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58.サラ
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「サラ、俺には好きな人がいるがそれはサラじゃない。俺が一緒に出かけたいのはその人とだけだ」
「ひゅ~、とうとう言ったぁ」
ジェニーが小声で揶揄うと『こら!』と言うようにローリーがジェニーに向けて顔を顰めた。
「えっ? 好きなのはサラでしょう? だってレオ様にはサラが一番相応しいもの」
「それは俺が決める事だ。誰が俺に相応しいのかを人に決められたくない」
「レオ様は勘違いしてる、サラが一番レオ様に似合うの。もっかい話し合いましょう」
「遠慮しとくよ。興味がないんだ」
何度も拒絶するレオの言葉はサラには届かないようでサラはレオに向けて歩き出した。
「レオ様、暫く会ってなかったからなのね。大丈夫。今日からまた近くでお世話するからね。
くだらない仕事は辞めたからレオ様のお屋敷に連れてって。レオ様の家族に紹介してもらわなくちゃだもの。待って、こんな格好じゃ侯爵家になんて行けない。
まずは家に帰って着替えなくちゃ。馬車で連れて行ってくれたらすぐに着替えられるから」
サラの『くだらない仕事』と言う発言にジェニーがサラを睨んで立ち上がりかけたがローリーが腕を掴んで止めて首を横に振った。
「俺はサラを屋敷に連れてく気も家族に紹介する気もない」
「なんで? ソフィーは連れてったんでしょう? レオ様の家に行っていいのはサラだけなのに」
「サラ、俺とサラは何の関係もないんだ。今もこの先も」
「でも、また明日会えるのが楽しみだって」
「言ったのはサラだ。俺は言ってない」
「でも、にっこり笑ってくれたのに・・。
レオ様のような敬虔な方にはサラが一番なの。お祈りも欠かさないし慎ましやかで清楚な服を着てる。派手なものも贅沢なものも欲しがらない。サラ以上にレオ様の奥さんに相応しい人はいないの」
「何か勘違いしてるようだから言っておくと、宗派にもよるが妻帯できるのは助祭や在俗司祭だ。騎士修道会の修道士は妻帯できない」
「えっ? だったらサラはどうしたらいいの? もうレオ様と結婚の約束したって父さんと母さんに報告したの。喜んでくれたのに今更捨てられたなんて言えない」
「婚約破棄って流行ってるの?」
「ジェニー、茶化さないでください」
ローリーとジェニーが小声で話しているがソフィーはサラがレオと話しはじめてからずっと身動きもせず口を閉じていた。今のサラはほんのちょっとのきっかけで何をしでかすかわからない不安定さがある。
(私が口を出すと多分サラは・・)
サラはレオしか見えていないので聞こえていないようだが、チラリとジェニーを見たレオは口の端をほんの少し上げた。
「誤解を招くような言動は何一つしてない自信がある。捨てる捨てない以前の問題だ。付き合った覚えもないし友達でさえない」
(中途半端は誤解を招くからほんの少しの余地も残さないように話すしかないが、結構きついな)
レオのきっぱりとした拒絶に俯いたサラは小声で何か呟いた。
「・・だ。きっ・・・つが。・・に相応・・言葉・・ソフィーのブロン・・。そうよ、ソフィーが」
くるりと振り返ったサラがソフィーを睨みつけた。
「ソフィーが悪いんだわ。ロッローリーの真似をして侯爵家に相応しい言葉遣いに変えたけど上手くいかなくて・・ソフィーみたいな話し方に変えて・・髪だって切って染めてソフィーみたいにしたのに・・。
なのにソフィーが意地悪するから。会社を辞めなくちゃいけなくなったのもレオ様が心変わりしたのも、全部ソフィーのせいよ! いっぱい持ってるんだから一つ位くれてもいいでしょ! 何でサラの邪魔をするの! サラは何にも悪いことなんてしてないのに!」
ペタリと座り込んだサラが子供のように大声で泣きはじめた。
サラは父と母の3人家族。ここ最近は父が毎日家に帰ってくるので母はとても機嫌がいい。楽しそうに話し続ける母と相槌を打つ父・・。絵に描いたような一家団欒。
『どう言う事? あんな評判のいい会社を辞めたって事なの?』
『色々あって・・だから別の仕事を・・』
母の追求はいつもの如く厳しく、誤魔化しきれなくなったサラは帳簿の改竄をした事が会社にバレたと話さざるを得なくなった。
『なんて事でしょう! ジュードとか言う男に唆されたのね。訴えて責任を取ってもらいなさい! 世間知らずな娘を罠に嵌めて罪を犯させた男を野放しにしてはダメよ!』
『でも、あの・・社長は保育学校で雇ってくれるって言ってくれて』
『世間様になんて言われるかわかってるの? 有名な会社を辞めてあんな保育学校なんかで働くなんて、もうまともな結婚なんてできやしない。
碌でもない男に尻尾を振るようなふしだらな娘に成り下がって・・。
ああ、なんて愚かな子なんでしょう。立派な娘に育つように大切に育てたのにどこで道を間違えたのか』
母の長広舌に嫌気がさした父はさっさと部屋を出て行った。
『デビッドの浮気が止んで折角上手くいってたのに、娘がこんな事をしでかすなんて』
浮気症の父と信仰心の篤い母。父が浮気相手のところから帰ってこなくなるたびに母はサラを連れて教会へ向かった。
『神様がデビッドの心を正しい道に戻して下さるわ。サラもこうして祈っていれば良い縁に出会って結婚できるのよ』
同年代の子供達と遊ぶ時間には教会の奉仕活動に参加し、誕生日には可愛らしいリボンではなく繕った靴下。
『贅沢は心の敵。清貧を尊び清く正しく生きるの。これは全部サラが素晴らしいご縁をいただくためよ』
『デビッドの周りにいる下賎な女と一緒ね。もうまともな結婚なんて望めないわ。もう顔も見たくない。
アンタなんて私の子供じゃない、出て行ってちょうだい』
『そんな事ない・・出てくなんて。ごめんなさい。どうか許して』
『身持ちの悪い女は地獄に落ちるのよ。祈りを捧げても神様は赦してくださらないわ』
『ほっ保育学校にとても素敵な貴族の方がいらっしゃるの。私の事をとても・・気に入って・・』
『だったらその方と結婚しなさい。そうすれば許してあげる。できないのならさっさと出て行って、この恥晒し!』
泣き続けるサラにソフィーが声をかけた。
「ひゅ~、とうとう言ったぁ」
ジェニーが小声で揶揄うと『こら!』と言うようにローリーがジェニーに向けて顔を顰めた。
「えっ? 好きなのはサラでしょう? だってレオ様にはサラが一番相応しいもの」
「それは俺が決める事だ。誰が俺に相応しいのかを人に決められたくない」
「レオ様は勘違いしてる、サラが一番レオ様に似合うの。もっかい話し合いましょう」
「遠慮しとくよ。興味がないんだ」
何度も拒絶するレオの言葉はサラには届かないようでサラはレオに向けて歩き出した。
「レオ様、暫く会ってなかったからなのね。大丈夫。今日からまた近くでお世話するからね。
くだらない仕事は辞めたからレオ様のお屋敷に連れてって。レオ様の家族に紹介してもらわなくちゃだもの。待って、こんな格好じゃ侯爵家になんて行けない。
まずは家に帰って着替えなくちゃ。馬車で連れて行ってくれたらすぐに着替えられるから」
サラの『くだらない仕事』と言う発言にジェニーがサラを睨んで立ち上がりかけたがローリーが腕を掴んで止めて首を横に振った。
「俺はサラを屋敷に連れてく気も家族に紹介する気もない」
「なんで? ソフィーは連れてったんでしょう? レオ様の家に行っていいのはサラだけなのに」
「サラ、俺とサラは何の関係もないんだ。今もこの先も」
「でも、また明日会えるのが楽しみだって」
「言ったのはサラだ。俺は言ってない」
「でも、にっこり笑ってくれたのに・・。
レオ様のような敬虔な方にはサラが一番なの。お祈りも欠かさないし慎ましやかで清楚な服を着てる。派手なものも贅沢なものも欲しがらない。サラ以上にレオ様の奥さんに相応しい人はいないの」
「何か勘違いしてるようだから言っておくと、宗派にもよるが妻帯できるのは助祭や在俗司祭だ。騎士修道会の修道士は妻帯できない」
「えっ? だったらサラはどうしたらいいの? もうレオ様と結婚の約束したって父さんと母さんに報告したの。喜んでくれたのに今更捨てられたなんて言えない」
「婚約破棄って流行ってるの?」
「ジェニー、茶化さないでください」
ローリーとジェニーが小声で話しているがソフィーはサラがレオと話しはじめてからずっと身動きもせず口を閉じていた。今のサラはほんのちょっとのきっかけで何をしでかすかわからない不安定さがある。
(私が口を出すと多分サラは・・)
サラはレオしか見えていないので聞こえていないようだが、チラリとジェニーを見たレオは口の端をほんの少し上げた。
「誤解を招くような言動は何一つしてない自信がある。捨てる捨てない以前の問題だ。付き合った覚えもないし友達でさえない」
(中途半端は誤解を招くからほんの少しの余地も残さないように話すしかないが、結構きついな)
レオのきっぱりとした拒絶に俯いたサラは小声で何か呟いた。
「・・だ。きっ・・・つが。・・に相応・・言葉・・ソフィーのブロン・・。そうよ、ソフィーが」
くるりと振り返ったサラがソフィーを睨みつけた。
「ソフィーが悪いんだわ。ロッローリーの真似をして侯爵家に相応しい言葉遣いに変えたけど上手くいかなくて・・ソフィーみたいな話し方に変えて・・髪だって切って染めてソフィーみたいにしたのに・・。
なのにソフィーが意地悪するから。会社を辞めなくちゃいけなくなったのもレオ様が心変わりしたのも、全部ソフィーのせいよ! いっぱい持ってるんだから一つ位くれてもいいでしょ! 何でサラの邪魔をするの! サラは何にも悪いことなんてしてないのに!」
ペタリと座り込んだサラが子供のように大声で泣きはじめた。
サラは父と母の3人家族。ここ最近は父が毎日家に帰ってくるので母はとても機嫌がいい。楽しそうに話し続ける母と相槌を打つ父・・。絵に描いたような一家団欒。
『どう言う事? あんな評判のいい会社を辞めたって事なの?』
『色々あって・・だから別の仕事を・・』
母の追求はいつもの如く厳しく、誤魔化しきれなくなったサラは帳簿の改竄をした事が会社にバレたと話さざるを得なくなった。
『なんて事でしょう! ジュードとか言う男に唆されたのね。訴えて責任を取ってもらいなさい! 世間知らずな娘を罠に嵌めて罪を犯させた男を野放しにしてはダメよ!』
『でも、あの・・社長は保育学校で雇ってくれるって言ってくれて』
『世間様になんて言われるかわかってるの? 有名な会社を辞めてあんな保育学校なんかで働くなんて、もうまともな結婚なんてできやしない。
碌でもない男に尻尾を振るようなふしだらな娘に成り下がって・・。
ああ、なんて愚かな子なんでしょう。立派な娘に育つように大切に育てたのにどこで道を間違えたのか』
母の長広舌に嫌気がさした父はさっさと部屋を出て行った。
『デビッドの浮気が止んで折角上手くいってたのに、娘がこんな事をしでかすなんて』
浮気症の父と信仰心の篤い母。父が浮気相手のところから帰ってこなくなるたびに母はサラを連れて教会へ向かった。
『神様がデビッドの心を正しい道に戻して下さるわ。サラもこうして祈っていれば良い縁に出会って結婚できるのよ』
同年代の子供達と遊ぶ時間には教会の奉仕活動に参加し、誕生日には可愛らしいリボンではなく繕った靴下。
『贅沢は心の敵。清貧を尊び清く正しく生きるの。これは全部サラが素晴らしいご縁をいただくためよ』
『デビッドの周りにいる下賎な女と一緒ね。もうまともな結婚なんて望めないわ。もう顔も見たくない。
アンタなんて私の子供じゃない、出て行ってちょうだい』
『そんな事ない・・出てくなんて。ごめんなさい。どうか許して』
『身持ちの悪い女は地獄に落ちるのよ。祈りを捧げても神様は赦してくださらないわ』
『ほっ保育学校にとても素敵な貴族の方がいらっしゃるの。私の事をとても・・気に入って・・』
『だったらその方と結婚しなさい。そうすれば許してあげる。できないのならさっさと出て行って、この恥晒し!』
泣き続けるサラにソフィーが声をかけた。
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