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6.だってマーサ様だもん
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「ああ、勿論。パーティーが終わってすぐ例の女の馬車に乗り込んだところからずっとな」
「あれが報告書にあったアマンダ? 顔が見えなかったのはちょっと残念だったなぁ」
「え、妬いてるの?」
「まっさかぁ、一応寝取られ妻(仮)だからね。いつかご対面するかもしれないでしょ?」
「妻じゃねえし! 書類は出しとらんからな」
「え、マジで上手くいったの?」
「なんでか分からんが不備があってな~、差し戻しになったんだよな~。すっげぇ不思議だよな~」
してやったりと言った顔の父親ルーカスがサムズアップした。
「⋯⋯それはその、お見事です?」
新しく入れ直した紅茶とスコーンで腹ごしらえをするメリッサの前で真剣な顔のケニスとルーカスが揃ってドヤ顔で腕を組んだ。
(この二人ってほんと仲良いよね)
「メンバーの名前については確認できたんだけど、後一人をどうやって探すかだよな。大学時代の報告書を見直してみたんだが、今回集まった5人以外でそれらしい奴はいなかったんだ」
報告書にあったのは⋯⋯。
銀縁眼鏡はチャールズ・ソーン、ソーン子爵家の次男で裁判官。
小太りのジャック・マートン、マートン男爵家の三男で事務弁護士。
猫背のピーター・ワッツ、ワッツ公爵家の長男で法務部勤務。
刺繍男はネイサン・グルーヴ、グルーヴ伯爵家ニ男で法廷弁護士。
「公爵家の人がいるとは思わなかったなぁ。しかも一番ヨレヨレの格好してたし」
「わざとじゃないか? 法務部勤めなら特に身バレしたくないだろうからな」
「ワッツとグルーヴは結婚式には来てませんでしたしね」
スコーンの最後の一口を飲み込んだメリッサが手を拭きながら首を傾げた。
「うーん、逆引きとか?」
「と言うと?」
「公爵家の長男より身分が高い奴があの当時大学にいなかったかどうか」
「⋯⋯それは良いかもしれんな。よし、すぐに調べさせよう。それとワッツなんだが、もしかしたら御者の居所を知ってるんじゃないかって気がするんだ」
地下室の声が筒抜けになっていると思わず好き放題話していた彼等の言葉は数人の速記者によって記録され既に正式な書類となっている。
「そう言えば、なんとなく話を誤魔化した感じでしたね。人を増やして交友関係だけでなく普段の行動も丸裸にしてやりましょう」
「うん、一人も逃さないからね」
「危険なことだけはするなよ。実際のところお前が一番危険な立ち位置にいるって頭に入れとけよ」
「りょーかい! この後、義実家(仮)に行って悲しむ嫁(偽)か健気な妻(嘘)を演じてくるね~」
「お前、その格好で行くのか?」
「うん、なんで?」
「いや、女性の服装はよく分からんが⋯⋯いつもに比べて野暮ったいと言うか」
「だからいいの。女の戦いでは⋯⋯マウントを取りたい時はビシッと決めて、隙を見せて相手を騙したい時は少し鈍臭そうなのを着るのが良いんだって」
「誰がそんな事をお前に教えたんだ!?」
母親を早くに亡くしたメリッサにそんな裏事情を教えたのは誰だと顳顬をひくつかせたルーカスがメリッサの一言で絶句した。
「マーサおばさま」
「ゲホッ! ゴホッゴホッ! は、母上が?」
「ふふん、他にも色々とねぇ。じゃ、行ってきまーす」
パタパタと元気よくメリッサが事務所を出て行った後に残った二人は顔を見合わせて溜息をついた。
「母上が、なんというか⋯⋯すみません」
「マーサ様じゃあなぁ」
ケニス・ラインフェルトは去年父を亡くして伯爵になり、あちこちから縁談が持ち込まれるようになったが未だ独身を貫いている。
メリッサへの想いは断ち切れていないケニスだが、ミゲルが亡くなるきっかけを作ったのは自分の父親だという思いが二人の間の大きな溝になって前に進めない。
そんな中で起こった今回の結婚騒動。メリッサが幸せになるなら今度こそ諦めようと心に決めていたケニスだったが、未練がましくコソコソと相手の事を調べている事がマーサにバレてしまった。
『陰に隠れて調べるとかそんな気持ちの悪い事をするくらいなら、さっさと当たって砕けてらっしゃい!』
『いや、砕ける前提はどうかと』
この国で高位貴族と平民の結婚は禁止されてはいないがそれなりに制約がある。王族参加のパーティーの参加禁止はもちろんのこと、子供が爵位を継げなかったり降爵になる場合もある。
『馬鹿馬鹿しい、たかが爵位じゃない!』
『社交界でメリッサが冷遇される可能性だってあるんですよ!?』
『本人に聞いたの? 社交界に行ってみたいかとか、子供を貴族にしたいのかとか。それも聞かずに脳内で完結しているくらいならさっさと諦めてしまいなさい!』
悶々と悩んで砕ける覚悟で臨んだケニスの告白は⋯⋯。
『あの、メリッサに新しい縁談話があるって聞いたんだ。で、俺の気持ちを聞いて欲しくて来た』
「あれが報告書にあったアマンダ? 顔が見えなかったのはちょっと残念だったなぁ」
「え、妬いてるの?」
「まっさかぁ、一応寝取られ妻(仮)だからね。いつかご対面するかもしれないでしょ?」
「妻じゃねえし! 書類は出しとらんからな」
「え、マジで上手くいったの?」
「なんでか分からんが不備があってな~、差し戻しになったんだよな~。すっげぇ不思議だよな~」
してやったりと言った顔の父親ルーカスがサムズアップした。
「⋯⋯それはその、お見事です?」
新しく入れ直した紅茶とスコーンで腹ごしらえをするメリッサの前で真剣な顔のケニスとルーカスが揃ってドヤ顔で腕を組んだ。
(この二人ってほんと仲良いよね)
「メンバーの名前については確認できたんだけど、後一人をどうやって探すかだよな。大学時代の報告書を見直してみたんだが、今回集まった5人以外でそれらしい奴はいなかったんだ」
報告書にあったのは⋯⋯。
銀縁眼鏡はチャールズ・ソーン、ソーン子爵家の次男で裁判官。
小太りのジャック・マートン、マートン男爵家の三男で事務弁護士。
猫背のピーター・ワッツ、ワッツ公爵家の長男で法務部勤務。
刺繍男はネイサン・グルーヴ、グルーヴ伯爵家ニ男で法廷弁護士。
「公爵家の人がいるとは思わなかったなぁ。しかも一番ヨレヨレの格好してたし」
「わざとじゃないか? 法務部勤めなら特に身バレしたくないだろうからな」
「ワッツとグルーヴは結婚式には来てませんでしたしね」
スコーンの最後の一口を飲み込んだメリッサが手を拭きながら首を傾げた。
「うーん、逆引きとか?」
「と言うと?」
「公爵家の長男より身分が高い奴があの当時大学にいなかったかどうか」
「⋯⋯それは良いかもしれんな。よし、すぐに調べさせよう。それとワッツなんだが、もしかしたら御者の居所を知ってるんじゃないかって気がするんだ」
地下室の声が筒抜けになっていると思わず好き放題話していた彼等の言葉は数人の速記者によって記録され既に正式な書類となっている。
「そう言えば、なんとなく話を誤魔化した感じでしたね。人を増やして交友関係だけでなく普段の行動も丸裸にしてやりましょう」
「うん、一人も逃さないからね」
「危険なことだけはするなよ。実際のところお前が一番危険な立ち位置にいるって頭に入れとけよ」
「りょーかい! この後、義実家(仮)に行って悲しむ嫁(偽)か健気な妻(嘘)を演じてくるね~」
「お前、その格好で行くのか?」
「うん、なんで?」
「いや、女性の服装はよく分からんが⋯⋯いつもに比べて野暮ったいと言うか」
「だからいいの。女の戦いでは⋯⋯マウントを取りたい時はビシッと決めて、隙を見せて相手を騙したい時は少し鈍臭そうなのを着るのが良いんだって」
「誰がそんな事をお前に教えたんだ!?」
母親を早くに亡くしたメリッサにそんな裏事情を教えたのは誰だと顳顬をひくつかせたルーカスがメリッサの一言で絶句した。
「マーサおばさま」
「ゲホッ! ゴホッゴホッ! は、母上が?」
「ふふん、他にも色々とねぇ。じゃ、行ってきまーす」
パタパタと元気よくメリッサが事務所を出て行った後に残った二人は顔を見合わせて溜息をついた。
「母上が、なんというか⋯⋯すみません」
「マーサ様じゃあなぁ」
ケニス・ラインフェルトは去年父を亡くして伯爵になり、あちこちから縁談が持ち込まれるようになったが未だ独身を貫いている。
メリッサへの想いは断ち切れていないケニスだが、ミゲルが亡くなるきっかけを作ったのは自分の父親だという思いが二人の間の大きな溝になって前に進めない。
そんな中で起こった今回の結婚騒動。メリッサが幸せになるなら今度こそ諦めようと心に決めていたケニスだったが、未練がましくコソコソと相手の事を調べている事がマーサにバレてしまった。
『陰に隠れて調べるとかそんな気持ちの悪い事をするくらいなら、さっさと当たって砕けてらっしゃい!』
『いや、砕ける前提はどうかと』
この国で高位貴族と平民の結婚は禁止されてはいないがそれなりに制約がある。王族参加のパーティーの参加禁止はもちろんのこと、子供が爵位を継げなかったり降爵になる場合もある。
『馬鹿馬鹿しい、たかが爵位じゃない!』
『社交界でメリッサが冷遇される可能性だってあるんですよ!?』
『本人に聞いたの? 社交界に行ってみたいかとか、子供を貴族にしたいのかとか。それも聞かずに脳内で完結しているくらいならさっさと諦めてしまいなさい!』
悶々と悩んで砕ける覚悟で臨んだケニスの告白は⋯⋯。
『あの、メリッサに新しい縁談話があるって聞いたんだ。で、俺の気持ちを聞いて欲しくて来た』
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