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4.こんな奴と結婚しようと思った理由
『その人って知り合いだったんですか?』
自分でも声が震えているのが分かるほどだったが、ステファンは気付きもせず目の前の肉と格闘しながら話を続けた。
『いや、俺達の仲間から嫌われてたから⋯⋯平民のくせに成績が良⋯⋯いや、とにかく嫌な奴でさ、馬車にイタズラされたのは自業自得だってみんな笑ってた。そい⋯⋯』
その後の話はよく覚えていないが多分それほどおかしな行動は取らなかったのだろう。メリッサは帰って来た時と同じ服装のままでベッドに座りこみ朝を迎えていた。
(馬車にイタズラ? 単なる事故じゃなかったんだ)
馬車の事故で亡くなったのはメリッサの幼馴染で婚約者だったミゲル。夜遅くまで大学に残っていたミゲルがアパートに帰る時に乗っていた辻馬車が転倒事故を起こしたが、事故の責任を取らされるのを恐れた御者が馬を連れて逃げ出した為発見が遅れ、見つかった時にはすでに帰らぬ人となっていた。
(御者は見つからず事件性もないと判断された。被害者は平民だけ⋯⋯運の悪い事故だったって片付けられたけど、もう間違いないわ。絶対に許さない!)
メリッサとケニスとミゲルの3人は物心つく前から毎日のように一緒に遊んでいた幼馴染だった。
選民意識が強かったケニスの父親は息子が平民と関わる事を禁じたが、ケニスは父親が仕事に出かけるのを待って屋敷から飛び出しミゲルを誘ってメリッサの家に遊びに行くのが日課だった。
特に恋愛感情があったわけではないメリッサとミゲルだったが、ケニスの父親の脅しに近い説得で婚約が決まったのは二人が18歳の時だった。
『平民は平民同士、地べたを這いずっておればいいんだ。ケニスには身分に相応しい娘をわしが選ぶ』
ケニスの秘めた恋心に気付いた父親のゴリ押しで決まった婚約だったが、ミゲルはメリッサの為に大学に進学することを決めた。
『僕んちはただのパン屋だからさ、メリッサの旦那さんになるにはこのままじゃダメだと思うんだ。僕にできるのって勉強だけだから⋯⋯』
同じ平民でも裕福な商会の一人娘のメリッサの横に並ぶ為に箔をつけてくると言って大学進学を決めたミゲルは誰にも看取られることなく最後を迎えた。
(私と婚約しなかったら⋯⋯)
ミゲルが亡くなった後両親はパン屋を閉めて田舎に引っ越してしまった。
『いつか遊びにおいでね』
そう言って馬車に乗り込んだ背中はとても小さくなっていた。
(ごめんね⋯⋯おじさん、おばさん)
あれから数年、メリッサは誰とも結婚はしないと心に決めていた。
ステファンの交友関係と在学中に起きた馬車の事故について調査を依頼したが、どこからか妨害が入っているようで調査が全くと言っていいほど進まない。
(本人に口を滑らせてもらうしかないかも)
ステファンが金目当てで自分に近づいている事は知っていたので深入りしないように気をつけていたが、情報を引き出す為には付き合うしかないと決めてからは食事代を払ったり買い物の代金を立て替えることが増えていった。
(ムカつくけど情報料だと割り切って払うしかないか)
ステファンの自慢話に耳を傾けるふりをしながらそれとなく大学時代の話になるように誘導していくと、仲間内で様々な『賭け』をして遊んでいたと漏らした。
その話の中で一度、事故の話になったことがあったが事故の被害者ミゲルの悪口を言っただけ。詳しいことになるとステファンは慌てたように口をつぐんで別の話をしはじめてしまい何も聞き出せずに終わってしまった。
(このままじゃ埒があかない⋯⋯ここまで口が固いって事は絶対こいつは犯人の一人のはずなのに⋯⋯)
意を決してメリッサがプロポーズを受けた日、ステファンは余程嬉しかったのかワインを飲みすぎて口を滑らせた。
『あの頃賭けが流行っててさ、言い出した奴が親になってルールを決めるんだ。結構過激なのもあってハラハラするのが楽しかったなぁ⋯⋯』
『馬車に仕掛けたイタズラのレートは高かったんでしょう?』
何気ない風を装って聞いたメリッサの前でニヘラっと笑ったステファンは完全な酔っ払いになり身体がゆらゆらと揺れていた。
『⋯⋯うーん、俺がやったんじゃないし、すこーしだけ教えてあげようかなぁ。馬車が横転したらあんな奴でも悪態をつくかどうかって賭けだったんだけどさあ⋯⋯下手につつくとやばい奴が出てくるからもうお蔵入り確定だね~』
焦点の定まらない目でワイングラスを見つめていたステファンが手を伸ばし、テーブルの端に置かれていたワインボトルを倒しかけた。
慌てるメリッサや店員を放置したままステファンの独白が続いた。
『はぁ、今じゃああんな無茶できないからつまんないよ⋯⋯俺にはメリッサがいるからいいけどね。こんな金持ちの娘が俺の為に残ってたなんて、すっごい幸せ者だよぉ。
コレからはやりたい放題、借金なんてクソ食らえ。俺を見下した奴らにざまぁしてやるんだ⋯⋯あの日の出会いに乾杯だね』
(ステファンの言うやばい奴って誰かしら⋯⋯大学時代の友人の誰かには間違いないわよね)
自分でも声が震えているのが分かるほどだったが、ステファンは気付きもせず目の前の肉と格闘しながら話を続けた。
『いや、俺達の仲間から嫌われてたから⋯⋯平民のくせに成績が良⋯⋯いや、とにかく嫌な奴でさ、馬車にイタズラされたのは自業自得だってみんな笑ってた。そい⋯⋯』
その後の話はよく覚えていないが多分それほどおかしな行動は取らなかったのだろう。メリッサは帰って来た時と同じ服装のままでベッドに座りこみ朝を迎えていた。
(馬車にイタズラ? 単なる事故じゃなかったんだ)
馬車の事故で亡くなったのはメリッサの幼馴染で婚約者だったミゲル。夜遅くまで大学に残っていたミゲルがアパートに帰る時に乗っていた辻馬車が転倒事故を起こしたが、事故の責任を取らされるのを恐れた御者が馬を連れて逃げ出した為発見が遅れ、見つかった時にはすでに帰らぬ人となっていた。
(御者は見つからず事件性もないと判断された。被害者は平民だけ⋯⋯運の悪い事故だったって片付けられたけど、もう間違いないわ。絶対に許さない!)
メリッサとケニスとミゲルの3人は物心つく前から毎日のように一緒に遊んでいた幼馴染だった。
選民意識が強かったケニスの父親は息子が平民と関わる事を禁じたが、ケニスは父親が仕事に出かけるのを待って屋敷から飛び出しミゲルを誘ってメリッサの家に遊びに行くのが日課だった。
特に恋愛感情があったわけではないメリッサとミゲルだったが、ケニスの父親の脅しに近い説得で婚約が決まったのは二人が18歳の時だった。
『平民は平民同士、地べたを這いずっておればいいんだ。ケニスには身分に相応しい娘をわしが選ぶ』
ケニスの秘めた恋心に気付いた父親のゴリ押しで決まった婚約だったが、ミゲルはメリッサの為に大学に進学することを決めた。
『僕んちはただのパン屋だからさ、メリッサの旦那さんになるにはこのままじゃダメだと思うんだ。僕にできるのって勉強だけだから⋯⋯』
同じ平民でも裕福な商会の一人娘のメリッサの横に並ぶ為に箔をつけてくると言って大学進学を決めたミゲルは誰にも看取られることなく最後を迎えた。
(私と婚約しなかったら⋯⋯)
ミゲルが亡くなった後両親はパン屋を閉めて田舎に引っ越してしまった。
『いつか遊びにおいでね』
そう言って馬車に乗り込んだ背中はとても小さくなっていた。
(ごめんね⋯⋯おじさん、おばさん)
あれから数年、メリッサは誰とも結婚はしないと心に決めていた。
ステファンの交友関係と在学中に起きた馬車の事故について調査を依頼したが、どこからか妨害が入っているようで調査が全くと言っていいほど進まない。
(本人に口を滑らせてもらうしかないかも)
ステファンが金目当てで自分に近づいている事は知っていたので深入りしないように気をつけていたが、情報を引き出す為には付き合うしかないと決めてからは食事代を払ったり買い物の代金を立て替えることが増えていった。
(ムカつくけど情報料だと割り切って払うしかないか)
ステファンの自慢話に耳を傾けるふりをしながらそれとなく大学時代の話になるように誘導していくと、仲間内で様々な『賭け』をして遊んでいたと漏らした。
その話の中で一度、事故の話になったことがあったが事故の被害者ミゲルの悪口を言っただけ。詳しいことになるとステファンは慌てたように口をつぐんで別の話をしはじめてしまい何も聞き出せずに終わってしまった。
(このままじゃ埒があかない⋯⋯ここまで口が固いって事は絶対こいつは犯人の一人のはずなのに⋯⋯)
意を決してメリッサがプロポーズを受けた日、ステファンは余程嬉しかったのかワインを飲みすぎて口を滑らせた。
『あの頃賭けが流行っててさ、言い出した奴が親になってルールを決めるんだ。結構過激なのもあってハラハラするのが楽しかったなぁ⋯⋯』
『馬車に仕掛けたイタズラのレートは高かったんでしょう?』
何気ない風を装って聞いたメリッサの前でニヘラっと笑ったステファンは完全な酔っ払いになり身体がゆらゆらと揺れていた。
『⋯⋯うーん、俺がやったんじゃないし、すこーしだけ教えてあげようかなぁ。馬車が横転したらあんな奴でも悪態をつくかどうかって賭けだったんだけどさあ⋯⋯下手につつくとやばい奴が出てくるからもうお蔵入り確定だね~』
焦点の定まらない目でワイングラスを見つめていたステファンが手を伸ばし、テーブルの端に置かれていたワインボトルを倒しかけた。
慌てるメリッサや店員を放置したままステファンの独白が続いた。
『はぁ、今じゃああんな無茶できないからつまんないよ⋯⋯俺にはメリッサがいるからいいけどね。こんな金持ちの娘が俺の為に残ってたなんて、すっごい幸せ者だよぉ。
コレからはやりたい放題、借金なんてクソ食らえ。俺を見下した奴らにざまぁしてやるんだ⋯⋯あの日の出会いに乾杯だね』
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