間もしたら来る。それからロジャーを呼んでるから明日にはこっちに着く」

 ヒューゴは相変わらず新聞に目を向けているが、顔がにやけていて新聞を読んでいないのが丸わかりだった。
 ビッグニュースにルーシーが驚くのを楽しみにしていたのだろう。

「えっ? 支店の仕事の方は大丈夫なの?」


 ロジャーは支店を担当している鑑定のスキル持ちの一人。
 ガードナー商会の本店で扱う商品の鑑定をルーシーが担当しているように、大きな取引が頻発する支店には鑑定のスキル持ちが常駐又は巡回している。

 スキル持ち自体が希少な為、彼等を無理に移動させると業務に支障をきたしてしまうのだ。


「ほんの数日の事だ、何とかなるだろう。うちで二番目に優秀な鑑定屋だからな」

「ありがとう、助かった。昨日改めて荷物の量を見たら慌ててしまって」

「そう言う時こそ人を使え。うちには一杯いるだろうが」

「うん。支払いは全部アンゲルス商会に回してね」

「当然だ。吹っかけてやるよ」


 悪戯が成功したみたいな笑い顔のヒューゴに苦笑いしたルーシーだった。



 二人で食事をしながら昨日の昼前にリチャード達が来た時の話を聞いた。
 予想通りリチャード達の狙いは男爵家の褫爵ちしゃく。『金の流れが』と言っていたところを見ると、脱税を捏造するつもりではないかと思いそうだが。

「何か兆候とかあったの?」

「二週間前に全ての店を隅から隅まで調べてから二十四時間体制で見張ってる。
で、一週間前にメルプレースの支店にこっそり忍び込んだ奴がいた。
奴等が仕掛けた爆弾偽領収書の束で見つけたのは取り敢えずその一件だけだな」

「領収書? ああ、請求書の控えって事ね」

「ああ、ホラントリア帝国に弩と手銃を売ったことになってた。
仕入れした証拠を別の支店に仕込みに来ると思ってるんだがまだ見つかってない。
タイミングからいったらとっくに仕掛けてあるはずだがなぁ」


 ホラントリア帝国は我が国最大の敵対国で、国境沿いのロンズデール辺境伯の領地との間には長年小競り合いが続いている。
 十二年前のガードナー男爵授爵のキッカケとなったのもホラントリア帝国との戦いだった。


「見落としてるって事?」

「可能性がないとは言えんなぁ」

 気楽に話すヒューゴの様子に『何とかなるって事かもね』と食事を再開した。


「それにしても狙いどころがあくどいわね」

「授爵した事自体が間違いだって事にしたいんだろ? こっちは痛くも痒くもないがな。
爵位なんぞいつでも返してやるし、この国を出ても構わんしな。
それで奴らに吠え面をかかせられるなら儲けもんだ」

「商会がこの国を出てったら大打撃を受ける方が何人か思い浮かぶわ」

「リチャード達はそいつらにも喧嘩を売ってるっていつか気付くだろ。
もう遅いけどな」

「もしかしてだけど父さんってば、あの方達にも怒ってる?」

 口の端をあげニヤリと笑うヒューゴ。

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