【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

文字の大きさ
7 / 97

6.だってマーサ様だもん

「ああ、勿論。パーティーが終わってすぐ例の女の馬車に乗り込んだところからずっとな」

「あれが報告書にあったアマンダ? 顔が見えなかったのはちょっと残念だったなぁ」

「え、妬いてるの?」

「まっさかぁ、一応寝取られ妻(仮)だからね。いつかご対面するかもしれないでしょ?」

「妻じゃねえし! 書類は出しとらんからな」

「え、マジで上手くいったの?」

「なんでか分からんが不備があってな~、差し戻しになったんだよな~。すっげぇ不思議だよな~」

 してやったりと言った顔の父親ルーカスがサムズアップした。

「⋯⋯それはその、お見事です?」

 新しく入れ直した紅茶とスコーンで腹ごしらえをするメリッサの前で真剣な顔のケニスとルーカスが揃ってドヤ顔で腕を組んだ。

(この二人ってほんと仲良いよね)



「メンバーの名前については確認できたんだけど、後一人をどうやって探すかだよな。大学時代の報告書を見直してみたんだが、今回集まった5人以外でそれらしい奴はいなかったんだ」

 報告書にあったのは⋯⋯。

 銀縁眼鏡はチャールズ・ソーン、ソーン子爵家の次男で裁判官。

 小太りのジャック・マートン、マートン男爵家の三男で事務弁護士。

 猫背のピーター・ワッツ、ワッツ公爵家の長男で法務部勤務。

 刺繍男はネイサン・グルーヴ、グルーヴ伯爵家ニ男で法廷弁護士。



「公爵家の人がいるとは思わなかったなぁ。しかも一番ヨレヨレの格好してたし」

「わざとじゃないか? 法務部勤めなら特に身バレしたくないだろうからな」

「ワッツとグルーヴは結婚式には来てませんでしたしね」

 スコーンの最後の一口を飲み込んだメリッサが手を拭きながら首を傾げた。

「うーん、逆引きとか?」

「と言うと?」

「公爵家の長男より身分が高い奴があの当時大学にいなかったかどうか」

「⋯⋯それは良いかもしれんな。よし、すぐに調べさせよう。それとワッツなんだが、もしかしたら御者の居所を知ってるんじゃないかって気がするんだ」

 地下室の声が筒抜けになっていると思わず好き放題話していた彼等の言葉は数人の速記者によって記録され既に正式な書類となっている。

「そう言えば、なんとなく話を誤魔化した感じでしたね。人を増やして交友関係だけでなく普段の行動も丸裸にしてやりましょう」

「うん、一人も逃さないからね」

「危険なことだけはするなよ。実際のところお前が一番危険な立ち位置にいるって頭に入れとけよ」

「りょーかい! この後、義実家(仮)に行って悲しむ嫁(偽)か健気な妻(嘘)を演じてくるね~」

「お前、その格好で行くのか?」

「うん、なんで?」

「いや、女性の服装はよく分からんが⋯⋯いつもに比べて野暮ったいと言うか」

「だからいいの。女の戦いでは⋯⋯マウントを取りたい時はビシッと決めて、隙を見せて相手を騙したい時は少し鈍臭そうなのを着るのが良いんだって」

「誰がそんな事をお前に教えたんだ!?」

 母親を早くに亡くしたメリッサにそんな裏事情を教えたのは誰だと顳顬をひくつかせたルーカスがメリッサの一言で絶句した。

「マーサおばさま」

「ゲホッ! ゴホッゴホッ! は、母上が?」

「ふふん、他にも色々とねぇ。じゃ、行ってきまーす」

 パタパタと元気よくメリッサが事務所を出て行った後に残った二人は顔を見合わせて溜息をついた。

「母上が、なんというか⋯⋯すみません」

「マーサ様じゃあなぁ」



 ケニス・ラインフェルトは去年父を亡くして伯爵になり、あちこちから縁談が持ち込まれるようになったが未だ独身を貫いている。

 メリッサへの想いは断ち切れていないケニスだが、ミゲルが亡くなるきっかけを作ったのは自分の父親だという思いが二人の間の大きな溝になって前に進めない。

 そんな中で起こった今回の結婚騒動。メリッサが幸せになるなら今度こそ諦めようと心に決めていたケニスだったが、未練がましくコソコソと相手の事を調べている事がマーサにバレてしまった。

『陰に隠れて調べるとかそんな気持ちの悪い事をするくらいなら、さっさと当たって砕けてらっしゃい!』

『いや、砕ける前提はどうかと』

 この国で高位貴族と平民の結婚は禁止されてはいないがそれなりに制約がある。王族参加のパーティーの参加禁止はもちろんのこと、子供が爵位を継げなかったり降爵になる場合もある。

『馬鹿馬鹿しい、たかが爵位じゃない!』

『社交界でメリッサが冷遇される可能性だってあるんですよ!?』

『本人に聞いたの? 社交界に行ってみたいかとか、子供を貴族にしたいのかとか。それも聞かずに脳内で完結しているくらいならさっさと諦めてしまいなさい!』

 悶々と悩んで砕ける覚悟で臨んだケニスの告白は⋯⋯。

『あの、メリッサに新しい縁談話があるって聞いたんだ。で、俺の気持ちを聞いて欲しくて来た』

感想 4

あなたにおすすめの小説

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。