【完結】婚約してる? 婚約破棄した? ところであなたはどなたですか?

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55.マシューが持っていた資料

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 前国王が戦争に注力し国を疲弊させていた頃、現国王の兄で当時の王太子はその傲慢な性格と不届きな性癖から数人の貴族と共に夜な夜な離宮で秘密のパーティーを開いていた。

 酒と大掛かりな賭け事からはじまったパーティーはすぐにアヘンと女が中心に変わっていった。

『娼婦は退屈だな。媚びと厚化粧で新鮮さがない』

 王太子の一言で貴族達は我先にと屋敷のメイドを差し出しはじめた。


『王太子殿下の為に準備いたしました』

 王太子がメイド達にも飽きた頃、酒焼けした顔に下卑た笑いを貼り付けた貴族が連れて来たのは10歳の少女。光り輝く金髪と鮮やかな碧眼、まだ何も知らない少女は街で攫われ何も知らないまま連れてこられた。

「ほう、これは良いな」

「何も知らぬ娘ですので病気の心配もありませんし、殿下の最上級の気晴らしになるかと」


 その娘は殿下の望みを全て叶えていた。美しい金髪と碧眼、成長途中のやや幼い肢体、怯えて泣き叫ぶ様は殿下を何よりも楽しませた。
 暫くして娘が現状に慣れてくると、

「飽きた」

と言って貴族達に下げ渡す。貴族達が散々楽しんだ後は離宮の裏山に埋められ、その後も多くの娘達が貴族達の手によって殿下に献上された。


『なに、平民の娘が行方知れずになろうと誰も気になどいたしません。いくらでも準備できますとも』


 王太子が気に入った娘を献上した貴族は宝石や金貨、領地の優遇などどんな望みでも叶えられたと言う。

 貴族達はこぞって娘を王太子に献上していたが、いつしか市井に噂が流れはじめた。


《10~13歳位の金髪碧眼の美しい娘が消える》


 騎士団が調査に乗り出さざるを得ないほど噂が広まり、誘拐された娘を乗せた馬車が捕まったのをきっかけに全ての罪が暴かれた。

 ソフィーが10歳の時、王太子は理由を伏したまま廃嫡幽閉され関係した貴族達は秘密裏に処刑され貴族家は取り潰された。





 青の間には国王の座るソファの前にソフィーを中心にレオとマシューの3人が並んで座っている。この部屋の中では堅苦しいのはごめんだと言った国王は脚を大きく開き前のめりになって話しはじめた。

「この資料によるとランカスター伯爵が処刑を免れた貴族の一人ということか?」

「左様でございます。いち早く領地に逃げ出し病死の届けが出されました」


 真実が発覚したのは3ヶ月前に亡くなったはずの伯爵が馬車の事故で亡くなった時。伯爵位は次の代・・伯爵の嫡男で大奥様ステラの孫が既に継承していた。

「幼いながらも泣き言も言わず必死に頑張っておられるお孫様可愛さに大奥様はこの書類を公にせず、偽名で犠牲となった娘達の供養をはじめられました」


『間違いだと分かっていても、頑張ってる孫が可愛くてしかたないの。愚かな父親を止められなかったのは私達・・私のせいなのに』


「前伯爵様はいざという時の保険のつもりだったのでしょう、自分を含めたすべての記録を残していました」

 娘を連れて来た貴族の名前や日付け、容姿と身体的特徴、娘達の扱いや森に埋められた日までが小さな字で詳細に書き込まれていた。ステラはこの資料を元に残された家族を探し出し援助という名の謝罪行脚をした。

「ソフィーの父親は前伯爵が娘の誘拐に手を出していることを知っておりエリスを餌に近付いて来た男の一人でした」

 娘を誘拐する度胸のないアンガスソフィーの父は王太子の好みにピッタリの容姿をもつエリスを餌に契約を結びソフィーを前伯爵の元に置いて行った。


 1回目の婚約騒動の時、アンガスに抗議したソフィーにアンガスが言い放った。

『偉そーにしていいのか? お前の大切な大奥様が犯罪を隠した事知ってるんだぜ。ワシらを訴えやがったらワシらの知ってる事を全部ぶちまけてやる! 死んだ伯爵は大罪人でババアも犯罪者だってな!!』


「アリシア様とマシュー様からそれを教えて頂いてあの人を訴えるのはやめました。
詐欺なんてしないでもお金を払うって言ったのですが、考えてみると言ったきり行方がわからなくなりました」

 下手に行方を探して機嫌を損ねればどこで何を言い出すかわからない。伯爵家の現当主は立派な青年になり妻子と共に領地を治めている。

(努力を積み重ねて領民の尊敬を集める立派な領主となった伯爵様・・大奥様の為にも伯爵様の為にも秘密は漏らせない)


「今回の件で帝国に借りを作るところだったがアントリム兄弟の機転で逆に貸しを作る事ができそうだ」

 帝国貴族に対して王国の平民が詐欺を働いた事で王国は帝国から謝罪と補償を要求されていたが、帝国の使者が盛大にやらかした内容はそれどころではない。

「王国を馬鹿にしていた帝国に一泡もふた泡も吹かせてやれる。
公にはできんがお前達には俺から褒美を取らせたい。俺に出来る限りのことでならなんでも言ってくれ」

「その資料を隠匿した者達の罪を不問にしていただければと思います」

「欲がないな。では、俺の方で何か考えよう」



「この資料によると他にも罪を逃れた貴族がいるようだな。公にするには問題があるがこのままにはしておけんな」

 逃れた貴族の中には現在政治の中枢部にいるものがいた。資料を見つめる国王の眉間の皺がどんどん深くなってゆく。

「この事を知るもので俺の手先となって働く者が必要・・政治に関与していない者で俺の信頼に足る者を探すのはなかなかの難題だな」

 チラリとレオを見遣った国王がニヤリと笑った。

「レオナルド、騎士修道会は楽しいか?」

「楽しいと言えるかどうかは分かりませんが総長や兄弟騎士に恵まれて仕事をさせて頂きました」

「では終生請願をするのか?」

「いえ、宗教心が乏しいので転職を考えております」

「それなら話は早い。お前の実力は聞いている。俺の下で働かないか? 近衛騎士団の上席を準備する、この件を片付ける手伝いを頼みたい」

「残念ながら近衛騎士団には良いイメージがありません。正直に言えばそれ以上の悪感情を持っています。
それに私は保育学校の門番か庭師の助手を希望しております」

 今までそんな話は聞いたことがないソフィーが目を丸くした。

「そこはそんなに魅力ある職場なのか?」

「はい、そこにいれば最高の紅茶が飲めるので」

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